出会い
彼女は、自分がそうしたかったように、僕を動かした。
彼女は、悲しい人だった。
これは僕の、忘備録。
長いこと保護施設(彼女は"監獄"と呼んでいた)にいた、そう親がいなかったのだ。
それも親に見捨てられて、彼女は監獄にいた。
僕と彼女が出会ったのは監獄から出て次の年だった。
細々やっているレストラン、僕は社員、彼女はアルバイト。
初対面の僕にも、鋭い視線を浴びせた。
「成瀬 笑、19です。」
えみ。笑うと書いてえみ。誰がつけた名前なんだろう。
施設暮らしの長かったかわいそうな少女だから仲良くしてやってくれ、と店長は話していたが、同情するなと顔に書いてあるじゃないか。
「僕は社員の、葉山 司です。よろしくね。年は23で…趣味は空想。」
「空想?」
「自分にとって最高に楽しいことを想像するんだ。目一杯。ほら生きてても思い通りになることって少ないだろう、それの補完さ。悲しい趣味だけどね。」
誰にでもする説明を終えるといつものように僕は苦笑いした。悲しい趣味と先手を打つようになったのはいつからか。話せばみんながみんな同じ反応をしたせいだ。だが彼女は、
目を輝かせて、
ほっとしたように、笑んだ。
笑という名前がふさわしい、そんな言葉が頭をよぎった。
「私も空想は大好きです。死んでしまいたいときはいつも空想してた。」
それだけ言うとはっとしたように小さくすみませんと謝り、すぐに店長が彼女を読んだので話はそこで終わった。
死んでしまいたいとき、か…あれこれ詮索するわけにもいかないが、人生の辛さなんて僕よりよほどわかっているだろう。
彼女の笑みが焼き付いて離れない僕は、その辛さの少しでも分かち合えたら、と小さく願っていた。