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039 [ヘアルツ]南口1 <04/04(木)PM 06:08>

 出会いの街[ヘアルツ]に到着して、真・クリスタルの力によってLV10へとLVUPし、宿屋を確保した俺は、そのまま夕暮れまでの時間を”プレイヤーショップ巡り”をして過ごした。

 その後少し早い晩飯として、ミスターチキン[ヘアルツ]店で、ササミカツ丼を食べて、”宝箱探し”をするべく南口1前広場へやって来ていた。



◆◆◆出会いの街[ヘアルツ]”主要街路”イメージ図◆◆◆

※東1、南1の十字路の中心にクリスタル


  21

  北北

2西╋╋東2

  ┣┫

1西╋╋東1

  南南

  21



 「………」すっかり忘れていたのだが、出会いの街[ヘアルツ]には、方角毎に門が2つ存在する。そのためゲーム時代は、難易度の低い方を1、高い方を2と呼んで混同しない様にしていた。・・・というわけで、今後はゲーム時代と同様に呼称する事にしようと思う。



 さて、昼間に探索や、ダンジョン募集に参加しなかった理由なのだが、”来たばっかり”というのもあるが、周辺モンスターとの戦闘データが全く無いからである。

 どいつのどの攻撃で、どれくらいのダメージであるか?少しは把握しておきたい。それとLVUPと転職で、治癒能力とMAXHPの関係のバランスが、どう変化したかも調べておくべきだろう。転職後に”辻ヒール”すらしていない状態で、さすがに”ぶっつけ”でパーティ参加するのは気がひける。


 そんな事を考えながら、南口1前広場にやってくると、引き上げてきたプレイヤーやパーティの姿があった。とりあえず広場の片隅を見るとベンチが空いていたので、いつもの様にそこに座り、インベントリから”バリ好きー(お得用)”を取り出した。量り売りしてもらったので満タン(100%)だ。昼飯は、ひつじまんとう?(不確定名)だったしな。


 ミケネコさんは初めて食べた時の様に、両前足を俺の足について立ち上がり、尻尾をブンブン振り回している。だから犬っぽいですよ?

 どうやら長時間バリ好きーを摂取しなかったため、禁断症状が出始めている様子。やはりコレにはヤバイ成分が入っているとしか・・・。

 まぁ無意味に”おあずけ”にする必要も無いので、素早く掌に小盛りにして、興奮したミケネコさんの前にバリ好きーを差し出す。


「はい、どうぞ」

「やった♪」

 カリカリカリポリ、カリカリカリポリ・・・凄い勢いでミケネコがバリ好きーを噛み砕いていく。う~ん、羊饅頭ひつじマントウも美味しそうに食べていたのだが、やはりバリ好きーが絶対王者なのだろうか。夢中で食べているミケネコさんを見てから、広場の様子をうかがう。


 LVは5~12といったところだ、まだ”みならい”が多い、強行突破してきた場合は、この南口1方面でLVUPを狙うしか無いだろうから、俺を含めて、ここに居るのが[ヘアルツ]での最低LV者という事になる。

 さすがにLV4以下でやって来るプレイヤーは居ないのか見当たらない。まぁここでの最弱モンスターはLV5だしな。「イルカモネ山猫LV5ぐらいは、問題無く倒せる様になってから来てね?」という事だろう。


 それから広場の北西側、ちょうど南口1と南口2の中間地点あたりに、”治療院”が確認出来た。[ヘアルツ]から登場する施設だ。有料でHPの回復と状態異常の治療が可能である。


 気がつくとミケネコさんが、ザラザラの舌で俺の掌を舐めていた。”バリ好きー分”を補給出来て満足したのか、ミケネコはいつもの様に毛づくろいをしながら、


「しあわせ~」

 とつぶやいた。ふむ、しあわせ成分は、バリ好きーにしか含まれていない可能性が?、さっそく学会で発表せねば。・・・などと どうでもよい事を考えつつ、不要になったバリ好きーをインベントリに放り込んだ。


「よし、ともかく様子を見てまわろう」

「は~い」

 ミケネコを連れて南口1の門を抜けて街の外へ向かった。



 門を抜けるとそこは・・・お花畑でした。うん、ゲーム時代と同じだな、出会いの街[ヘアルツ]名物の一つである。


 ここ南口1,2方面には、”非アクティブモンスター”である”発芽ねずみ”LV5が居る。名前の通り、”何か”が頭から発芽はつがしているファンシーなネズミで、よく見ると愛嬌がある顔をしている。そして、死ぬとそのまま植物が育ち花を咲かせる、というヘアルツ周辺の”美観に貢献している”らしい変なモンスターなのだ。


 しかし”病原菌媒介生物”であるので、迂闊うかつに接触すると病気に感染する。その繁殖力と病気感染防止のため、ギルドでは討伐を推奨している。

 よく見ると花畑の そこかしこに、発芽ねずみの姿が見られる。とりあえず、


「・・・万能抗原体[オールマイティーワクチン]」


 気休めだが、せっかく”対策スキル”があるのだから使っておくべきだろう。ゲーム中の感触だと”対策無し”と比べると、状態異常発生率や、感染率は確かに低かった。


 「………」ところでTJOのこの”状態異常:病気”であるが、実は本人には全く害が無いのである。その代わり”接触感染”であるので、触れる、触れられると”一定の確率”で相手に感染してしまうのだ。もちろん相手にも全く害は無い。

