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ブレッドブレイブ ―飼育勇者―  作者: 鳶飛踊
五章 闇より来たるもの(いやー さがしましたよ。)
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第28話

 ランプレヒトに協力させるのは、顔面に二発パンチを打ち込んだ時点であきらめた。

 俺に殴られても、ランプレヒトは逃げるの一点張りだ。まあ、しょうがねえ。ただの迷子なんか捜していられるか、というのが奴の本音だろう。いや、フィーネが重大な事件に巻き込まれたとしても、赤の他人なんかにかまっていられないだろう。せっかく手に入れた自由を手放すわけにはいかないのだ。

 俺もそう思う。

 ただの迷子だろ、俺だって、そう自分に言い訳して今すぐこの場から逃げ出したかった。けれど、もしこれが誘拐か何かだったら・・・・・・。そう考えると逃げるには後味の悪いものとなる。誘拐だというなら、その原因は俺がフィーネにやった首飾りである可能性が高い。つまり、原因は俺にあるのだから。

 保護部の連中がいつこの町にやってくるのかは、わからない。今がまさにその瞬間かもしれないし、明日になって到着するかもしれない。とにかく保護部がやってくるまでに、フィーネを捜し出す。

 もし、保護部の到着までにフィーネを見つけられなかったら、その時はすっぱりフィーネのことは諦める。リミットは、俺が保護部の存在を感知するまで、そう決めた。俺は保護部をその目で確認したら、その時の状況がどうであれ逃げ出すことにした。どのみち、保護部に見つかったのなら、問答無用で取り押さえられるんだ。フィーネの捜索を続けるのは結局できないことになる。

 「じゃあな」

 極力、恨みがましくならないようにあっさりとした感じで、俺はランプレヒトに別れを告げた。別にランプレヒトを気づかったわけじゃない。俺のプライドの問題だ。

 さすがに決まり悪いのか、ランプレヒトはうなずくだけだ。

 おっと、忘れるところだった。

 「言伝だけは頼むぞ」

 俺はランプレヒトに念を押すようにして、いった。

 「わかったよ、俺だって仲間意識はある」

 ランプレヒトは応えた。

 俺がランプレヒトに頼んだのはイレミアスへの言伝だった。ランプレヒトには、逃げる際には山の集落を通り、イレミアスに保護部が迫っていることを伝えてから逃げるよう、頼んだのだ。

 店を出た俺は、シルベルの鼻っ面に手ぬぐいを差し出した。フィーネが使っていたものだ。父親から借りてきたのだ。

 シルベルは一応、それらしくフンフンと匂いを嗅いでいる。

「よーし、わかったか。シルベル。フィーネはどこだ、フィーネを捜してくれ」

こいつの駄目犬ぶりは俺が一番よく知っている。だが、俺に当ては全くなかったし、めぼしい場所はすでに父親が捜索済みだ。シルベルだけが頼みの綱だった。

 犬に語りかけていると、何だか自分もえらく馬鹿になった気分だった。俺にとっては犬コロは犬コロ以外の何者でもない。畜生を家族の一員とか思える人間じゃないのだ、俺は。

 そんな気持ちを押し殺し、俺はシルベルに、フィーネだ、フィーネを捜すんだ、フィーーネ、と懸命に語りかけた。

 俺の気持ちが伝わったのか、それともただ単にこの場にいることに飽きたのか、シルベルは通りを歩き出した。

 シルベルの後を付いていくと、やがて町の広場に出た。

 あの変わった形状の建造物、天球儀がある広場だ。

 この野郎、ただ単に人の多いところに来ただけじゃないのか。俺はシルベルを見つめた。シルベルは誇らしげな顔で尻尾を振っている。

 この天球儀がある広場もすでに父親が捜索済みだ。だが、見落としがあるかもしれん。辺りにいる人間に聞き込みをした。

 子どもを見なかったか?

 垢抜けない田舎者のガキだよ?

 首に不釣合いな首飾りをつけたガキだ、見なかったか?

 何人かに聞いてみたが、答えは全て、いいえだった。

 俺は肩を落とした。気づくとシルベルもいなくなっていた。慌てて辺りを見渡すと、天球儀の方へ向かって、とことこ歩いている。あの馬鹿犬、立ち入り禁止のところに入り込んでやがる。

 舌打ちしながら、俺は立ち入り禁止の札が貼られたロープをまたいだ。


 待て、という俺の制止も聞かず、シルベルは天球儀に近づくと後ろへ回り込んだ。

 そして、そこでワンと吠えた。

 何だ、何かあるのか。

 天球儀の台座の後ろ側には、扉があった。

 扉が開いた。中から男があらわれた。白い服の男だ。

 男はびっくりしたような顔をして、俺を見つめた。どうやら、男がたまたま外へ出てきたところに俺は出くわしたようだ。

 「どなたですかな。ここは一般の方は立ち入り禁止ですよ」

 白服はいった。

 「いや〜、すいません。ちょっと犬が入ってしまって」

 俺は愛想笑いを浮かべた。

 「そうですか・・・・・・」

 白服がうなずいた瞬間、俺は拳を見舞った。

 声もなく白服の男は崩れ落ちた。

 俺には確信があったわけじゃない。この扉の先にはフィーネはいないかもしれない。だが、俺には他に思い当たるところもない。俺は扉を見つけた瞬間から、中を捜すと決めていた。

 思わず出てきた男をのしちまったが、まあいい、もし無関係で無実なら後で詫びるとしよう。

 他にも人はいるかもしれない。俺は気配を殺して、扉の中に入った。

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