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福岡ファイトれでぃ~ごう  作者: 那田野狐
第四章 決勝トーナメント
19/26

Bブロック第二戦

「これよりBブロック第二回戦チームにゃん対チームXXX(トリプルエックス)の仕合を行ないます」

レフリーが仕合を宣言するのと同時にスタンドのあちらこちらにポールがたつ。

そして澄んだホイッスルの音が鳴り響くのと同時にポールに旗が掲揚される。

「なあ邪武。気のせいかな・・・一時間程前に同じ光景を見た記憶があるんだが」

「当然にゃ。アルごときに負けるわけにいかないにゃ」

武の問いに邪武は大きく胸を張る。それと同時に軽やかな携帯電話の呼び出し音が響いた。

「と、トムとジェリーの初代エンディングとは渋い選曲ね」

電子音のメロディーの正体に気が付いて巴が半ば呆れたような顔をする。

「おう。全部で十二本ののぼりをグランドからも確認したにゃ。あんな短時間でよくやったにゃ。大きな二重の花丸をあげるにゃ」

邪武が魚の形をした携帯電話に向かって大きな花丸といった途端スタンドから野太い歓声があがる。

「なんだかな~」

「先鋒楠木巴と達磨淋。リングにでませい」

馬鹿やっている邪武たちにレフリーが声をかける。

「あ、今いく」

巴はマットの上にあがる。

「ほお。拙僧の相手は貴女か」

巴とマット上で対峙したのは見事なまでの達磨体型の男だ。

「どうした。動揺の色が見えるぞ」

巴の指摘に達磨淋はピクリと体を動かす。

「な、な、な、なんでもない。そういうお主こそ何か困ったことはございませんか? 拙僧でよければ相談にのりますぞ」

達磨淋は明らかに動揺していた。

「ではいきますバトルファイト。レディ。ゴウ」

レフリーは腕を交差させ素早く下がる。

「せい」

巴が達磨淋の後頭部めがけて右の回し蹴りを放つと、達磨淋はヒットする直前に右腕で回し蹴りの軌道を逸らす。

「ほう。体格からして相撲だと思ったが、合気道か?」

「ほっほっほ。太極拳ですよ」

「ならば」

巴はすかさず達磨淋の顔面に右ストレートを放つ。

「ほいと」

達磨淋はこれも難なく躱す。

「おもしろい!」

巴の顔に妖しい微笑が宿る。

「いく」

巴は右足でロー、ミドル、ハイのコンビネーションキックを放ち、間髪入れず軸足であった左足で後ろ回し蹴りを繰り出す。

「は、はやいにゃ」

邪武がつっこみをいれているあいだも巴の連続蹴撃は止まらない。

仕合開始から十分。巴の猛攻は続いていた。

「ふおっ。そろそろお疲れですか」

達磨淋は巴の攻撃が少し前からスピード、威力ともに衰えていることに気が付いて指摘する。

「感心するよ。ここまですべての攻撃を逸らせるなんてね」

巴は大きく踏み込んで裏拳を放つが、軸足を捻った瞬間に砕けるようにバランスを崩す。

「ほい」

達磨淋は右足で軽く巴の膝裏を押す。巴はきれいに転がった。

「肉雪崩!」

倒れた巴めがけて達磨淋はその巨体をダイブさせた。

「おっと!」

巴は寸前でこのダイブを躱すと、うつ伏せになっている達磨淋の背中に張り付いて達磨淋の太い首に腕を巻き付ける。スリーパーホールドだ。

「打撃技は逸らせても、密着してからの絞め技を逸らすことはできないだろ?」

