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福岡ファイトれでぃ~ごう  作者: 那田野狐
第四章 決勝トーナメント
16/26

Aブロック第一戦

「お~い武」

控え室の扉を開けて邪武が入ってきた。

「あ~よしよしちゃんと着てるね」

邪武がピンクのヒラヒラのついたドレスを着ている(でもネコミミとシッポはちゃんとついている)のを見て、巴は大いに満足の笑みを浮かべる。

「うみゅ?巴さんドレスじゃないのかにゃ」

邪武が指摘するように巴の服はヘソ丸出しのだしの短い豹柄のタンクトップに革のズボンという悩殺的な服装である。

「あ、そうにゃ」

邪武は持っていた紙を武と巴に渡す。

「トーナメント表と追加ルール・・・なんだか、いい加減なトーナメント表だな。一回戦で負けても敗者復活で一発逆転も狙える」

巴は怪訝そうな顔をする。

「へぇ~使用武器にクローが追加され、防具の着用が認可されたのか・・・ということは他の部門で洒落にならないファイトがあったようですね」

武は苦笑いする。

「どういうことだ?」

「ルールはあっても、なんでもありが基本で、防具の着用も禁止されてはいません」

巴の問いに武は即座に答える。

「ここにきて改めて明文化されたということは、予選で防具の着用をしなきゃいけない事態が発生したということだな」

「そう考えるのが自然です」

「でもどうする。今から防具は調達できないぞ」

「それなら問題ありません。この会場には専門のショップがベンチ裏で臨時に店を開いています」

得意げに武は胸を張る。

「そうか。で、武と邪武はどうする?」

「防具いらないにゃ」

「自分は自前のがありますから」

武も邪武もあっさりと答える。

「あります?ということは、こういう事態が予測できていたということだな?なら最初に教えろ」

巴は武の頭をグーで軽く叩くと携帯電話を取り出す。

「あ、わたしだ。ああ。で、ひとつ頼みたいことがある。わたしの防具を持ってきてくれないか?ああ。そうだ。頼むよ・・・」

巴は最後になにやら呟いたが、小さくてふたりには聞き取れなかった。






福岡ドーム内にドラムロールとトランペットのファンファーレが鳴り響く。

「第八回バトルファイターズ決勝トーナメント大会を開催いたします」

アナウンスが会場に流れると福岡ドームが大きく揺れる。

「これよりAブロック第一回戦ミックスナッツ対ロイヤルガードの仕合を行ないます」

再び大歓声が沸き上がる。

「ありがとう。正直ここまで来ることができるとは思わなかったキミたちのおかげだ」

うさぎのような耳を小さくピョコピョコを動かしながら、体にピッタリフィットした黒いチャイナ服を着た少女ミィファ=アンブローズは後ろのふたりに声をかける。

「いや~どういったことありませんよミィファちゃん」

鼈甲で出来ているらしい飴色の櫛で髪を整えながら、軽薄を絵に描いたような口調でイタリア有名ブランドのダークグレイのスーツを身につけた男が答える。

「シン・・・お前が何をしたというのだ?」

「鼎ちゃんのいうとおり、俺様はなにもしてないよ。でもね~俺様がいたおかげで予選にも出れたわけだし、決勝にもこれたんじゃないの?」

シンは女性が卒倒しそうな微笑みを浮かべて鼎の肩をポンポンとたたく。明らかに観衆(特に女性)の視線を意識したパフォーマンスである。

「それは貴様も同じのはずだろ」

「あれ?そうだったかな」

シンの犬歯がキラリと光る。

「歯を光らせるようなことか」

ミィファは見事に鍛え上げられた足でシンを蹴っ飛ばす。

「あ、白」

