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087 2nd Impact <04/12(金)PM 11:11>


 出会いの街[ヘアルツ]に来て8日目、この≪TJOに似た世界≫に来て11日目。


 [夢の洞窟]ツアーで同行したヒイラギから『ささやき』で回復役依頼の話を聞き、待ちに待った『転機』とばかりに、その胡散臭(うさんくさ)い話に喰いついた俺は、約束の午後11時前、指定された『はじまりの街[スパデズ]近くの石橋』にて、斥候(せっこう)でフルアーマー(篭手無し)姿のカズヤさんと落ち合う。


 さっそく詳細な話を聞こうとしたのだが、『もう1人のツレ』さんが「まだやって来ていない」という事なので、到着を待つ事にしたのだった。



 ……『もう1人のツレ』さんは中々やって来なかった。暇を持て余した俺は、先にカズヤさんの『ファッションチェック』をする事にした。



――カズヤさんは『斥候』で、

 かなりの長身で、防具でよくわからないのだが、腕(篭手を装備していないため露出している)を見る限り、筋肉ムキムキ ~な感じでは無く、スラッとした体型かと思われる。(バスケット選手みたいな感じだろう)

 しかし威圧感のある重厚な? 見た目に反して話してみると、くだけた…軽いっぽい雰囲気だ。


 武器は見当たらないので『素手』? で、『鋼の兜』、『鋼の鎧』、『鋼のブーツ』と、『鋼シリーズ』で統一している。ユウコさん同様バランス型だが、グレード的にはカズヤさんが2ランクほど上(鋼>鉄>青銅)だ。


 LV不明の『斥候』で、『武器無し』で、『重装備』…… 正直、『戦闘スタイル』も『狙いの職業』も全く予想出来ない。依頼の方は場所的に、[盗賊のアジト]か、『饅頭(マントウ)ひつじ』絡みの何か・・だとは思うのだが……



「カズちゃ~~~~ん」


 カズヤさんの装備チェックをしつつ色々と考えていると、不意にそんな…緊張感の無い《《ほわほわ~》》とした…声が聞こえてきた。俺達がやって来た、出会いの街[ヘアルツ]東口1の方からだ。


「チッ…… や~っと来やがったか、馬鹿ミュウがっ」

 不機嫌オーラ丸出しなカズヤさんは、吐き捨てるように言った。どうやら『もう1人のツレ』さんで間違い無いよう…だ……な……



!!!!! なん…… だと…………!?


 それは―― 『まっピンク』の腰まであろうか、というポニーテール姿だった。


 それは―― 柔らかそうで巨大な、上下に揺れ動く、2つの塊だった。


 それは―― この世界で初めて拝んだ、《《天晴れ》》な、2つの塊だった。



 「………」いやいやいやいや、どういう事だ? 俺はこの世界に来て、平らな方と、ささやかな方にしか出会わなかった。(ユウコさんの様に鎧姿だった場合は不明だが)

 俺もキャラクターメイキングさせてもらえなかった…のもあって、③現実は非情である ……という事なのだなー(悲報)…などと考えていた。


 そう……ここは 平たい胸族 の世界 …なのだと思っていたのだが――


 ラピュータ? は本当にあったんだ! エウレーカ!


(※量産型おばちゃん(自称ぽっちゃり)は、スイカ位ありますが、NPCであり量産型であるので、主人公の脳内からは除外されています)



「遅っせぇんだよっ 早めに来てろっつっただろっ」

「ごめ~~ん。だってぇ~、なか――」

「だって、じゃねぇ~っ!」

 カズヤさんは遠慮無く叱りとばしている。かなり親しい間柄なのか?


「オラッ、マサヨシにも謝っとけ」

「あ…… マサヨシ? 君、遅くなってごめんね~」

 走ってやって来た、天晴れさんが、深々と頭を下げる。ぽよん。


「あ、いえ……、カズヤさんも…… 気にして無いですから」

 「………」「遅くなった」と言っても15分ほどだし、カズヤさんのように激怒するほどでは無い。



「あ~! 猫ちゃん。え~っと…… お名前は~?」

 ミケネコに気付いた天晴れさんが、首を傾げながらたずねてきた。


「あぁ、ミケネコといいます」

「ミケネコちゃん?」

「……ミケネコです」

 天晴れさんの質問に俺とミケネコが答える。尻尾がピシピシ動いている…… ? ミケネコは何故だか少々不機嫌になったようだ。待たされたからかな?


