■第34話 〜牛虚無羅との対決〜
咄嗟にミコトは病室に飛び込み、シンジの体に触れた。可能な限り早く祓いの詞を唱えようとした。
<こしゃくな!>
セイラを追っていた虚無羅は狙いを変えてミコトへと向かってくる。
ミコトもすばやく祓い詞を唱えた。同時にミコトの体にはポンポンが入り同化の準備は整っていた。
「もろもろのまがごと つみ けがれあらばはらえたまい きよめたまへともうすことを きこしめせとかしこみかしこみもうす」
唱え終わるのが一瞬早かったが、その刹那、牛が突進するように虚無羅は尖っている角をミコトの腹めがけて突進してきた。ミコトは咄嗟に虚無羅の額に右足を乗せたが、その勢いのまま、4階の窓ガラスを突き破って虚無羅もろとも病院の外に飛び出された。後ろが壁だったらそのままミコトは押しつぶされていたかもしれない。虚無羅の体は無機質なその壁をすり抜けていた。
「ミコトー。」
叫ぶセイラ。あっけにとられている403号室の人々。シンジも目を覚まし、その瞳はあまりにも不思議な光景に暫く開いたままであった。隣に座っていたシンジの母親は、
「今の、ミコト君よねえ・・・。」
と言い、看病の疲れや気苦労がたまっていたためか、その場で気を失ってしまった。
虚無羅の角はクロスさせたミコトの左腕に刺さっていたが、自ら後ろへ跳んだ反動で勢いが弱まり、貫いてはいない。(痛え!)叫びそうになったその言葉を押さえ、第一優先事項であるポンポンとの同化を叶える詞を具に口にした。
「オン コロコロ ブラフマー ソワカ」
輝く青色の光がミコトの体を覆い、ポンポンとの同化が完了した。
右足に力を入れ虚無羅の額を蹴り上げるミコト。(痛えんだよ!!)刺さっていた角を抜き去り、空気の壁を蹴って虚無羅よりも前方に進むミコト。こうもりのような羽をばたつかせてミコトへと襲い掛かる虚無羅。
窓枠から身を乗り出していた緑色の目の少女は、その一瞬の光景を眼にし、また自分も4階の窓から勢いよく飛び降りた。セイラの体にリリィが入り込み、全体が一瞬緑色の光に包まれた。
「オン コロコロ マカリシエイ ソワカ 森よその恵みの神々よ われに力を与え給え。」
南病棟から飛び降りた先には芝生とその周りに植えられたポプラの木が等間隔ごとに立っていた。一本のポプラの木がセイラのところまでつるをのばすと、セイラも紳士に手を差し伸べられたかのようにそのつるに手を添え、そのままふっと持ち上げられる勢いでポプラのつるに腰を掛け、つるは幹の方へと移動した。セイラはおよそ100メートルほど北側の上空に見えるミコトと虚無羅へ目をやった。
ミコトは風の使い方が昨日よりも数段うまくなっていた。足に風をまとい、蹴り上げる風圧を利用して一気に向きを代えたり、流れる風を集めて虚無羅に投げつけたりしている。昨日のように一気にマナの力を使う方法は、その後気を失ってしまった経験から危険だと感じていたのだ。
しかし、この虚無羅はやはり昨日までの虚無羅とは格が違っっていた。虚無羅はミコトの作り上げた風の塊を太い腕ではじいた。その風は病院の壁へとぶつかり、壁は白い煙を上げながら、がりがりという音と共に削られるのであった。
もうちょっといいタイトルがあるだろと突っ込みたいのですが、これ以上いいタイトルを考え付かない情けない作者です。牛虚無羅との戦いが始まりました。前回のトカゲ虚無羅より少しでもよい描写ができればと思います。
★筆者コーナー★
エヴァンゲリオンのシンジ育成計画という別冊を読みました。(別冊なのか・・・?)なんか雰囲気がラブコメ的でしたけど、個人的には嫌いじゃありません。




