047 鬼王丸 <04/05(金)AM 08:42>
出会いの街[ヘアルツ]南口1方面の、†カムイ†事件後の事件現場で、遺産の”袋”と、”賞金首の首輪”懸賞金:84,000Gを入手した俺は、ミケネコさんと ちょっと贅沢な”お祝い”をする。
その後、さらに”ダメ押し”とばかりに†カムイ†を”処罰”したり、これまでの事などを少し考えたりしたが、結局、皆が活発に活動する時間まで”仮眠”を取る事にしたのだった。
「………」ん?・・・何か・・・目が覚めたな・・・・・・視界の右下の方へ意識を向けると<04/05(金)AM 08:42>と表示されていた。寝たのがAM 06:37だったから、大体2時間ぐらい睡眠をとれた様だ、俺の上ではミケネコが丸くなっている。
そのままミケネコの耳に向かって、そっと息を吹きかけてみた。やはり耳の中の毛に息が触れると、その度に嫌がる様に、プルプルッと耳が動く、どうやら自動センサーらしい。これは猫っぽい、のか?
少しずつ吹く息を強めていると、耳をプルプルしながらミケネコが目を開けた。
「な~に~?」
「おはよう、少し早いが出かけるぞ。とりあえず道具屋で素材を鑑定してから、一応クリスタルに触ってLVUPチェックだ」
「は~い」
人が少なければLVUPチェックは目立つが、出会いの街[ヘアルツ]はプレイヤーが多い。しかも高LV者や、レア装備、レア職のプレイヤーも居るのだから、わざわざ俺の様な、みすぼらしいプレイヤーを、チェックしようとは思わないだろう。つまり人通りの多い時間帯は、はじまりの街[スパデズ]の時ほど気を配らなくて良い(はずだ)。
ともかく、いつもの様にミケネコに予定を伝えたので、部屋を出て鍵を閉める。早朝に洗顔等は済ませたので、受付で量産型おばちゃんに鍵を渡し、そのまま宿屋を後にした。
この時間帯になると行き来するプレイヤーの数も多い、クリスタル付近にやって来ると、すでに多くの売買募集の看板が立っている。だがプレイヤーLV5~70と大きく開きがある街なので、自分の望みのアイテムを探すのは大変そうだ。
それでも中には急ぎなのか、プレイヤー売買の相場(1割引き)より、安かったりするモノもあるので、こまめにチェックしていると お得なのは確かなのだ。NPCが売っていないアイテムの”大体の相場”や”需要の高いアイテム”もわかるしな、ゲーム時代と違い”情報”は自分で集めないと・・・だ。
まぁとりあえず先に鑑定を済ませよう。盛況なクリスタル前を素通りして道具屋に向かう。
「よう兄ちゃん、新顔だな?ここは道具屋だ、鑑定と買い取りもやってるぜ」
当然どう見ても”いつもの量産型おっさん”なのであるが、やはり俺のデータが飛んでしまったようである。「おっさんこそ引退して”新顔”に後を譲らないのか?」とか言ってやりたい。
「鑑定を頼む」
「ウチは”中級鑑定”までだが、どうする?」
あぁ、そうか、出会いの街[ヘアルツ]からは中級もあったな。
「初級鑑定で頼む」
例によって俺のインベントリには”鑑定済み”の物しか入っていないので、素材を適当に放り込んでいる、ミケネコのストレージ内のアイテムを鑑定してもらう。ミケネコのストレージ内の未鑑定アイテムが、リスト表示され鑑定料が表示される。
う~ん、全体的に鑑定料が値上がりしている = NPC販売価格の高いアイテムが増えている・・・のだが、いわゆる”こちらでの安物”ばかりの様だ、「へこむわー」である。
臨時収入もあったし、問題無さそうなので”一括鑑定”で全て鑑定してもらう。鑑定料は全部で 314Gだった。鑑定料が安い = 初回鑑定ボーナス経験値も少ない、である。「へこむわー」
