013 初級鑑定 <04/02(火)PM 10:18>
「よう兄ちゃん、毎度、こんな遅くに何の用だい?」
昼前にやって来た時には割愛された道具屋の量産型おっさんに出迎えられる。
サウザンド・ジョブ・オンライン(Thousand Job Online)略してTJO はオンラインゲームである。当然プレイヤーが何月何日何時にプレイするかは本人の自由だ。学生さんであれば大抵は似通った時間帯になるだろうが、社会人となると残業に夜勤、出張に代休等々、プレイ出来る時間帯は様々である。夜勤明けの午前中にしかプレイする余裕が無い、逆に深夜しか空き時間が無いという職種もある。
それなのにゲーム内ショップが「朝8時から夕方5時までしか営業していません」では困る。だからゲーム内NPCショップは年中無休、全て24時間営業なのであろう。そこは理解できる。
しかし24時間いつ来ても、このおっさんなのは何なのか、昼間はバイトのお姉さん雇うとか、夜間は深夜バイトの別人になるとか、なんかあるだろう?いやこのおっさんが悪いわけじゃないんだ、おっさんが好き好んで、おっさん祭りをしたいわけじゃないだろうが、おっさんがおっさ
「よう兄ちゃん、毎度、こんな遅くに何の用だい?」
このおっさんは旧型のおっさんなので無限ループするようだ。とにかく用件を済ませよう。
「鑑定を頼む」
「ウチは”初級鑑定”までだが構わないか?」
「大丈夫だ」
NPCに鑑定を依頼する場合の鑑定料は、NPC販売価格(ノーマルアイテム価格基準)の1/10だ。ちなみにはじまりの街[スパデズ]には初級鑑定士しか滞在していない。必要が無いからだ。
俺のインベントリには鑑定済みの物(一応”鉄の長剣”はプレイヤー能力で鑑定した事になっている)しか入ってないので、昼間大量に素材を放り込んだミケネコのストレージ内のアイテムを鑑定してもらう。ミケネコのストレージ内の未鑑定アイテムが、リスト表示され鑑定料が表示される。
《□草(不確定名)×0134 鑑定料:1G》
《□草(不確定名)×0012 鑑定料:5G》
《□草(不確定名)×0004 鑑定料:10G》
《□草(不確定名)×0064 鑑定料:1G》
《□キノコ(不確定名)×0051 鑑定料:1G》
う~ん、安物ばかりだな・・・素材収集と言うよりも、街の清掃活動でゴミ拾いしてきた様な気分になる。
《□キノコ(不確定名)×0007 鑑定料:8G》
《□キノコ(不確定名)×0001 鑑定料:620G》
《□花(不確定名)×0037 鑑定料:1G》
《□花(不確定名)×0005 鑑定料:6G》
お?1つだけ”やけに高いキノコ”が、ミケネコさん風に言うと「やった♪」である。よしよし、とりあえず”骨折り損のくたびれ儲け”にはならずにすんだようだ。他にはめぼしいアイテムは無さそうだった。”個別鑑定”だと□にチェックを入れるのだが、問題無さそうなので”一括鑑定”で全て鑑定してもらう。
鑑定料は全部で846Gかかった。まぁ初回だけだし必要経費だ。
気になる先ほどの”やけに高いキノコ”は・・・
《ブタスキノコ×0001 独特の匂いを発するキノコ、雌豚の大好物で雌豚に探させる》
「………」これは3大なんとかのアレだろうな、雌豚か・・・メスブタ・・・・・・
>「イノブタ型サポートペット 生後7ヶ月 雌 4,400Gです」
ああああああぁ!、実はアイツが一番アタリだったのか?・・・
>イノブタは・・・うん、ちょっと無いかな、食べるわけでも無いし。
うぐぐぐぐ、いやしかしサポートペットに性能差は無い・・・はず、それに”イノ”ブタだし・・・、必ずしも「ブタスキノコ大量^^」とはならなかった・・・はず。
チラッとミケネコを見る。ミケネコが「どうしたの?」と言わんばかりに、首を傾げたような格好で俺を見上げている。
「………」確かこれは・・・ミケネコが木の根元の辺りを少し掘って、ひっくり返して見つけていたモノだ。雌豚でも無いのに大金星と言えるだろう。”隣の芝生”や”逃がした魚”より、ここは褒めておくべきところだ。
「よくやったなミケネコ、高級品だ」
「えへへ♪」
ミケネコは褒められて、尻尾をうねうねとウェーブさせている。うんうん、俺は褒めて伸ばす。
勘違いしている人が多いが、叱られてのびる奴などほぼ居ない。大成した人のほとんどは、最初ほめられてその道を好きになり”好きになったからこそ”その後の厳しい練習、訓練を頑張る事が出来たという。そこだけを見て「厳しく叱りつけて訓練させれば大物になる」などと思ったりするのだろう。
ついでにアゴの下もしばしコショコショする。
「………」さて、俺は仲間的なモノを作る予定が無いので、これらの素材をあげる相手もいないし、料理人や調合、薬師や錬金術師的な方面に進むつもりも無いので、これらの素材を持っていても仕方が無い。
