044 4日目の朝 <04/05(金)AM 04:00>
出会いの街[ヘアルツ]南口1方面で、盗ゾック(斧)LV8先輩と、ぶつかり稽古をしていた俺は、南口2方面からやってきた1人のプレイヤーを発見する。
そのプレイヤーネームが、真っ黄色 = 末期色、つまり”極悪人”である事と、こちらの様子を伺っている様な”不審な態度”から、”MPKもどき”であると推測、ほれぼれする様な大根演技で、TJOの洗礼を授けたのだった。
そのまま頼もしい盗ゾック(斧)LV8先輩に後は任せ、”安全地帯”である街へと逃げのびた俺は、さっさと宿屋へ戻り寝てしまう事にした。
◆◆◆出会いの街[ヘアルツ]”主要街路”イメージ図◆◆◆
※東1、南1の十字路の中心にクリスタル
21
北北
2西╋╋東2
┣┫
1西╋╋東1
南南
21
・・・さま・・・よ・・・よ・・・
「………」ん~?・・・何かが・・・俺のほっぺたの辺りを・・・プニプニして・・・ぷに・・・
「ご主人さま~、よ~じ~だ~よ~」
「………」よ~じ~?、用事は~後にしてくれ~、あぽいんとの無い、おきゃくさまはちょっと・・・ひしょが・・・ぷに・・・
「ね~、ご主人さま~、よじだよ~」
「………」おや??、目の前に三毛猫がいる。ミケネコに・・・よく似た三毛猫だ、俺のほっぺたを前足で交互に、踏み踏みふみfmふmm・・・
「はっ!?・・・ミケネコ?」
「も~、ご主人さま~、よじ すぎたよ~」
パッと意識がはっきりした、視界の右下の方へ意識を向けると<04/05(金)AM 04:07>と表示されている。目の前のミケネコは、いつもの様に俺のほっぺたを、前足で交互にムニムニと押し続けている。今日も肉球はぷくぷくのぷにぷにだ・・・猫っぽい。
前足の両脇の下に、両手の親指をひっかけて持ち上げ、”高い高い”をしつつ小刻みに ブルブルブルっと揺すってみた。
「も~ぉ~ぉ~、ご~しゅ~~じ~~んん~さぁ~~まぁ~~~」
ブルブルと揺さぶられて、ミケネコが「ワ~~レ~ワ~~レ~~は~~」という、宇宙人?の様な声を出して呆れている。今朝もまた評価が下がったようだ。
揺さぶるのをヤメて、ミケネコをベッドの横に下ろし身体を起こす。う~ん、ほどよく疲れている?という感じだろうか、そこまで辛くは無いが、”気分スッキリ”という爽快な目覚めでも無い。
「よしっ、まずは昨日の”戦闘”場所に行って、そのまま”逆のルート”で夜中に出た宝箱をチェックしながら、川ぞいや亀裂の方を通って、街に帰って朝飯にする」
「きのうの、せんとうばしょ~?」
「あぁ、まぁ一応な」
「は~い?」
とりあえずの予定をミケネコに伝え、部屋を出て鍵を閉める。宿屋の受付に行くと、やはり昨晩と同じ量産型おばちゃん(CV:くじら)が居た。
う~む、お姉さん(CV:藤田 咲)が出現するのは、一体何時なのか?、宿屋のレアイベント詳細はよ!・・・などと、どうでもいい事を考える。あぁそうだ、井戸について聞いておこう。
「おはよう兄ちゃん、早いね」
「おはよう、鍵を・・・、それから”ここの宿屋”でも、飲み水は貰えるのかな?」
おばちゃんに鍵を渡しながら たずねてみる。
「井戸水でいいなら、裏の井戸でいくらでも汲んで飲んでいいよ、顔とかもそこで洗っとくれ」
「わかった、ありがとう」
どうやら同じ様な宿屋だけあって、同じ様に井戸があって自由に使えるみたいだ。ともかく、こちらでも しっかりと許可を得た。許可は大事だ。ミケネコを連れ裏の井戸に向かう。
レイアウトなども同じだな、ヒモのついたバケツみたいなのを井戸に放り込んで引き上げる。樽(中)の中には、まだ”何か”が100%入っているので、今回は顔を洗ったりするだけだ。少しバケツを揺らしたりして”必要な分だけ水が入る様にして”引き上げる、おぉかなり軽い。
