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福岡ファイトれでぃ~ごう  作者: 那田野狐
第四章 決勝トーナメント
17/26

Bブロック第一戦

「蒸機帝国の秘密兵器開発とそれに伴う実戦テスト。それに関わる特務部隊の動きはご存じですか」

「知っている。で?」

男の言葉にサムは素っ気無く答えると静かに紅茶を飲む。

「実はこの特務部隊を」

「まて・・・その件については上と蒸機とで話がついていたはずだが?」

「おっしゃる通りです。実は今回のこの実験成果を横取りしようとする組織がありまして・・・」

「組織。国じゃないのか」

「はい。相手が国なら外交ルートを通じていくらでも圧力がかけられるのですが、犯罪組織となると・・・」

「解った。だが、仕合以外でのフォローしかしないぞ」

「ありがとうございます。大佐のフォローがあれば万全です」

サムの返事に男は明るい表情になる。

「そちらで掴んでいる情報はすべて三時間以内にメールボックスに入れておいてくれ」

「了解です」

男は敬礼した。


「これよりBブロック第一回戦蒸機帝国対チームこおろぎの仕合を行ないます」

福岡ドーム内に大歓声が沸き上がる。

「戦闘データの収集が目的だろ?せっかくだから俺が先発するぜ」

竜平はリミッタに向かって指を振る。

「はあ・・・お任せします」

「さっさと勝って邪武ちゃんへの挑戦権を確保するぜ」

竜平はかんから笑いながらマットに上がる。

「は、八郎さま~対戦相手の人なんか危ないですよ~」

竜平の言動を見てミカヅキは目をウルウルさせる。

「心配するな。いまから俺様が必勝の策を授けてやる」

「ほ、本当ですか?で、どうすればいいんですか」

「いいかミカヅキ。ビシ、バシ、ズバンだ」

自信ありげにアドバイスする八郎にミカヅキの目は点になる。

「あの~」

「もしくはドス、ボコ、ゲシだ」

「あう~ありがとうございます。がんばりますぅ」

ミカヅキはそれ以上質問することを諦めた。

「先鋒戦。バトルファイト。レディ。ファイト」

レフリーが仕合開始を宣言する。

「いくぜ」

竜平はゆっくりとした、それでいて有無を言わせない圧迫感でもって間合いを詰める。

「う、うわ~ん」

ミカヅキがブンブンと腕を振り回しながら突っ込む。別名駄々っ子パンチ。

「うわっ」

竜平は派手に叫びつつも余裕でミカヅキの攻撃を躱す。

「えいえいえい」

ミカヅキは相変わらず直線的な攻撃を繰りだす。

「こんなのでよく勝ち上がってこれたな~」

と、余裕を見せたのが悪かった。竜平の股間にミカヅキのグーパンチがモロにヒットする。

「ま!」

見る間に竜平の顔が苦悶に歪み、嫌な汗を吹き出させる。

「うわ痛そう」

その痛さを知っている(いた?)八郎が同情する。

「痛いのか?」

「上の人。あれは痛いんですか?」

エンゲツとマントのなかのシンゲツが同時に聞いてくる。

「男にとってあれは死ぬほど痛い。だから狙って攻撃してはいけない。反則だ」

「はあ。了解です」

エンゲツとシンゲツはなんとなく納得でない声で返事をする。

「面白いデータがとれました。相手チームのミカヅキ殿はやはり我が国に優るとも劣らぬ技術をもって制作されたアンドロイドのようです」

リミッタは微かに表情を変える。

「それは本当ですか?リミッタ。ということは本国からあった追跡者なのでしょうか」

ブレーカはリミッタのほうを見ることなくしゃべる。

「その可能性についてはコンマ15以下になりました。あれほどの技術を有しているのであれば横取りは考えません」

「では無視してもかまいませんね。リミッタ姉さま」

ヒューズが会話に割り込んでくる。

「追跡者として警戒しなくていいというだけで甘く見てはいけません。むしろデータ収集程度に設定していた戦闘モードを実戦のモードに切り替える必要があります」

リミッタは目を瞑る。

