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王子の告白

お気に入り登録をして下さった方、ありがとうございました。


先程とはうって変わり城内も騒然としていた。

既に魔物は、城内にも入り込み始めたらしい。奇妙な鳴き声や人の怒号が、城の奥に充たるこの場所まで、聞こえてくる。


「急ぎましょう」


用心の為か、腰に差した剣を抜く。ファズもそれに倣う。

来た時同様にレイド、オリビア、ファズの順だが、今度はかなり慎重に辺りに気を配る。いつ魔物が、襲ってくるか分からない。

王や王妃を殺した者が、まだ近くにいるはずだ。


「レイド、あれは魔物の仕業なのでしょうか?」


二人に挟まれて歩くオリビアが尋ねる。それなりに剣の腕に自信があった王。それを易々とは殺さずに、なぶり殺したかのような痕跡。力に大差がないとそんな芸当は出来ないだろう。


「魔物の仕業だと思います。しかし、近くに魔女もいたのではないかと。王妃様のお顔になされた無慈悲な行為。以前聞いた事があります。闇の魔女に殺された女性の話を…美しい髪を持つ女性は、その髪をむしりとられ、綺麗な足の女性は、その足を切り刻まれたとか」

「酷い話だな」


キリキリと奥歯を噛み締め、ファズは必死で怒りを抑えているように見えた。

オリビアは、そんなファズを見て嫌な予感を感じた。


「お兄様、無茶はなさらないで…お兄様まで居なくなったらわたくしは一人になってしまいます」


釘を刺すように、後ろを歩くファズに近づき語りかける。ファズがいるから、なんとかオリビアは平常心を保てているのだ。


「心配しなくても、分かっているよ」


そう言ってオリビアを安心させるように優しく微笑んだ。




-カタリ―

曲がり角の先で、突然、物音が三人の耳に届く。一瞬にして、その場に緊張が走る。

ゴクリと唾を飲み、剣を両手で構え直す二人。一歩、又一歩と様子を伺いながら、曲がり角に、にじり寄る。

オリビアは、手に汗を握り黙って成り行きを見守っている。

レイドとファズは互いに顔を見合せ頷き、そして剣を構え同時に曲がり角に飛び出した―--




「きゃあぁぁ〜」


女性の甲高い叫び声が通路中に響き渡った。

レイドとファズは、剣を振りあげたまま気が抜けたように見知った女性の名を呼ぶ。


「ナターシャ!!」






「驚きましたわ。まさか、お二人に剣を向けられるとは思いもしませんでした」


人に会えてホッとしたのか、二人に斬られずにホッとしたのか分からないが、ナターシャは穏やかに言った。ナターシャに話を聞く限りでは、この禁止区域にまで魔物は侵入していないという事だった。禁止区域の入口を一つにしたのが功をそうしているようだ。

その入口目前で騎士長たちが、何とか抑えて込んでいる。その報告の為、王の元へ行く途中だったのだと説明した。


黙って話を聞いていたレイドが、視線を落とし言い辛そうにポツリと口を開く。


「報告に…行く必要はありません…」

「えっ、どうしてでしょうか?」


王の死を知らぬナターシャが目を点にして首を傾げた。頭に被った純白の布が、その動きに合わせサラリと揺れる。


「…王と王妃が…殺されました」

「えっ…」


伏し目がちにレイドが答えた。実際に見た訳ではないナターシャは直ぐには信じ難いようだ。


「な、何ですって…!!……でも、誰に?…魔物は、魔物は、まだ此方には来ていないはずでは??…私もここに来るまで一度も見ておりませんし…」

「………多分、闇の魔女だと思います」


ファズは黙って、レイドの言葉を冷静に受け止めていた。もしかしたら、王から死ぬ間際に聞いていたのかもしれない。


「魔女ですって…」


ナターシャは、驚きで擦れた声で呟き、口元を両手で覆った。


「多分ですが…魔物は、まだ此方に入り込めていない、その気配すらない。なのに王と王妃には魔物に傷付けられた痕跡がありました。そして、なぶり殺された形跡。これは、誰かが魔物を操っているとしか思えない。それに…王妃様の目が抉り取られていた」