達磨淋の耳元で囁くのと同時に巴の腕の筋肉が異様に膨れあがる。

「せ、背中に、背中にぽにょにょ~んとした弾力が~もひかして、この感触は女人の乳の感触~」

乳という単語を発した途端、達磨淋の鼻から大量の血が吹き出す。

「ス、ストップ!巴。達磨淋はもう気絶している」

レフリーは慌てて巴の肩をたたく。

「けっ。達磨の奴使えねぇな」

黒地に燃える一つ目のマスクマンは吐き捨てるように悪態をつく。

「まあそういうなよ狂眼。相手があのナイスバディな姉ちゃんだ。圧勝しなきゃああいう負けで終わりだよ」

人懐っこい猿のような顔をした男が嬉々と笑う。

「そうだな猿」

狂眼と呼ばれた男は軽く首を振りながらマット上にあがると片手で軽々と達磨淋を持ち上げ無造作にマット下に転がす。

「副将武とマッドアイ。リングにでませい」

レフリーはマットインを促す。

「負けるなよ。たけ・・・」

入れ替わりにマットに上がる武の肩をたたいた巴の顔が凍る。

「どうしました?らしくないですよ」

武は脂汗を流して小さく震える巴の視線の先を見る。

「え?」

武もまた視線の先にいる人物を確認した途端に小さく震えはじめる。

「うにゃ?視線の先になにがあるのかにゃ」

いきなり豹変した二人に興味津々になった邪武は二人の側に来てピョンピョンと跳ねる。

「ありに見えるは鼎とかいう新米ファイターじゃないか。あれがどうかしたのかにゃ?」

邪武はうにゃ?といった感じで首を捻る。

「なんで、なんで師匠がこんな所にいるんでしようか?」

「わ、解らない」

「師匠?鼎は二人の師匠かにゃ?」

「いや、師匠は鼎の隣にいる金髪の男性なんだが・・・」

武は邪武の問いに虚ろな口調で答える。

「副将戦。武。いでませい」

レフリーに怒鳴られ我に返った武はマットにあがる。

「心ここに在らずといった感じだな?そんなんで俺さまに勝てると思っているのか?」

「勝つ。というか負けられん」

マッドアイの問いに武は悲壮感をたたえながら答える。

「じゃあ一つ賭けないか?」

マッドアイは親指を立てる。

「いいです。ちなみにこの場合のいいですは肯定じゃなくて否定だからな」

「俺は悪徳電話セールスマンか?」

武のボケた念押しにマッドアイは呆れたようなツッコミを返す。

「バトルファイト。レディ。ゴウ」

レフリーが仕合開始を合図する。

「さあ」

マッドアイはのっそりと右手をあげる。プロレスでいうフィンガーロックの要求である。

「いいだろ」

武も右手をあげて、二、三度指を触れさせると一気に組む。

「せい」

マッドアイは指を組むなり武の腹部を思いっきり蹴っ飛ばす。

「ぐはっ」

武の体が豪快に吹っ飛んで、空中でピタリと止まる。マッドアイのフィンガーロックの目的は力比べではなく、蹴りの衝撃をヘタに逃がされないように細工することだった。

「や、やるなぁ」

「ちぃ」

武は腹部をマッドアイは右手を押さえながらつぶやく。

マッドアイが右手を押さえているのは、逃げられないと悟った武が蹴飛ばされた瞬間に指の関節を極めたためだ。

「せい」

武が右のミドルキックを放つと、マッドアイはガッチリと受け止める。二、三回片足で跳ねてた武はそのままの姿勢からマッドアイの後頭部へ軸足である左足での延髄斬りを放つ。

