080 さまよえるぼっち <04/05(金)PM 08:17>
出会いの街[ヘアルツ]の南口1の門から、壁沿いに東(→)へ、亀裂を南(↓)へと進み、そこから川に沿って東(←)へ、北に南門1、南門2の間の壁がある辺りまで南口1方面の宝箱、素材収集をした。
しかし大した成果が無かったのとLV16、VIT16になったため、ソロでは初めて南口2方面へと突入する。そのまま川沿いを西(←)へずんずんと進み、北の岩山にある[夢の洞窟]を過ぎてしばらくすると、川の向こう岸まで石製の長さ30m(川と同じ)、幅5mほどのしっかりとした造りの橋が掛かっている。
この石橋は川向こうへと渡る[ヘアルツ]から最も近いポイントであり、”安全地帯”である。
岩山 ━━━┻━━━南門2━━━╋━━━南門1━━━┛
※大体こんな↑イメージです
南門1、南門2の間の壁はかなり南まで続いています。
[夢の洞窟]は岩山の麓の”ほぼ中間地点”の南側”辺りです。
ズシーン、ズシーンと音を立てて大地が揺れている。
「ね~ご主人さま~」
「ん~?」
「あれ なに~?」
「あぁあれか? あれは・・・・・・凶悪な”初見殺し”だ」
「しょけんごろし~?」
「………」”初見殺し”あるいは”わからん殺し”とは前情報無しに遭遇すると、なすすべ無く殺されたり、ゲームオーバーになってしまう、意地悪な仕掛けや罠、特殊なスキルを持っている強力なモンスター、イベント等である。
”初見”つまり”初めて””見る”者を”殺し”にかかっている、”わからん(知らない)”者は”殺される”といったゲーム用語?だ。その性質上”出オチ”になる事も多く、事前に知っていれば対処や回避が容易である事も多い。
はじまりの街[スパデズ]のトシマ山猫ファミリー?や、饅頭ひつじトラップ、孤独のウルフ、スライム等も、ある意味”初見殺し”であろう。だがアレはそんな生易しいモノじゃない。
この石橋を渡ったこちらの川向こう側には、例の村や[虹の洞窟]へと続く道があるが、他は見渡す限りの平原となっている。そしてこの大平原には、ナゴヤシュダガヤ、饅頭ひつじ等、オイシイ草食系の”非アクティブモンスター”が多く生息している。しかしここでそれらを狩るプレイヤーはあまり居なかった。ヤツが居たためだ。
ズシーン、ズシーンと大地を揺らしながら、俺とミケネコが見物している”安全地帯”である橋から、40~50mほど離れた場所を、薄暗い中でもわかるほど巨大な人影がうろついていた。
”シーシュボッチ”、LVは・・・40・・・? あぁ確か”死に”でLV42だったな、ついでに所持金は皆殺し(ミナゴロシ)で、37,564Gだったはず。(※画面(20m)範囲内で無いので”簡易判定”でのLV確認は出来ません)
身長15mほどもある筋肉ムキムキの巨人、常に3~5mはあろうかという巨岩を持ち運んでいて、縄張り、テリトリー内に侵入者(俺達プレイヤー)を見つけると、問答無用でその巨岩を投げつけてくる凶悪な”ぼっち”だ。
(一応設定上は、この大平原の南にある「山の山頂へとその岩を運んでいる」らしいのだが、いつも大平原をふらふらと彷徨っている、スレでは”方向音痴”説が流れていた)
巨岩という事で当然”切断属性”や”刺突属性”では無く、打撃、衝撃属性である。つまり”防御貫通攻撃”という事で、鎧等の防御力を大幅に無効化され大ダメージを喰らう。
LV42の防御貫通攻撃・・・しかも3~5mほどの範囲攻撃である。「”足音”を無視して”饅頭ひつじ”等を狩っていたら、わけもわからず突然パーティが全滅していた」・・・といった事態もよくある話であった。
(※いくらヤマコウとはいえ、突然死亡する様ではフェアでは無いので、ここまでの”饅頭ひつじトラップ”等も「そうそう楽で美味しい話は無いんですよ? 危険は付き物ですよ」という警告になっています。