「そっか~、ミケネコちゃんもごめんね~~」

 天晴れさんが、ミケネコにも深々と頭を下げる。ぷよよん。それを見ていたカズヤさんが少し機嫌を直して問いかける。


「それで? 準備は出来てんだろうなっ?」

「うん、大丈夫だよ~」

 天晴れさんが自信満々といった感じで立派な胸を張って答えた。ぷるるん。

 なんという破壊力。……まぁ、п旬□ ネ マ タ ほどじゃ……? ん??


 「………」??? なんだ……? 誰? ほど…… だっけ??



「……がいいか? ……おいマサヨシ! 聞いてんのか?」

 気がつくと、カズヤさんが俺をガクガクと力強く揺さぶっていた。


「あ、カズヤさん。すみません」

 俺の返事を聞いてカズヤさんが手を離した。



「馬鹿ミュウのせいで時間がもったいねぇ、早速はじめるぞ」

「も~…… 謝ったじゃな~い……」

 そう言いながらカズヤさんは石橋の端([ヘアルツ]側)の方へ歩いていく。天晴れさんも付いていくので俺も従う。ミケネコも少し首を傾げつつ付いてきた。


 「………」そう言えば、天晴れなモノに意識が奪われて、『プレイヤー表示』の確認を完全に忘れていたな。

 『まっピンクなポニーテール』の…『天晴れ』さんは…… 『ミュウ 僧侶』


 LVは俺と同じ(非公開)で………… って、なんでやねんっ! 俺《《必要無い》》じゃんっ!


 TJOには『職偽装』…という仕様、システムが――(略

 つまりミュウさんは『僧侶』か、『僧侶から派生出来る職業』なんだよ! 誰でも設定できる『”みならい”僧侶』なら、「実は『魔法使い』でした~」とかがありえるのだが――


 ボス戦でも無いのに、2人も『僧侶』いらんやろっ!

 ヤバイ、この2人全くわからん。「大体こんな感じだろう」…みたいな予想すら出来ない。



 カズヤさんは最初『石橋の中央』付近に居たのだが、今は石橋の端、つまりギリギリ『安全地帯』の辺りまで戻って? きていた。

 そのままカズヤさんがドカッと地面に座ったので、俺も適当な場所に胡坐をかいて座る。それを見てミケネコさんが俺のひざの上で丸くなった。


「それじゃ、はじめるね~、離れないでよ~」

「オゥ、さっさとやれっ」

 カズヤさんの投げやりな返事を聞いて、天晴れなミュウさんが『インベントリ』から …何か『机の様な物』を取り出した。


 ……あれは? 小学校の時に見た……木琴(もっきん)? いやマリンバ??


 呆気にとられている間に、ミュウさんの演奏がはじまった。少し物悲しい様な、控えめな音色が周囲に響きはじめる。

 そうか、つまり……


「……吟遊詩人」

「…………」

 すでに演奏に入っていたミュウさんは、俺のつぶやきを聞いて肯定するかの様に、ニコッと微笑んだ。


 「………」『吟遊詩人(ぎんゆうしじん)』とは、バード、ミンストレル、トルベール……等とも呼ばれる、諸国を放浪し、楽器等の音色に乗せて詩歌等を弾き語る職業である。


 他のRPG等では、『楽器』で殴りかかったり、『音波』で攻撃したりと、アグレッシブな場合も多々あるのだが、TJOにおける『吟遊詩人』は、基本的に「その音色による効果を対象に与えるだけ」の職である。

 言ってみれば「範囲魔法」、それもバフ(能力上昇)、デバフ(能力下降)…等と呼ばれる補助系統に特化した存在だ。


 『音色(ねいろ)』という特性上、『その範囲内の対象に等しく影響を与える』…という特徴を持ち、「あのプレイヤーだけに」、「味方だけに」、「敵だけに」……という『都合の良い事は出来ない』が、例外として『バフ(能力上昇)系以外』は『本人には影響しない』。


 本人の詩歌で、本人に悪影響が出ては、あまりにも不便になるためであろう。一応「本人なので、耐性がある」…という設定らしいのだが、『他の吟遊詩人』のデバフ(能力下降)等は普通に影響を受ける。

 (※釈然としないかも知れないが、某青狸シリーズでもギガントの歌は『他者に大ダメージを与えても、本人にはダメージが入らない』ので、割とポピュラーな仕様であると思われる)



 ……等と、『吟遊詩人』について考えていると、ミュウさんは演奏しながら歌いはじめた。

 当然TJOゲーム時代には、歌う必要は無かったが…… まぁ「実際にPCの向こうで歌っていたプレイヤーは居なかった」…とも言いきれないので、実はみんなリアルで歌っていたのかも知れ…………



 は?



