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ブレッドブレイブ ―飼育勇者―  作者: 鳶飛踊
四章 穏やかな日々(おお! わたし の ともだち!)
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第25話

 村へ近づくと、犬のシルベルが一声吠えた。村の様子がおかしいことに気づいたのだ。

 無論、俺だって村がいつもと違う感じなのは気づいていた。村へ来るのは一週間ぶりだ。

 村は騒然としていた。近くにいた住人に話を聞く。

 村の近くを通る川に水死体が流れ着いた、という話だった。

 水死体?どこの間抜けだ。この辺りを流れる川は緩やかだ。水深だって浅い。

 俺は野次馬根性丸出しで水死体が引き上げられたという場所へ向かった。

 「すごい可哀相なの」

 現場に着いた俺をフィーネが出迎えた。フィーネは同情するような顔だった。

 フィーネが水死体の第一発見者だったのだ。しかも、フィーネは死体がまさに川を流れているところにでくわしたのだという。

 カワイソウ?土左衛門に可哀相もクソもあるのか、と俺は疑問に思った。

 「だって、川を流れながら、何度も大きい岩にぶつかっていたんだもの」

 フィーネは俺の疑問に答えた。

 流れにそって流れる水死体がそんなに岩に激突するなんてことあるのか。

 俺にはある予感があった。

 というかランプレヒトと再会した時からある種、予感はあったんだよな。

 水死体は先ほど引き上げられ、今は川岸に横たわっている。

 美しい男だった。肌は白く(いや、この状況なら誰でも白くなるか)髪は漆黒だ。

 水死体がぴくりと震えた。

 水死体は水死体ではなかった。

 まだ息があったのだ。

 そいつはようやく目を開け、俺を認めると、

 「やあ」

 といった。

 川から流れてきたのはイレミアスだった。


 イレミアスは俺に気づいた後、再び意識を失った。

 イレミアスは一命を取り留めていたとはいえ、危篤状態であることに変わりはなかった。

 俺は村の今は使われていない納屋にイレミアスを運ぶと、再び町へ向かった。勇者おれならば常人が半日かかるところも三十分で行ける。

 町へ行った目的はランプレヒトだ。俺はランプレヒトを連れて、村へ戻った。

 回復魔法がほとんど使えない俺とは違って、ランプレヒトは回復魔法に長けている。イレミアス自身も回復魔法は使えたが、意識のない今は無理だ。

 ランプレヒトの回復魔法もあって、イレミアスは一命を取り留めた。

 意識を取り戻したイレミアスは、ベッドかわりに敷き詰めた藁から起き上がった。

 俺とランプレヒトの顔をしばらく見つめてからいった。

 「ありがとう」

 俺たちは黙ってうなずいた。

 「・・・・・・それで、誰だっけ?」

 一瞬、絶句した俺たちだが、その後、イレミアスは冗談だよと悪戯っぽく笑った。ええい、おまえがいうと洒落にならん。

 「それにしても、君たちは結局、つるんでいるのかい。さすが、友達にしたくない部門の一位と二位だね」

 ほっとけ。

 俺はイレミアスにこれまでのことを手短に説明した。

 イレミアス自身は俺たちと別れた後は、文字通りのその日暮らしの風来坊だったらしい。

 腹が減れば、動物を狩るか、木の実を食べる。

 眠くなれば、そこらの草原にそのまま眠り込む、といった有様だったらしい。

 それ風来坊というか野生動物じゃねえか。いや、野生動物でもそこまで天衣無縫に生きてはいないか。

 何で溺れたのかは記憶にないということだ。イレミアスの病気はそれほど進行してもいなかったが、回復もしていなかったのだ。ただ、不運が訪れる回数は格段に減ったらしい。今回、溺れたことも含めて、この一年で死にかけたことは十回しかないそうだ。

 十回!それは少ない!

 一瞬、感心しかけた俺だが、これは俺の感覚がおかしくなってるんだよな。


 「そうだ、首飾り!首飾り、返せよ!」

 ひと段落した途端、ランプレヒトがわめき出した。

 「首飾り?ああ、あれか。返せってな何だよ。ありゃ毛皮の正当な代価だろう。それをまるで人が強引に奪ったみたいに」

 「取ったんだろうが!」

 ランプレヒトは憤慨していった。

 何でもランプレヒトの話では、俺があの首飾りを持ってた後、入れ違いでやって来た客があの首飾りを欲しがったんだそうな。その客はどうしても、首飾りが欲しかったらしい。ランプレヒトの店に来たのも偶然ではない。販売ルートを追って、あの店に入荷するのを知ってやってきたというのだ。

 「そんなお値打ちものだったのかよ」

 「そうだよ、だから返してくれよ。金貨二十枚出す」

 ほう気前いいな。この野郎、向こうからは金貨五十枚とか提示されたんだろ。いや、こいつのこすずるさから考えると百枚の可能性もあるな。

 「五十枚!それなら考える」

 俺はいった。

 「なあ・・・・・・フィーネ!」

 俺は向こうを通りがかったフィーネに同意を求めた。無論、俺たちの会話なんか聞こえてやしない。急に同意を求められ、フィーネはわけもわからずうなずいた。

 「そりゃねえだろ」

 ランプレヒトは渋っていたが、結局同意した。今回の売買で儲けがほとんどなくても、太客とのコネができるのは魅力的だったんだろう。

 だが、結局ランプレヒトにその場で首飾りを返すのは断念せざるを得なかった。

 フィーネが首飾りを離さなかったのだ。しまいには泣き出すフィーネに、俺もランプレヒトも困り果てた。

 取りあえず後々、時間をかけて説得するとしよう。何か、他のアクセサリーを代わりに渡してもいい。

 ランプレヒトは盛大なため息をついて、町へ帰っていった。

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