019 斥候すごい <04/03(水)AM 10:34>
はじまりの街[スパデズ]周辺で、唯一のダンジョン[山の洞窟]の探索にかかった俺達は、俺が同行してから初めての戦闘を、俺が空気のまま終え、通路のスミの方に最初の宝箱を発見していた。
「………」ダンジョンには固定箱と呼ばれる、常に一定の場所にPOPする宝箱と、フィールドで俺が探していた宝箱の様に、ランダムにPOPする宝箱がある。フィールドPOP宝箱と違い、ダンジョンでの宝箱は、どちらも罠が仕掛けられている事があり、ミミックである事もある。
混同を避けるために、フィールドPOP宝箱と、ダンジョンPOP宝箱、固定箱(固定宝箱)と分けて呼称する。フィールド固定宝箱は存在しない。
TJOは、挑戦者、開拓者を評価し、リスクにはリターンを与える。ようするにほとんどのダンジョンは、外のフィールドより良い物が出やすいのだ。ここは はじまりの街[スパデズ]周辺なのだが、はじまりの街[スパデズ]周辺より1段階上の装備が出る・・・事もある。
はじまりの街[スパデズ]で最上級は鉄、シルクシリーズであるが、この[山の洞窟]内の宝箱からは1ランク上の”鋼シリーズ”が出る、事もある。危険なダンジョンで、フィールドより強めの敵、危険な罠、ミミックを等の、困難を乗り越えて手に入れたという”挑戦”が評価されるのだ。
しかしダンジョンには、いくらかタイプがあるので、全てがこのルールというわけではない。(仮にピラミッドの様なダンジョンなら、やはりエジプト風のアイテムが出た方が”らしい”からである)それから固定箱の内容も”そのダンジョンゆかりのアイテム”である事が多い。
さて・・・そういう訳で、あらためて”ダンジョンPOP宝箱”さんの登場です。
宝箱、罠、とくれば盗賊、シーフである。古のゲーム「魔法使い」の時代などから、変わらぬ伝統と言えよう。当然みならい僧侶の俺にはかなりの難敵となる。
まずは宝箱に罠があるのか、ミミックなのか、罠の種類は何なのか、解除に必要なステータスは、どう解除するのかetc・・・
その全てが”みならい斥候系”の独壇場である。餅は餅屋だ。
「先生おねげぇしやす(お願いします)、やっちまっておくんなせぇ!」なのである・・・うん、これだと失敗フラグになってしまうな。
「シノちゃん、お願い」
「・・・ん」
シノブさんが宝箱の前に進み出る。俺達は静かに様子を見守る。
「・・・分析:罠[トラップアナライズ]」
シノブさんが術を使用すると、宝箱の上面部から下底部に向けて、光る板状のモノがス~っと降りていった。内部を調査するMRIを縦にしたとかそんな感じだろうか。
「・・・罠は爆弾、罠LVは15」
罠LV15か、俺だと運ゲーだな、いやそもそも罠LVもわからず、適当に開けて爆発するだろう。リア充でも無いというのに・・・理不尽な事だ。
「ね~ご主人さま~、たからばこ あけないの~?」
足元でおとなしくしていたミケネコが、せっかくの”しあわせになる宝箱”を前にして、俺達がいつまでもゴソゴソやっているのを見て質問してきた。まぁ今までのフィールドPOP宝箱は、罠も無く、ミミックでも無いと、俺が無造作に開けてたから仕方無いだろう。
「ダンジョンの宝箱には罠があったり、強~い敵だったりするんだ」
「わな?てき~?」
「あぁ、この宝箱は、そのまま開けると爆発してしまう」
「あぶないの?」
「そうだ、だから”みならい斥候”のシノブさんが、罠を調べてから爆発しないように開けようとしてるんだ」
「すごい?」
「あぁ俺にはとても出来ない」
「せっこうのしのぶさん、すご~い」
俺がミケネコの背中を撫でつつ、現在の状況の説明をしている間に、シノブさんとリーダーのユウコさんが”宝箱を開ける”か、”立ち去る”かを相談していた。
「罠LV15って事は、半分の7?」
「・・・そう・・・いける、はず」
「わかった、シノちゃんお願い」
「・・・少し離れてて」
シノブさんの指示で、俺達は宝箱のそばから少し距離を置く、ユウコさんが”青銅の盾”を構え、みんなその陰に隠れるように手招きしている。俺達はユウコさんの盾の陰に隠れながら、俺は万が一の時にすぐ回復出来るように、治癒魔法[ヒーリング]の射程範囲である半径10mから、シノブさんが外れない様に位置取って、すぐに唱えられる準備をした。
「・・・解除」
キンッ!