シンは、必然的に見えたミィファのTバックの色を声にだして指摘する。

「きっさ~星になれ!」

「えんでぇばぁ~きら~ん」

シンは笑えないギャグを散りばめながら二メートル以上ふっ飛ぶ。

「兎に角。ちかっぱいがんばするのだ」

ミィファはガッツポーズをする。

「なんか強烈なチームだな」

ミィファとシンのやりとりを見て、ヤイバは薄笑いを浮かべる。

「ヤイバが相手チームを評するなんて珍しいこともあるな」

「評する?おおかたミィファさんの素足に気を取られたんでしょ?」

ショウは口を尖らして頬を膨らませる。

「ヤキモチか?」

「誰が!」

ショウはジンを睨み付ける。

「ロイヤルガード。先鋒」

「あ、はい」

レフリーに呼ばれてショウは慌ててマットに上がる。対戦相手のシンは既にマット上でストレッチをしている。

「ショウ。決勝は勝ち抜きじゃない。負けてもいいから気楽にいけ」

「闘う前から負けを奨励しない」

ショウはキッパリと言い放つ。

「シン。せめて一回ぐらいは勝つのだ」

「ま~かせて」

シンはミィファにウインクすると、颯爽とスーツの上着を脱ぐ。

「バトルファイト。レディ。ファイト」

レフリーが腕を交差させる。

「はぁぁぁぁ」

素早い動きでショウは間合いを詰める。

「え?早い」

シンは慌ててガード体勢を取るが、ショウは素早くガードをかいくぐり、シンの鳩尾に膝を叩き込む。

「ぐふっ。な~んてね」

鳩尾にきれいな一発を食らったはずのシンは、まったくダメージを受けた様子も無く、そのまま無防備なショウの背中に肘を打ち下ろす。

「きゃん」

ショウは大粒の涙をポロポロこぼしながら、膝を抱えて悶える。

「た~だで蹴りを入れられるなんて、考えが甘いんだよ。お嬢ちゃん」

シンはショウの両足首を掴む。

「レフリー!シンは腹に何かいれてるぞ」

「腹に仕込んでいるのは防具だよ。鉄仕込みの突起付きだ。さ~て。えっちな事しちゃおかな」

品の無い笑いを浮かべながら、シンは両膝をつきショウの両足を肩へと担ぎあげる。

「う~ん乙女のひ・み・つ」

シンはじりじりとショウの股間へと顔を近づけていく。

「この」

ショウは激しく体を揺さ振りながら拳を繰りだそうとするが、両足をガッチリ掴まれている上に腰を浮かされていては決定的な一撃を決めることができない。

「ショウ!」

「やめろジン」

いたたまれず飛び出そうとするジンをヤイバが止める。

「ヤイバ。なぜ止める」

「ここで飛び出したら問答無用で反則負けだぞ?ショウはまだ助けを求めていない」

ヤイバに諭されてジンは飛び出すのをやめるが、くやしさのあまり唇の端を噛んで僅かに血を滲ませる。

「これでは出てこないか・・・」

シンはショウの両膝を抱えたまま体を捻ると逆エビ固めの体勢に入る。そして、掛け声とともに抱えていたショウの両膝を勢いよく床に叩き付ける。

「つぎは」

シンはショウのお尻の上に腰を下ろすと、両脇から胸へと両手を差し込む。

「両者ブレイク。シンにセクシャルアタックの警告」

レフリーは緑色のカードを提示して素早くシンの右手を掴む。

「ちぇ」

シンは露骨に舌打ちするが、あきらかにジンやヤイバへの挑発である。

「し、信じられない」

ショウは半泣きになりながらも立ち上がる。

「警告はあと二回だからな。慎重につかわないと」

シンはわざとらしく両手をワキワキさせる。

「た、闘いを冒涜するゲスなやつ」

ショウの髪がゆらりと陽炎のようにざわめく。

「見ろジン。瓢箪から駒とはこのことだ。怒りがショウの眠っている力を引き出す」

