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王の死

間違えて違う話に更新していました。おっちょこちょいですみません。

あれから一週間がたった。

お城の騎士達にも全員試させたが未だ勇者は、見付かっていない。勿論、レイドにも。

勇者の捜索を、城外まで延ばしていた。出来れば、勇者の剣の存在は秘密にしておきたかったのだが、仕方がない。


ジョーゼは、ドワーフの所へと再び旅立っていた。のんびりする時間がないままに―




「あー、まだ、見付からないんですの、勇者は」


オリビアは苛々しながら、部屋の中を腕を組み行ったり来たりと歩き回る。

ファズは、そんなオリビアを反対に椅子にまたがり、背もたれに顎を乗せ、眺めている。


「少しは落ち着いたら」


ファズが呑気に声を掛ける。まるで他人事の様子に、オリビアは神経を逆撫でされ、冷たく言い放った。


「誰のせいだと思ってるんですか?」

まるで、ファズのせいだと言わんばかりに―

「僕のせいじゃないだろう?剣が僕を選ばないのは…そんなに、焦らなくてもいいんじゃないか?きっと時間の問題さ。それに、もし成人して、剣に選ばれなくても、僕は闇の魔女を倒してみせる。前例が無いなら、僕が作る、可愛い妹の為に」


ファズは青い瞳に燃えるような闘志を讃えて言い切った。


(お兄様…)


オリビアの胸が熱くなる。普段は喧嘩ばかりしているが、誰よりも兄が自分を大切に思ってくれている事を知っている。

ドレスの下に隠すように付けている胸元のシルバーのネックレスを服の上からそっと押さえる。これもファズが外に出れないオリビアの為に街で買って来てくれた物だった。二つで一つのペアのネックレス、合わせるとハート型になるのだ。

当時は、素直に喜ぶのが恥ずかしくて、それを隠す為に、これは恋人同士が付けるものだとからかった。だが、ファズは顔を真っ赤にして「僕達は二人で一人だからいいのだ」と一歩も引かなかった。

ファズには、秘密にしていたが、あれからオリビアは肌見放さず持っている。

多分ファズも持っているであろう…




「分かりました、待ちますわ」


ピタリと足を止めて、ファズに向き直る。その動きに合わせるようにフワリと長いスカートの裾が上品に揺れた。


「その代わり、万一魔女が倒せなかったら、どうなるか覚悟しておいて下さいね」


ニッコリとオリビアは不敵な微笑みを送る。その笑顔にゴクリとファズは、息を飲んだ。




ギィー、ギィー、ギィー

奇妙な獣の鳴き声が耳に入り、窓に黒い影が横切った。

先程まで、燦々と輝いていた太陽が、消えていた。当たり一面が薄暗くどんよりとしている。


「な、なんだ?」


不穏な様子に気が付いたファズが即座に立ち上がる。


(なんだか様子がおかしいですわ)


鳴き声の正体を探ろうと、外をみる為に、オリビアは窓に近付く。


大気が黒い――

当たり一面に広がる黒い靄。こんな事は初めてだった。

ファズもオリビアの横に駆け寄った。


「急に天気が悪くなったな。一体、何故…?」


(天気?雲の加減というより、靄のせいではないのかしら?)


ファズの言葉に首を傾げながら、もっと、外の様子をよく見ようとオリビアが顔を近付けた時、黒い物体が突進してきた。

ファズが反射的に木窓を閉ざす。室内が暗くなる。

ドシンッ―

大きな音が響き渡りビリビリと震動する。どうやら、追突したらしい。

オリビアは目を丸くし、二、三歩後退る。

かろうじて、窓は壊れなかった。ミシミシと気がしなり、そして静かになった。

二人はゴクリと唾を飲む。

諦めたのだろうか?

