2.叡智の塔にやって来た。
「一文字入ってしまったがために、別の話になってしまった話」ぱーとつー。
***
「ここが、異世界の図書館……」
叡智の塔と呼ばれる場所に来た、主人公。突然の異世界トリップに混乱したものの、どうにか適応。
しかし元の世界に帰れるかもしれない、とのわずかな望みをかけて、世界の知識を集めたこの場所へやってきた。
「初めての方ですか」
カウンターにいる、司書らしき女性の前に立つと、注意をされる。
「ここは、世界の知識を集めた場所。知識の探究者には広く門戸を開いています。しかし、ここにある知識はどれも、貴重なものばかり。
中では騒がず、静かに。そして、
本田を乱暴に扱わないでください」
本田。
「本田、……ですか」
「本田、です。ここには、たくさんの本田を集めているので」
たくさんの本田が、集められているらしい。
「集めているのですか」
「集められた本田は、順次ラベリングされて、棚に並べられます」
シールを貼られて、次々に棚に押し込められるらしい。
「乱暴に扱うかたも、おられるのですか」
「たまに、マナーの悪い方が来られて、本田にラクガキをしたり、端に変なクセをつけたり、いろいろされます。ひどい場合は切り取られたりしますね」
本田は、ラクガキをされたり、変なクセをつけられたりするらしい。切り取られるって、どこを? 髪の毛? ツメ?
やってきた人に、髪やらツメやら切り取られて持ち帰られる本田。
いろんな意味で怖い。
「かっ、かわいそうですね、本田」
「ありがとうございます。この塔にいる者は全員、心から本田を愛しています。利用される方にも、本田を愛する方が増えると良いのですが」
司書の女性は、本田の素晴らしさについて、熱弁をふるった。本田は素晴らしい。本田は愛されるべきだ。わたしは、毎日、本田をさわったり、ほこりをはらったり、なでたり、すりすりしたりしている。
「え、なでるんですか」
「もちろんです」
「すりすりするんですか」
「もちろんです」
それってセクハラではなかろうか。
「古びた本田のにおいを嗅ぐと、心が癒されるのです……」
司書の女性は、恍惚とした表情で言った。
「古びた……え、加齢臭?」
「良いですよね、本田の臭い」
すると隣の席から、声がかけられた。司書の女性の同僚らしい男性の発言だった。
「古びた本田の醸し出す、重厚な雰囲気。そして手触り。傷まないようにていねいに扱っても、時を経た本田は、独特の臭いを発するようになる……」
「ええ、歳月を思い起こさせるあの臭い」
だからそれ、加齢臭。
「もっと人々に愛されるべきですよ、本田は」
二人して、本田への愛を語り始める。
「ああ、本田」
「すばらしい本田」
「愛すべき本田」
司書のみなさんの声を聞きながら、主人公は叡智の塔を後にした。本田への愛に満ち溢れた塔は、怪しい宗教団体のようだった。
セクハラされた挙句にくんくん嗅がれる本田はたぶん、涙目だ。
***
図書館と本というありふれた組み合わせだったはずなのに、「田」が入ってしまったがために、えらいことに。
ちなみに、HONDAと英語で言った場合、メイド・イン・日本のオートバイのことをさします。
「カワサキのホンダはあるか?」
「ホンダのホンダならあるよ」
という会話が、まじめにされているらしいです。豆知識でした。
図書館に行ったら、言ってみよう。
「なんてたくさんの本田!」
その日一日、朗らかに過ごせると思います。