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ショートヘアー

今回、なかなか書けなくてかなり苦戦しました。このペースだといつ書き終わるか、少々不安になりますが、気長にお付き合い下さい。

空色の髪がハラハラと舞い落ち、茶色の床に空色の模様を作り上げる。

オリビアは、おとなしく椅子に座り、耳元で聞こえる心地よいハサミの音に耳を傾けていた。伸ばし始めてから、自慢の長い髪を、此処まで短くした事はない。

最初は後悔していた気持ちも次第に無くなる。

気のせいだと思うのだが、髪を切られ軽くなった分だけ、心も軽くなるような気がしていた。




ナターシャが体を移動させ出来映えを確認するように、後ろから前からと髪を眺め、そして、納得したのか満足そうに一つ頷いた。


「姫様、出来ましたわ。ショートもよくお似合いで」


ナターシャの誉め言葉に微かだが微笑を浮かべた。スースーと風通しがよくなった首筋に、似合わなかったら、どうしよう……と少しだけ後悔の念が生まれていた。どんなに強がって見せても、やはり女の子なのだ。


その時、フワリと右側から頬にあたる風を感じ振り向いた。いつも髪越しにあたっていた感覚とは違い、直接肌にあたる風の感触は何だかとても新鮮で、少々くすぐったい。

右側のドアが開け放たれ、暖かい陽光を背に背負いひょっこりとレイドが姿を現した。金色の長い髪が森林の柔らかいの光を受け、輝きを放ちとても綺麗で、オリビアとナターシャは思わず見とれてしまった。

レイドは、そんな二人の様子に気が付くふうも無く、ごく自然に言葉を紡ぐ。


「あっ、オリビア様、髪を揃えられたのですね。可愛いいです」


オリビアの心臓が跳ね上がる。その声を昨夜は耳元で聞いた事を思い出し、オリビアの顔はリンゴのように真っ赤になっていた。


「オリビア様、お顔が赤いですが、熱でもあるのでは?」


オリビアの顔を確認しようと、レイドが此方に近づいてくる。


「あ、ありませんわ」


必死で平静を装い、赤い顔を見られまいと視線をそらした。それがまたレイドの目には怪しく映り、納得いかない様子で「でも…」と二の句を告げようとするレイドにナターシャが助け舟を出した。


「姫様は照れてらっしゃるのですわ」

(えっ?!)


思わぬ言葉にオリビアは顔を強張らせた。

(まさか…昨夜の事、気が付いて…)

息をするのも忘れる程、食い入るようにナターシャを見つめるが、その横顔からは何も読み取れない。


「褒められれば、嬉しいに決まってますわ。ねぇ、姫様」


同意を受けようと微笑みながら此方に視線を向けて、そこで始めてオリビアに凝視されている事に気が付いたようだ。


(なんだ、可愛いいって言われた事か…)

ナターシャが勘違いしている事に、ホッと胸を撫で下ろすオリビアに、今度はナターシャが不思議そうに尋ねた。


「姫様、どうかされましたか?」

「えっ、何でもありませんわ。オホホホホ…」


不自然に笑って誤魔化すオリビアをナターシャは変に思ったのか首を傾げていたが、それ以上追求する事は無かった。


(それにしても、レイドはいつも通りだわ)

ジッと様子を観察するが、昨夜の事を気にする風情を微塵も感じない。

レイドにとって本当に何でもない事だったのだろう。ガックリと肩を落とす反面これで良かったのだとも思う。


(これからは男として生きると決めたのですから…)

むき出しになった首筋に触れながら、残念に思いつつも下手に恋愛感情にほだされ、出鼻を挫かれなかった事に安堵する。

複雑な心境に思わず一人苦笑いをした。




「随分と遅くまで寝ておったな。姫というのはのんびり出来て羨ましいのう」

「お、お祖父様…」


いつの間にかレイドが入ってきたドアの所に、レイドの祖父が立っていた。

お祖父さんが放った嫌味も、本当の事なので悔しいが言い返せない。此方が黙っているのを良いことに次から次へとと嫌味が飛んでくる。余程、オリビアの事が気に食わないらしい。


「よく、それで魔女を倒すなどと言えたものじゃ」

「お祖父様、めて下さい」


見兼ねたレイドが口を挟む。

める?めた方がいいのは、姫さんの方じゃ。髪を切って男のふりをした所で、所詮は女子おなご、無理じゃ。いくら姫さんといえども、無知にも程がある。レイド、お前もそう思っているのじゃろう?」

