表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
福岡ファイトれでぃ~ごう  作者: 那田野狐
第参章 決勝戦前
13/26

戦いの前 その2

福岡空港午後十二時ちょうど。日米ガイドラインですら認められていない光景がそこにあった。

「お、え?マジか?でも間違いない」

その機影を確認した男は、その豊富な軍事知識から、それが何かすぐにわかった。

「でもなんでこんなところにユーロファイター2000が?しかも複座だし」

男は信じられないといった顔でハンガーに進むその機体をもっていたデジタルカメラで激写する。

ここで解説すると、ユーロファイター2000とは、イギリス・ドイツ・イタリア・スペインで共同開発および運用されている最新鋭戦闘機で、航空ショーでもない限り極東アジアで不意に目撃されていい機体ではないのだ。

「無茶をする」

後部座席に座る紫の瞳、切れ長の目、長い黒髪の男が酸素マスクとヘルメットを取りながらぼそりとつぶやく。

「一刻も早くという注文だったからな」

操縦席の金髪碧眼の男も酸素マスクとヘルメットを脱いで答える。

「ようこそ。遥々イギリスから日本は福岡へ。サムソン=トーマス教官」

タラップの下から声がする。

「しばらく世話になるよ双武院二佐」

タラップを降りたサムは、猛禽類を連想させる鋭い目のスポーツ刈りの青年に軽く敬礼する。

「こちらの方は?」

「鼎です。三本足の鉄の釜のかなえです」

鼎は無愛想に答える。

「どうだ二佐。いや、輝久。彼と闘ってみないか?」

「なるほど。鼎氏はそっちの人間ですか。いいでしょうやりましょう」

双武院輝久は武人の微笑みを浮かべた。

剣道の道場といった感じのする総板張りの部屋。壁には見事な書体で『栄枯盛衰』と筆で書かれた杉の板がかかっている。

「日本語がうまいだけではないのですね。こんな字は平安末期の坊主でも書けはしませんよ」

鼎は杉の板の右端にサムのサインがしてあるのをみて感嘆する。

「お待たせしました」

白袴に着替えた双武院が部屋の奥から現れる。

「古武術?」

「薩摩志現流の流れを汲む技です」

「一刀必殺の示現流に組み打ち術があったとは」

「示すの示現流ではなく志の志現流です。流派的には古武術と琉球唐手の融合ですが」

双武院は鼎の間違いを指摘して苦笑いする。

「講釈はここまで。そろそろ技を見せてくれないか鼎?それが一文無しの君をイギリスから日本に運んだわたしの報酬なのだから」

『菊清正』なるラベルの貼ってある一升瓶を持ってサムは道場の上座に胡座を組んで座る。空港のときとは違いサムの両目は金髪に隠れている。

「なんだその酒は?」

それを見た鼎は不機嫌そうな顔をする。

「気にするな。飲みはしない。単なる小道具なのだから」

どうやらサムはこの手の仕合を見ることに、なにか恐ろしく間違った知識を仕入れているらしい。

「両者。礼」

掛け声と同時に双武院と鼎ともに頭を下げる。そして双武院は半身に鼎は拝むように構えをとる。

「チェストー」

掛け声一閃。さきに動いたのは双武院。一気に間合いを詰めて鼎の黒いベルト服の襟を掴みにいく。しかし鼎はわずかな動きで躱すと背後にまわり込むと、肘を双武院の後頭部に叩き込む。