起きるのが少し遅かったので、手早く洗顔等をすませて宿屋を後にした。ちなみに少し飲んでみたが、違いはわからなかった。やはり少し冷たい、ただの水(両方の意味で)だ。
そのまま南に向かい、南口1前の広場にやってくる、こんな早朝から”低LV者用”の出口に来るプレイヤーは居ない様だ。まぁ明るくて周囲がよく見える”安全な時間”に狩りする方が、昨日の様な”黄赤ネーム”に遭遇する危険性も低いしな。
門を通り抜け南口1方面に出てから、
「・・・万能抗原体[オールマイティーワクチン]」
気休めの対策スキルを使用する。まぁどうせMPは徐々に回復するのだ。無意味に”MPを満タン状態にしておく”ぐらいなら、「とりあえず使っとけ」というものである。
そのまま、まっすぐ南の川に向かって、花畑の中を”発芽ねずみ”LV5に接触しない様に気をつけながら足早に歩いていく。まだかなり薄暗いのだが、はじまりの街[スパデズ]の南口の草原の時と同様に、遮蔽物が無ければプレイヤーや、盗ゾック(斧)LV8先輩などの”人影”ぐらいは簡単に見分けが付く。(もっとも俺の様に”花畑に寝転んで回復”していたりされると、さすがにわからないが)
ともかく見渡した感じでは”人影”などは見えないので、宝箱を探しつつ素材になりそうなモノは、ささっと手早くミケネコのストレージに放り込み、ずんずん歩いていく。
しばらく歩いていくと、少しずつ花畑も”まばら”になって、草原の様な感じになってきた、前方には川も見える。周囲では”茶色の”ニワトリが、早朝なので元気に コケー、コケコーと鳴いている。”ナゴヤシュダガヤ”LV7は、”伯爵レグホン”LV3より元気が良く、筋力などもあるためか、時折1、2mほど飛び上がっている。
「………」TJOでは、”飛行状態”である時に、攻撃を受けると”全てクリティカル”として扱われる。そのため、”ナゴヤシュダガヤ”LV7を狩りたい場合には、付近の何匹かに目を付けておいて、飛び上がったナゴヤシュダガヤに対して、攻撃(FA)を加えて叩き落とし、”先制クリティカル”を取ると、有利に戦闘を開始出来るのだ。
もっともLVは7であるので、はじまりの街[スパデズ]からやってきたばかりだと、先制クリティカルを食らわせても十分な強敵である。
なお攻撃方法は”伯爵レグホン”LV3と、ほぼ同じで”クチバシ”と”爪”による攻撃だ。極稀に飛び上がってから”捨て身”で突っ込んでくるという、”某科学忍者の必殺技”みたいなのを使ってくるのだが、飛び上がる時に”飛行状態”になるので、上手く反撃、迎撃出来れば再度”クリティカル”を与えて叩き落とせる。
ともあれ”誤爆”でもしない限り、連戦になる危険性が少ないため、はじまりの街[スパデズ]のダンジョン[山の洞窟]1層で、マズい”ヒキ蝙蝠”LV4や、”山ゾック(斧)”LV6なんかと、いつまでも戦い続けるより、さっさと出会いの街[ヘアルツ]へ来て、”非アクティブモンスター”の”ナゴヤシュダガヤ”LV7を狩る方が、安全で”より経験値が稼げる”のは確かだろう。
さらにこちらは”フィールド”であるのでトラップも無いし、宝箱にも罠は無いのだ。TJOは挑戦を、開拓を求めている。安定と停滞とマンネリは悪なのである。
「ご主人さま~、せんとうばしょだよ~」
いかんな、また長考しつつ歩いていた様だ。ミケネコさんの額を少しコリコリして感謝の意を表明する。くすぐったそうだ。
「さて・・・」
周囲には”盗ゾック(斧)”LV8先輩の姿は無いが・・・昨日の”目印の棒”は・・・お?かなり西(右手)の川ぞいの方に、棒がささっている。思ったより西側だった様だ。
「ご主人さま~”ふくろ”だよ~」
ミケネコさんが嬉しそうに報告してくる。尻尾もウネウネとウェーブしている。
「あぁ、やったな」
宝箱と同様に”早い者勝ち”であるので、足早に向かう。ほぼ”目印の棒”の位置だ。
「ね~ご主人さま~、これなに~?」
近付いていくとミケネコが、デスペナルティ(死んだ際の罰則)の”袋”の隣に、小さな”首輪”が落ちているのに気がついた。