「そんな事ありません」


はっきりと間髪入れずに否定するレイドの言葉に、お祖父さんは皺に埋もれた目を大きく見開いた。ナターシャも目を丸くしいてる。


「いくらお祖父様でも、これ以上オリビア様を愚弄するのは許しません」


真っ直ぐな眼差しでお祖父さんを見据える。お祖父さんも静かに睨み返すが、レイドは決して目を逸らさない。暫くして、フイとお祖父さんが視線を外した。


「わしには、関係ない事じゃ」


ゆっくりとした動作で奥のドアへと向かう。その年老いた背中は、何処か淋しそうだ。その後姿にたたみ掛けるようにお願いする。


「お祖父様、口答えしたうえに、こんな事を頼むのは何ですが、二、三日置いて頂けませんか?」

「……好きにせい」


去りぎわ、振り向きもせずに、ぶっきらぼうな口調で言い捨てる。だが、その突き放した言葉とは反対に何処か温かみを感じる。

オリビアは、すぐに気が付いた。

(お祖父さんは、レイドを心配しているのだ。だから、わたくしの気を変えようとしている)


「有難うございます」


その背中に深々と頭を下げるレイドを見つめながら、オリビアはそう思った。



パンにサラダという簡単な食事を済ませた後、何をするでもなくボンヤリと椅子に座っているオリビアにレイドが謝った。一応、お祖父さんにも声をかけたのだが、やはりというべきか食事の場に姿を現す事はなかった。


「オリビア様、さっきはお祖父様が失礼を申して、すみませんでした」

「いえ、良いんですの。お祖父さんは……レイドを心配してらっしゃるんですわ」

「姫様…!!」


隣に座っていたナターシャが驚きの声を上げる。いつもだったら、真っ先に文句を言っているだろう。


「そんなに驚かなくても……わたくしにだって、それ位分かりますわよ。わたくしが行けば、レイドも間違いなくお供につく。危険に晒されるのは、必須ですものね」

(誰かを失うのは辛い。それがたった一人残された家族なら、尚更……)

今は自分が一番その辛さが分かるのだ。

「オリビア様……」

「レイド貴方は、ここに残りなさい……っと言ってもナターシャをライラットまで、無事送り届けた後だけど」

『何をおっしゃってるんですか!!』


レイドとナターシャが驚く程、ピッタリに同じ台詞を同じタイミングでハモり立ち上がる。余りにも勢いよく立ち上がった為、その勢いでバランスの悪い木の椅子が小刻みに揺れている。


「姫様が何と言おうと、一人では絶対に行かせません」

「そうです、オリビア様」


是だけは、引けないそんな強い意志を二人から感じとった。


「街に行けば、傭兵が雇えます。心配無用ですわ」


何でもないことのようにサラリと言ってのける。


「お言葉ですがオリビア様、それは危険です。お忘れでしょうか?この世界は女性にとって危険な世界。万一、オリビア様が女性である事がばれれば、お金で雇われた傭兵など何をするか」


自分の考えが甘い事は分かっている。国が滅んだ今、ターナー家の権力は無いに等しいのだ。

しかし、どうしても自分と同じ思いを他の者の与えたくなかった。


「でも、お祖父さんが……」


「わしがどうしたのじゃ?余計な気を廻さんで欲しいのぉ。姫さんに心配されるほど、わしはモウロクしておらんわ」


片手に杖を突きながらノッソリと姿を現した。どこかで聞いていたのだろう、皺だらけの顔を更に不機嫌そうに皺を寄せて。


「お祖父様」「お祖父さん」


「心配などしておらんわ。このわしが剣術を教えたのじゃ、負ける訳が無かろうが。――ほれっ」


そう言って杖を持つ側とは反対の手で、レイドに何か小さな物を放った。放物線を描くようにレイドの元へと綺麗に跳んでいく。反射的にその何かを掴み取る。


「これは!?」


レイドの手中に収まった物――それは何かの液体が入った小さな小瓶だった。


「剣士たる者、武器の手入れはいかなる時も怠ってはならんと教えただろうが」


レイドは手中の小瓶を見つめ、そして握り締めた。レイドにはそれが何か分かっているようだ。


「一度城に戻るつもりじゃろうて、その前にきちんと手入れをしてから行け。姫さん、あんたも行って現実を見て来るがいい。それでも魔女を倒す覚悟があると言うなら、わしはもう何も言わん」

「お祖父様、それは…」


無理だと言おうとするレイドの言葉をお祖父さんは遮った。


「そんな事はないとお前が言ったのじゃぞ」


鋭い眼光でレイドを睨みつける。その瞳は、とても二十二の孫がいるようには見えなかった。


「……」


レイドは逆らうことが出来ずに口籠もった。


「大丈夫です、行きますわ」


静かな口調で、そう告げる。レイドが心配そうな表情を向けたので、安心させるように頷いた。


「姫様が行くなら、私も―」

「あんたは行かんでいい。残って旅の支度をしなさい。その格好ではとてもライラットまで行けんじゃろう。ここにある物は何でも好きな物を持って行って良い。レイド、今からでは遅いので、城に戻るのは明日にしなさい」


言いたいことだけ言い捨てて、サッサッと奥の部屋へとお祖父さんは引っ込んだ。

後に残された三人は何も言えずに沈黙していた。



まだまだ旅立ちませんね。もうしばらくお待ち下さい。

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