双武院はこの攻撃をヒットした瞬間に打撃方向に飛ぶことで削ぐ。

「チェェェェ」

双武院は左足を軸に一回転して右足のハイキックを繰り出す。

「ふっ」

鼎はバックステップでこれを躱す。しかし双武院の攻撃はこれで止まらず、回転した勢いを利用して軸足にしていた左足でミドルキックを放つ。

「ほぉ。輝久の旋風脚を受けずに躱すか。しかし・・・ふむ」

サムは右手の親指の爪を噛みながら呟く。

「はぁいぃぃぃ」

双武院は一気に間合いを詰めると、次の瞬間にはバックステップ。また一気に間を詰める。

「なに?」

素人には見きれない動きだが、鼎には見切れる動きであった。だから、このフェイントは鼎の不意を突くのに十分であったらしく、動きが止った。

「志現の月影か」

「はっ」

双武院は鼎の右腕を取ると懐に飛び込み背負って投げた。

「衝撃を逃がせぬと解って投げるにまかせたかそれとも」

「はっ」

鼎はなんのダメージもなかったように立ち上がると、指を二本立てて手の甲を見せて笑う。

「欧州風の芸の細かい挑発だな」

「ちぇえぇぇぇい」

双武院が拳を振り上げる。

「はっ」

双武院の振り上げた拳をかいくぐるように躱すと、鼎は双武院の足を踏みつけてその場に固定すると、肩から体当たりを叩き込む。

「ぐはっ」

衝撃を逃がすことも出来ず、双武院の体がくの字になる。

「はぁぁぁぁぁ」

鼎はくの字になって位置の低くなった双武院の首に腕を回すと双武院を担ぎあげる。

「はっ」

鼎は担ぎ上げた双武院を頭から床へと叩き落す。

「よし。そこまでだ」

「いいのか?技はすべて見せてはいないぞ」

「かまわない。これ以上はお互いに本気となって、ただでは済まなくなる。ところで、いまの技に名前はあるのか」

「なぜそう思う?」

「動きがな・・・足さばきは、武道ではなく舞踊。しかも古流だろ?」

サムの指摘に鼎は軽く肩を上げる。

「『影穿つ工匠の釘』から変形の『国崩す太陽のつるぎ』への連続技だ」

「それが技の名前か。長いな。これでは技名を叫びながら決められないじゃないか」

サムの口調は相変わらず淡々としているので、いまの台詞が本気なのか冗談なのかわからない。

「失礼します」

静かに扉が開きひとりの男が入ってくると、上座に一礼。そしてサムの元に歩み寄ると数枚の紙と小さな鞄を手渡す。

「ありがとう」

紙を見たサムは男に礼をいう。

「鼎。きみの探している人物の足取りが掴めた。バトルファイターなる民間格闘大会に選手として参加するそうだ」

「本当か」

鼎はサムの差し出した紙をひったくるように受け取る。

「手伝ってやろうか?」

「やれるところまでやってみる」

「そうか・・・ならこれをもっていけ」

サムは鞄の中にあった携帯電話を鼎に投げる。

「使い方は解らないだろう?最後の紙に使い方が印刷してあるので覚えておけ」

「ひとつ聞いてもいいか?」

携帯電話を見つめながら鼎は呟く。

「なんだ?」

「ほとんど面識のないこの俺に、ここまでしてくれるのはなぜだ?」

「おもしろそうな匂いがするからだ」

サムは静かに笑う。

「そうか・・・なら、期待を裏切らないように努力する」

鼎は表情を変えることなく静かに答えた。


「チームこおろぎず決勝進出。まずは上々である」

黒いマントの男が機械特有の声で目の前の二人に力説する。

しかし異様な光景である。男の顔は人間のそれではなく、グリーンの容器に入った人間の脳と眼球のホルマリン標本という、初めて見たらその夜に必ず夢に出てきそうなものが鎮座しているのだ。

「絶対に優勝しましょう八郎さま。そして、ちゃんとした足にしてください」

膝下まである薄紫色の髪の少女がニコニコしながら黒いマントの男下足八郎を見る。

「いまから皮算用では先が思いやられるぞミカヅキ」

八郎は薄紫色の髪の少女ミカヅキをたしなめる。

「でも優勝する気はあるのでしょ?」

ミカヅキの隣にいた金色の短髪少女は、髪の毛と同じ色のしっぽをピョコピョコ動かしなから指摘する。

「エンゲツよ。そんな当然のことをいうでない。俺は早く脳と眼球だけの生活からおさらばしたいのだ」

八郎は眼球をキョロキョロと動かす。

「え~わたしの足は後回しなんですか?」

「当然である」

「あ~ん八郎さまってば横暴です。ぴ~」

「そーだ横暴だ」

ミカヅキとエンゲツが同時に騒ぎ始める。

「ミカもゲっちゃんも騒がしいですわ。上の人はちゃんと考えておられます」

八郎の声とは明らかに違う声がしたかと思うと、いきなりマントの下から足が飛び出して器用に左右に振る。

「だってシンちゃん」

半泣きの顔でミカヅキはマントの中の人物に話しかける。

「だって、ではありません。この議論は、優勝してからするものではないでしょうか?」

「そりゃあそうだけど・・・」

「ではこれ以上の論争は無駄だということです。よろしいですか?」

エンゲツもミカヅキも渋々頭を縦に振る。

「説得ご苦労。シンゲツ」

「上の人も少しは反省してくださいませ」

「俺はマッドな科学者である。詫びぬ。媚びぬ。省みぬ。常に野望に向かって邁進するのだ」

高笑いする八郎に三つのため息が重なった。

ありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