028 イルカモネ山猫いるわけね <04/03(水)PM 03:28>
はじまりの街[スパデズ]周辺で、唯一のダンジョン[山の洞窟]1層の探索を、安全第一で”終了とする”事にした俺達は、オートマッピングによって作成されたMAPを確認しながら、フィールドへと続く”出口”へ戻って脱出し、それと同時に1層一掃作戦(改)も終了した。全てが順調という事は無かったが、それでも”はじめてのダンジョン探索”は、全員が無事に終える事が出来たのだった。
「う~ん、や~っぱ外は空気が良いね~」
「そうだね、中は息苦しい感じだったねぇ」
「・・・きもちいい」
「なんとなく気分がすっきりしますね」
ミケネコさんも外に出て「う~ん」と、両前足を前方に伸ばしてから、プルプルプルッと全身を震わせている、ダンジョン内では緊張していたのだろう。しばらくアゴの下をコショコショしてやった。
「でも・・・やっぱり”BADもーびる”出なかったねぇ」
「でませんでしたねぇ」
「・・・みたかった」
3人でなんとなくツカサさんの方を見る、つられてミケネコさんも見ている。
「ん~、まぁ?ちょ~っと運(LUC)が悪かったかな~?とか?」
そんな事を言いながら、ツカサさんは俺達から視線をそらした。
「ま、まぁいいじゃ~ん?みんな無事だったんだし~」
「そうだね」
「・・・うん」
「そうですね」
ツカサさんが話題を逸らしたようだが、みんな特に追及しなかった。まぁ俺達も激レアドロップが”そんなホイホイ出る様なモノ”だとは思っていなかった、というのもある。
なんと言っても俺はこの世界に来てから”激レア”が出るのを一度も見ていないのだ、激レアは一応知識として知っている程度で、普通は”レアが何度か出ればラッキー”ぐらいの感覚である。
「さて、ここで話してても仕方無いので、街に戻りましょうか」
ユウコさんがそう切り出す。
「そうだね~」
「・・・帰るまでが遠足」
「了解です」
そうして俺達は、もうすっかり”お馴染みとなったフォーメーション”で[山の洞窟]から、[スパデズ]北口まで続く道を、歩いて戻りはじめたのだった。
「!!・・・ユウちゃんっ、向こうから1体来るっ」
森の中の道を半分ほど来た辺りで、シノブさんの 警報:急襲[レイドアラート]が、”戦闘状態”に切り替えた存在を察知した。1体という事は、おそらくイルカモネ山猫LV5だろう、トシマ山猫LV8は常に何体か引き連れているし、レアPOPなので可能性は低い。
ユウコさんも即座に”戦闘状態”に切り替えて、”鉄の長剣”を腰から抜き、シノブさんが指差した方向に対して、左手の”青銅の盾”を構えた、戦闘BGMが流れる。
ガサガサガサ・・・と草木をかき分ける様にしてイルカモネ山猫が姿を見せる。そこへ、すでに待ち構えていたユウコさんが、右手の”鉄の長剣”でなぎ払う様にして斬りつけ、すばやくFAを取った。
「ギニャアアァァァ・・・・」
先制攻撃を仕掛けようと飛び出してきたイルカモネ山猫が、逆に出鼻を挫かれた形で斬り払われて叫び声をあげる。イルカモネ山猫の憎しみ(ヘイト)がユウコさんに集中する。
「・・・やぁ」
ユウコさんにヘイトが集中したのを見て、さっとイルカモネ山猫の背後に回りこんだシノブさんが、”鉄の刀”を逆手に持って、イルカモネ山猫の背中を横一文字に斬りつけた。
「ギニャッ!」
背中から攻撃を受けたイルカモネ山猫が吹き飛んだ。その時、斬りつけたシノブさんが、更に”戦闘状態”に切り替えた存在を察知した。
「!!・・・ユウちゃんっ、あっちからも1体来るっ」
シノブさんが指差した方向は、道の反対方向だ、おそらく戦闘の気配か、イルカモネ山猫の叫び声などに反応したのだろう。
「もう1体に注意して、とにかくコイツを先に仕留めましょう」
「・・・うん」
「了解です」