窓を閉ざした為、外の様子が分からない。薄暗い中、必死で神経を耳に尖らせる。


「オリビア、下がって」


何か聞こえたのかピクリと反応し、ファズがオリビアを庇うように、窓とオリビアの間に盾になるように前に立ち塞がり、腰の剣を抜き構えた。



ギィー

再び戻って来たのか、奇妙な鳴き声を上げ、それは窓に体当たりを食らわせる。ミシミシと音を立て、窓が開いた。留め具が壊れたようだ。

そのままの勢いで、室内に入り込む、それは腐肉食烏ネクロファジークロウと呼ばれる魔物。

カラスを倍以上に大きくして溝色にしたような鳥。真っ赤な嘴が印象的だ。死肉を好む為、こちらが攻撃仕掛けない限り、滅多に人間を襲う事の少ない魔物だ。

この時代、生きた人間をわざわざ襲わなくても、死体はどこにでも転がっている。内戦で殺された者や人間に殺された魔物。また、その逆もしかり。わざわざ危険を侵す必要がないのだ。



腐肉食鳥ネクロファジークロウが、何故?」


眉間にシワを寄せながら、ファズはヒラリとかわし、腐肉食烏ネクロファジークロウの後ろから剣を振りかざし斬り付けた。


ギャーッ


苦しそうな鳴き声を放ち、ドサリと床に落ちる。バサバサと翼を動かし身悶え、そして息絶えた。

床に真っ黒なドロリとした体液が染み出る。


「オリビア様、ファズ様」

大声で叫びながら、勢い良くドアを開け放ちレイドが飛び込んで来た。

そして、床に転がる腐肉食烏ネクロファジークロウの屍を目にし、ファズへと視線を移す。


「大丈夫ですか?」

「あぁ」


ファズは短く応える。切迫した雰囲気を感じ取っているのだ。壊れた窓から、生暖かい風が吹き込み木窓をキィキィと軋ませている。

オリビアは、素早くレイドの側に駆け寄った。


「何があった?」

「分かりません。突然、魔物どもが町を襲い始めました。どうやら、此方に向かっているようです。町の騎士たちが、それを必死で防いでおりますが、何せ数が多い、時間の問題で此方に…」


レイドが何かに気付いたように言葉を止め、割れた窓の外を見つめる。

オリビアとファズも、レイドにつられ、そちらをじっと見つめる。

バサバサと大量の羽音、何やら空が真っ黒に染まっていく。


「不味いな」


レイドが焦りの色を見せ、言葉を洩らす。


(何が不味いのかしら?)


そう思った時には、オリビアにでさえも直ぐにレイドの言葉の意味が理解できた。

空を黒く染めた物、それは何百匹もの腐肉食烏ネクロファジークロウ。いくらそんなに強くないとはいえ、これだけ大量となると間違いなく苦戦を強いられるだろう。


「オリビア様、ファズ様、ここは危険です。城の奥へ移動しましょう」

「はい」


三人は直ぐ様部屋を飛び出し、ドアを閉める。

せめてもの時間稼ぎとドアの外につっかえ棒をする辺りが、さすがはレイドは抜かりがない。



「レイド、どこへ行くつもりだ?」


後尾を走るファズが先頭を行くレイドに尋ねる。


「取り敢えず、ターナー王のお部屋へ。あそこは窓もありませんし、入口も狭い。一番安全に戦える場所です」


走りながら、説明するレイドにオリビアは黙って必死で着いていく。

いくらお転婆と言っても、流石に男性の全力疾走に着いていくのは辛い。


息が苦しい―

胸がばくばくする―


この時ばかりはオリビアももっと身体を鍛えれば良かったと後悔した。


「もう少しです。頑張って下さい」


励ますように声をかける。確かに、すぐ近くまで来ていた。だが、オリビアは先程から、胸がざわつき嫌な予感がしてならない。それは王の部屋が近付く程に強くなる。


(何ですの、これは?…空気が冷たく重くのしかかる感覚。お兄様達は、何も感じないのかしら?)


前を行くレイドも後ろから来るファズも何も言わない。


見慣れた王の部屋前でレイドは足を止める。


(これは…!!)


オリビアは目を瞠った。王の部屋を沢山の黒い靄が包み込んでいた。ガタガタと足が自然と震え、その場に立ち尽くす。


「さぁ、オリビア様入りましょう」


レイドが立ち尽くすオリビアを促す。


(行ってはいけない。これが見えないのか?)


必死で声に出そうとするが、恐怖で出ない。


「お前にも恐怖心があるんだなオリビア。急がないと魔物が来るぞ。さぁ、中に入ろう」


固まってしまったオリビアに、息を切らせながらファズが声を掛け、腕を取り半ば強引に中に引き摺り込もうとする。


(この靄…二人には分からない??)

「止めて!この黒い靄が見えないの?」


顔面を引きつらせ、思わず叫ぶ。


「靄?何を言っているんだオリビア」


オリビアの言葉に不思議そうな表情を見せる二人。


(二人には見えていないの??)