 思わず目が点になり、隣のカズヤさんを見る。「ただのフルアーマーのようだ」…では無く、特に変化は見られない。ヒザの上のミケネコさんは演奏を聞いて、嬉しそうに「ぶちまけろ~♪」と真似していた。



――ミュウさんは表示上は『僧侶』で、これまでの会話等からおそらく『吟遊詩人見習い』。

 武器? は『マリンバ』で、防具は『白銀のリボン』、『白銀のドレス』、『ハードレザーブーツ』だ。


 身長は…160cmぐらいだろうか? 『まっピンク』の「腰まであろうか」という長髪を、『白銀のリボン』で大きく結んでポニーテールにしている。おっとりした感じの表情で、右の目尻あたりに泣きぼくろがある。

 そして、グラビアアイドルの様な抜群のスタイル ……滑らかな素材で出来た『白銀のドレス』というのもあって、ドガン、キュ、ボン…といった感じの艶めかしい曲線を描き出していた。


 その、どこかギャルゲーヒロインの様な? ふんわりぽやぽやした甘えんぼうお姉さんの様な? それまでの印象を一気に叩き壊すかの如く、魂のシャウト? が俺達の目の前で続いていた……



 ……ぶちまけろっ! お前の内臓ぶちまけろっ!


 切り刻めっ! 切り刻めっ! 〇×△×も ×△△×も 踏みにじれぇ


 耳を削ぎとり、鼻を喰いちぎり、目玉くりぬき 踏みにじれぇっ!


 ぶちまけろっ! ぶちまけろっ! 臓腑いっさいがっさい ぶちまけろっ!


 〇×△×も ×△△×も 〇×△×も ×△△×も…………



 ミュウさんリサイタルは続く――――



 と… ともかく、ミュウさんが『吟遊詩人見習い』っぽいので、一つ『謎』は解消だ。



▼▼▼▼▼ 補足、解説 ▼▼▼▼▼


『吟遊詩人見習い』は、『”基本4職”系ではない』


 これまで頻繁に「みならい僧侶『系』」と言った表現が出てきたので、お気付きの方も多いかと思うのだが、この『基本4職系』というのは、大きな4本の柱なのである。


 『基本4職』を『選択する事が出来る』のは『村人だけ』である。つまり『ゲーム開始直後だけ』という事になる。



 そして、『”基本4職”系ではない』職業も数多く存在している。この『吟遊詩人』の他にも、商人、鍛冶師、料理人、大工……など様々だ。


>逆にどのジョブを選んでいても商売ばかりしていると商人への道が拓ける事もあるという


 ……という一文にもある様に、これらは『基本4職系』から転職ジョブチェンジして就く事になるのだが、その際に、『元の職業が関係しない』。

 そのため関連スレッドや攻略wiki等では、公式サイトで(仮に?)名付けられていた「any」という名称を、そのまま使用して『any(元職関係無し)』と呼ばれていた。


 『any(元職関係無し)』には『元職』に関わらず『条件さえ満たしていれば』転職ジョブチェンジ出来る。脱サラ・・・的なイメージであり、それだけに『基本4職からしかなれないジョブ』の方が『レア』気味となる。(「希少(レア)なのはどちらか?」という話であり、どちらが良い悪い、強い弱いという話ではない)


 なぜならば…、

・『基本4職系』からは、『any(元職関係無し)』になれるが、

・『any(元職関係無し)』からは、『基本4職系には戻れない』 ……からだ。

 (※条件さえ満たしていればOKなので、『any』から『any』は可能)


 つまり、この『基本4職系』から『any』への転職ジョブチェンジは、『一方通行』であり『不可逆』なのである。ちなみに『基本4職系』から、他の『基本4職系』へもなれない。


