■第17話 〜初仕事〜
セイラがトカゲ虚無羅の近くでなにか不思議な詞を唱えると、その黒く禍々(まがまが)しい物体は鋭い眼光でセイラをにらみつけた。まるで目の前の餌をとられた獣のように、セイラに向かって走り出した。遠くから見えたおよそ小さな虚無羅であるが、幾分か実態が大きくなっているようにも見える。駅のほうへ向かう不良男とは別に、セイラはひっそりとたたずむ神社のほうへと駆け込んでいった。それを追っていく黒いトカゲ。体長は50cmほどだろうか。頭には目が三つあり角のようなものが3本生えている。アンコウのように大きな口に鋭い牙。(おいおい、あんなのだったか?聞いてないぞ…。)うっすら冷や汗が流れるのを感じた。
「ミコト、お願い。」
一瞬、何をすればよいか忘れてしまいそうだった。あのトカゲの様子に少し引いてしまった自分がいる。(ちっ、だてに幽○白書は読んでないって。)
黒い影は細い糸のようなものを本人に残している。(きっとこいつがまだトカゲが不良生徒に憑いている証拠だな。)
「ええいっ」
そう言って、走りこんだミコトは前にいた不良生徒に両腕を回して抱え込んだ。ただ、その様子は後ろから抱きつきに行ったようにしか見えない。
「なっ、なんだお前っ!」
滅茶苦茶におどろいている不良生徒は、あたりまえだがミコトを振り払おうとする。
「気持ち悪いんだよっ!」
相手も必死だ。全力で振り払おうとする。
「‘もろもろのまがごと、つみ、けがれあらむをば はらえたまい きよめたまへと もうすことを きこしめせと かしこみかしこみ もうす’」
次の瞬間、男とトカゲを結んでいた黒い糸は一瞬光り、パッと消えた。スマートな方法ではなかったが、ミコトの選んだ抱きつくという方法は、‘相手に触れながら祓詞を言わなければいけない’という条件の下では案外有効であった。もし一瞬でも離れてしまえば、その詞は力を無くしてしまうのである。
(よし、次はトカゲの浄化だ。)
「なんだよてめえは!」
‘がこっ’と鈍い音がした。顔面をなぐられたのだ。(しまった、気を抜いた。)鼻が熱くなり、血がたれている。
「っきしょー、お前のためなだっつうのに。」
悔しさ紛れに相手の腹にけりをいれ、口を押さえてミコトも神社へと駆け込んだ。
(くっ、あいつ、追ってくるか?)
運のいいことに、蹴られざまに倒れこんでしまった不良生徒は、ふだんなら追ってやり返さないと収まらない怒りの矛先をなんとか収め、いつもは感じられないすがすがしさに不思議を覚えていた。追う気にならなかったのだ。
「ちっ、いきなり仕掛けてきたのはてめえだろ。」
そう言うと、すっと立って駅のほうへ向かっていった。
「なんでだろう?今までの重苦しい気持ちがどっかへ行ったみたいだ。」
次はセイラの力です。
個人的には、これからが面白いと勝手に思っています。
どうぞ。
★筆者コーナー★
好きな漫画というより、どうしても続きが気になってしまうのは、富樫氏の「ゆうゆうはくしょ」とか、「はんたーはんたー」とかですね。
個人的には、残酷な描写はどうかと思うときもありますが、あの思考や世界観やキャラクターの魅力はすごいですよね。