そして”シーシュボッチ”は巨体で視野が広く”索敵能力が高い”という設定で、画面内(20m)に入るとすぐに攻撃してくるため、同エリア100m範囲に入った段階で、この”ズシーン”という足音(警告)が聞こえる様になっています。(エリアが違うため川向こうまでは聞こえません、またこの場合”橋”はどちらのエリアでもあるという扱いです)
さらに主人公はゲーム時代から”冒険者ギルド”に極力立ち寄らない、利用しない方針であったので忘れていますが、当然? イルカモネ山猫の様にギルド内に警告文があり、他に街中のNPCがヒントを出してくれています(これも主人公は「あぁハイハイ、おっさん乙」等と聞き流していますが))
「でっか~い」
「そうだなぁ」
橋(安全地帯)の大平原側で胡坐をかいて座って見物する俺の隣で、ミケネコは前足をついて腰を落とした”おすわり”?の格好で、ゆらゆらと尻尾を揺らしている。その何か嬉しそうに”シーシュボッチ”を見ているミケネコの背中を撫でながら、俺も適当な相槌を打っていた。
「………」ここで「飛んでくるのって、たかが岩でしょ?」と思うかも知れないのだが、中世等で使用されていた攻城(城を攻める)兵器として、投石機というモノがある。
これは木製の大きな”おたま”の様な部分に、石や岩を乗せて、錘や”てこ”の原理で飛ばして、城の中の敵兵を攻撃したり、城壁、城門等の破壊を目的とする兵器である。
一見大仰で大掛かりな兵器であったが、おたま部分を見れば、結局の所は「30~50cm程度の石や岩を投げつけていただけ」というモノなのだ。それでも「攻城兵器」として歴史のそこかしこに登場している。
その約10倍もの巨岩を近距離(10~20m)で投げつけてくるのだ。両手を広げて”その大きさの岩”を想像してみてもらいたい、それでも1m~ほどだろう。その倍以上の岩が一直線に飛んでくるという脅威。
中型の4tのダンプカーの幅が2mほどなので、(1台でも大惨事になりそうではあるが)その4tダンプが2台並走して100kmほどで突っ込んでくるイメージだ。少々体を鍛え鎧兜を装備していようが、焼け石に水、どうにかなるモノでは無い。
また機動隊が暴徒鎮圧、対テロで使用するライオットシールド、バリスティックシールド、ジュラルミンの盾等「好きな物を使っていいから”受け流す”か”耐えて”みろ」と言われても出来る気がしない。
TJOでは大雑把(実際には細かい計算や補正等があるのだが、ここでは割愛する)に、「クリーンヒットした場合にMAXHPの約2倍を超えてしまう様な大ダメージの攻撃」から、”受け流し””パリィ””ウェポンブレイク”等は成功率が劇的に低下していき、盾等でまともにガードした時の防御貫通率も劇的に上昇していく。(クリティカル等でなく「通常ヒットで”即死ダメージの2倍”以上喰らう様なダメージ」という事)
ようするに格上の存在、強烈な攻撃には”小手先の技”は通用しなくなり、ガードしきれなくなっていくわけだ。もちろん成長し同等のLV、防御力、HPになれば通用するし、ガードにより大幅に被ダメージを軽減出来る。
まぁ考えてみれば、LV1のプレイヤーが”木の盾”で、LV200のモンスターの攻撃を全部ノーダメージで”耐えられる”とか、”受け流せる”のは不自然でしか無い。何事にも限度がある。(※「そんなわけない、俺なら出来る」などと言って「ダンプカーの突撃をライオットシールドで受け流してみた」等の行為は絶対にしないで下さい。)
「ご主人さま~ ”そうぐう”するの~?」
「ハッハッハ・・・ミケネコは面白い事を言うなぁ~」
薄闇の中をズシーン、ズシーンと闊歩する巨大な影を見て、のんきに無茶ブリをしてくるミケネコさんを少し力をこめてワシャワシャする。
「………」さてこの”シーシュボッチ”LV42、当然? ゲーム時代は「ハイリスク? ハイリターン」として人気のイベント? だった。
基本的に最初に発見(仮FA)された低LVプレイヤーは「確実に死ぬ」のだが、見た目通りに「”岩”は1つしか持っていない」ので投げた後は「拾いに来る」のである。
