幼馴染の一時 春休み、高校編
「少し休憩しようかな」
そう言って彼女、秋元美奈(あきもと みな)は立ち上がった。
卒業式が終わり、のんきにしていられない高校受験。受験生たちは家に篭もりひたすら勉強をしているこの時期…それは彼女も同じだった。
喉が渇いたため飲み物を取りに部屋から出ようとしたとき、隣の家から声が聞こえた。
「わっからねー!!!!!!」
「うるさい、静かにしろ」
「俊、教えてあげるから…静かにしようね」
(ん?あれは…俊くんと明博くんだ、受験勉強しているみたいね)
美奈がそう思いながら窓越しに彼らを見ていたら隣に住む幼馴染、冬川和斗(ふゆかわ かずと)と目が合った。和斗は立ち上がり窓を開け声を掛けた。
「聞こえてたか」
「うん、しっかり聞こえたよ」
「すまないな美奈、そっちも勉強してただろう?」
「ちょうど休憩しようとしてたから大丈夫」
そこへ俊と明博も立ち上がった。
「よっす!」
「こんにちは、美奈さん」
「こんにちは~勉強ご苦労様」
「あー!もう勉強やだ!」
そう喚く俊に美奈はいい事を思いついたように手を叩いた。
「そうだ!私もそっちで勉強してもいい?わからないところは教えてあげられるし」
「マジで!?頼む!!」
「そうだな、お前のほうが教えるのはうまいからな」
「じゃあこれからそっち向かうねー」
そう言って美奈は必要な道具を持って隣にある和斗の家へと向かった。
「おっしゃー!!神が来たぁぁぁぁ!!」
「騒ぐ暇があったら手を動かせ」
「家からクッキー持ってきたからがんばろうね~」
「奈々さん手作りか」
「うん、お母さんのクッキー和斗好きでしょう?」
「美奈が作るやつも好きだがな」
「甘さ控えめだもんね~」
美奈が俊に教え、時々明博が和斗に勉強を教える形で時間が過ぎていった。そして勉強もひと通り終え、クッキーを食べている時。
「そーいえばさ、美奈は高校どこ行くんだ?」
「私は蕎鈴(きょうりん)高校だよ」
「ってことは4人一緒ってことか」
「俊くんと明博くんも一緒なんだ~」
「受かればの話だがな」
和斗の言葉の一撃で俊が机に伏せた。
「受かるための勉強だもの、がんばろう!」
「そうだな!よっしやるぜー!」
そうして時が過ぎ。受験も無事に終え、結果発表の日。
「…受かった」
「だな」
美奈と和斗は二人で結果発表に来て無事に合格したことが分かった。
「よろしくね、和斗」
「よろしくな」
笑い合う二人に聞き覚えのある声が聞こえた。
「あったー!!!!」
「僕もだよ!」
美奈と和斗が声がする方向を見ると俊と明博がいた。
「俊くん!明博くん!」
「美奈!俺受かったぜ!!」
「これで4人一緒だね!」
合格者オリエンテーションのため、4人は校舎に入った。
「さすが蕎鈴高校…頭良さそうな奴ばっかだな」
「お前と違ってな」
「ああ…ってひどくないか和斗!」
「明博くんも受かってよかったね」
「うん、美奈さんもおめでとう」
「ありがとう」
体育館に入り、クラスを確認した。
「私A組だ」
「俺もA」
「え、俺もAかよ」
「僕もだ」
4人は顔を見合わせた。
「この学校って確か成績順でクラスが別れたよな」
和斗はそう言いながら俊を見た。
「お、俺ががんばったってことだな…うん」
ハードル上げられた…と内心呟いている俊は和斗の視線に目をそらすしか無かった。
「まあ、とりあえず…よろしくね」
「そうだね、よろしく」
美奈と明博は苦笑いを浮かべていた。
「ねぇ、あれって第二中のプリンス様でしょ!?」
「きゃー!私達プリンス様と同じ学校なのね!!」
「おい、その隣にいるのは第一中のプリンセスじゃないか!」
「すげぇ、あのプリンスとプリンセスが揃ってる」
そんな声を聞きながら4人は教室に着いた。
「なんか…2人とも人気者だね」
「あの異名は伊達じゃないんだな」
「異名ってなんだよ異名って」
「あはは…なんかごめんね」
その後は担任から明日の入学式の話をされ、教科書や制服の受け渡し等をした後解散となった。
教室に残ったのは4人だけとなった。
「そろっと玄関も空いてきただろうし帰るか~」
「先生が待ってろと言っていたんだが…おそいな」
「え、そうなの…」
か、と言う俊の言葉と教室の扉が開いたのは同時だった。教室に入ってきたのは担任の大沢可奈子(おおさわかなこ)だった。
「ごめんなさい冬川くん、遅くなってしまったわ」
「いえ、帰ってもやること無いんで大丈夫ですよ」
「でも、お友達も待たせているようだし用事は早く済ませるわね」
「お気になさらず…それで、話とは?」
美奈、俊、明博の3人は黙って話を聞いていた。
「冬川くん、貴方は見事この実力派である蕎鈴高校の主席として入学します。それで、入学式の新入生代表答辞をお願いします」
「はい、わかりました」
「それと、私は生徒会の顧問なのだけど…代々主席が生徒会に所属するのだけど丁度今空席が2つあって一つは冬川くん、もう一人を…」
大沢は言葉を切り、美奈を見た。
「次席の秋元さんにやってもらいたいの」
「わ、私…ですか」
まさか自分に話が来るとは思わず横にいる俊と明博と傍観していた美奈は慌てて和斗を見た。和斗は美奈の視線に頷いた。
「え、えぇー…と分かりました」
「そう!よかったわ、ではよろしくね」
気をつけて帰ってね、と言って教室からでた大沢に美奈と和斗は顔を見合わせた。
「和斗も美奈さんもすごいね、主席と次席」
「さすがだな~」
「次のテストは絶対に和斗に勝ってやるんだからね!」
「いいだろう今回は同じ学校だし、勝負といこうか」
感心している俊と明博は美奈と和斗のずれた感想に
「さすが幼馴染同士というか」
「双子みたいなものだね」
これからの高校生活が楽しくなりそうだ、と2人は思ったのだった。
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