 それでは「状態異常:病気 とは何なのだ?」とお思いになるだろう。なんと接触感染させてしまうと、”通常状態”であっても、相手へ”攻撃した”とみなされるのだ。

 パーティ、クラン、レギオンのメンバーであれば問題は無いのだが(感染はする)、そうで無い相手に感染させてしまうと、善行悪行値がマイナスされてしまい、イエローネームになってしまう。『無神経に病気を他人に移した』という悪事が罰せられるのである。


 感染してしまった場合、アイテムか、先ほどの”治療院”で治療しないと、ひたすら善行悪行値がマイナスされ続ける可能性がある、という恐ろしい状態異常なのだ。

 ただし、感染したプレイヤーに故意に触れる、故意に接触し感染させて他の人物に接触させる等、わざとイエローネームにさせようとした悪質プレイヤーが存在したために、感染後”60分間”は他のプレイヤーに感染しない様に修正された(ちなみに彼等は即座にBANされた)

 状態異常:病気感染59:59 →00:00になると発症 →状態異常:病気


 まぁようするに、病原性ウイルスを運ぶ者キャリアにされてしまう状態異常である。実際のエイズ等の様なキャリアと違うのは、絶対に症状がない、というところだろうか。

 実害が無いため子供の「エンガチョ」や「バリア!」などの遊びの様でもあるが、TJOは悪事へのペナルティが重いため、遊び感覚で他者に感染させたりすると酷い目にあう。


「ご主人さま~?」

 また長考してしまった様だ、ミケネコさんに頼りすぎになっている。

「すまん、助かる」

 ミケネコさんのアゴの下を、少しコショコショしてから今後の方針を説明する。


「とにかく この花畑の外側を、大きく時計回りで宝箱を探す、ネズミに触らない様に注意だ」

「は~い」

 まずは南口の塀に沿って東に進むと大きな深い亀裂が走っている、この亀裂があるために[ヘアルツ]は、北方向に拡張されていった、という設定だ。

 亀裂の向こうには俺達のやってきた”東口1方面”が見えているのだが、一番狭い場所でも10mはあるので飛び越えるのは無理がある、つまり[スパデズ]の様に街を1周とかは出来ない。(そもそも北口方面の散策は、LV30程度は無いと無理である、[スパデズ]村の様に、数LV差のモンスター配置ではないのだ)


 そしてその亀裂にそって南東に進んでいくと対岸まで30mほどある大きな川があり、亀裂に向かって滝の様に流れ落ちているのだが、亀裂が深いため流れ落ちる途中で霧状になっていて、日中は”大きな虹”が見られる絶景ポイントになっている。

 ちなみに川の対岸からは、その亀裂の一部がスロープの様になっていて、滝の裏側のダンジョン[虹の洞窟]へと続いているのだが、推奨LVは最低でも50以上は欲しいところだろうか。今の俺には関係の無い場所であろう。



 この川の付近に来ると花畑はまばらになり、辺りには”茶色”のニワトリが見られる様になってくる。”非アクティブモンスター”の”ナゴヤシュダガヤ”LV7だ。

 ナゴヤシュダガヤは、伯爵はくしゃくレグホンLV3よりも身が締まっていて戦闘力が高いのだが、発芽ねずみLV5の”病気感染”を嫌うプレイヤーは、こちらをメインに狩る事が多い。


 まぁこの[ヘアルツ]南口方面で、万能抗原体[オールマイティーワクチン]を使える”みならい僧侶”系の、活躍の場を用意してくれていたのだろうが、運営もこんなに僧侶系を選ぶプレイヤーが少ない、とは思っていなかったのだろう。

 おまけに『完全に防げるわけでも無い』という微妙さも相まって、発芽ねずみは”対処法の無い状態異常を使うモンスター”扱いで、[スパデズ]のシマブタなみに敬遠されていた。(発芽ねずみを狩る→感染する→治療院で治療→治療費がかかる→「マズ~い、もうたくさん」という訳だ)

 そして積極的に「狩ろう」というプレイヤーがあまり居ないので、”みならい僧侶”系も見せ場を1つ失った、という悲しい過去がある。



 だがどちらにせよ”非アクティブモンスター”なので、初回こそ”初遭遇ボーナス”が貰えるが、俺にとって、今後は2種とも”どうでもよい存在”となる。


 宝箱を探しつつ、目新しそうな素材をミケネコさんのストレージに放り込んでいると、前方に”黄色の一つ目模様の兜”を着用した存在を発見した、周囲に人影は無い。視界の右下の方へ意識を向けると<04/04(木)PM 06:42>と表示されている。


「ミケネコ、予定を変更するぞ」

 どうやら一足早く”苦行”の時間がやってきた様だ。

LV:10(非公開)

職業:みならい僧侶(偽装公開)(僧侶)

サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)

所持金:5,665G

武器:なし

防具:布の服

所持品:9/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×24、バリ好きー(お得用)95%、樽(中)100%、コップ(木)、サクランボ×1、鋼のナイフ、鉄の斧、青銅のブーツ



万能抗原体[オールマイティーワクチン] あらゆる状態異常、病原体への抵抗力をあげ予防する、万能だが過信は禁物、感染してからは効果が無い。


※実は、状態異常に対して”抵抗失敗”や、”感染の判定”が出た場合に、『90%の確率で強制的に回避する』という結構”強力な効果”なのだが、”何度回避しても運悪く元の”感染などの判定”が出まくる”、”運悪く10%に当たる”等で、プレイヤーにとってみれば「食らう時は食らう」ため、”気休め”呼ばわりされている不憫ふびんなスキルである。



「ご主人さま~”なごやしゅだがや”ってなに~?」

「ナゴヤシュダガヤか、まぁ詳しくは話せないのだが、そのままらしいぞ」

「そのまま~?」

「あぁ、そのまんまだ」

「ふ~ん??」

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