表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/17

レイドの祖父

今回は少し短いです。

この頃、文章力の無さに苦戦しております。駄文ですが、もっと沢山の人に読んでもらえると嬉しいです。

「オリビア様、この森の中です」


レイドの案内で丘を越え、森へと来ていた。


「ここは…腐肉食烏ネクロファジークロウの森…」


ナターシャが驚き、息を呑む。


腐肉食烏ネクロファジークロウの森?」


何も知らないオリビアがオウム返しに繰り返した。


「そうです。ここは、腐肉食烏ネクロファジークロウの巣くう森です。普段は、人を襲ったりしませんが、巣に近づく物は敵と視なされ、容赦なく襲って来ます。街の者もそれを知っていますから、決して近付いたり致しません」


何も知らないオリビアにナターシャは事細かく説明してくれる。オリビアはその説明に森を見つめ、不安そうにレイドに尋ねる。

木が鬱蒼と生い茂り、薄暗い。その薄暗さが益々オリビアの不安を掻き立てる。


「レイド、本当にこんな所で人が暮らしているのですか」


キィー、キィーと暗い森の中から奇異な鳴き声が聞こえてくる。それが、より一層不気味さを醸し出している。


「はい。城にお務めするようになってから、お会いして居りませんが、まだ此方にいらっしゃると思います。何かあれば家から、連絡が入る筈です」

「家から連絡?」

「恥ずかしながら、ここで暮らしているのは、私のお祖父様だからです」


レイドの答えにオリビアとナターシャは目を丸くした。


「何故、このような所に?」

「お祖父様は少々人間嫌いな所がありまして…」

「だから、このような所にいるというのですかぁ」


驚きというよりは、呆れたようにオリビアが言った。


「はぁ…」


レイドが困ったように曖昧に頷いたその時、風に吹かれた枝が擦れガサガサと音を立てる。瞬間オリビアは、恐怖で身を縮ませた。

腰の剣に手を掛けて、辺りに気を配るレイド。先程の困りようが嘘のような凛々しい顔。オリビアの心臓がドクンと跳ね上がり、ナターシャは、頬をほんのり赤く染めた。


「風で木が揺れただけのようです。とにかく急ぎましょう。街にいる沢山の腐肉食烏ネクロファジークロウが戻って来ると厄介です」


ホッとしたように剣から手を離して、二人に向かって声をかける。


(そうだわ、こんな時にときめいている場合ではないわ)


オリビアは、気を取り直すようにコホンと一つ咳払いをした。

森の中へ入る恐怖心はあったが、今は一刻も早く身体を休める安全な場所が欲しかった。

普段、運動をしないオリビアの身体は既にクタクタだった。城を抜け、街を駆け抜けて来た足はパンパンだ。

もしかしたら、ナターシャも同じ気持ちだったのかもしれない。慎重なナターシャなら、反対するかもしれないと思っていたのだが、直ぐにオリビアに賛同した。


「分かりました、行きましょう」


暗い森の中、レイドを先頭に三人は分け入った。






「レイド、まだですの?」


何度目かの問いをレイドにぶつける。

オリビアは、すぐに森へ入った事を後悔していた。人の入らぬ森は道などという物は存在せず、木々をかき分けて進む。ドレスを何度も枝に引っ掛け転びそうになる。おまけにあちこちを細い枝で擦り傷を作る始末だ。


「もう少しです、オリビア様」


先程から何度も同じセリフを聞いているような気がする。

息も切れ、着いて行くのがやっと。ナターシャも何も言わないが、同じような状態だと言う事は、呼吸の荒らさでよく分かる。

それなのにレイドは一人平然としていた。途中、何度か腐肉食烏ネクロファジークロウに襲われ、全て倒したというのに呼吸一つ乱れて居なかった。やはり、鍛え方が違うのだろう。




どれくらい歩いたのだろうか。随分と長い間歩いていたような気がする。実際、ほんの三十分程度なのだが、道の悪さがそう感じさせる。オリビアは、自分の甘さを痛感していた。


(もう、ダメですわ。もう、一歩も歩けませんわ)


