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福岡ファイトれでぃ~ごう  作者: 那田野狐
第参章 決勝戦前
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戦いの前 その3

「決勝まで進出でき、戦闘データも集まっていて感謝しております佐渡殿」

右が赤、左が青と左右で違う色の瞳をもつ少女はぺコリと頭を下げる。

「いや、礼には及ばねぇ。あんたの上官には以前戦場で世話になったし、俺にとってもこの話は渡りに舟だったからな。あいこだよ。リミッタ特佐殿」

佐渡竜平はポリポリと頬を掻く。

「特佐は勘弁してくださいませ。軍人であることはこの国にいる間は秘密にしなければなりません」

しかし、リミッタの顔はあまり困ったようには見えない。

「そうだったねぇ。ま、俺は邪武ちゃんと仕合えるからいいんだけど」

竜平はちらりと横を見て目尻を卑らしく下げる。

「前から気になっていたが、お前、我々をおかしな目で見ていないか」

リミッタによく似た目の青い少女が表情を変えることなく竜平を見る。

「ブレーカ姉さま。わたし、それについて調べてます」

「ヒューズ。お前、また、戦闘以外のことをメモリしたのか」

ブレーカと呼ばれた少女は彼女より一回り小さな少女を見つめる。

「だって・・・」

ヒューズの顔が今にも泣き出しそうになる。

「ヒューズ。とりあえず入手した情報を提供してくださいな」

「はい。リミッタ姉さま」

ヒューズは一転してニッパと笑顔を浮かべる。

「転送します」

ヒューズが合図するのと同時に三人の瞳に不可解な光が走る。

「ヒューズが仕入れてくる情報の中でも極めて無意味な情報だな。そうか、竜平殿は重度のロリータ・コンプレックスか」

すうっと目を細めて、ブレーカは見下したような顔をする。

「チッチッチッ。俺が好きなのは強いお子様体型の娘だけだぜぇ」

竜平は指を振って訂正すると思いきやおもいっきり補強する。

「だから邪武さんですか」

「それと最近赤丸チェックがながみみ堂のアルちゃんだな。おまえさん達もいけてると思うぜぇ」

竜平は幸せそうにあさってのほうを見る。

「確かに腕はある。しかし・・・命令でなければ・・・」

それは竜平以外の全員の思惑であった。





「エルさん。昼の部終了までまだ時間があるのに準備中にするのかい?」

準備中の札を持って出てきたエルに、モデルのようなプロポーションをもつ長髪の女性が声をかける。

「あら、冴子さん。それにケンスケさん沙耶香さん。今日は甘党集団の会合ですか?」

話しかけてきた女性相模冴子とその後ろにいる男女を見て、エルはにっこりと微笑む。

「いや、我が甘党集団は、例のバトルファイトの市役所前広場代表の座をゲットしたらいし」

ケンスケはわずかに口元に笑いを貼りつける。本人は気取ってクールな笑いとやらを演出しているようだが、どうみても失敗している。

「自分たちで決めたのにらしいじゃないよ」

冴子はピシャリとケンスケの額をたたく。

「あうあう。ケンスケさんも冴子さんもこんなところで~ああごめんなさいぃ」

星川沙耶香は両手を口のところにもってきてうろたえる。

「あの~で」

「ああごめん。今日は決勝進出祝いと会合を兼ねて和菓子とほうじ茶で乾杯ってわけさ」

困った顔のエルに冴子は人差し指を振りながら答える。

「で、ここにエルさんの和菓子を食べに来たのだけれど・・・」

「なるほど。そういうことなら店主に伺ってきましょう」

エルは穏やかに笑う。

「なにかまずいことでもあるのかい?」

「いえ、いま店主は店の中で先客と酒盛りを始めてしまっているもので・・・」

「で、今日は商売にならないから、もう店を閉めようと」

「はい」

「で、そんな状況なのに店主に聞いてくるってのは?」

「店主が先客と盛り上がっているのは、その決勝進出のお祝いなのです。一組増えたぐらいなら」

「構わないだろうと。なるほどね~」

冴子はちょこんと首を傾ける。

「では、聞いてまいります」

エルは準備中の札をドアに引っかけると店の中に入って行く。

「どうぞ」

一分と経たずエルが店の中から冴子たちを手招きする。

「失礼するよ」

冴子たちは店の中に入る。

「うむむむむ?」

準備中の札がかかっている店にそそくさと入って行く三人をアフロヘアにピンクのスーツというド派手な男が鼻をひくつかせる。

「ちょっとあなた。怪しいわよ。あっははははは」

アフロ男に負けず劣らずのドピンクの洋服を着た女性が、けたたましく能天気な笑い声をあげながら重厚なレンズのついたカメラのシャッターを切る。

