023 経験者と基本4職 <04/03(水)AM 11:52>
はじまりの街[スパデズ]周辺で唯一のダンジョン、[山の洞窟]の1層を探索中の俺達は、広間から続く通路の先で発見した1体の山ゾック(斧)LV6 Aと戦闘を開始したのだが、さらにその角の先に居た山ゾック(斧)B、Cに乱入されてしまい、1体+2体との連戦に突入する。
ようやく山ゾックAが倒れたその瞬間、乱入してきた山ゾックBの攻撃の狙いが”スキル使用後の硬直状態”だったツカサさんだと気付いた俺は、とっさにツカサさんを突き飛ばし、入れ替わりとなった俺は大ダメージを受け、フォーメーションも乱されてしまったのだった。
しかし、その後なんとかフォーメーションを整えながら、ヘイトを1体ずつユウコさんに集中させ直して、乱入してきた山ゾックB、Cも順次撃破したのだった。
山ゾック(斧)3体は、196G、207G、203G、198G、それと青銅の斧を3本、鉄の斧を1本落としたようだ、苦戦したのに見合う程度の稼ぎと言っていいだろう。それにしても斧祭りだな。
「マドちゃん、シノちゃん」
ユウコさんは2人を交互に見ている。
「ん~、まぁ?いいんじゃない~」
「・・・いい」
2人の返事?を聞いてユウコさんがこっちを向く。
「あの、この”鉄の斧”は貰ってください」
「え? いや、ドロップは全てそちらで分けてもらっていいですよ」
「でも、マドちゃん助けてもらったし・・・」
「ん~、べつにアタシは?、どうでもいいんだけど~、まぁ”借り”とかヤだし~、たのんでないけど~、一応?助けてもらったし~、お礼?」
「・・・お礼」
「………」あの状況、3体との戦いとなると、ツカサさんは少しでも早く、まやかしの切れ味[フロードシャープ]をかけたいと考えたはず、補助魔法はなるべく戦闘直後、出来れば戦闘前にかけた方が効果が高い。
しかしユウコさんがヘイトを集めている場合と違い、乱入してきたモンスターは誰を攻撃するかわからない為、普通なら誰が攻撃目標になっているか?確認してからスキルを使用するのであるが、ゲーム時代の俯瞰的な視点と違いリアルになって勝手が変わったのと、早く補助魔法をかけたいという焦りで、そういったセオリーがつい飛んでしまったのだろう。
「まぁ・・・そういう事(貸し借りは無しにしておきたい)なら、ありがたく頂いておきます。”鉄の斧”も普段の道具として使い道ありそうですし」
「はい、マドちゃん庇ってくれて、ありがとうございました」
そう言ってユウコさんは微笑んでから、俺に戦利品の”鉄の斧”を差し出した。俺はそれを受け取り、インベントリに放り込む。
他のアイテムなどは、やはり代表でツカサさんがインベントリに収納している。
「てゆーかー、な~んで死なないわけ~?アタシとか死んでたと思うんだけど~?」
「マドちゃんっ!」
「でも~ユウちゃんもさ~、おかしいって思ってるんじゃない?布の服だよ~?実質、全裸じゃんっ」
「・・・全裸」
「ご主人様、ぜんら~?」
いや全裸ちげぇし、人を変態認定すんな。
「みなさん、TJO経験者ですよね?」
「えぇ、ずっとやってました」
「え~?突然なに~?」
「・・・全裸」
全裸ちげぇし。
「でしたら基本4職の職補正、職ボーナスとかは、ご存知・・・ですよね?」
「はい、えっと何にpt振ると効果が高い、とかですよね?」
「えぇそうです、それで昨日LVUPした時に、全部VITに振っただけですよ」
「はえっ?全部VIT?」
「え~?僧侶でしょ~、INTやMAGには振らなかったの~?」
「・・・・・・」
すでに話に飽きたのか、シノブさんはミケネコのゆらゆらする尻尾を、ひたすら目線で追いかけている。自由すぎる。
「………」さて、みなさまのイメージする”僧侶”とはどんな感じであるだろう。
白い服装で、頭を剃っていたり、細身で、回復魔法を使い、支援魔法を使い、効果の無い即死魔法をひたすら唱えたり・・・そんなイメージでは無いだろうか。
しかし現実には、モンクと呼ばれる修行僧や、少林寺の僧侶などの肉体派、信長の怒りを買い、焼き討ちにされた事で有名な、比叡山の僧兵などの武闘派、牛若丸(源義経)が鞍馬寺で、僧侶になるべく天狗と修行したというのも有名な話だ。
何が言いたいかというと、僧侶にはそういった肉体派、武闘派の側面もあり、この サウザンド・ジョブ・オンライン(Thousand Job Online)略してTJO は、多くの職業を網羅するために、”みならい僧侶”系にもそういう方面の補正をつけているという事だ。
ざっと基本4職の補正、ボーナスをまとめると以下の様な感じである。
みならい戦士 STR大、DEX、VIT、攻撃&防御&HP回復速度補正
みならい斥候 STR、DEX大、(LUC補正?)