「戦闘モードの設定をファジーに変更。完了。許容ダメージ設定をミドルに変更。完了。ブレーカ、ヒューズ。回路を開いて」

「了解だ」

「解りましたリミッタ姉さま」

ブレーカとヒューズも目を瞑る。

「設定変更完了だ」

「変更しました」

三人はにっこりと笑う。

「だぁ~お前ら俺の闘いには全然感心ないってか~」

竜平はピョンピョン跳ねながら抗議する。

「そんなことはないぞ。がんばれ」

「わ~い。がんばれ~」

ブレーカとヒューズはどこから取り出したのか小旗を振って応援する。

「終わったらぐーぱんち食らわす」

と、竜平が視線をミカヅキから離した瞬間にミカヅキは素早くローキックを放つ。

「おおっと危ない。お嬢さん。超がつく一流の傭兵であるこの俺に不意打ち攻撃は決らないぜ」

竜平はカッコをつけるが、股間に辛い一撃をくらった男の台詞ではない。

「えい」

ミカヅキは振りかぶるように右拳を繰り出す。

「力はあるが、甘いのだよって・・・」

竜平は余裕をもってミカヅキの右拳を受け止めるが、ミカヅキは受け止められた瞬間に腕を内側に捻ると、倒れ込むように踏み込んでいた。

「蛇破頂肘。決めさせてもらいます」

ミカヅキは打ち下ろすように右肘を竜平の鳩尾へと叩き込む。

「かはっ」

竜平は口から胃液が吐き出し、そのまま崩れるように倒れた。

「エイト、ナイン、テン。勝者ミカヅキ」

カウントを数え終えたレフリーがミカヅキの勝利を宣言する。

「やりました八郎さま」

「よくやった。以上お褒めの言葉終わり。エンゲツ。一気に決めてしまえ」

八郎の言葉にミカヅキはおもいっきりこける。

「もうちょっと誉めてください~」

「却下」

「ぴー」

ミカヅキと八郎のやりとりをエンゲツは呆れた顔で見る。

「そろそろ始めたいのだが・・・」

「あ、はい」

レフリーに促されてエンゲツはマットの上に上がる。

「闘う前にいいか?」

「なんだ改まって」

エンゲツの返事をまって、先にマットに上がっていたブレーカは腰に吊ってあるトンファーを握る。

「折角の決勝だ。頼むからこいつをつかわせてくれよ」

一瞬の間を置いてエンゲツはブレーカの言葉の意味を理解した。

「軽口叩いたこと絶対に後悔させる」

エンゲツは長く指と一体化した鉤爪のような右手を振りあげ一気に間合いを詰める。

「バトルファイト。レディ。ファイト」

レフリーが慌てて仕合開始を宣言する。

「食らえ」

エンゲツの叫び声と鈍い衝突音が同時に響く。

「さすがだな。しかし」

ブレーカは右手のトンファーで爪を受け止めると素早く左手のトンファーでエンゲツの胴を薙ぐ。

「いまの一撃で肋骨を砕けないのか。ヒューズ設定の変更を要請する」

ブレーカは薙いだときの手応えで素早く判断する。

「了解。プラス一五に変更することを許可します」

耳元にリミッタの声が届く。

「なんだ?」

一瞬だが、ブレーカの動きが鈍くなったのをエンゲツは見逃さなかった。

「はぁいぃぃ」

エンゲツはすくいあげるように右腕をくりだすが、ブレーカは体を反らしてこれを躱す。

「はっ」

ブレーカは体を反らせながらも同時に右足を跳ね上げる。ブレーカの右足はエンゲツの顎先を完璧に捉えた。

「痛ぅ」

エンゲツは口元の血を拭うと、勢いよく跳び起きて右手を振り上げる。

「はあぁぁぁにゃ?」

エンゲツは雄叫びをあげなからその場に崩れ落ちた。

「脳を揺さ振ったのだ。そのまま沈め」

ブレーカはトンファを構えなおすとエンゲツの延髄に叩き込む。

「勝者ブレーカ」

レフリーがブレーカの勝利を宣言する。

「あらあら。いかがいたしますか?上の人」

八郎のマントの中から声がする。

「ひとあたりして勝てそうならいけ。だが少しでも負けそうだと判断したら無理をする必要はない。データを収集して適当に負けろ。敗者復活に賭ける」

「承りました。上の人」

返事とともに八郎の身長が高くなる。

「ミカ。上の人を頼みます」