「おっけ~、それじゃユウちゃん魔法行くよ・・・火球[ファイヤーボール]」
これまで通り1体ずつ、確実に仕留めて減らす作戦を取る。ユウコさんが”青銅の盾”をしっかり構えたのを見て、ツカサさんが火球[ファイヤーボール]を唱えた。
”樫の杖”の先からソフトボールほどの火の玉が飛び出し、背後からシノブさんの攻撃を受けて、吹き飛んで倒れていたイルカモネ山猫に向かって飛んでいく。
だがイルカモネ山猫は素早く起き上がると、FAを取ったユウコさんに対して飛びかかった。火の玉は直前までイルカモネ山猫が倒れていた、何も居なくなった地面に当たって少し燃えて消滅してしまう。
「あちゃ~、ごめ~ん」
イルカモネ山猫LV5は小柄で素早い、先ほどまでのヒキ蝙蝠LV4より上なのだ。LVだけなら 山ゾック(斧)LV6の方が上だが、あちらがSTR重視で動きが鈍いのに対し、イルカモネ山猫はDEX重視といった感じであり、攻撃力が控えめな代わりに素早い。そのため飛び道具で狙うのは少々厄介な相手だ。
「このっ」
しかしユウコさんは飛びかかってきたイルカモネ山猫に対し、あえて左手に持った”青銅の盾”で叩きつける様に迎えうった。いわゆるシールドバッシュ(盾殴り)等と言われる技術である。これが小柄なイルカモネ山猫には効果的だった。
「ギニャンッ・・・」
ユウコさんの”青銅の盾”による迎撃で、まともにカウンターを食らった形となった最初のイルカモネ山猫は、そのまま地面に倒れて息絶えた。
「次・・・」
ユウコさんはすぐに次のイルカモネ山猫?が来るであろう方向に、”青銅の盾”を構えて走っていく。しかし「ガサガサッ」という音とともに、草むらから飛び出してきたイルカモネ山猫Bは、そのままユウコさんの足元をすり抜けて俺に飛びかかってきた。どうやらユウコさんより先に、俺が最初に見つかっていたらしい。
残念な事にVITにしか振っていない俺に、回避するほどの敏捷性は無かった。
「ご主人さまっ」
「ニャアァァァッ」
とっさに首と顔を庇って、身をよじった俺の左肩辺りに、イルカモネ山猫Bの右前足の爪がザリッっと掠めていく。
「っいっ、つぅ・・・」
布の服しか着ていないので、斬撃系の攻撃は効果ばつぐんである、まぁ防御力や耐性などは皆無というか、むしろ全裸に近い状態なので、”俺に効果がイマイチな攻撃”というのも想像出来ないのだが・・・
3本の爪跡が肩に現れ、シュバッと血が吹き出る。とっさにHPゲージを確認すると25%程度のダメージだ。身体をよじっただけ、これでもカス当たりになった感じだろうか。しかし”痛み”は結構ある。
「ち・・・治癒魔法[ヒーリング]」
左肩に手をそえて、自分で回復する。HPはそれで全快した。痛みもすぐに和らいでいく。見ると急いで戻ってきたユウコさんが素早く斬りかかり、もうイルカモネ山猫BのFAを取っていた。頼れる人だ。
「追撃よろしく~・・・魔力の矢[マナアロー]」
ユウコさんがFAを取ったのを確認して、ツカサさんが”2人へのいつもの警告をせず”に魔法を唱える。ツカサさんの構えた”樫の杖”の先から、30cmほどの”光る矢”が現れて、イルカモネ山猫Bに向かって飛んでいく。
イルカモネ山猫Bはユウコさんに飛びかかろうとして、左右に素早く動いて隙を狙っていたのだが、動いたイルカモネ山猫Bに、方向を修正しながら”光る矢”が飛んで行き、見事に突き刺さった。
「ミギャ!?」
突然の背後からの攻撃に驚いたのか、イルカモネ山猫Bの動きが止まる。それを待ち構えていたかの様に2人が前後から斬りかかる。
「それっ」
「・・・やぁ」
ユウコさんが上段に構えた、”鉄の長剣”を思いきり振りおろす。それと同時にシノブさんが背後から、逆手に持った”鉄の刀”でイルカモネ山猫Bの背中を横一文字に斬りさく。
「ニャウンッ・・・」
一声鳴いてイルカモネ山猫Bは、その場に倒れこみ、息絶えた。