「な、なんて酷い…」


ナターシャは、ブルブルと体を震わせ、震える声で囁いた。彼女もまた、魔女の噂を知っているのだろう。その震えが魔女に対する恐怖からなのか、悲しみの涙を堪えているからなのか、オリビアには分からなかった。


「すみません、こんな話を…時期、魔物が押し寄せてくる。とり敢えず、広間の隠し通路から逃げましょう」

「そ、そうですね、お二人を御守りしないと」






広間まで、一匹も魔物と出会う事は無かった。やはり、魔物はまだこちらに侵入していないようだ。広間内は、ヒンヤリとして空気が冷たい。


「通路は確かこの柱時計でしたね」

「そうだ」


ファズは頷き、大きな柱時計に手をかける。コチコチと時を刻む音が聞こえる。


ギィー

柱時計が軋む音をさせて動いた。何年も開けていない為、真っ白な埃が舞い散る。

ポッカリと開いた真っ暗な空間。

カビ臭い臭いが漂う。


「ナターシャ、明かりを点けられますか?」

「はい、やってみます」


一歩、通路に足を踏み入れ、呪文を唱える。


「トーチ」


一瞬にして、通路横に並ぶように点在する松明に火が灯り一筋の明かりの道を作り出す。それは、なんとか歩くのがやっとな位の光だ。


「行きましょう」


ナターシャが中から振り返り、三人に声を掛けた。

レイドとオリビアは、歩を進める。入口に反して通路内は思いのほか広い。三人が横並びで歩ける程だ。オリビアは、何故か動かないファズに気が付いた。


「お兄様?」


不思議に思い呼び掛ける。


「三人で行ってくれ、僕はここに残る」

「な、何を言ってらっしゃるんですか?生きる為に逃げろとおっしゃったじゃないですか?」


焦ったように、オリビアは声を荒げる。


「そうです、ファズ様行きましょう」


レイドも暗い通路内で、オリビアに加勢する。松明の明かりが広間から通路内に吹き込む風で、ユラリと歪み、一瞬炎が小さくなった。


「ダメなんだ!!それでは…」


絞りだすような声。それは、悲痛な心の叫び。


「ダメなんだよ、それじゃあ。俺だって…オリビアと逃げたい。でも、俺が居たら逃げられない。お父様に死の間際に聞いたんだ。闇の魔女の狙いは、勇者の剣とターナー家の滅亡。幸いな事にオリビアの存在は知られていない。ならば、ここから、逃げ出せれば平穏に暮らせる。だが、俺が居ればここから逃げ出せたとしても、いつかは…」


ファズは真一文字に唇を閉ざし、視線を落とした。


「そんなの分からないじゃないですか?勇者の剣さえあれば、いつかは倒せるのでは?お兄様が必ず倒すとおっしゃってくれたではないですか?第一、無茶はなさらないと先程約束してくれたではないですか?」


必死の形相で、詰め寄り説得する。もう、自分にはファズしかいないのだ。

青い瞳を潤ませて。


(きっと、一緒に逃げて下さる。だって、お兄様はわたくしの涙に弱いのだから…)


だが、ファズは首を縦に振る事はしなかった。


「俺は、怖かった。ずっと、魔女と戦うのが」

「ならば、尚更…」


口を挟もうとするオリビアを制止する。


「聞いてくれっ。俺は弱い人間だ。お父様とお母様、そして、お前が側に居れば他はどうでも良いと思っていたんだ」


拳を強く握り締め、自分の弱さを白状する。オリビアのどんな罵倒でも受け入れようと、覚悟を決めて堅く目を閉じている。


「…そんなのわたくしも一緒です」


ぽつりと呟くような小さな声。

意外なオリビアの一言に、驚いて目を開けるが、すぐに否定する。

レイドとナターシャは、ただ黙って二人を見守る。


「違うんだ、俺は。もし、魔女を倒して、お前が自由になったら、きっといつかは俺の側からいなくなってしまう。それならば、一生魔女なんて倒せない方がいいと思っていた。勇者の剣が見付かった時だって、勇者が見付からなければ良いと思っていた。だから、本当はホッとしていた、勇者が見つからなくて…」


