1.転移した。
夜中のテンションでできた話。
活動報告にちょっと載せてみた、一発芸みたいなネタ。ストレス発散の小話です。
異世界トリップ系のテンプレな物語に、一文字が入ってしまっただけで、なんだか違う話になっちゃうな、という。
ぱーとわん。
***
異世界トリップ。
突然、目の前の景色が変わる。ひどい船酔いにも似ためまいに主人公は、大地に膝をついた。
体も、頭も、ぐにゃぐにゃだ。なにかにシェイクされたかのようだ。目が回る。
気持ち悪い。ひたすら気持ち悪い。
ぶちきれたみたいにゲーゲー吐いた。地面にひっくり返ると、空には二つの月があった。
テンプレである。
主人公がいたのは、泉の傍。ちょっとした林の中だった。そこには壊れた遺跡らしき、白い石が転がっている。
これもテンプレである。
木立の合間から、空が見える。目に染みるような青。そこに、昼間の白い月が二つ、ぼんやりと浮かんでいた。
「異世界じゃん」
くらくらする頭をなだめ、起き上がる主人公。足が震えて立ち上がれない。つんのめって、べしゃりとこけた。体を支えようとしたら、腕の筋肉もぷるぷる震えていた。
「どうして、こんなところに。帰れるの、わたし」
このセリフもテンプレ。
「召喚。事故。誘拐。異世界トリップにはいろいろあるけど。どの理由……?
あーでも、迎えに来てくれる人がいないところを見ると、事故っぽいなあ……」
主人公はため息をついた。
そういうわけで、堂々たるテンプレ異世界トリップものとして、この物語は始まった。
***
林を抜けた主人公は、道らしきものを見つけた。歩いていると、煙が上がっているのが見えた。
そっちに向かって歩き出す。
そして、進んだ先に見えたもの。
広がる大地。そこに上がる炎と煙。
泣き叫びながら、逃げまどう村人たち。
オラオラと叫びながら、村人を追い回す盗賊の集団。
そう、盗賊の集団が、
木村をおそっていた。
「え、なぜに木村」
主人公は、ぱかりと口を開けた。誰なんだ、木村。そして襲われているのか、盗賊に。
逃げ惑う村人たちが、泣きながら叫ぶ。
村人A「なんてことだっ、俺たちの木村が!」
みんなの木村らしい。
村人B「じいちゃんやばあちゃんが作り上げてきた、俺たちの子どもに残してやるはずの、木村が!」
木村は丹精込めて、育てられてきたらしい。
盗賊「ハーッハッハ! この木村は、俺たちのものだ!」
そしていま木村は、取り合いをされているらしい。やめて! 私のために争わないで!
村人C「許さないぞ、盗賊! 俺たちの木村は、必ず取り戻す!」
木村には、ちょっとロマンスの路線もあるかもしれない。
「いやこれ、どうしろって言うの」
テンプレな話のはずだったのに、「木」の一文字が入ったために、別の話になってしまった異世界トリップ物語の序盤で、主人公は途方に暮れた。
村人D「身を切るようにつらいっ、……だが今は、生き延びるのが先決だ。
みんな、
木村を捨てよう……!」
そして捨てられるのか、木村。
「あーとりあえず、全国の木村さん、異世界でもいろいろがんばってください」
村人E「ううっ……ところであんただれ?」
「あ、はい。単なる通りすがりの主人公です」
主人公の旅は、始まったばかりだ。