つまり売るしか無いのだが”大金を持ち歩く=デスペナルティのリスクが増大する”わけで、あまり賢い行為では無いのだ。必要最小限の所持金に抑えておきたい。・・・復活出来るのか?は不明なままだが。
宿代はもう一泊分払ってあるから、食事代と・・・飲料水だな。2,000Gくらいあればいいか。
所持金は1,520Gだったが、鑑定料で846Gかかったので、残金は674G。先ほどのブタスキノコの鑑定料(1/10)が、620Gだから販売価格は6,200G、売却額は20%になるので1,240G。あわせて1,914G、うん、大体いい感じだ。
「ブタスキノコを1つ売却したい」
「ブタスキノコ1つで 1,240Gになるが、それでいいか?」
「あぁ」
「毎度~」
ミケネコのストレージ内から”ブタスキノコ×0001”の表示が消え、カウンターの上にブタスキノコが1つ現れる。それを確認したおっさんが、カウンターの小皿の上に1,240Gを置いたので、受け取って巾着に入れる。さて
「飲料水、飲み水は売ってるか?」
とりあえずおっさんにたずねてみる。
「水か?水なら宿屋の女将にでも頼めば、裏の井戸水をいくらでも貰えるだろ」
どうやら水はタダで入手出来るようだ、宿泊費に含まれてる、とも考えられるな。
「それじゃ水筒、水を持ち運ぶ入れ物みたいなのは?」
「”竹の水入れ”か”樽”だろうな、水入れは容量が少ない、樽は嵩張る」
嵩張るとしてもインベントリか、ミケネコのストレージに入れるから、どちらもアイテム枠1つだろう。
「”樽”をみせてくれ」
おっさんが後ろの方から大、中、小の樽を持ってきた。
「こんなもんだな、大が1,200G、中が800G、小が400Gだ」
大が抱えるくらい、数人が数日飲み水に困らなそうだ、小は少し大きめのビアマグみたいだ。中はその中間。うん、こういうのは大きすぎるのも小さすぎるのもよくない、中庸って奴だ、これは誤用だったかな?まぁいい、ほどほどだ、とりあえず生中だ。中樽を買う事にしよう。
「中樽を貰おう」
カウンターの小皿に800Gを置いて、おっさんから中樽を受け取りインベントリに放り込む。バリ好きー(お得用)と同じ値段だな。800Gってなんか買いたくなる値段だし、3,980円とかみたいな値段付けなのかもな。
「毎度~」
「………」これで量産型おっさんの役目は終わった。道具屋にもう用は無い。
さらばおっさん、ありがとうおっさん、もう・・・ん?
「おっさんアレは?」
道具屋の出口付近の木箱の中に、雑多にアイテムが詰め込まれていた。
「あぁ、そこの木箱の中のは処分品とかサービス品だ、どれでも1つ100Gだ」
「………」処分品!そういうのもあるのか。
木箱の中の小皿や木製スプーン、木製フォーク、棒に何mかのタコ糸?を巻きつけた物、等々が色々入っている。その中にミスターチキンで見た様なコップがあった。じー。
《名:コップ(木) 所有者:道具屋[スパデズ]店 〈警告〉敷地内から持ち出すと窃盗となります》
たしかミスターチキンでは・・・
>《名:客用コップ(木) 所有者:ミスターチキン[スパデズ]店 〈警告〉敷地内から持ち出すと窃盗となります》
・・・だった。見た感じは同じ物に見える。あれは普通にコップだった。うん、中樽は結構大きい。5リットルくらい入るとすると、アレを手に持って飲むのは、まぁ不可能では無いだろうが辛いだろう。コップに傷やヒビ割れとかも見当たらない、不良品とかでは無さそうだ。まぁ不良品だとコップ-1(木)とかになるか。
ブタスキノコを売って1,914Gになったが、中樽を800Gで買ったので所持金は1,114Gだ。1,000Gあれば朝、昼とササミカツ丼が食べられる。100Gなら買ってもいいだろう。
「おっさん、このコップも貰おう」
カウンターの小皿に100Gを置いて、おっさんの許可を得てコップ(木)を取り上げ、少し見つめる。
《名:コップ(木) 所有者:マサヨシ》
うん、確かに俺の物になってるな。やはり許可を得た時点で窃盗にはあたらなくなるようだ。安心してインベントリにコップ(木)を放り込んだ。
「毎度~」
「………」これで量産型おっさんの役目は終わった。道具屋にもう用は無い。さらばおっさん、ありがとうおっさん・・・そう言えば鑑定でまた来るか?まぁいいさらばだ。
今度こそ道具屋を後にした。
LV:1(非公開)
職業:みならい僧侶(偽装公開)(みならい僧侶)
サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)
所持金:1,014G
武器:なし
防具:布の服
所持品:6/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×9、バリ好きー(お得用)85%、鉄の長剣、
樽(中)、コップ(木)
「ご主人さま~、マサヨシってだれ?」
「俺だ、俺」
「ん~?マサ人さま?」
「混ぜるな、これからもご主人様でいい」
「は~い」