ファズの思いも寄らない真実の告白にオリビアの頭の中は一瞬真っ白になる。

が、それでもファズをムザムザ死なす訳には行かない。取り敢えず、ここからファズを連れ出すのが先決。文句なら、後でゆっくり言えば良い。


「……それなら、その剣を置いて逃げましょう。戦う気がないところを見せれば、もしかしたら、見逃してくれるかもしれませんわ。無茶をする必要ありませわ」


今度は、それが名案のように努めて明るい口調で言った。

ファズは、青い瞳に決意を湛え、黙って首を横に振る。


「無茶じゃない…今なら、勇者になれると、そう思う」


ツカツカと広間の端に置かれた勇者の剣に歩み寄る。


「今なら思う。お父様とお母様を殺した闇の魔女を倒したいと…そして、オリビア。お前を守りたいと…」


剣を手に取り、そしてかがけ、視線を剣からオリビアへと移す。


「約束するよ。生きて必ずお前の元へ行くと」


今までにない程、強く逞しい微笑みを向ける。


「それならば、わたくしも残ります」

「ダメだ。お前がいたら、足手纏いだ。倒せるものも倒せなくなる。レイド、オリビアを頼んだぞ」

「…」


黙ったまま、唇を噛んでいるレイド。決めあぐねているようだ。


「レイド、命令だ」


威厳に満ちた口調で、ファズが命令する。


「…はい、かしこまりました」


レイドは、悔しそうに頷き頭を下げた。こんな命令をききたくない。そんな気持ちが見え見えだ。


「レイド?!」


戸惑いがちに、ナターシャが声を掛ける。


「新たな王の命令。従わぬ訳にはいきません」

「…わ、分かりましたわ。姫様、行きましょう」


ナターシャも渋々頷く。命令ならば、ターナー家に仕えている限り、反論は許されない。


「オリビア様、行きましょう。人の心とは強い物です。今のファズ様なら、きっと魔女を倒せます。信じる心が奇跡を起こすのです。我々がいたら、邪魔になります。我々の事を守りながら戦わなくてはなりませんから」


真っ直ぐな瞳で、レイドに言われると何もかも信じられるような気がした。

オリビアは、ファズを振り返る。


「分かりました。お兄様、必ずわたくし達の元へ生きて戻ると約束して下さい」

「勿論、約束する」


オリビアは、ファズの言葉に頷き、隠し通路を進み始めた。ファズの視線を背中に感じる。

だが、それもほんの数分。ギィー

扉が軋む。

―パタンッ―

そして、扉は閉ざされた。オリビアは、後ろを振り返る事はしなかった。






三人の足音だけが薄暗い通路内に響いていた。

どれ位歩いたのだろうか、随分遠くまで来たような気がする。

三人は一言も口を開かず、ただ黙々と先へ進む。

隠し通路なだけあって、外の様子も全然分からない。大気の動きもなく、聞こえるのは三人の息遣いのみ。

―カシャン―


(えっ…?)


突如、オリビアの足下で音が聞こえる。それは、金属が床にぶつかるような微かな音。オリビアは、歩を止め、暗闇で目を凝らし自分の足下を眺める。


「姫様、どうなされました?」

「何か音が…」


どうやら、二人はその音に気が付かなかったようだ。オリビアの足下を二人はじっと見つめる。

床は塵と埃にまみれている。暗くて分からないが、多分ドレスの裾は汚れているだろう。

オリビアは顔を歪めた。


その時、足下でキラリと松明の光の加減で一瞬だけ、何かが光った。


(あっ…)


手が汚れるのも構わずに、直ぐにそれを拾い上げる。それはファズにもらったペアのネックレスだった。


(何故、落ちたのかしら?)


不思議に思い、松明にかざし目を凝らし確認する。


(これは…)


オリビアの血の気が引くのを感じた。

ネックレスのチェーンが切れている。それは、シルバーで出来ていて、切れるという事は絶対にあり得ない。

ネックレスを右手で力強く握り締めた。


(お兄様に何かあったんだわ)


そう思った時には、青ざめた顔で踵を返し、もの凄い勢いで走り出していた―――


師走で何かと忙しいですが、少しでも早く書けるよう努力致します。

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