謎の金属音(罠解除成功音)がして、宝箱の前面の錠前がポトリと地面に落ちる。そのままいつも”役目が終わった宝箱”が消えるように、錠前は霞んで消滅した。無事に解除できたようなので、ほっとしてシノブさんの元にみんなが集まる。
「シノちゃん、ぐっじょ~ぶ」
「お疲れ様、シノちゃん」
「(先生)お見事です」
「せっこうのしのぶさん、すご~い」
「・・・ぶい」
シノブさんは宝箱の前で、片ひざを立てて座った姿勢のまま、みんなの方を向いて少し照れながらVサインで答えた。しかしお世辞じゃなく、罠LV15は俺だと単純にDEXが15必要だ。VITに全部振ったのでDEXは0である。99%失敗する。ダンジョンPOP宝箱怖い。
「それでは・・・約束の、”最初の宝箱”をどうぞ」
ユウコさんが俺に宝箱を開ける様に促す。
「では遠慮なく・・・」
さて罠LVが15と高めだったので、そこまで大失敗にはならないだろうとは思うのだが、そっと宝箱を開けると・・・
「これは・・・鋼のナイフ?」
「鋼のナイフですね」
「あ~、鋼のナイフだね~」
「・・・・・・」
シノブさんはミケネコを見ている。ミケネコはシノブさんを尊敬の眼差しで見ている。あそこは2人(1人と1匹)の世界だな、もうユー達 結婚しちゃいなYO。
「鋼のナイフって~18,000Gぐらいだっけ~?、しかもアタシ達使えないし~大勝利じゃ~ん、うらみっこ無しだよね~」
「マドちゃんっ」
「大丈夫ですよ、かなり微妙な結果になりましたけど、俺が持ってても仕方無かったですし、それにナイフなら道具としても使えるので、円満トレードだったという事で」
「はい」
「………」実際、鉄の長剣を持ってても何も出来ない、それに強度で言えば”鉄”より”鋼”の方が強いので、道具としてこれはかなり良い物だ。
言うまでも無いかと思うが、長剣は長さがナイフの2倍以上あるので、原料も単純に2倍以上必要になる、それに長くなればなるほど、強度やバランスなどの問題で製造が難しくなるので、鉄の長剣が20,000Gで鋼のナイフは18,000Gという価格の逆転現象が起こる。
しかしそうなると初心者用道具セット(小)の存在価値が・・・あれには、切れなくなったら線にそって刃を折る、普通イメージする”カッターナイフ”の、その5目盛り分くらいの”小さな薄い鉄製の刃”が付いた”おまけカッター”みたいなのが入っている。
もちろん攻撃などに使えば一撃で砕け散る様な物だが、普段何かをする時に、ヒモを切るとかで”鉄製の刃”が無いと困る場面は多い。しかし鉄のナイフは12,000Gもする。ついでに早朝に拾った青銅の長剣も12,000Gである。そしてゲーム開始時の所持金は10,000Gしかない。
以上の金銭的な理由により、この”おまけカッター”目当てで、初心者用道具セット(小)を買ったのだが、”鋼のナイフ”があればこんな頼りない・・・いや、こんなのは結果論だろう。
それに素材集めで植物の茎を切ったり、小さな木製スコップで掘ってみたりと、実はちょこちょこ使用している。あとは細くて短いロープと、ヒモが入っている。まぁ1,000Gだし。(ロウソク等が入ってないのは、この唯一のダンジョンで不要だからなのだろう)
しかしまぁ、はりきって?イベントを企画してみたら、なんとも微妙な結末を迎える、というのはよくある事だろう。それに”鋼の長剣”や”鋼の刀”とか出てしまったら、この後の空気を考えると俺も困る。だからといって2本目の”青銅の長剣”なんか出されたら俺は泣いてしまう。ゲームマスターは空気読める子。
そんな感じで色々と微妙だったので、ミスターチキンのおっさん札占いの「6」番は小吉。予想されてた方は当たりましたか?視界の右下の方へ意識を向けると<04/03(水)AM 10:47>と表示されていた。
LV:6(非公開)
職業:みならい僧侶(偽装公開)(みならい僧侶)
サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)
所持金:525G
武器:なし
防具:布の服
所持品:8/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×9、バリ好きー(お得用)75%、青銅の長剣、樽(中)95%、コップ(木)、サクランボ×1、鋼のナイフ
分析:罠[トラップアナライズ] 宝箱等に仕掛けられた罠の種類と罠LVを識別し、罠LVを半減させる(小数点以下切捨て)
補足:ミミックだった場合は、そのミミックのLVも識別する、ただしミミックのLVは半減出来ない。
治癒魔法[ヒーリング] 精神力によって半径10m範囲内の対象1体の傷を癒す。
補足:僧侶なので精神力という説明だが、実際にはINTと職ボーナス、職補正により回復量が変化する。
「これはすきる~?」
「あぁ、その話で出て来た説明の少ないスキルは、詳細設定を最後に載せておこうと思ったらしい」
「あとでこまらないの~?」
「その場合は土下座して修正するつもりのようだ」
「どげざ~」