「ちぃ」

後頭部にキツイ一発を食らったマッドアイだが、片膝をついた程度で武の足は放さなかった。そしてすかさず裏アキレス腱固めへと移行する。

「タフだね~」

裏アキレス腱を極められた武は渾身の力を込めてエルボーをマッドアイの米神に放つ。

「し、洒落になんねぇって」

マッドアイは肘のあたったところを押さえながらうめく。

「プロレスと違ってロープブレイクがないんだ。関節技外すのに手段選べるかって」

右足の踏ん張りが効くか確かめながら武は不敵に笑う。

「そうだったな!」

マッドアイは右腕を大きく振りあげて武の胸板に振り下ろす。

「せい」

武は真っ向からこれを受け止める。

「はは死ぬなよ」

マッドアイは不敵に笑うとそのまま腕を武の首までスライドさせて巻き付ける。

「ぬぉおぉぉぉぉ」

咆哮をあげなからマッドアイはその場で回転をはじめる。当然右腕には武が首吊り状態で張り付いているわけだが、そんなことは微塵も感じさせない。

「デッドリー・クラッシュ」

マッドアイはひときわ大きく咆哮すると右腕に武を貼り付けたまま床にダイブする。

「ぐはっ」

二メートルをこえる巨漢マッドアイの全体重をかけた肘が武の喉を押し潰す。

「決ったな」

ピクリともしない武に一瞥をくれるとマッドアイはマットの外にむかって歩き出す。

「おいおい。自分の意志でマットの外に出たら負けだぜ」

武はマッドアイが背中を見せたのを見計らったように立ち上がった。

「てぇめぇ~」

マッドアイは振り向きざまに右ストレートを繰り出した。

「根性だけは認めるぜ。おいレフリー」

マッドアイは途中で拳を止めるとそのまま武の肩を叩いた。

「え?あ!ワン、ツー、スリー」

レフリーは武の顔を覗き込むとおもむろにカウントを取り始める。

「武のやつ気絶してやがるのか」

状況を把握した巴は小さく舌打ちする。

「ナイン、テン!勝者マッドアイ」

レフリーはマッドアイの勝利を宣言した。

「さあ。ちゃちゃいきますよ。大将邪武とクレイジーモンキー。リングにでませい」

レフリーがマットインを促す。

「う~巴さんと武で楽が出来ると踏んでたのに誤算もいいとこにゃ」

邪武は不満タラタラにマットに上がる。

「俺はろくにバトれなくて不満だぜ」

「にゃに?」

「バトれなくて不満だといったんだよお嬢ちゃん」

猿は小さく人差し指を振る。

「後悔させるにゃ」

「バトルファイト。レディ。ゴウ」

レフリーが仕合開始を合図する。

「先手必勝にゃ!」

小さい背をさらに小さく屈めて邪武は猿の足の間に突っ込む。

「うおっ」

邪武は右手を猿の左膝に引っかけて器用に背後に回り込むと、両膝にタックルを敢行する。まともに衝撃を食らって猿は派手にひっくり返る。

「えいえいえい」

猿にまたがって拳を落す邪武。ちっとも効いていないように見える。

「でりゃあぁ!」

猿は叫びながら邪武を弾き飛ばす。

「獅子は兎を狩るにも全力を尽くすという。見た目に騙されて侮ればしなくていいダメージを食らうってことだな」

「それをいうなら窮鼠猫を噛むにゃ」

素早く切り返す邪武。間違いを指摘された猿の顔がみるみる真っ赤になる。

「うるせぇぇぇきぃいぃい」

猿は怒髪天を突くという言葉を体現するような変化を見せる。

「な、なんとなくヤバゲな気配にゃ」

「しぎゃ」

獣のような咆哮とともに猿が突進する。邪武はこれを寸前で躱す。

「いきなり・・・」

安堵のため息をついた邪武の顔色が、いや会場にいた大半の人間の顔色が変わった。猿は躱されたことなどまったく気にすることなく客席めがけて突っ込んでいく。

「あれぐらいのことでキレやがって」

マッドアイはしょうがね~なという顔をするが、顔は状況を楽しんでいる。

「なんとかせんのですか?マッドアイ殿」

「なんとか?しねぇよ。猿がああなっちゃ飽きるまでやらすしかねぇ。この勝負諦めだ」