中が安全だと思っている二人は、オリビアを無視して王室のドアに手を掛け開く。


「…なっ…」


三人は、言葉を失った。

真っ赤なドレスを身に纏ったかと思う程血まみれで横たわる王妃と身体中傷だらけの王の姿。そして、部屋中には黒い靄―まるで意思を持つように蠢いている。そして、それが王にまとわりついていた。


オリビアは思わず口元を覆う。余りの惨劇にすぐに状況が呑み込めない。

呆然と立ち尽くす二人を尻目に、すぐさまレイドは二人の元へ駆け寄り、状態を確認する。王妃の方は無反応だが、王が微かに動くのを見て取れた。


「お父様、お母様…」


それを見てファズが弾かれたように二人へと走り寄った。黒い靄が二人を包み込む。


(何なのだ、あの靄は…)


「うっ…」


苦しそうな王の呻き声に、オリビアも咄嗟に近付く。


「オリビア様、いけません」


レイドが叫んだ。オリビアを近付けまいと-だが、遅かった。

見てしまったのだオリビアは…横たう王妃のその顔を。


「グッ…」


酸っぱいものが胃の腑を上がってくる。口元を抑えゲホゲホと激しく咳き込み涙ぐむ。


(目が…)


えぐりとられていた。そこにあるべき二人と同じ澄んだ青い瞳が―

父親譲りの空色の髪、そして、母親譲りの青い瞳。二人が王と王妃の子供だというその証を―

ポッカリと空いた穴--もう、その瞳は、何も見る事が出来ない。

大好きだった母の慈愛に満ちた優しい瞳を、もう見る事が出来ない。


だがしかし、何故だかその時は悲しみより、見た事もない異形の母の姿に恐怖を覚え、吐き気をもよおした。

丸まって嘔吐するオリビアの背を優しくレイドが擦る。オリビアが落ち着くまでずっとそうしていてくれた。




どれ位、時間が経ったのだろうか。


「行こう」


ファズが立ち上がり、王の側を離れた。王にまとわり付いていた靄が減っていた。


「宜しいのですか?」


レイドが尋ねる。


「あぁ」


短く応えた。その瞳は悲しみの色に染まっていた。

それで、全てを理解出来た。だが、それでも往生際の悪いオリビアは納得出来ない。


「何を言っているんですの!!傷付いたお父様を一人になさるのですか?…わたくしは…わたくしは、ここに残ります」


オリビアの言葉にファズは哀しそうに目を伏せ、静かに首を振った。


「お兄様が反対しても、残ります」


震える声で、答える。


「違うんだ…オリビア、お父様は…」

「いやぁぁぁ、聞きたくない」


耳を両手で塞ぎ、ファズの言葉を遮り叫ぶ。


「オリビア、聞くんだ」

「いやよ、聞きたくない。聞きたくない。」


ファズを否定するようにブンブンと激しく首を振る。レイドは、黙って二人を見守る。


「いいから、聞くんだ」


ファズは、オリビアの細い手首を掴み上げ押さえ付ける。「嫌だ、放して」とばかりに暴れるオリビアを力ずくで静めた。


「聞いてくれ!!時間がないんだ!!」


じっと、オリビアの顔を覗き込み、強い口調で怒鳴り付ける。その言葉とは反対に、その青い瞳には、オリビアと同じ哀しみを孕んでいた。


(お兄様…)


その瞳を見て、ハッ!!と我にかえる。


(分かっている。お兄様が、何を言いたいのか。お兄様だって、辛いのだ、悲しいのだ。だが、それを悲しんでいる場合ではない。一分一秒だって、無駄に出来ないのだ。私達を、いえ、私を守る為に…)


「お父様は、死んだんだ…」


ガックリと肩を落とし、オリビアの手首を掴んでいた手を放し俯く。掴まれていた手首がヒリヒリと痛い。


「死んだ…んだよ……」

「お兄様…」


俯く兄―オリビアは、兄が泣いているのかと思った。

だが、違った。

決意を固めた強い瞳。今までに見た事のない兄の姿。この時、初めて兄を頼もしいとオリビアは思った。


「お父様からの最後の言葉だ…生きろと………………逃げよう。そして、生きよう!!」

「ファズ様…」

「行こう。広間にある隠し通路、あそこからなら、逃げられるだろう」


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