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新世界  作者: 北極星11
23/39

■第23話 〜夕刻の戦い〜

「きゃあ〜。」

 学校へ着いた二人が真っ先に聞いたものは、女子生徒の悲鳴であった。もうすでにほとんどの生徒がそれぞれの家へ帰っている時間だ。こんな時間までいるのは生徒会の実行委員か、よほど部活の好きな連中か、もしくは学校の隅でたむろしている不良たちだ。

「どうしたんだ。」

 女子生徒は二人。肩を並べておびえながら走っていく。その先には二人の男子生徒がいる。暗闇でよく見えなかったが、明らかに異変を視てとることができた。その二人は黒い影で覆われている。

「やばいわね。」

 セイラの顔つきが変わる。

「どういうこと?」

虚無羅きょむらが人の心を支配しているの。」

 確かに二人はまるであぶない薬の中毒者のようによだれをたらし、目がどこを向いているか分からない状態だ。先ほどの女子生徒はきっとこの二人の姿を見て悲鳴をあげたに違いない。虚無羅に心と体を奪われた生徒は、こちらの存在に気がついた様子だ。初めはゆっくりと体を動かし、その次に走る姿勢となりセイラとミコトをめがけてくる。

「とにかく、テニスコートのあるところまで逃げましょう。」

「OK」

 体の痛みはまだ取れていない。しかし走れるくらいにはなっていた。グラウンドを通り越し、さらにサッカー場を過ぎたところにテニスコートがあった。学校でも一番人目につきにくい場所だ。この時間なら誰もいない。

 逃げている間にもセイラはリリィと、ミコトはポンポンと同化をしていた。

「オン コロコロ マカリシエイ ソワカ。」「オン コロコロ ブラフマー ソワカ。」

 ミコトとセイラは追ってきた不良生徒二人と退治した。

「で、どうすればいい?」

「さっきと同じようにするしかないわ。体に触れて祓詞を唱えるの。」

「わかった。」

 ミコトの動きはポンポンと同化したことで数倍早くなっていた。(体が風のようだ。)

地面を蹴りながらあっという間に不良の一方にふれる。髪が長く茶色に染め上げ、右の耳にはピアスをつけている方だ。その横にはニットボウを深くかぶり金のネックレスしているやつがいる。ただし二人とも本人の意識は無いことが良く分かる。よだれをたらし、まるでを薬中の男のようだった。

(何だこれは。)

ピアスの男に触ったミコトは一瞬で違和感を覚えた。皮膚が妙に硬い。次の瞬間、左腕に鋭い痛みを覚えた。まるで鋭いつめで引っかかれたような傷跡が二本、その腕には付けられていた。

「くうう…。」

痛みをこらえ、ニット帽の男の腹に少し強めにけりを入れた。ニット帽の男は5mほど先に倒れこむ。そのとき、コートを囲むように植えられているイチョウの木がゆっくりと伸び、ニット帽の男の足と手を絡めた。その隙にセイラはニット帽の男にふれ、祓詞はらいことばを唱えた。

「‘もろもろのまがごと、つみ、けがれあらば はらえたまい きよめたまへと もうすことを きこしめせと かしこみかしこみ もうす’」

 ミコトも握っている手を離さず、ピアスの男のあごに掌底しょうていを食らわせ、そのまま相手を倒し、腕の関節を決め相手が起き上がれないようにしているはずだった。

しかし、ボキッと鈍い音を響かせピアスの男は自分の腕を省みず体をじらせてきた。腕を折った感覚に罪悪感を覚えたため、ミコトの反応が若干遅れてしまった。

ピアスの男は折れていない腕でミコトの横っ腹を殴る。ドフッという鈍い音と共に、ミコトはその場に嘔吐した。

(なろっ。)ミコトはその場を蹴って今度は10mほど高い位置まで跳んだ。相手はどうやら飛べないようだ。しかし、しばらくすれば地上へ戻ってしまう。ミコトは風の力をその右手に宿した。 

「気をつけて。」

 すかさず状況に気付いたセイラが声をかけた。

「大丈夫。手加減する。」

 そう。手加減をしなければならない。相手は生身の人間なのだから。ただ、非常に硬いその体から、生身というだけでは表せない何かを感じていた。


ミコトが跳べるって便利ですね。

風は攻撃専用の力なので、ちょっと強めの設定です。

そのうち飛べる虚無羅も登場予定です。

戦いもいよいよ佳境です。続きも是非見てください。

★筆者コーナー★

むかし「マインドアサシン」という漫画がありましたが、知っていますか?

かずはじめ氏の作品です。主人公がクールでかっこよくて、ちょっと医者にもあこがれました。いまでも何かの作品を手がけていると思います。

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