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福岡ファイトれでぃ~ごう  作者: 那田野狐
第四章 決勝トーナメント
18/26

Aブロック第二戦

「これよりAブロック第二回戦ながみみ堂対甘党集団の仕合を行ないます」

レフリーが仕合を宣言するのと同時にスタンドのあちらこちらにポールがたつ。

そして澄んだホイッスルの音が鳴り響くのと同時にポールに旗が掲揚される。

「八、九、十。ま、妥当な数かな」

旗を数えていたアルが小さく頷く。

「ねぇアル。あれってもしかして・・・」

「そう。ながみみの熱烈私設応援団。折角だからね」

「折角って、アルが煽ったの?」

「そうだよエル姉」

エルの問いをアルはあっさりと肯定する。

「やっぱりドームで応援だからね目立たないと。店の宣伝にもなるしね店長」

アルはニパッと笑う。

「心意気はよしとする。アル。大きな花丸をあげよう」

「わ~い!花まるぅ~花まるぅ~」

アルは無邪気にはしゃぐ。

「あの~そろそろバトルの方を始めたいのですが」

申し訳なさそうにレフリーが声をかける。

「うぃ」

ニパッと笑ってアルはマットにあがる。

「あの、よろしく」

胸に学校の校章らしきワンポイントの入った赤いジャージを着た星川沙耶香はおどおどと手を差し出す。普段は眼鏡をかけているのだが、さすがに今日は強化プラスチック製のゴーグルのようなものになっている。

