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5.決闘に立ち会った。

異世界にわたって、はや数か月。


主人公もそこそこ、冒険者らしくなってきた。



「慣れないけどね。慣れたら、終わりな気がするけどね」



ちょっと遠いまなざしでつぶやく。


引き受けたのは、簡単な依頼だったのだ。原田を追いかけまわしたり、麦倉のコンサート会場状態をぶっちぎったり、そういう仕事ではない。単なる街道整備。街道の石畳を整えたり、伸びてきた雑草を刈り取ったりする、地味~な仕事だった。


その地味な仕事が、心に安らぎをくれた。何を言っているのかわからないかもしれないが、異世界カルチャーの、予想を斜め上に(あるいは斜め下に)裏切る独特さは、主人公にとってショックがありすぎた。そりゃもう、日々の暮らしの中で、心が疲れ果てる結果になりそうな感じだった。



「雑草を抜くだけの仕事って、平和だなあ……」



当たり前な出来事が、ただ続く。日常って、スバラシイ。


ぶちっ、ぶちっと雑草を抜き、崩れかけている石畳の石を調べ、補強したり、割れた石を取り替えたりしながら、主人公は心穏やかに過ごしていた。


さっきまでは。




「そこになおれ! わが誇りを傷つけるとは」


「はっ!誇りが聞いて呆れる。騎士を名乗るもおこがましい、惰弱な奴めが!」




うん。できるだけ、目をそらすようにしていたんだけれど。



「許さんっ! 決闘を申し込む!」


「受けて立つ!」



いま。見事な筋肉をムキムキと身に着けた、二人の騎士らしき人物が。絶賛、決闘の申し込み中です。主人公の目の前で。



「旦那様!」


「あああ、どうすれば」



従者らしき人々が、青ざめておろおろしている。



「立会人は誰にすれば」



そこかい。



「どーすべ。あれ」




一緒に雑草を抜いていた、地元の若者もおろおろしている。




「そこな若者ぉっ!」



現実逃避していたら、騎士の片っ方がこちらに目を向けた。あ、やば。目があっちゃったよ、と主人公は思った。



「えー、なんでしょう」


「われら、いまより、騎士の誇りをかけて決闘を行うっ。ついては、貴殿に立会人をお願いしたいっ」



面倒ごとだー。ってか、なぜこっちに振る。




「あー。えと、原因は何なんでしょう。その、話し合いなどで穏便に済ませるってことは」



やだなー、逃げたいなー、と思いつつ、最後のあがきで原因を尋ねてみる。



「それはまかりならんっ」


「できるはずがないっ」



でも、お二人は頭に血が上っている様子。



「次の王には、第一王子が相応しいっ」


「何を言われる。第一王女こそが、次代の王だっ」


「はっ。王女など、王子のりりしさにくらべたら」


「王女の聡明さを御存じないのかっ」



真っ赤な顔になって、再び口論を始める。今にもつかみ合いを始めそうだ。



「「決闘だっ」」



そうして、結局こうなる。あー……。




***




二人の騎士は、どちらも若い顔をしていた。しかし、騎士らしく、しっかりと鍛えられた体つきをしていた。


立会人に指名された主人公は、二人に最後の意志確認をした。



「それでは、えー。お二人に最後の確認を。騎士の誇りにかけての決闘を、この場で行う。どちらが勝っても負けても、遺恨は残さない。これでよろしいですね!」


「うむ」


「もちろん」



うなずく二人に、主人公は指示を出した。



「では、両者、並んで。それぞれの従者に、相手の武器の確認をさせてください」



二人の従者が、相手の持つ武器の確認をする。



「問題ありません」


「こちらも、問題ありません」



従者たちは、相手の騎士の武器を確認すると、すぐにそう報告した。



「それでは、宣誓を」


「うむ。われ、王子派騎士たる名と立場にかけて、正々堂々と戦うことをここに宣誓する。勝利した場合は相手への敬意をこめて、それ以上の暴言は吐かぬ。負けた場合も、遺恨は残さぬ」


「われ、王女派騎士も同様に、宣誓する。正々堂々と戦い、勝利した場合も、敗北した場合も、遺恨は残さず、相手を貶めることはしない」


「よろしい。立会人はわたし、旅の途中の冒険者が行います。わたしは審判として、決闘の結末を見届け、それぞれの家の者に正当な戦いであったことを伝えることを約束します。


なお、この決闘に何らかの問題が起きた場合、わたしには決闘を中止させる権限があります。その場合には、何があっても従っていただきます。よろしいか」



「うむ」


「よかろう」



「では、背を向けあって立ってください。互いに、十歩ずつ離れて」




主人公の言葉に、二人の騎士は従った。



「向き合って。かまえ!」




くるりと向き合い、互いをにらみつける。そして彼らは、それぞれの武器に手をかけた。



王子派騎士は、腰にぶらさげた、


王女派騎士は、背中に背負った、















剣崎に。













「がんばれ。剣崎」




ぶらーん、と腰にぶら下がっていたり、おんぶお化けのように背中に張り付いている剣崎に、主人公は生ぬるいまなざしを向けた。



ぶうんん! と剣崎を振り回す騎士たちは、成人男性をぶら下げたり、背負ったりして歩き、走りまわるだけあって、素晴らしく筋肉がムキムキだ。何でも子どものころから、背負って特訓とかしているらしい。そりゃー、ムキムキにもなるよなあー。




「うおりゃあああああ」



「どおりゃああああああ」



雄たけびと共に、振り回される剣崎。悲鳴らしきものを上げている。気の毒すぎる。




「うおりゃああああああああ~っ」





そして、剣崎同士を振り回したあと、騎士たちは、目が回って気持ち悪くなった挙句、吐きそうになった剣崎同士に、ジャンケンをさせた。青ざめてフラフラ、涙目の剣崎同士がジャンケンしている。


異世界の決闘って、平和なんだかひどいんだか、良くわからない。









戦争になったら、すごい光景が展開されると思う。



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