「ご主人さま?」
「あぁ、もう何とも無い」
戦闘が終わると、ミケネコが心配そうに俺を見上げていた。安心させるために少し額をコリコリしてやる、やはりくすぐったそうだ。
「………」しかし25%程度とダメージ的には、それほど大した事が無いはずなのだが・・・ゲーム時代は”痛み”は計算に入れなくて良かったし「まぁ死んだら死んだ、だ」というプレイだったが(デスペナルティ対策で、普段から大金を持ち歩いたりは、していなかったし)復活できるのか判明するまでは、安易に死んでみるわけにはいかない。今後の事を考えると頭が痛い問題だ。
「大丈夫ですか?」
戦闘が終わり”通常状態”に戻したユウコさんが心配して声をかけてくれた。
「えぇ、大した傷では無かったので、それよりすみません、タゲられてた(ターゲット、攻撃目標にされていた)の気付かなくて」
「いえ、追加モンスターは仕方無いですよ」
通常時は、やはり先頭を行くユウコさんが、一番モンスターなどの目に止まりやすいため、そのままユウコさんに仮ヘイトが向き、隙を付いてFAを取って本ヘイト、それを確認してからツカサさん、シノブさんがHPを削る・・・となるのであるが(というより そのためのフォーメーションなのだが)戦闘中にやってくる追加モンスターは、どうしても運次第なところがある。
油断していたわけでは無いのだが、やはり、みならい僧侶系は、戦闘系の補正は弱いので、パラメータもしっかり振ってないと、思った様には身体も動かない。”育成セオリー”を無視して、HPだけ上げた俺みたいな行為には、やはり相応のリスクがあるのだ。
ちなみに、イルカモネ山猫2体のドロップは、”Gと山猫の皮×2”だった。まぁここでポーンと激レアとか出たら、俺達は少々モヤモヤした事だろう。
イルカモネ山猫の激レアドロップは”山猫の剥製”である。しかし別に天然記念物でも、絶滅危惧種でも何でもないので、剥製は売っても 5,000G程度なのだ。”抽選確率が違う”と理屈でわかっていても「せっかく激レアが出るなら”BADもーびる”が出れば・・・」と思うのが人情だろう。
「では、街に戻りましょう」
「りょ~か~い」
「・・・帰るまでが遠足」
「了解です」
そのまま道なりに北の森を抜けた俺達は、周囲に点在するバルーンラビットLV1などを眺めながら進み、はじまりの街[スパデズ]北口の門をくぐった。
そうして最初に3人と出会った北口広場に戻って来たのだった。そっと視界の右下の方へ意識を向けると<04/03(水)PM 04:04>と表示されていた。
LV:6(非公開)
職業:みならい僧侶(偽装公開)(みならい僧侶)
サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)
所持金:525G
武器:なし
防具:布の服
所持品:9/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×5、バリ好きー(お得用)70%、青銅の長剣、樽(中)95%、コップ(木)、サクランボ×1、鋼のナイフ、鉄の斧
火球[ファイヤーボール] ソフトボール大の火球を作り出し、対象1体にぶつけて炎と衝撃によるダメージを与える。
魔力の矢[マナアロー] 術者の魔力そのものを”無属性の矢”として放ち、対象1体にぶつけてダメージを与える、威力は控えめだが追尾性能が高い。
治癒魔法[ヒーリング] 精神力によって半径10m範囲内の対象1体の傷を癒す。
補足:僧侶なので精神力という説明だが、実際にはINTと職ボーナス、職補正により回復量が変化する。
「ご主人さま~、ぼうぐかわないの~?」
「あぁ、もったいない、からな」
「いのちあってのもの だねぇ?だよ~」
「命あっての物種な、それじゃLVUPしたらVITに振るか」
「なんで~!?」