「うん?樟脳の匂いがする」

握手した際にアルは鼻をヒクヒクさせる。

「はぅごめんなさい」

沙耶香は深々と頭を下げる。

「両者。バトル開始よろしいか」

レフリーがふたりの間に割ってはいる。

「あい」

「あ、はい」

アルと沙耶香はレフリーに促されて十分な間合いを取る。

「へへっ」

アルはポケットからみょ~にでっかいナックルを取り出して両手に装着する。

「うわぁ~」

アルのナックルを見た沙耶香の顔から血の気が失せていく。

「冴子さ~ん。に、逃げていいですかぁ」

沙耶香は自分のコーナーにいる相模冴子を見る。

「敵前逃亡はね~」

冴子は淫靡な微笑みを浮かべて両手をわきわきさせる。

「みぃ」

沙耶香は耳まで真っ赤にし、小さく悲鳴を上げて両手で胸を隠す。

「どうしたケンスケ。海老のようになって」

「ばばばばかもの」

冴子に腰のあたりを軽く叩かれてケンスケの顔が一瞬幸せそうになる。

「あ~あもったいない。それに、男の早いのは嫌われるよ」

先程とは打って変わった下品な笑い声をあげながら冴子はケンスケの肩をバンバン叩く。

「お前な~いま使っただろ」

「何のことかしら?ほほほほほ」

ケンスケは抗議するが、冴子はあっさりと受け流す。

「先鋒戦アル対星川沙耶香。バトルファイト。レディー。ゴウ」

レフリーがバトルを宣言する。

「いっくぞぉ~」

アルはカチンとナックルを鳴らすと残像が残るほどのスピードで一気に間合いを詰める。

「ひゃん」

沙耶香はカチンという金属音に反応しておもわずしゃがみこむ。結果としてアルの拳を躱すことになった。

「やるな!」

あわててアルは拳を振り下ろす。しかし空振りしたために発散することができなかった運動エネルギーを相殺しながらの攻撃はアルの特徴であるスピードを完全に殺していた。

「もらった」

と、叫んだのはケンスケで、沙耶香はしっかりアルの攻撃を食らっていた。

「いた~い」

涙をポロポロこぼしなから沙耶香は駄々っ子のように闇雲に拳を振り回す。

「う~」

アルはおもいっきり困惑していた。身長十五センチの差が生みだすリーチのため、この攻撃を兼ねた鉄壁の防御に手が出せないのだ。

「ファイターを生業にしていな者だから出来る見事な攻撃と防御ですね」

エルは感心したように呟く。

「決定的な一撃をヒットさせるまで体力が続けばな・・・」

雷はさらりと欠点を指摘する。

「うえ~ん」

駄々っ子パンチを繰り出し初めてからおよそ十分。ひときわ大きな声を上げると、沙耶香はフィラメントが切れた電球のようにいきなりその場に突っ伏す。

「ね・・・寝てる」

アルがなんとも情けない顔をして呟く。

「疲れきったようだ」

雷の言葉にエルは苦笑いする。

「こ、子供か」

冴子とケンスケが器用にずっこけていた。

「え~負けでいいですか?」

どんなに揺すっても起きる気配の無い沙耶香にレフリーは困り切った顔で尋ねる。

「もとから戦力に数えてなかったわけだし、仕方ないでしょ」

「そうだな。負けでいいだろ」

冴子もケンスケも仕方ないといった顔で深く頷く。

「え~チームの承諾が得られましたので、アルの勝利です」

レフリーが宣言するのと同時に場内にブーイングが響き渡る。アルも頬を膨らませてブーブーいっている。

「ほらアル。いつまでもブーブーいってるとブタさんになりますよ」

エルに諭されてアルは機嫌を直してマットを降りる。

「ケンスケ=Y出陣する」

ケンスケは古ぼけたサンドイエローのコートを羽織ったままマットにあがる。手にはジョージアのショート缶をもっており、ベテランの刑事が張り込み中といった趣がある。

「カッコつけて登場するのは構わないが、星川沙耶香を引き取ってからにして貰えないだろうか」

「あ、ども~すいません。冴子さん手伝ってもらえます?」

レフリーに指摘され、そそくさと沙耶香をマットの下へと移動させる。

「では改めて。ケンスケ=Y出陣」

コートのポケットからジョージアを取り出すタイミングから歩き方に至るまで先程の登場と寸分違わぬ動きでケンスケはマットの上にあがる。

「副将戦エル対ケンスケ。バトルファイト。レディー。ゴウ」

レフリーがバトルを宣言する。

「では失礼して」

エルは無造作にケンスケに近づく。

「おおっと」

あと一歩で組み合えるという距離でケンスケはいきなりバック転をきってエルとの間合いを取る。

「あなたは関節技の名手らしいですからヒットアンドウェイでいかせてもらいます」

軽く右手の人差し指を振ると、小さく助走して側転。それから右回し蹴りを放つ。もっとも動きが大きすぎでエルは余裕で躱していた。

「よくぞ躱した!」

「あれだけ隙が大きければ躱すのは難しくないのですが」

感心しきりのケンスケにエルはあっさりとした答えを返す。

「ではこれならどうです」

ケンスケは右回し蹴り左後ろ回し蹴りを交互に繰り出しながらエルを攻撃する。

「はい」

エルは素早くしゃがむのと同時に地面を払うような蹴りでケンスケの軸足を狙う。

しかしケンスケはこれを難なく躱すと垂直に右足を振り上げエルの脳天に踵を落す。

「外した?いや、躱された」

ケンスケは舌打ちして、エルの右肩に落した足を引っ込めようとした。

「逃がしません」

エルはケンスケの意図を悟って肩に乗っているケンスケの右足の膝に両手をまわし肩で踵を持ちあげながら両手で膝を下へと押え込む。足くじき肩固めだ。

「うおぉぉぉぉこれでは必殺技がだせない」

ケンスケは膝を抱えてのたうつ。

「一気に!」

エルはケンスケの足首を掴み脇固めに移行するが、ケンスケは素早くエルの肩の付け根を蹴って脱出する。

「いくぞぉぉぉ」

ケンスケは雄叫びをあげながら空中高く飛び上がる。

「血迷った?」

エルがそう考えるのも無理はない。空中からの攻撃は、ふらふらになった相手にとどめをさすか、奇襲に使うものであって、起死回生のために居場所を告げながら行なうものではない。

「ここで」

エルは落下するケンスケの位置から落下位置を予測しどのような事態が発生しても対応できる位置に立って構える。

「奥義!」

ケンスケが叫ぶの同時に空中でのケンスケの動きが止まった。

「え?」

虚を突かれ、エルの動きが一瞬止る。

「きょえぇぇぇ」

動きの止まったエルの顔めがけてケンスケは膝蹴りを繰り出す。

「あの技は伝説の、し、真空跳び膝蹴り!」

雷はケンスケの技の正体を記憶の底から引きずり出して叫ぶ。そしてそれは固まっていたエルの硬直を解くものであった。

「ひゃん」

エルは大きく体を捻ってケンスケの攻撃が顔面に直撃するのを回避した。しかし、攻撃自体は回避することができず、右肩の首の付け根にヒットすることを許してしまった。

「のおぉぉぉぉ」

攻撃をヒットさせたはずのケンスケが膝を抱えて悶絶の声をあげる。

「くじかれた右膝で攻撃するからだ。エル。しとめろ」

「は、はい」

目に薄っすらと涙を浮かべながらもエルはケンスケの右足を掴むとそのまま裏アキレス腱固めに入る。

「のわぁぁぁギブアップ。ギブアップ」

たまらずケンスケは床を叩いた。

「勝者エル。よってチームながみみ堂の勝利です」

レフリーがエルとチームながみみ堂の勝利を宣言する。

「ふぁ」

崩れるようにエルにへたり込む。

「よくやった」

雷はへたり込んだエルを軽々と抱き上げる。

「そんな、自分で立てます」

「無理をするな」

「はい」

エルは長い耳の先まで真っ赤にする。

「エル姉!ボ~ボ~」

アルは妙な囃したてかたをする。逆さにしたカマボコのような目がアルの焼きもちの度合いの深さを現している。

「こういうときはひゅーひゅーだろ?」

「ボ~ボ~」

雷が指摘したにも関わらずアルの妙な囃したては止まらなかった。

ありがとうございます

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