「はい」

ノックアウトしたエンゲツをマット上から引き降ろしたミカヅキは八郎の肩をマントの上からがっしりと掴む。

「では行ってまいります」

マントの下からゴテゴテとした枷を身につけた少女が姿を現す。

「どうやら先鋒のミカヅキさんよりはパワーがありそうですね」

リミッタはサーチして得られた情報からそう分析した。

「ヒューズとわたしの順番が逆だったらよかったかな」

「力を力でねじ伏せても意味はありませんよね?ブレーカ姉さま」

ヒューズはにぱっと笑顔を浮かべる。

「相手の力の上限は未だ未知数です。最初から全力であたったほうが得策でしょう」

「了解です。リミッタ姉さま」

ヒューズは小さく敬礼するとマットに上がる。

「大将戦。バトルファイト。レディ。ファイト」

レフリーが仕合開始を宣言する。

「いきますよ」

シンゲツはペコリと頭を下げると、アクションなしでいきなり右ストレートを放つ。

「うわぁ早い」

ヒューズは辛うじて避ける。

「いまの躱しますか。では」

「うわわ」

アクションなしに放たれるシンゲツの左右のストレート。それを躱すヒューズ。

「やりますね」

シンゲツはニコリと笑うとアームガードに手をかけて、無造作に投げ捨てる。ゴトンという鈍い音をたててアームガードが床に転がった。

「本気ですか。ならば、わたしも戦闘モードに移行させてもらいます」

ヒューズが宣言するのと同時にヒューズの表情が無くなる。

「ヒールスタンド。アタックモード」

ヒューズは爪先立ちになる。その姿勢は透明のハイヒールを履いたような感じである。

「小細工をする」

シンゲツは右の回し蹴りを繰り出す。

「腕の重り外して蹴りを出すシンゲツさんよりはマシです」

「そんな。捉えたのは残像!」

シンゲツはヒューズの鳩尾に蹴りをヒットさせたと確信しただけに驚いた。

「はい」

ヒューズは右の手刀をシンゲツの肩口に振り下ろす。

「油断した」

肩を押さえながらシンゲツは間合いを取る。

「あは。あれがクリティカルにならないなんて。装甲の耐久力はかなり高いようね」

口調からするとクスクス笑っていそうだが、ヒューズの顔は無表情である。

「上の人。もうこれ以上データは集められません」

「なにをブツブツと」

マットの上を滑るようにヒューズは間合いを詰める。

「えい」

シンゲツは踏み込むように右ストレートをだすが、ヒューズはこれも残像を残して躱す。

「今度こそ」

「甘い」

自分の左背後に回って手刀を打ち下ろそうとしたヒューズの動きを推測していたかのような反応でシンゲツは左後ろ回し蹴りをはなつ。

「きゃん」

まともに左肩口に蹴りを食らってヒューズは吹っ飛ぶ。

「行動予測が当たったのに相打ちとは情けないです。ギブアップいたします」

シンゲツはレフリーに向かってペコリと頭を下げる。

「あ、ああ勝者ヒューズ」

呆気に取られながらもレフリーはヒューズの勝利を宣言する。

「上の人。負けてしまいました」

シンゲツはひょこひょこと足を引きながらもニコニコ笑う。

「うむ。あのようなスピードに抗する術は用意してなかったからな。特別に許す。しかし面白いな」

八郎は眼球を忙しく動かす。

「う~八郎さまったら態度が違い過ぎますですぅ」

ミカヅキは頬を大きく膨らませ涙をちょっぴり浮かべた。

「ラッキーヒットだといってしまえばそれまでですが、今後はカウンターにも注意しなくてはなりませんね」

リミッタはぎこちなく笑いかける。

「そうだな。ヒューズは防御に不安があるのだから気をつけないと」

ブレーカはポンとヒューズの頭をたたく。

「わかったです」

ヒューズはしゅんとなる。

「あ~あ俺はいつでも蚊帳の外か~」

竜平は聞こえるように大声で叫んだが、黙殺された。


ありがとうございます

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