■第27話 〜長かった一日の終わり〜
セイラを家へ送り届け、セイラの母親にまであいさつをしたミコト。いやな気持ちはしていなかった。時計はすでに夜の11時を回っている。(こんな遅くに帰ってきたことなんてないぞ・・・。)ドアノブに手を掛け、少しの間硬直するミコト。その時、玄関の明かりが付き、ドアが押し開けられた。正面にはミコトの母親と妹が目を見開いて立っている。
「よかったー。お兄ちゃん。生きてるじゃない。心配したんだから。」
「・・・ああ、ごめん。」
「わけは後で聞くわ。まずは中に入りなさい。」
運のよいことに今日は金曜日だ。明日、明後日と早起きをしなくてすむ。(まず初めにシャワーを浴びよう。)家に帰って緊張の糸が取れたのだろう、体中にたまった疲労が出てきた。ソファにでも座ったら1分と持たず寝てしまっていただろう。
シャワーの蛇口をひねる。熱い湯が左腕の2本の傷にしみる。血痕のついた白い制服はバッグに入れ、Tシャツ姿で帰ってきていた。おそらく母親も違和感を覚えたのだろう。ミコトがシャワーから出てくるのをじっとテレビのある部屋で待っている。
「チサ、もう寝なさい。」
「…うん。そうする。本当は、チサもどうしてお兄ちゃんがこんなに遅くなったか知りたいけど…。」
「そうね。きっと明日教えてくれると思うわ。」
「お兄ちゃん、ついに彼女ができたのかなあ?」
「どうかしら?…何かちょっと違う雰囲気だったわ。」
そんな会話をされているとは知らないミコトは、ばつの悪そうな顔をして居間に入ってきた。
「ええっと…。今日は、まず、遅くなってごめん。」
「なぜこんなに遅くなったの?」
ミコトはウソをつく癖があった。いや、癖と言うよりも反射的に口から出てしまうのだ。相手に本当のことを知られたくない。きっと知ってしまうと迷惑がかかるという思いが浮かぶのだろう。
「この前友達に貸した参考書、今日どうしても返してほしかったから、電車でそいつん家に行って、…。」
(違う。本当のことを話さないと…。言うって決めてたろ。)ふと頭にセイラとの会話がよみがえった。(「きっと家族の守り神もいいように導いてくれるわ。」…そうだ。言ってみよう。)
「いや、違うんだ。本当は、…言っても、信じられないかもしれないけど…。」
ミコトは母親と妹に、昨日おきた出来事と、今日あった出来事を伝えた。初めは二人とも半信半疑であった。しかし、彼女たちの疑惑を一瞬にして晴らしたのは、やはりポンポンとの同化だった。庭に出て周囲に人気がないことを確認したミコトは、屋根の高さまで飛んで見せた。妹は無邪気に羨望の眼差しで見ている。
「お兄ちゃんすごーい。いつでもできるの?わたしにもそういうことできるといいな〜。不思議…お兄ちゃんがそんなことできるなんて。」
「自分でも信じられないさ。今でも夢かと思う。」
ミコトの目には神に祈っているような母親の姿が目に入った。
「…ミコト。あなたがそんなに立派な使命を与えられたのは、私も嬉しく感じるわ。…でも、今日の傷。虚無というものにつけられた傷なのでしょう?」
「…ああ。」
「これだけは誓って。…絶対に無理しないでね。」
「…分かってる。」
「それと、私たちに、どれだけ迷惑がかかってもいいから、協力できることがあれば言いなさい。」
「…ありがとう。」
ミコトは家族に今までのいきさつを話したことを本当によかったと思っていた。ふと二人を見ると、何か光のようなものが二人の体を覆い、点滅しているように見える。
(そうか、あれが二人の守り神なんだ…。)
「ただいま。」
玄関のベルが鳴る。ミコトの父が帰ってきた。
「お帰りなさい。」
「お帰り。」
「おっ、めずらしい、3人そろってこんな時間まで起きてるのか。」
「ええ。今日はちょっと事情があってね。あなた、少し大事な話があるの。ミコト、チサ、もう疲れたと思うからもう寝なさい。」
時計は夜の1時を回っていた。
(ふー、長い一日だった。でも、いい日だったよな…。母さん、チサ、ポンポン、サンキュー。)
ミコトは布団に入り、目を閉じた。布団に入るとポンポンに守られているという温かさを感じながら、10秒で眠りについた。
ここまで読んで下さり、本当にありがとうございました。次回からは、サトミ(覚えていますか?)の自殺を引き起こした張本人が出てきます。
何でも虚無羅のせいにすればいいというものでもありませんが、人の影の部分は、本人以外の何かの力が働いているという考え方もありかなと思います。
とにかく、ここまで読んでくださってありがとうございます。一応、作者の中では、一区切りついたという感じです。よかったよかった。
★筆者コーナー★
お勧め曲
バンプオブチキン「ハンマーソングと痛みの塔」なんてどうですか?
どんどん強くもっと強くという歌詞が忘れられません。