「………」そうだな、”僧侶”では状態異常の”予防”は出来ても、食らってしまうと”治療”は出来ない、近場であれば即座に”治療院”に舞い戻ればすむが、ダンジョンなどでは間に合わない。
少々お高いのだが臨時収入(†カムイ†の遺産)もあった事だし、ダンジョン募集に参加する事も考えて、一応ここで”治療薬”を購入しておくべきだろう。
ちなみに”低級”状態異常なら、宿屋などで寝ても良いのだが、状態異常の回復には”3時間以上の連続した睡眠”が必要である。ようするに、3時間以上睡眠時の”HP/MP完全回復”の”おまけ”みたいな感じである。
3時間消費するか、治療費を払うか・・・”時は金なり”とも言うし悩ましい。まぁ”連れ”が居たり、パーティなどの場合、状態異常にかかる度に、悠長に3時間も寝ていられ無いので”治療院”にGOだ。
「”鬼王丸”を・・・2つもらおう」
「鬼王丸だな、2つで 2,000Gだ」
「あぁ」
カウンターの小皿に2,000Gを置いて、おっさんから鬼王丸2つを受け取り、インベントリに放り込む。
「毎度~」
「………」鬼王丸、”低級”状態異常の治療薬である。1,000G = 1kだから「1kおうがん」などと呼ばれていた。少々お高い。ちなみに、中級治療薬は、百鬼王丸、100,000G = 100kで「100kおうがん」である。お高い。
しかし”状態異常:病気”は、下手をすれば”善行悪行値”がマイナスされ続ける、という恐ろしい効果である。発症リミットの60分の間に帰還出来ない場合には、少々高くついても治療するしか無い。
逆に言うと、感染しても60分間は発症せず、他者に”感染させる危険性は無い”ので治療しなくて良い、発症ギリギリか、発症してすぐ治療する事で、60分間は”状態異常:病気感染”に再度感染する事は無いのだ。(再び感染判定が出たからといって、発症までの時間が短縮されたりもしない)
つまり運悪く最短で感染しまくったとしても、治療薬を2つ持っていれば”約3時間ほどの猶予”が出来る事になる。(感染→60分→1つ目で治療→感染→60分→2つ目で治療→感染→60分→治療院へ)俺のLVで参加する程度のダンジョンであれば、”治療院”に帰りつくまでは(おそらく)何とかなるだろう。
まぁそんなわけで、少々お高い治療薬を購入し、他に目ぼしい物も無かったので道具屋を後にする事にした。フハハさらばだ、おっさん・・・はやく手頃な道具屋を見つけて、本当に”量産型と おさらばしたい”ところだ。
だがしかし、ムサいおっさんプレイヤーの”優良店”が見つかる可能性も?・・・いやそんなハズは・・・、包容力のある元気なお姉さん(CV:内田真礼)のショップが、俺を待ってる、待っているハズだっ、なぁそうだろう。
「ご主人さま~?」
「あぁ、すまんミケネコ、行こう」
不吉な予感がよぎったが、ともかく道具屋を後にした。さらば、ひげよ。
道具屋を出た俺は、再びクリスタル前へ戻って来た。凄い人通りと看板の数だ。はじまりの村[スパデズ]とは大違いである。
「ミケネコ」
「な~に~?」
ミケネコが首を傾げながら俺を見上げている。
「ちょっと人が多いから肩にでも乗っててくれ」
「は~い」
ミケネコさんが踏まれたりしないか、少し心配になったので抱き上げて肩に乗せてみる。まだ子猫なので軽い、ストレージ内に大量に”安物素材”が入っている、とは思えない。
「たか~い♪」
肩に乗ったミケネコさんはご機嫌の様子、そう言えば猫は高い場所が好きだったか?
