表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/98

024 情報交換 <04/03(水)AM 11:58>

 はじまりの街[スパデズ]周辺で唯一のダンジョン、[山の洞窟]の1層を探索中の俺達は、2度目の山ゾック(斧)LV6 との戦闘を終え、少し会話をしていた。

 ”通常状態”でHP/MPが微回復するTJOにおいては、こういった時間は”戦闘で消費したMP”を回復させるのに効果的であるので、戦闘後はその場でしばし留まる事がある。


 ちなみに以前に話した様に、フィールドPOP宝箱は「プレイヤーの周囲100m範囲にはPOP(出現)しない」という条件なのだが、モンスターは「プレイヤーの周囲20m範囲にはPOPしない」という条件である。

 この20m範囲とは、簡単に言ってしまえば、TJOゲーム時代の”おおよそゲーム画面の範囲”である。ようするに、ゲーム画面内に突然モンスターがわき出してくると不自然であり、また戦闘中に突然わき出して、乱入される・・・という事になると事故死が多発してしまう。

 以上の理由により、画面内(20m範囲)でモンスターがPOPしない様になっているので、周囲のモンスター討伐後などは、比較的安全に回復、アイテム分配、休憩などが行えるのである。

 つまりフィールドPOP宝箱は、ゲーム時代の感覚で言うと、約5画面分移動すればPOPしている可能性がある、という事だ。現在ではリアルな感じになってしまい、遠方まで見る事が可能となったので、その内20m向こうで”モンスターがPOPする瞬間”を目撃したりするようになるのだろう。リアルなんだか何なんだか・・・



「そろそろお昼ですし、このまま休憩がてら、少しお話しませんか?」

「あ、そうですね」

「あ~お昼だね~」

「・・・・・・」

 俺の提案に特に反対は無いようだ。そしてシノブさんはミケネコしか見えていない。


「みなさん何か食料は?」

「ん~?別にお腹すいたりしないし~、買うの”もったいない”じゃん、そりゃ料理人が作ったのなら?しばらくパワーアップするけど~」

「私も特に買ってないですね」

「・・・ない」


 「………」うん、まぁそうなんだよな。やはり「しあわせになる」だけなのだろう。しかし俺は、どうにも不安がぬぐいきれない。「ゲーム時代の感覚でいると足元をすくわれる」・・・そんな強迫観念めいたものが頭から離れない。


 俺はその場に座り、インベントリから干し肉を4切れ取り出すと、3人に1切れずつ渡す。


「俺1人で食べるのもアレなので、どうぞ」

「え、あの」

「ん~?なに~?」

「・・・・・・」

「”鉄の斧”いただいちゃったので、お釣りという事で・・・」


「・・・はい、じゃぁ」

「まぁ、そんじゃあ」

「・・・ん」

 3人も受け取った後で、座って干し肉を食べはじめた。それを見てミケネコは、あぐらをかいた俺の足の上に乗って丸くなる。干し肉をかじりながらサラーッと背中を撫でる。


「それで話というのはですね、その事もあるんですよ、昨日は朝、昼としっかり食べて、夕方に干し肉1切れ食べて、それで晩は特に食べないで寝たのですが、朝起きてもお腹は空いて無かったんですよね」


「えぇ、お腹とか空きませんよね」

「まぁゲームだからじゃな~い?」

「・・・べんり」


「でも疲労感?というか朝起きた時に、かなりしんどかった・・・・・・んですよね」


「・・・言われてみれば、朝起きた時かなり、つらかった様な」

「え~、ユウちゃんも~?」

「・・・つらかった」

「マドちゃん達も・・・だったんだ」

「でも、何かしらないけど、無理が出来て・・・・・・しまいませんか?」

「・・・」「・・・」「・・・」


「それで、そういう食欲とか生理的な現象?とかって、鈍感になってるだけで、身体にはダメージが残ってて、蓄積されてる様な気がしたので、食事も水分も意識して、しっかり取ろうかと思ってるんですよ」

「あ~そう言えば~?洞窟に入る前も~水?飲んでたね~」

「飲んでましたね」

「えぇ・・・まぁ慣れない世界?で、気疲れとかかもしれない、とも考えたのですが、ここ一番で注意力が散漫になったり、身体がいう事を効かなくなったら困るので」

 時折ミケネコの背中をサラ~っと撫でる。ミケネコは丸くなったまま、完全に目を閉じてくつろいでいる。


「・・・とまぁ、それは一旦置いておいて、こちらが話したい事の本題なのですが、どなたか復活された人をご存知無いですか?」

「復活ですか?」

「クリスタル前に~?降ってきた人って事~?」

「えぇ、確実に”復活した”と断言できる人です」


「えっと、まだ見てないですね」

「ん~、誰も見てないかな~」

「・・・しらない」


「実は私もブラックネームの人を見かけたので、急いで戻ってクリスタル前をずっと見ていたんですが、15分過ぎても復活しなかったんですよ」

「・・・」

「え~、でも~」

「もちろん、戻っている間にすでに復活して、どこかに行った後だったとか、実は次の街のクリスタルに触っていたから、向こうのクリスタル前で復活した、・・・という可能性もあるのですが、それから彼等が街を歩いていたり、誰でもいいからクリスタル前に、降ってくるのを見かけたり、という事が無いんですよね」