みならい僧侶 INT、VIT大、MAG、治癒&支援&MP回復速度補正
みならい魔法使い INT大、MAG大、魔法&MP回復速度補正
おわかりいただけただろうか、斥候がスキル、パッシブともに充実している反面、ステータス、補正等は弱いのである。逆に他職はステータス、補正が強く、言ってみれば、これらは”常時発動型のスキル”であるとも言える。つまり4職で”どの職業が得”とか”どの職業がハズレ”などが無いように考慮されているのだ。
各パラメータの簡単な解説
STR(筋力、腕力) =Strength
攻撃力を上げる、力任せの武器を取り回しやすくなる、鍛冶師等の力仕事全般に影響など
DEX(器用、敏捷) =Dexterity
罠、奇襲の発見、罠解除、回避、精密な動きを要する武器の扱いが旨くなる。生産職全般に影響、クリティカルなど
INT(知性、理解力)=Intelligence
魔法、術等の威力、効果に影響、書物等の理解力に影響、商売系に影響など、罠解除にも影響?
VIT(体力、耐久力)=Vitality HPを増やすのみ
MAG(魔力、霊力) =MagicalPower MPを増やすのみ
LUC(運気、幸運) =Luck
隠しパラメータ?割り振り出来ない。アイテム入手、クリティカル等様々な事に影響するのでは無いかと言われている
※以上のデータは、公式サイトの基本4職の大まかな説明と、攻略サイト有志による検証結果からの推測によるものです。
ご存知の通り、TJOではパラメータは本人が好きに振る事が出来る。(このパラメータの割り振りは”職業選択には無関係”なので、自由に振ってほしい、”パラメータが足りないから慣れない”という職業は無い、と公式に発表されている)
俺が冒険者ギルドで言っていたように、魔法使いでもSTR、VITに振ればそれなりに身体強化は可能だ。しかしINT、MAGに振れば効果は桁違いになる。だから普通は適正の無いパラメータにはあまり振らない。
基本は”大補正”がかかるパラメータに多めに振り、不安なところを少し補強する、または”今後なる予定の職業”に必要となりそうなパラメータに振る。
俺が昨晩、思いきってVITに”全振り”したのもこのへんに理由がある。
つまり5pt全振りしたものに、VIT大の%補正がかかるため、HPが急上昇してLV1でVIT0だった初日よりも格段に死ににくくなっている。初日にトシマ山猫LV8に遭遇したら即死していたが、今なら割と耐えながら逃げきれるだろう(多分)
罠LVの対処や、魔法の威力から推測して、シノブさんはDEX多め、ツカサさんはINT多めと基本通りに振っているだろう。
意外だったのはユウコさんで、普通はSTRに多めに振るところだが、おそらく安全、防御重視で行くと決めているのだろう。VITにかなり振っているようだ。
ちなみにVITはHPが増えるのみ、という事で割と軽視されるのであるが、そこはヤマコウクオリティ。”防御貫通攻撃”という概念があり、守備を防具だけに頼っていると、足元を掬われる事があるのだ。
これは腹に鉄板を置き、
刀で斬りつけられても、鉄板が切れない限りは腹は無傷かもしれないが、
ハンマーで叩きつけられると、鉄板が無事だろうが、下手をすると死にかねないほどの内部衝撃が走る、みたいな、そういう感じだ。
※※※危険です。絶対に実際に試したりしないで下さい※※※