「………」以前に猫を飼っていた友人が「猫は高い場所=つまり”位置エネルギー”が大きい場所を好む」、「フフフ、見よっ、俺のこの”位置エネルギー”、たまらんぜw、と悦に入ってるんだ」などと、謎の持論を展開していた。
確かに猫はよく”高い場所”に登りたがっている様だが、「そんな科学的な理由なのか?」と彼の力説を聞きながら思ったものだ。
野良猫M「ククク、コジロウ、敗れたり!」
野良猫K「なんだとっ!?」
野良猫M「そんな”位置エネルギー”の小さい場所に居るとは、勝負あったわ」
野良猫K「ぐぅ・・・なんて巨大な位置エネルギー・・・ムサシめっ」
・・・などとフギィー、フゴオオ、ナオォォ、牽制しあっていた、のか?いいから さっさと喧嘩はじめろよ、キミ達は牽制時間が長いんだよ。
まぁそんな事はどうでも良い、これだけの人ゴミである。通りすぎたり等の変な小細工をする必要も無いのだが、どちらにせよクリスタル前に居ると邪魔なので、堂々と真・クリスタルに触り、さっさと周囲で看板を眺めている?らしきプレイヤー達の所へ移動して混ざる。
移動中にシステムメッセージが表示され、ファンファーレが頭に響き渡る。
《おめでとうございます!LVが上昇しました! LV10 →LV11》
《おめでとうございます!LVが上昇しました! LV11 →LV12》
「………」おぉ!?、2LVも上がった。はて???、え~っと・・・ん?そう言えば、出会いの街[ヘアルツ]到着時にクリスタルに触ってから、一度もチェックして居なかったか。
すると”発芽ねずみ”LV5、と、”ナゴヤシュダガヤ”LV7と、”盗ゾック(斧)”LV8の、初遭遇ボーナス、盗ゾック(斧)LV8先輩との”ぶつかり稽古”の治癒での経験値稼ぎ、†カムイ†事件・・・は、そうでも無いな、後は鑑定ボーナスと・・・
う~ん、2LVも上がるほどでは無いような?、LV10からはホイホイ上がる様な、バランスじゃ無いはずなんだよなぁ。
しかしまぁ最初のLV9→LV10の時、ギリギリLV11に届いて無かった、ぐらいだった可能性があるのか?、結構 長時間イルカモネ山猫と戯れていたしな。そして今回ギリギリLV12に届いた、とかなら、実質”1LVしか上がってない様なモノ”になるだろう。
まぁともあれ、これは嬉しい誤算というヤツだ。LV12という事は、僧侶の”重複”補正でLV17相当と考えて良いだろう。つまり、南口2方面も何とか・・・いや少し厳しいか、それに治癒での経験値稼ぎで考えるなら、盗ゾック(斧)先輩の40%程度のダメージは、ほぼ理想的だ。50%以上だとクリティカルで即死する危険性がある。
復活し放題のゲーム時代であれば、所持金の少ない(デスペナルティリスクが低い)時など、”80%以上のダメージ”のモンスターと戦っていた事もあったが、復活不明、”痛み”&”苦しみ”アリ、の現状で、そこまでのリスクは負うべきでは無いだろう。
※ゲーム時代はINT、VIT、MAGに適当に振っていたので、VIT極振りの現在と比べて、MAXHPは低く、回復量は多かった、そのため80%以上のダメージでも1回で ほぼ全快していた。
・・・まぁ”痛いのがイヤ”というのも確かにある、しかし”即死はマズイ”というのも嘘では無い。そう、こういうのは大きすぎるのも、小さすぎるのもよくない、中庸ってヤツだ。ほどほどだ、とりあえず”痛中”だ。
50%以上は攻めすぎ、20%はビビりすぎ。ちょうど良いダメージが40%程度という事だ。
そんな訳で安全性を考慮して、いましばらく盗ゾック(斧)先輩に稽古をつけてもらおう。ともかく、ボーナスptをVITに振り、VITを12にしておく。
本当なら、いくらか”INT”に振って”治癒による回復量”を上げたいところなのだが、死なない事を優先したい。まぁLV50でVIT+50にするのも、LV75でVIT+50にするのも、結局は同じ事だ。
回復量の不足は・・・考え方を変えれば「治癒回数稼ぎになる」とも言えるだろう。”MAG”が0でMAXMPが少ない分、こまめな逃走と休息が必要になるが、まぁ面倒ってだけだし我慢できるだろう。
視界の右下の方へ意識を向けると<04/05(金)AM 09:26>と表示されていた。もうどの店も営業しているだろうし、今日も目立つ日中は”プレイヤーショップ巡り”でいいかな?ガッチャ!
LV:12(非公開)
職業:みならい僧侶(偽装公開)(僧侶)
サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)
所持金:4,961G
武器:なし
防具:布の服
所持品:11/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×24、バリ好きー(お得用)90%、樽(中)100%、コップ(木)、サクランボ×1、鋼のナイフ、鉄の斧、青銅のブーツ、賞金首の首輪[†カムイ†]懸賞金:94,000G、鬼王丸×2
「ところでミケネコに言っておく事がある」
「な~に~?」
「ミケネコは”中級治療薬”の事は話してはならない」
「ちゅうきゅ~ちりょうやく~?」
「百鬼王丸だ」
「ひや「だからダメだっ!」」
「は~い?」