「・・・」「・・・」「・・・」

「まぁそれで嫌な感じがしたので、VITに全振りした・・・と、そういう事なのですが」


「復活・・・出来ないかもしれないって事ですよね?」

「えぇ」

「・それじゃ・・・」

「・・・マドちゃん」

 ツカサさんは先ほどの事を思い出したのか、心無しか顔色が悪くなった様に見えた。


「いえもちろん、たまたま見かけて無いだけかもしれません、ただ”この世界でも復活できる”という確たる証拠が得られない内は、色々と慎重になった方が良いかもしれないなぁ、と」

「そうですね」

「そ、だね・・・」

「・・・うん」


「これからは三食は、ちゃんと食べよっか?」

「ん、そ~だねぇ」

「・・・たべる」

 俺は干し肉を先に食べ終わってしまったので、インベントリからバリ好きーを取り出し、袋から掌に小盛り分取り出して、ミケネコの前に差し出した。ミケネコが袋のガサガサという音に反応して、耳をピクピクさせながら目を開ける。


「ほら、ミケネコも食べておけ」

「やった♪」

 カリカリポリポリ、カリカリポリポリ・・・ミケネコがバリ好きーを噛み砕いていく。食べている間は背中を撫でるのをやめる、落ち着いて食事をさせてやるべきだろう。”しあわせ” になっている最中だしな。


「それで復活した人を見つけたら、見かけた時にでも教えてもらえると助かります」

「はい、そちらでも見かけたらお願いします」

「えぇ」


「え~それで・・・それらを踏まえて、2層の事です」

「あ、山ゾック(銃)ですか?」

「あ~、山ゾック(銃)だね~、ヤバいかな~」

「・・・・・・」

 シノブさんは、ミケネコがバリ好きーを”しあわせ”そうに噛み砕く姿をじっと見ている。


 「………」山ゾック(銃)LV7、[山の洞窟]2層を、通常は単体で見回りしている。

 かつて銃を使っていた”斥候”のなれの果て、賞金首になって山の洞窟に逃げ込んだという設定で、何故か山ゾック(斧)LV6と同様に、”緑の一つ目模様の兜”を着用している。


 名前と由来の通り、ハンドガンを使って攻撃をしてくるのだが、その射程は5m程度と、それほど飛距離は無い。しかし直撃すると かなりの威力で、壁役などは耐えられるが、低LV者や防御力、HPの低い者などは簡単に即死してしまう。

 その代わり本来は威嚇いかく用なのか、銃の品質が良くないので、勝手に暴発をおこして自滅する事も多い。TJOにおける銃の威力とその欠点、デメリットを教えるために、存在しているとも言われている。

 デスペナルティがあるとはいえ、いくらでも復活出来るゲーム時代であれば、殺される確率は高いが、この近辺ではLVが高い割に、頻繁に勝手に暴発をおこして自滅してくれる、という”良いカモ”でもあったのだが・・・(実際にゲーム時代は、デスペナルティ対策で所持金をほぼ持たずに、2層に特攻してドロップや宝箱を狙うプレイヤーは多かった)



「ん~、やめといた方がいっかな~、アタシとシノちゃんは即死じゃないかなぁ」

「うん、復活できるか、わからないなら、山ゾック(銃)は危ないよね」

「・・・安全第一」

「ですよねぇ」


 「………」まぁこれで「いやぁ大丈夫だって~、行こ行こ」などと言われたら、俺は「(居ない)フレに呼ばれた(気がした)ので~」と言うつもりだった。

 食らえば物凄いダメージ、しかしたまに勝手に自滅する。経験値もドロップも良い。(自爆前に与えたダメージ分しか経験値にならないが、FAボーナスは入るし、LVが高いので、それでも美味しい)博打ばくちも博打、それが山ゾック(銃)LV7というモンスターだった。


 ちなみに2層の奥の部屋には、このスパデズ[山の洞窟]のボス格である”ドス山ゾック”LV9 というモンスターが居て、常に山ゾック(銃)を2体従えている。

 かつてナイフを使っていた”ナイフ使い”のなれの果て、賞金首になって山の洞窟に逃げ込んだ、という設定で、当然他の山ゾックと同じで、何故か”緑の一つ目模様の兜”を着用している。

 元ナイフ使いだからか、ドス(短刀)を使うため”ドス山ゾック”と呼ばれる。某怪物狩猟のボス格モンスターとは関係無い。良い子は「あ~これ亜種の、海ゾック出てくるわ~、ドス海ゾック出てくるわ~」とか言わない(※出てきます)



「それじゃどうしよっか?、この通路の先を調べてから、最初の罠があった右の通路も行ってみる?」

「ん~、そんなとこかな~、1層全部まわって~それで終わり、でいいんじゃな~い?」

「・・・うん」

「いいと思います」

 そっと視界の右下の方へ意識を向けると<04/03(水)PM 00:12>と表示されていた。

LV:6(非公開)

職業:みならい僧侶(偽装公開)(みならい僧侶)

サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)

所持金:525G

武器:なし

防具:布の服

所持品:9/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×5、バリ好きー(お得用)70%、青銅の長剣、樽(中)95%、コップ(木)、サクランボ×1、鋼のナイフ、鉄の斧



「今更だが、やっぱりミケネコは猫なんだなぁ」

「ねこだよ~?」

「最初は”空気読んでる”のかと思ったが、借りてきた猫って感じだ」

「ご主人さまに かってもらった~」

「猫は元来、臆病で人見知りだもんな、いきなり”知らない人間達”と”妙な洞窟”に来ちゃったからなぁ」

「ん~、こしょこしょ~」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