既に、我慢の限界で、その場に崩れるようにオリビアは座り込む。

スカートに泥がつくが、そんなの気にする余裕もない、というよりは既に泥まみれで、気にもならない。

歩き疲れて棒のようになった足を擦りながら大きな声で宣言する。


「誰が何と言おうと、もう一歩も歩けませんわ」

「それは、ちょうど良かった」


レイドは顔だけ後ろを振り返り、自分の前方の木を払うように手で除けて見せる。

地面にへたりこむオリビアにも、それを確認する事が出来るように。

それは、少し拓けた場所に、小さな、小さな木造の家が建っていた。







ドン、ドン、ドン

木のドアをレイドは容赦なく叩き、声をかける。ベルなどという洒落た物はついていないので、こうするより他はない。


「お祖父様、いらっしゃらないのですか?」


ドン、ドン、ドン


「お祖父様ー」


ドン、ドン、ドン


レイドは顔を強張らせ、執拗にドアを叩くが、返事すらない。襲われた形跡がなさそうだが、もしや、ここも魔物に襲われたのでは?誰もが、そう思った時だった。


「誰じゃ、一体。ワシの家を壊す気か」


不機嫌そうな言葉と伴にドアが開く。白髪のおじいさんが、杖をつきながら、ヒョッコリと顔を出す。その気難しい顔には深いシワが刻まれている。


「お祖父様、お久しぶりです」

「なんじゃ、レイドか……んっ、そっちは?」


レイドの後ろに立つオリビアとナターシャの姿をみつけると、顔を更にしかめた。


(随分と怖そうな方ですわ)

「ワシが人が嫌いなのは知ってるじゃろうに…」


ブツブツと聞こえるように悪口を言う。オリビアとナターシャは思わず首をすくめた。


「すみません、お祖父様。今は、そんな事を言っている場合ではなくて…」


鋭い瞳を光らせてオリビアとナターシャを一瞥した。


「二股か?」


真顔で言う、お祖父さん。オリビアは、自分の耳を一瞬疑った。


(じょ、冗談かしら…?)

しかめっ面のその表情からは、とてもそんな風には、見えない。


「ち、ち、違います」


声を裏返し、レイドは顔を真っ赤にして大袈裟な程、首を大きく振っていた。

オリビアには、それが冗談なのか、どうか分からなかった。






「そんな事があったのか。どうりで、腐肉食烏ネクロファジークロウの姿が少ないと思っておったのじゃ」


あの後、何とかお祖父さんの家に入れてもらい、レイドは事の成り行きを説明した。話を聞いたお祖父さんは、一人頷き納得していたが、ふと思いついたように尋ねる。


「で、クラウドは?」

「すみません、分かりません」


唇を噛みしめレイドは口惜しそうにうなだれる。

クラウドとは、お祖父さんの息子、つまりレイドの父親の事だ。人間嫌いといっても、やはり自分の子は心配とみえる。


騎士長達が魔物を食い止めていた事はナターシャに聞いた。しかし、その後はどうなったのか分からない。


(本当だったら、騎士長の元に駆け付けたかったに違いない)


悔しそうに唇を噛むレイドを見て、オリビアは申し訳なく思った。


わたくしのせいですわ。わたくしがいたから…)


オリビアは、その時初めて気が付いた。辛い思いをしたのは自分だけでない事に。自分だけが大切な家族を無くしたわけではないのだ。


(レイドは、どんな思いであの業火を眺めていたのだろう…)


オリビアはレイドの悲しそうな顔を、辛そうに見つめた。その表情から、生きている確率が低い事を悟ったのだろう。


「結局、無駄死にというわけか…」


お祖父さんが誰に言うでもなく、ポツリと洩らす。


「…無駄って…無駄って何ですかっ」


オリビアは思わず怒鳴りつけていた。三人が驚いたように注目する。

数時間前には、オリビアも同じ言葉を吐いていた。だが、それは違うとレイドが教えてくれた。

唇の端を歪めお祖父さんが、忌々しそうに言葉を返した。


「無駄死に以外の何がある?勇者になれもしない王や王子を守り、挙げ句に剣まで壊されて、最終的に、こんな小娘が勇者だと、女に魔女が倒せる訳がない。何十年、何百年先になるやもしれん勇者の誕生の為に命を落とすなんて、笑わせるではない」


自分の意見に反論され、お祖父さんはジロリと上目遣いで睨み付けながら言った。その目にオリビアは一瞬たじろぐが、直ぐに負けじと応戦する。


「わ、わたくしは、間違っていませんわっ。騎士長も、お父様もお母様も、そしてお兄様も無駄死にではありません。彼らのおかげでわたくし達の生命は、助かりました。きっと、他にもいらっしゃいますわ。わたくしは無駄なんて絶対認めません。そんなの悲し過ぎます」


これだけは、一歩も引けない、イヤ引いてはいけない。


「役立たずの人間がなっ」

皮肉るように付け足すお祖父さん。オリビアは、瞳に怒りの炎を浮かばせた。

二人は睨み合う。レイドとナターシャは緊迫した空気に身動ぎ一つ出来ない。

どれくらい睨み合っていたのだろうか。


「ならば、お前が証明してみぃ」

「言われなくてもそのつもりですわ。見てなさい、わたくしが魔女を倒してみせます。彼らは勇者の…いえ、世界中の人の為に命を落としたのです」


嫌味を言うお祖父さんをビシッと指差し、オリビアは瞳に決意を燃やし宣言するのであった。


読んで下さってありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