その隙に他のメンバー(大体の場合は野良の募集)が10m範囲(遭遇ボーナス条件)に近付いて、バラバラに逃げる。しかしその間に拾った岩で再度攻撃され、次に狙われた運の悪いプレイヤーはやはり逃げきれず死んでしまう。
そして逃げ延びたプレイヤーが今度は”最初の囮”に回って死ぬ・・・と交代で”遭遇ボーナス”を狙う、なにしろLV42×3体分の経験値であるので、大幅LVUP間違い無し、所持金を調整して参加すれば”デスペナルティ”もあまり痛く無い・・・という夢のあるイベント? である。
ある種の”鬼ごっこ”の様に、低LV者が”シーシュボッチ”に群がっては”蜘蛛の子を散らす”様に四方八方に逃げていく。そして結局このイベントに参加した者は、交代で皆が一度は岩に叩き潰される。
やがてLV50を過ぎた頃にパーティを組んで討伐に来て「あの時は即死だったのに今はあまり痛くない」とか、「普通に倒せる様になってる」等と、自分達のLVUP、成長具合を実感、確認し、懐かしむ様な存在だったのだ。(他にも”低LVPTでの討伐に挑戦”だの、”ソロで遭遇ボーナス獲得に挑戦”だのと、”ぼっち”のくせにそこそこ人気者であった)
・・・と、そんな感じで俺もゲーム時代は適当な募集に参加して、岩に叩き潰されたものだったのだが、もちろん”痛み”なんか無かったし、いくらでも復活出来た、からであって、現状では無意味に即死させられるだけの存在だ。(・・・そういえば「即死ダメージ」って”猛烈に痛い”のか? 逆に”痛く無い”のか?・・・いいか、やっぱり知りたくない)
そんな訳でこのイベントは”無い”、確かにオイシイけれども結局は”先払い”に過ぎないわけで、適正LVで”遭遇”すればローリスクで遭遇ボーナスは回収出来るのだ。
(・・・とは言え今ならオイシイんだがなぁ、まぁLV50を過ぎて転職した頃にまた会いに来よう。死んでしまっては元も子も無い)
ワシャワシャワシャワシャ・・・
「い~た~い~~~」
「ふぅ・・・、よしっそれじゃ帰るか」
「お~かえるか~~~」
ひとしきりミケネコをワシャワシャ(おしおき)したので立ち上がる。ひとまずさらばだ”シーシュボッチ”LV42君。末永く”ぼっち”でいるがいい。
そうしてまた石橋を北(↑)へと戻っていくと、範囲を外れたのか”ズシーン”という足音も聞こえなくなる。そのまま北上し北の岩山の手前で東(→)へ進んで行くと、[夢の洞窟]へ続く小道と俺達が入る前に軽く食事をした付近に繋がった。そこからは同じ様に、西口1方面へ繋がる切れ目付近を大きく避けて、予定通りに南口2の門から街へと戻った。
”盗ゾック(斧)”LV8、”盗ゾック(ナイフ)”LV9のコンビ、そして”孤独のウルフ”LV13には襲われなかったが、当然遭遇ボーナスも無しである。視界の右下の方へ意識を向けると<04/05(金)PM 08:52>と表示されていた。
LV:16(非公開)
職業:みならい僧侶(偽装公開)(僧侶)
サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)
所持金:49,061G
武器:なし
防具:布の服
所持品:16/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×21、バリ好きー(お得用)90%、樽(中)90%、コップ(木)、サクランボ×1、鋼のナイフ、鉄の斧、青銅のブーツ、賞金首の首輪[†カムイ†]懸賞金:94,000G、鬼王丸×2、鉄のブーツ、鋼の弓-2、白銀の槍-1、リボルバー(44)-2、蟻酸
「なんか きずついてたよ~?」
「・・・”ぼっち”の事かな?」
「………ぼ~ん」
「・・・仕方無いな、今度絶叫マシーンにでも乗ろう」
「びび~る~」
「・・・(どうなってんだ? このミケネコのデータベースは)」




