024 情報交換 <04/03(水)AM 11:58>
はじまりの街[スパデズ]周辺で唯一のダンジョン、[山の洞窟]の1層を探索中の俺達は、2度目の山ゾック(斧)LV6 との戦闘を終え、少し会話をしていた。
”通常状態”でHP/MPが微回復するTJOにおいては、こういった時間は”戦闘で消費したMP”を回復させるのに効果的であるので、戦闘後はその場でしばし留まる事がある。
ちなみに以前に話した様に、フィールドPOP宝箱は「プレイヤーの周囲100m範囲にはPOP(出現)しない」という条件なのだが、モンスターは「プレイヤーの周囲20m範囲にはPOPしない」という条件である。
この20m範囲とは、簡単に言ってしまえば、TJOゲーム時代の”おおよそゲーム画面の範囲”である。ようするに、ゲーム画面内に突然モンスターがわき出してくると不自然であり、また戦闘中に突然わき出して、乱入される・・・という事になると事故死が多発してしまう。
以上の理由により、画面内(20m範囲)でモンスターがPOPしない様になっているので、周囲のモンスター討伐後などは、比較的安全に回復、アイテム分配、休憩などが行えるのである。
つまりフィールドPOP宝箱は、ゲーム時代の感覚で言うと、約5画面分移動すればPOPしている可能性がある、という事だ。現在ではリアルな感じになってしまい、遠方まで見る事が可能となったので、その内20m向こうで”モンスターがPOPする瞬間”を目撃したりするようになるのだろう。リアルなんだか何なんだか・・・
「そろそろお昼ですし、このまま休憩がてら、少しお話しませんか?」
「あ、そうですね」
「あ~お昼だね~」
「・・・・・・」
俺の提案に特に反対は無いようだ。そしてシノブさんはミケネコしか見えていない。
「みなさん何か食料は?」
「ん~?別にお腹すいたりしないし~、買うの”もったいない”じゃん、そりゃ料理人が作ったのなら?しばらくパワーアップするけど~」
「私も特に買ってないですね」
「・・・ない」
「………」うん、まぁそうなんだよな。やはり「しあわせになる」だけなのだろう。しかし俺は、どうにも不安が拭いきれない。「ゲーム時代の感覚でいると足元を掬われる」・・・そんな強迫観念めいたものが頭から離れない。
俺はその場に座り、インベントリから干し肉を4切れ取り出すと、3人に1切れずつ渡す。
「俺1人で食べるのもアレなので、どうぞ」
「え、あの」
「ん~?なに~?」
「・・・・・・」
「”鉄の斧”いただいちゃったので、お釣りという事で・・・」
「・・・はい、じゃぁ」
「まぁ、そんじゃあ」
「・・・ん」
3人も受け取った後で、座って干し肉を食べはじめた。それを見てミケネコは、あぐらをかいた俺の足の上に乗って丸くなる。干し肉をかじりながらサラーッと背中を撫でる。
「それで話というのはですね、その事もあるんですよ、昨日は朝、昼としっかり食べて、夕方に干し肉1切れ食べて、それで晩は特に食べないで寝たのですが、朝起きてもお腹は空いて無かったんですよね」
「えぇ、お腹とか空きませんよね」
「まぁゲームだからじゃな~い?」
「・・・べんり」
「でも疲労感?というか朝起きた時に、かなりしんどかったんですよね」
「・・・言われてみれば、朝起きた時かなり、つらかった様な」
「え~、ユウちゃんも~?」
「・・・つらかった」
「マドちゃん達も・・・だったんだ」
「でも、何かしらないけど、無理が出来てしまいませんか?」
「・・・」「・・・」「・・・」
「それで、そういう食欲とか生理的な現象?とかって、鈍感になってるだけで、身体にはダメージが残ってて、蓄積されてる様な気がしたので、食事も水分も意識して、しっかり取ろうかと思ってるんですよ」
「あ~そう言えば~?洞窟に入る前も~水?飲んでたね~」
「飲んでましたね」
「えぇ・・・まぁ慣れない世界?で、気疲れとかかもしれない、とも考えたのですが、ここ一番で注意力が散漫になったり、身体がいう事を効かなくなったら困るので」
時折ミケネコの背中をサラ~っと撫でる。ミケネコは丸くなったまま、完全に目を閉じてくつろいでいる。
「・・・とまぁ、それは一旦置いておいて、こちらが話したい事の本題なのですが、どなたか復活された人をご存知無いですか?」
「復活ですか?」
「クリスタル前に~?降ってきた人って事~?」
「えぇ、確実に”復活した”と断言できる人です」
「えっと、まだ見てないですね」
「ん~、誰も見てないかな~」
「・・・しらない」
「実は私もブラックネームの人を見かけたので、急いで戻ってクリスタル前をずっと見ていたんですが、15分過ぎても復活しなかったんですよ」
「・・・」
「え~、でも~」
「もちろん、戻っている間にすでに復活して、どこかに行った後だったとか、実は次の街のクリスタルに触っていたから、向こうのクリスタル前で復活した、・・・という可能性もあるのですが、それから彼等が街を歩いていたり、誰でもいいからクリスタル前に、降ってくるのを見かけたり、という事が無いんですよね」
「・・・」「・・・」「・・・」
「まぁそれで嫌な感じがしたので、VITに全振りした・・・と、そういう事なのですが」
「復活・・・出来ないかもしれないって事ですよね?」