×『基本4職系』→他の『基本4職系』

○『基本4職系』→『any(元職関係無し)』

×『any(元職関係無し)』→『基本4職系』

○『any』→『any』



 簡単な例を挙げると…、


『みならい戦士』、『みならい斥候』、『みならい僧侶』、『みならい魔法使い』…と、any(元職関係無し)代表として『吟遊詩人見習い』の5職が居たとして、


 上記の『全ての職業』が、『any』の『商人』になる事が可能である。

 しかし”みならい僧侶系”の『僧侶』になれるのは、『みならい僧侶』だけ…なのだ。


 つまり『any(元職関係無し)』には、誰でもなれる・・・・・・…ためレア度が下がり、『基本4職系』は、その系統からしかなれない…ためレア度が上がるのだ。


 言い方は悪いが、いつでも転職ジョブチェンジ、ドロップアウト可能だが、エリート街道(基本4職系)には二度と戻れない……的なところがある。

 (万年係長が嫌になり、田舎で農家をはじめる…様な?)



 そして『基本4職系』から『any(元職関係無し)』へと転職ジョブチェンジした場合、『例外なく、職スキル、職補正等は消滅』する。


 例えば『商人』に転職した場合に『みならい戦士』の補正は「ほぼ無意味」になるのに、『みならい僧侶』、『みならい魔法使い』系の、「MP回復速度補正」が付いてくると「もの凄く役に立つ」…等、『any(元職関係無し)』と言いながら、有利不利が生まれてしまう。


 とは言え、「元職は関係無い」のだが、『既に割り振ったステータス(ボーナスpt)はそのまま』であるので、STR50、VIT50のキャラクターである場合、『鍛冶』職や『大工』職、『木こり』や『採掘』職といった「ステータスを活かせる職を選ぶ」か、『商人』等の生産職に適さないステータスで我慢するか、どうしても適したステータスで『商人』をやりたい場合、キャラクター削除してやり直す…という事になる。


 これも、「商業科を出て”とび職”をはじめる」とか、「理系大学を出て漁師をはじめる」とか、「職業選択は自由であるけれども、少しは人生設計とか、自分の適正とか考えよ?」みたいなところだ。


 実際ステ振りは、『職業選択には・・・・影響していない』し、『パラメータが足りないからなれない・・・・』わけでも無いから、ヤマコウも嘘は言っていない。

 INT50、MAG50に振ったって『狂戦士』には「なれる」のだ。



 最後に……

 『賞金首』、そして『前科者』を経る事で、『最初に選択した基本4職に戻れる』事と、『キャラクター削除』を行い、やり直す事によって『村人』に戻り、再び『基本4職を選択する』事は可能……なのだが、悪事等によって『諸々のペナルティ等が累積されていた』場合は、『ヤマコウクオリティ』という言葉の重さを知る事となる。


▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲



 ……ようするに、『吟遊詩人見習い』? になった、という事は、「『僧侶』の職補正、職スキルは全て消滅した」…という事だ。


 つまり今まで? 『斥候』? と『僧侶』? の2人でやってこれていたが、『僧侶』? のミュウさんが転職ジョブチェンジして、回復が出来なくなってしまった。

 それで困って、知人? のヒイラギに相談し、俺が回復役として紹介された。 …というところであろう。



 …………俺は―― ここに居てもいいのかもしれない


 そうだ、僧侶は俺しか居ない! 俺は…… ここに居てもいいんだ!



 ありがとう >みんあ



LV:17(非公開)

職業:みならい僧侶(偽装公開)(僧侶)

サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)

所持金:18,726G

武器:なし

防具:布の服

所持品:9/50 干し肉×16、バリ好きー(お得用)55%、樽(中)100%、コップ(木)、初心者用道具セット(小)、鋼のナイフ、鉄の斧、サクランボ×1、鬼王丸×2



「ぶちまけろ~♪ ぶちまけろ~♪」

「ま~ミケネコさんっ! なんですか! その歌は!」


「めんたまくりぬき ふみにじれぇ~♪」

「これっ、ミケネコさん おやめなさいっ!」


「〇×△×も ×△△×も……」

「ミケネコさんっ、バリ好きー抜きにしますよ?」

「は~い……」

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