「あぁ、これもまた”一種の宝箱”なんだ」
「これも たからばこ~?」
落ちている”袋”と”首輪”を見つめてみる。
《名:†カムイ† の遺産 所有者:なし 〈最期〉盗ゾック(斧)LV8と戦って敗れる》
《名:賞金首の首輪[†カムイ†] 懸賞金:84,000G 所有者:なし》
当然だが、”所有者:なし”なので、ありがたく”遺産”と”首輪”を頂戴する事にする。『死亡してしまったので[†カムイ†]の懸賞金は半額になってしまった』ようだが、それでも高額だ。”賞金首の首輪[†カムイ†]”は、すぐにインベントリに放り込む。
※”賞金首”は”逮捕”でも”殺害”でも良い、しかし『逮捕だと賞金満額』支払われるが、『殺害だと賞金半額』となってしまう。
袋の中には・・・2,410Gだ。赤ネーム(賞金首)のデスペナルティは、「所持金の1/10を落とし、LVが1ダウン」なので”24,100G”も持ち歩いていた様だ。
まぁ”何か装備を買うつもりでGを貯めていた”とか、TJO未経験者っぽかったから、特に何も考えずに”大金を持ち歩いていた”可能性もあるな。ともかく この遺産も腰の”袋”にさっさと収める。
「よしっミケネコ、今朝はお祝いに、羊饅頭とバリ好きーにしよう」
「いいの~?」
「あぁ、凄い収入だ、かなり楽になる」
「やった♪」
ミケネコさんは早くも”朝ご飯”の事を考え、ウキウキしている様子。尻尾もウネウネだ。まだ”宝箱探し”の途中であるので、少しだけミケネコのアゴの下をコショコショしてやった。
「………」さてここで「お前の方が悪人じゃないか!」などと、色々と文句がある方が居るかも知れない。しかしそれでは、俺は一体”何をした”のだろうか?
俺は盗ゾック(斧)LV8と戦闘していて、突然†カムイ†に斬りかかられ、悲鳴を上げて逃げ出した・・・だけである。そして翌朝、”偶然”同じ場所にやって来てみたら、早い者勝ちの”袋”と”首輪”が落ちていた、だから有難く頂いた。・・・それだけなのだ。
確かに俺は色々と、システムや仕様を利用していたかもしれない、だが結果として何ひとつ悪事などは行っていないのだ。
そもそも「俺に斬りかかってこなければ」、「賞金首になった際の自分の異変に気付いていれば」、「盗ゾック(斧)をガン無視していなければ」、「盗ゾック(斧)に斬りかかられ、すぐに”通常状態”に切り替えて逃走していれば」、おそらく†カムイ†は死ななかっただろう。
全ては彼の”判断”と、”選択”の結果、でしか無い。よって俺は†カムイ†に対しては、良心の呵責などは何も無いのだった。視界の右下の方へ意識を向けると<04/05(金)AM 04:33>と表示されていた。
LV:10(非公開)
職業:みならい僧侶(偽装公開)(僧侶)
サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)
所持金:8,075G
武器:なし
防具:布の服
所持品:10/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×24、バリ好きー(お得用)95%、樽(中)100%、コップ(木)、サクランボ×1、鋼のナイフ、鉄の斧、青銅のブーツ、賞金首の首輪[†カムイ†]懸賞金:84,000G
「ご主人さま~、くびわってなに~?」
「”賞金首の首輪”か、”賞金首”だから”本来”なら『本人を捕まえる』か、仕留めた証として『首(頭部)を持って帰る』ところだが」
「くび~?」
「あぁ、しかし首を刎ねて持って帰るのは、ゲーム的に色々とマズいから、”首”じゃなく”首輪”をドロップする事にしたんだろう」
「ふ~ん」
「ともかく首輪を見つけると、いっぱい”しあわせ”になるぞ」
「”くびわ”も、いっぱいみつけて、いっぱい”しあわせ”になる~♪」