ヤイバは引き攣ったような笑いを浮かべながらジンの肩をポンポンと叩く。

「気持ちよくさせてやるぜ」

おおよそ関係ない台詞を吐きながらシンは突っ込む。

「はぁあ」

一瞬ショウの体が沈み、アッパー気味に右の拳がシンの横腹に入る。

「効くかはぁ?」

見た目ショウの一撃はたいして力の入ったものではなかった。しかし、拳がヒットした瞬間シンの体は二メートルほど高く浮いていた。

「せぇい」

おちてくるシンの顔にショウの正拳がヒットする。

「勝者ショウ」

シンの顔を覗き込んだレフリーが躊躇せずショウに向かって手を上げて仕合終了を宣言する。

「へぇ?はぁ」

張り詰めていた糸が切れたように崩れるショウを素早くジンが支えていた。

「よくやったショウ」

ジンの顔と声が聞こえて安心したのか、ショウは安らかな顔のまま気絶した。

「ちぇ。いい役とりやがって」

「こんなの早い者勝ちだ」

「あ~チームロイヤルガード。中堅の選手以外はさっさとマットから降りる」

状況に浸っているジンとヤイバにレフリーは警告する。

「失礼しました。さあヤイバ。ショウを連れてマットを降りてくれ。俺はこの勝負にケリをつける」

ジンは不敵な笑みを浮かべてパキパキと指を鳴らす。

「ううっ舐められてるのだ。でも、負ける訳にはいかないのだ」

ミィファはパンパンと頬を張る。

「バトルファイト。レディ。ファイト」

レフリーが仕合開始を宣言する。

「瞬殺する」

ジンは体を沈めながらミィファとの間合いを詰める。

「シンを葬ったのと同じパターンか?なら当たる訳にはいかないのだ」

ミィファはしっかり見極めてジンのアッパーを躱す。

「やるぅ。ならこれならどうだ」

ジンは素直に驚嘆する。そして間髪入れずにミドルキックを放つ。

「わぅを」

ミィファはなんとかこれをブロックする。

「もうひとつ」

ジンがもう一度ミドルキックを放つと、ミィファは派手に吹っ飛ばされる。

「決ってない。インパクトの瞬間に後ろに跳ねた」

ジンは一足飛びに間合いを詰める。

「オレは、オレは勝って絶対にオーロラを見るんだ」

ミィファは勢いよく跳ね起きると、右足を軸にして左回し蹴りを放つ。

「やるねって、おっと」

ジンは最初の一撃をあっさり躱すが、ミィファは一向に気にすることなく二発目の右回し蹴りを放つ。

「ちいぃ」

二発目の回し蹴りをジンはガッチリとガードする。

「まだ」

三発目の左回し蹴りをジンは辛うじてガードした。

「もうひとつ」

四発目の右回し蹴りはジンのブロックを弾いた。

「これで」

五発目の左回し蹴りはジンの脇腹にヒットする。

「ラスト!」

六発目の右回し蹴りが崩れて位置の低くなったジンの頭に襲いかかる。

「させるか!」

ジンは頭を低くして回し蹴りを躱す。

スコーン。

とても気持ちのいい音が響き、ジンもミィファも空中を高く舞っていた。

「回し蹴り六発のあとに間髪いれずのサマーソルトか」

鼎はぼそりと一連の流れを解説した。

「連蹴背転脚。うにゃ」

技名を叫んでミィファはその場に座り込む。

「勝者ミィファ」

レフリーが声高々に宣言する。

「ほら、大丈夫か?」

目が回っているのか、焦点の合っていないミィファに鼎は手を差し伸べる。

「勝ったのか」

「ああ勝った。よかったな。技がヒットして・・・」

「へへへ」

苦笑いするミィファを鼎は黙って抱きかかえると、そのままマットの下にエスコートする。

「チームミックスナッツ。大将の選手はマットに」

レフリーに促されて鼎はマット上に戻る。

「その紅いコートは脱がないのか?」

「インチキ臭い防具が仕込んであるのではないかと疑っているのか?心配するな。そこまで姑息じゃない」