「確か・・・・あったあった。いまながみみ堂に入っていったのは、今大会の決勝トーナメント進出者の一組。ということは弱みの匂いがしま~す」

古ぼけた手帳を素早くめくって情報を入手したアフロ男は小さくガッツポーズをする。

「わたしたち芦屋ピー&ポー子夫妻の手にかかれば入手できない情報はないのよ~あはははは」

芦屋ポー子はまたまたけたたましい笑い声をあげる。

「すいません」

「いま立て込んでいます」

芦屋ピーは振り向きもせず、手振りだけで後ろの人間に向こうへ行くように促す。

「警察です。近所からの苦情が来てるので」

「へぇ?」

警察といわれてピーは恐る恐る振り返る。

「し、失礼しました~」

警官を確認すると、ピーとポー子は脱兎という言葉がピッタリくるような猛ダッシュで逃げ出した。

「表が少し騒がしいな」

巴は僅かに笑って氷と琥珀色の液体を満たしたグラスを揺らす。

「そうか?」

雷も笑って巴のグラスより若干薄い琥珀色の液体を満たしたグラスを揺らす。相変わらず帽子で素顔を隠しているのは立派といえば立派である。

また、テーブルの上にはワイン、スコッチ、ブランデー、ウォッカ、スピリット、ラム酒の空ボトルが背の高い順番に並んでおり、テーブルの端にはうつ伏せのままピクリともしない武の姿がある。

「ねぇ。あれを何時間で?」

「そうだにゃ~入ったのはお昼頃だから、かれこれ三時間かにゃ」

耳打ちしてきた冴子に邪武は足をブラブラさせながら答える。

「三時間で八、九、十本かザルだね」

ケンスケはニガ笑いする。

「おまたせしました」

レジ後ろの壁がカラカラと鈴の音を立てながら開くと、そこから大きなお盆を持ったアルが現れる。

「月餅ですか。しかも皮がパイ生地ということは潮州式ですね?」

差し出された皿に置かれた二つのものを見て、沙耶香は目をキラキラさせる。

「たまたま月餅のレシピが手に入ったので、たまには中華のお菓子もいいかなと」

エルはコーヒーカップにほうじ茶を注ぎ込みながら答える。

「ではさっそく」

ケンスケはフォークで切り分けると一片を頬張る。

「うん?この小豆餡の甘さ砂糖・・・ではないな」

「そうだね。こんなに甘いのに全然しつこくなく」

「この甘さは果物ですよ冴子さん」

三人は甘さの正体をあれこれと推理し始めるが、邪武は黙々と食べている。

「へっへん。わかんないでしょ?」

アルは自慢そうに胸を張る。

「アルが無い胸張ることないにゃ」

「なにぃ?胸はお前のほうが三センチ小さいじゃないか」

「むかむかむか」

実にレベルの低い次元で、二人の間に一触即発の緊張が走る。

「くだらない次元で喧嘩しない」

いつのまにか邪武の背後に立っていた巴が無造作に邪武を抱えあげる。

「エルさん次は日本酒ね」

「あ、はい」

巴はひょいと邪武の月餅を口に運ぶ。

「あう~巴さんが月餅食べた~」

邪武は目に涙を浮かべる。

「エルさん。この柿を練り込んだ月餅も持ってきて」

「そうか、柿か」

「なるほど!」

「そういわれれば」

巴の言葉にはたと膝をうつ三人。

「よく解ったねぇ」

「ん?ああ、ま、口の中に入れたものが何かぐらいは予想をつけないとな」

巴は、ある意味すごいことを平然と言ってのける。

「わたしは相模冴子」

「楠木巴だ」

冴子の差し出した手を巴は握りかえす。

「巴さん。これでよいですか?」

エルはカウンターの上に二本の一升瓶を置く。

「司牡丹に鷹正宗か。ローカルで渋いね~」

巴は右腕に邪武。左手に二本の一升瓶を持つとテーブルへと戻る。

「なんだかな~」

ケンスケは、ばたつくが一向にびくともしない邪武の姿を眺めながらお茶を啜る。

「ところでエルさん。キャナルに美味しいケーキの店が出来たの知ってます?」

沙耶香は月餅を切り分けていたフォークを小さく振りながら尋ねる。

「そうなんですか?」

「『み~な』って、東京にある喫茶店の暖簾分けのお店なんだけど、そこのセミスイートチョコのショートケーキが絶品なの」

「今度食べに行こうぜ」

男言葉とは逆に、冴子は艶っぽい目と声でエルの手をしっかりと握る。

「わ~い。ぼくもぼくも」

アルは無邪気にはしゃぐ。

「わかりました。都合がついたらメールいれますね」

「悪いねぇ。ま、誘ったのはこっちだし、こいつが奢るよ」

「ぶっ。俺の財布が財源なのか?」

ポンと冴子に肩を叩かれて、ケンスケは思わずお茶を吹き出してしまった。

ありがとうございます

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