「えぇ?マッディ諦めるの~らしくない~」

マッドアイに小猫のようにじゃれついていた女性が甘えたような声をだす。

「うるせぇぞ神」

マッドアイはおもむろに神の大きな胸を揉む。揉むというよりは握るといったほうがぴったりくる乱暴な扱いだ。

「決勝大会の一回戦なんて顔見せなんだ。ほっときゃいい」

野太い犬歯を見せながらマッドアイは笑った。

「きいぃ」

一方客席に飛び込んだ猿は傍若無人の限りを尽くしていた。

「これ以上一般人に被害が出るのは好ましくないね」

真っ赤なチャイナドレスを着た女性は鉄扇を口元に当てて隣に座っている女子中学生に視線を送る。

「他のファイターに任せたらどうですか?」

「ファイターならよほどの力量差がない限り手はださないね。下手な怪我はしたくないからね」

女子中学生の問いにチャイナ女性はあっさりと答える。

「わたしがあれの気を逸らすから、ソツナは脳天と肩を打って気絶させるね」

美花はすっと席を立つ。

「一撃で決めなきゃいけないわけですよね。ということは舌禍!礼節斬で仕留めろということですね。美花さんは強引だな~」

ソツナは苦笑いしながら持っていた竹刀袋の紐を解く。竹刀袋からは一振りの西洋剣が出てくる。

「ここで剣はまずいねソツナ」

美花は一本の棒を渡す。

「これは特殊警棒?」

ソツナは警棒というよりは小太刀といった長さにまで伸びるズッシリと重い警棒の感触を確かめながら不敵な笑いを浮かべる。

「いくね」

美花は猿に向かって走り出す。ソツナもこれに続く。

「はい~や~」

散乱して重なった椅子を踏み台に美花がジャンプする。真っ赤なチャイナの深いスリットから見事な太股が惜しげも無くさらされ、間近にいた男どもの歓声を誘う。

「うきゃ?」

猿は妙な気配を感じて見上げる。視線の先には太股じゃなくて美花の蹴りが降ってくる。

「きっ」

猿は美花の攻撃を躱す。

「せい」

美花は素早く前方にかがんで両手を着くと左足を軸として、右足を爪先から大きく円を描いて猿の足元を掃う。

「は~あぁ」

遅れてジャンプしていたソツナが三人!特殊警棒を振り下ろしながら降ってくる。

「斬」

ソツナの警棒は猿の頭と両肩にそれぞれ一発づつきれいにヒットする。猿はうめき声をあげるとその場で動かなくなった。

「すいません」

オレンジ色のジャンパーを着た三人の男たちが遠巻きの人の輪から現れる。

「遅いねガーディアンズ。暴走ファイターはわたしとソツナで止めたね」

美花は鉄扇でペチペチとガーディアンズのひとりの肩を叩く。

「お手数をかけて申し訳ありませんでした美花さん」

男はペコリと頭を下げると持っていた無線に何やら伝える。

「裁定です。チームにゃ邪武とチームXXXのクレイジーモンキーの仕合はクレイジーモンキーの暴走による仕合放棄と見なして邪武の勝ちとします。よってチームにゃんの勝利とします」

場内にチームにゃんの勝利を告げるアナウンスが流れるとドーム内が観客の声で大きく揺れた。

「勝った。ということは仕合が終わったということか・・・さて、師匠にどんな目にあわされるか」

力無くつぶやく巴の顔は青く、負けた武の顔色は白くなっていた。

「ねぇ。師匠は恐いのかにゃ?」

「恐いのか?はは恐いね。でもなんでこんな所にいるのかね」

それを聞いた邪武の目が興味津々に輝く。

「そうだ。早速連絡を・・・」

巴はポケットから都市迷彩を施した携帯電話を取りだし電話をかける。

「ご、ご無沙汰してますサム師匠。日本に来てるならご連絡・・・は。ありがとうございます。え?はい。ではのちほど」

巴は携帯のスイッチを切ると、額に浮かべた信じられないほど大量の汗を拭う。

「よかったな武。稽古つけてくれるそうだ」

巴の宣告を聞いた武の顔は、後に邪武によって伝説となった。

ありがとうございます

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