他のゲームでもたまに採用されている要素だが、TJOではこれがメインというほどシステムにくいこんでいる。切断系の剣、刀等の武器は鎧、盾などに当たると大幅に威力が下がり、打撃、衝撃系のハンマー、斧といった武器は、防具を攻撃されても防御力を%で無効化されてダメージを喰らう。特にハンマー、メイス、モーニングスター等の完全な鈍器は、防具の防御力の無効化度合いが高い。
ユウコさんが斧の攻撃を、まともに盾でガードしてしまい、ダメージを喰らっていたのもこの要素だ。
以上を踏まえて”みならい戦士”を見てみると、
>みならい戦士 STR大、DEX、VIT、攻撃&防御&HP回復速度補正
攻撃だけでなく、VIT、防御&HP回復速度補正、とバランスよく防御面にも補正がかかっている事がわかる。
>「どうする?決められないなら”みならい戦士”がおすすめだよ。やっぱり最後に物を言うのは身体能力だよ」
と冒険者ギルドのおばちゃんが言ってたのは、割と本当の事だったのである。
これでは打撃系が凄く強いように感じるが、逆に切断系は威力、クリティカル率が高いのである。特に山ゾックの様に上半身ムキ出しだったり、野生動物系みたいな”柔らかい部位”に、狙ってヒットさせやすい相手だと、クリティカルヒットになりやすい。
シノブさんは山ゾックとの戦闘中、”切断系の刀”で”背後”から”ムキ出しの肌”を、狙って攻撃する事によって、クリティカルヒット率を上げていたのだ。
そして複数との戦いでは、ツカサさんが魔法によって、”鉄の刀”を”鉄の刀+1”へと、品質を一時的に上昇させる事で、さらに威力とクリティカルの確率を上げていたのである。何も考えず正面からポコポコ適当に殴っていては、あれほどクリティカルが出る事は無い。
・・・とまぁこんな感じなのだが、確かに”みならい僧侶”はVIT大であるので、VITに振るのは間違いでは無い。しかし普通に考えて”HPだけ”あっても意味が無いのだ。
格闘系の僧侶になるのであれば、STR、DEX、VITにバランスよく、これぞ僧侶という感じにするなら、INTを多めにして治癒魔法でのHP回復量を上げ、MAGに振ってMPを増やし、回復できる量、回数、継戦能力を上げる。
いずれもVITは少し振っておけば、補正効果(大)なのでHPは満足できるレベルに増える。つまり、VIT大だからこそ、大量に振る必要が無いのだ。
なにしろ僧侶は自分でHPが回復できる、MPの続く限り治癒魔法で回復すればいいだけなのだから、即死しない程度の防御力とHPがあれば良い。むしろその治癒魔法を使うための”MAXMPこそが生命線”なのが僧侶という職である。
ツカサさんの「僧侶ならINTとMAGに振れや(意訳)」という指摘はもっともだろう。
「………」うん、ちょうど良い機会だし、この3人は悪い人でも無さそうだ。お互いTJO経験者なら、ここは情報交換をしておくのも悪くないかもしれない。
LV:6(非公開)
職業:みならい僧侶(偽装公開)(みならい僧侶)
サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)
所持金:525G
武器:なし
防具:布の服
所持品:9/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×9、バリ好きー(お得用)75%、青銅の長剣、樽(中)95%、コップ(木)、サクランボ×1、鋼のナイフ、鉄の斧
「ご主人さま~、なんでぜんら~?」
「全裸じゃないっ、この”布の服”は見た目だけなんだ」
「みためだけ~?」
「あぁ、防御力0なんだ、むしろ全裸防止だな」
「ご主人さまは、ぜんらぼうし~?」
「・・・・・・それじゃ、ますます変態っぽいな」
「ん~?」