「えぇ」
「・それじゃ・・・」
「・・・マドちゃん」
ツカサさんは先ほどの事を思い出したのか、心無しか顔色が悪くなった様に見えた。
「いえもちろん、たまたま見かけて無いだけかもしれません、ただ”この世界でも復活できる”という確たる証拠が得られない内は、色々と慎重になった方が良いかもしれないなぁ、と」
「そうですね」
「そ、だね・・・」
「・・・うん」
「これからは三食は、ちゃんと食べよっか?」
「ん、そ~だねぇ」
「・・・たべる」
俺は干し肉を先に食べ終わってしまったので、インベントリからバリ好きーを取り出し、袋から掌に小盛り分取り出して、ミケネコの前に差し出した。ミケネコが袋のガサガサという音に反応して、耳をピクピクさせながら目を開ける。
「ほら、ミケネコも食べておけ」
「やった♪」
カリカリポリポリ、カリカリポリポリ・・・ミケネコがバリ好きーを噛み砕いていく。食べている間は背中を撫でるのをやめる、落ち着いて食事をさせてやるべきだろう。”しあわせ” になっている最中だしな。
「それで復活した人を見つけたら、見かけた時にでも教えてもらえると助かります」
「はい、そちらでも見かけたらお願いします」
「えぇ」
「え~それで・・・それらを踏まえて、2層の事です」
「あ、山ゾック(銃)ですか?」
「あ~、山ゾック(銃)だね~、ヤバいかな~」
「・・・・・・」
シノブさんは、ミケネコがバリ好きーを”しあわせ”そうに噛み砕く姿をじっと見ている。
「………」山ゾック(銃)LV7、[山の洞窟]2層を、通常は単体で見回りしている。
かつて銃を使っていた”斥候”のなれの果て、賞金首になって山の洞窟に逃げ込んだという設定で、何故か山ゾック(斧)LV6と同様に、”緑の一つ目模様の兜”を着用している。
名前と由来の通り、ハンドガンを使って攻撃をしてくるのだが、その射程は5m程度と、それほど飛距離は無い。しかし直撃すると かなりの威力で、壁役などは耐えられるが、低LV者や防御力、HPの低い者などは簡単に即死してしまう。
その代わり本来は威嚇用なのか、銃の品質が良くないので、勝手に暴発をおこして自滅する事も多い。TJOにおける銃の威力とその欠点、デメリットを教えるために、存在しているとも言われている。
デスペナルティがあるとはいえ、いくらでも復活出来るゲーム時代であれば、殺される確率は高いが、この近辺ではLVが高い割に、頻繁に勝手に暴発をおこして自滅してくれる、という”良いカモ”でもあったのだが・・・(実際にゲーム時代は、デスペナルティ対策で所持金をほぼ持たずに、2層に特攻してドロップや宝箱を狙うプレイヤーは多かった)
「ん~、やめといた方がいっかな~、アタシとシノちゃんは即死じゃないかなぁ」
「うん、復活できるか、わからないなら、山ゾック(銃)は危ないよね」
「・・・安全第一」
「ですよねぇ」
「………」まぁこれで「いやぁ大丈夫だって~、行こ行こ」などと言われたら、俺は「(居ない)フレに呼ばれた(気がした)ので~」と言うつもりだった。
食らえば物凄いダメージ、しかしたまに勝手に自滅する。経験値もドロップも良い。(自爆前に与えたダメージ分しか経験値にならないが、FAボーナスは入るし、LVが高いので、それでも美味しい)博打も博打、それが山ゾック(銃)LV7というモンスターだった。
ちなみに2層の奥の部屋には、このスパデズ[山の洞窟]のボス格である”ドス山ゾック”LV9 というモンスターが居て、常に山ゾック(銃)を2体従えている。
かつてナイフを使っていた”ナイフ使い”のなれの果て、賞金首になって山の洞窟に逃げ込んだ、という設定で、当然他の山ゾックと同じで、何故か”緑の一つ目模様の兜”を着用している。
元ナイフ使いだからか、ドス(短刀)を使うため”ドス山ゾック”と呼ばれる。某怪物狩猟のボス格モンスターとは関係無い。良い子は「あ~これ亜種の、海ゾック出てくるわ~、ドス海ゾック出てくるわ~」とか言わない(※出てきます)
「それじゃどうしよっか?、この通路の先を調べてから、最初の罠があった右の通路も行ってみる?」
「ん~、そんなとこかな~、1層全部まわって~それで終わり、でいいんじゃな~い?」
「・・・うん」
「いいと思います」
そっと視界の右下の方へ意識を向けると<04/03(水)PM 00:12>と表示されていた。
LV:6(非公開)
職業:みならい僧侶(偽装公開)(みならい僧侶)
サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)
所持金:525G
武器:なし
防具:布の服
所持品:9/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×5、バリ好きー(お得用)70%、青銅の長剣、樽(中)95%、コップ(木)、サクランボ×1、鋼のナイフ、鉄の斧
「今更だが、やっぱりミケネコは猫なんだなぁ」
「ねこだよ~?」
「最初は”空気読んでる”のかと思ったが、借りてきた猫って感じだ」
「ご主人さまに かってもらった~」
「猫は元来、臆病で人見知りだもんな、いきなり”知らない人間達”と”妙な洞窟”に来ちゃったからなぁ」
「ん~、こしょこしょ~」