ヤイバの質問に鼎は僅かに笑って答える。

「バトルファイト。レディ。ファイト」

レフリーが仕合開始を宣言する。

「嘘か本当か確かめてやる!」

ヤイバはいきなりロー、ミドル、ハイのキックを放つ。

「踏み込みが甘い」

鼎はハイキックをすくうように受け止めると、ヤイバの首に腕を回し、そのまま反りをうつ。

「いってぇ~ウルフ式キャプチュードかよ」

ヤイバはブンブンと頭を振って立ち上がる。

「いくぞ・・・」

鼎は弓を引くように右手を構えると、正確に肩の付け根を打ち抜くべく掌を繰り出す。

「わっわっうを」

ヤイバは器用に鼎の攻撃を避ける。

「なんて素早く的確な攻撃なんだ」

バック転で間合いを取ると、ヤイバはペロリと右手の親指をペロリとなめる。

「だが、見切れない攻撃じゃない」

ヤイバは再び間合いを詰める。

「せい」

突っ込んでくるヤイバに鼎は手刀を落すが、あえなく空を切る。

「いったろ?見切れない攻撃じゃないって」

鼎の目の前に現れたヤイバは右アッパーを鼎の鳩尾に叩き込む。鈍い音とともに鼎の体が宙に浮いた。

「ああっ。立って!立つのだ」

ミィファはバンバンと床を叩く。

「無理だな」

半泣きになっているミィファに向かって中指を立てていたヤイバの背後に鼎は音も無く忍びよる。

「仕合中によそ見とは余裕だな」

「な、なに?」

ヤイバが振り返るよりも早く羽交い締めにすると、そのまま反りをうつ。ドラゴンスープレックスである。

「効いた~いや、鼎さんあんた掛け値なしに強いね。だから悪いけど、次の本気の技で決めさせてもらうよ」

ヤイバは後頭部を抱えながら立ち上がる。

「本気の技か・・・いい度胸だ。ではその本気の技とやらを見せてもらおうか?」

「いわれなくても見せてやるよ」

ヤイバが腰を落すと、ヤイバの髪の毛が風に巻かれたように逆立つ。

「ショウ君が技を決めたときにも似たような現象があったな」

「いくぜ」

ヤイバは前傾姿勢のまま突っ込む。

「同じ手は!」

「入り方だけだよ!」

迎撃のため振り下ろされた鼎の手刀を見切って躱すと、ヤイバは鼎の鳩尾に膝を叩き込む。鼎の体が浮いた。

「はぁああああ」

鼎の顎先に十分なヒネリの効いた右拳がヒットする。

「ノックダウン。ワン、ツー、スリー」

気絶はしていないものの立ち上がる気配を見せない鼎にレフリーはカウントを取り始める。

「もう一度立って!」

「立てねぇよ」

ミィファの叫び声にヤイバは肩で大きく息をしながら答える。

「・・・ナイン、テン。勝者ヤイバ。チームロイヤルガード勝利」

レフリーの宣言とともにドームが歓声に包まれる。

「やった!」

ヤイバは自分たちのサイドに向かってガッツポーズをする。しかしジンもショウも気絶しているのでこれは空振りに終わった。

「すまない」

「いや、キミは頑張った」

鼎の言葉にミィファは力無く微笑む。

「でもオーロラ・・・見たかった」

ミィファの目に大粒の涙が浮かぶ。

「まだ・・・その夢を諦める必要はない。敗者復活から這いあがればいい」

「そうだ。そうだったな。這いあがればいいのだ」

鼎の言葉にミィファはポロポロ涙をこぼす。

「すまないな・・・だが、ここで負ければ確実に奴等とあたれる。美霧を・・・砌を取り戻すことができるんだ」

「な、なにか言った?」

「いや・・・なんでもない」

グシグシと顔を擦っているミィファの頭を鼎は優しく撫でた。

ありがとうございます

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