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4.農家を手伝ってみた。

四話目でございます。



***



トリップをして以来、異世界をさまよう主人公。本日は、農村地帯に来ていた。ギルドで受けた仕事が、



「農作業の手伝い」



だったのである。


人手が足りなくなると、ギルドに募集がかかるらしい。働いている間は一応、寝泊まりする場所が提供され、食事も出してもらえる。駆け出し冒険者には、そこそこ美味しい仕事である。



「そう思っていた時期が、わたしにもありました……」



主人公は、遠いまなざしになった。



「おお? どうしたんだ。辛気臭い顔になって」


「いやあの、いろいろと、心の準備がですね? してはいたのですが、間に合わないと言うか、何と言うか」


「はー。良くわからんな」



案内をしてくれた村の若者が言った。人の好さそうな、素朴な青年だ。



「そんなことより、作業をがんばってくれや。


今年は豊作でなあ。収穫が大変なんだ。見てくれ、この畑を。


すばらしい、






麦嶋だろう」










麦嶋。









「麦倉や麦田もいるぞ!」


「うん、相も変わらず、良くわからん異世界カルチャー。でも、土田とか、畑山とか、田中とかじゃなかっただけ、良かったんだろうか。


足で踏んで固めたり、クワや鋤で掘り返したりしろって言われたら、いろいろとメンタルにダメージくるよね。


こんなこと言っている時点で、自分が異世界に馴染んできた気がする。馴染みたくなかったが」



ぼそぼそつぶやく主人公。


土田を足で踏んで固めたり、畑山や田中を掘り返したりすることになったら、絶対、泣いていた。流血沙汰じゃん。流血沙汰になっちゃうじゃん。



「何を言っているんだ?」


「いや、こっちの話。で、麦嶋、麦倉、麦田さんは、畑で何をしているのかな」


「豊作だって言っただろうが。良く肥え太っていて立派だろう!」


「太っているんですか」




ぶくぶく肥え太っているらしい。




「手間暇かけて育てた、麦嶋、麦倉、麦田が、一面にぎっしりと畑にある、この姿。感動するよ」


「一面に、ぎっしりといるんですか」




ぎゅうぎゅう詰め状態で、立ち並んでいるらしい。




「みっしりと詰まった体を天に向けるようにして、風に揺られている姿。素晴らしいよね」


「一斉に揺れるんですか」



なにそれ、コンサート会場? 



「毎年、これを見るたび、生きていてよかったって思うんだ……農民の、まあ、誇りみたいなもんを感じてさあ」


「良い話になりそうなセリフなんだけど、異世界すぎてちょっと怖い」




見渡した村のあちこちで、畑一面にぎっしりと立ち尽くす、ぶくぶくと肥え太った麦嶋、麦倉、麦田さんたち。


風が吹くたびに、一斉に揺れる。


汗と熱気を、周囲に放ちながら。一糸乱れぬ動きで揺れる。一心不乱な様子で揺れる。


右に左に。右に左に。


あれか。新手のダイエットか。




「異世界すぎて、カルチャーがショック」



そうして、農作業って、これどうするの。



「じゃあ、これで頼むな!」



渡された鎌を、主人公は見つめた。刈るの? これで刈り取るの? 何を?



ぼんやり立ち尽くしていると、案内をしてくれていた素朴な、人の好さそうだった農村の若者が豹変した。




「オリャアアア~~~~ッ!」



雄たけびをあげると、畑に駆け込み。




ざっくり。




ぎっしり、みっしり、並んでいる、麦嶋さん(推定)たちの隙間に、鎌を突き立てた。ってか、誰が麦田で、誰が麦倉なのかわからない。なのでとりあえず、麦島さん(推定)。




ぴょんこ。




びっくりしたのか、飛び上がる麦嶋さん(推定)。意外と敏捷だ。鎌を避けてささっと左右に分かれる。


その間も風が吹くたび、右に左に揺れているが。


しかし若者は、逃がそうとはしなかった。




「どりゃあああああああ~っ!」



がしっとつかんだかと思うと、巴投げ。麦嶋さん(推定)の太った体から、汗がきらきらと飛び散り、宙に散った。






ずしーん。





地面にたたきつけられた麦嶋さん(推定)に、若者は素早く縄をかけた。




「よし、収穫~!」


「え、これが収穫? って、鎌になんの意味があったの!?」


「刃物で脅さないと、土から足を出さないんだよ、麦嶋は。こうでもしないと、お互いにみっしり身を寄せ合って、畑から取り出せない」




スクラムを組んで揺れ、畑から連れ出そうとすると抵抗する、麦嶋、麦倉、麦田たち。




「何かの友情……?」




そう呟いているうちに、若者はまたもや、雄たけびをあげて鎌をざっくり土に突き刺した。麦倉さん(推定)たちの間を引き裂いて。


怯える麦嶋さん(推定)を、手早く放り投げ、縄でふんじばってゆく。おそろしく手際が良い。


悲痛な顔でスクラムを組み続ける麦嶋さん(推定)。頓着せずに鎌で無理やり引き裂く若者。なんだろう。やっていることが悪役めいている気が。



「あの、それで、つかまえた麦嶋はどうするんですか」


「刈り取るさ!」



良い笑顔で答えられ、主人公は青ざめた。そこへ、若者の妹らしき素朴な雰囲気の女性が走り寄ってきて、







バリカンでざくざく、麦嶋さん(推定)の頭の毛を刈り取った。






憐れ、麦嶋さん(推定)は坊主頭に。



「良く実っているよ~! 今年も美味しいパンが焼けるね~」


「この世界のパンの材料って……」


「麦嶋や麦倉、麦田に決まってるじゃないか」



若者に言われて、主人公はさらに青ざめた。今まで食べてきたパンを思い出して。あれの材料がこれなのか。畑にみっしり詰まって、一斉に揺れる、彼らの、




「考えるな。考えたら負けだ」




異世界だから。ここは異世界だから!


涙目になりながら、主人公は思った。けっこう美味しかったのだ、この世界のパン。でも今後は、ちょっと食べるのを控えめにしようかなー。



「あ、あの、それで、刈り取ったあとの麦嶋はどうするんですか」


「乾かした後、牛や羊のとこに持っていくよ」



はむはむされ、よだれまみれにされるらしい。


土から出たがらなかったはずだよ、麦嶋さんたち!



「異世界が今日も絶好調……」



次々と捕獲され、坊主頭にされる麦嶋、麦倉、麦田たち。すまないと一言呟いてから、


主人公は、鎌を握りなおした。






***



でも体力がなさすぎて、麦嶋を投げ飛ばすことができなかったり。


なお、収穫した麦嶋の髪を石うすで挽くと、小麦粉ができます。怖すぎる、異世界。


そして、田んぼにみっしり詰まった米田さんや、米蔵さんたちは、頭を垂れてヘッドバンキングをします。


2016年12月30日、改定


※麦倉さんたちが頭を垂れてヘッドバンキングしている描写を、麦らしく、上向いている描写に変えました。


頭を垂れるのは、稲だったよ。ヘッドバンキングするのもだから、米田さんたち。







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