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消えた遺体

久しぶりの更新というのに短くてすみません。

禁止区域内は綺麗な物だった。むせ返る血の臭いも遺体も皆無だ。

魔物から逃げる際まで城のルールを守ってくれていたようだ。

オリビアは城に仕える者の忠誠心に心打たれていた。

だからこそ余計に自分自身に腹が立って仕方ない。ただ、逃げ出す事しか出来なかった自分自身に――


黙ってレイドの後について行っていたオリビアの足がピタリと止まる。この先は王と王妃の部屋、そして広間だ。

無惨に殺された王妃の恐ろしい姿を思い出す。

オリビアの様子を察したレイドも足を止め、言った。


「此処から先は一人で行きますので、此方でお待ち下さい」


(行きたくない。でも……)


レイドの優しさに甘えそうになる自分を振り払うように、大きく首を二、三度振った。


「大丈夫だ。一緒に行く」


オリビアの答えに驚き、レイドはクルリと振り返った。


「無理をなさらくても……」

「いや、行く」


(今は、お兄様なのだから)


ファズなら間違いなくレイドと行くだろう。

強い口調で、頑なに同行を願うオリビア。ここで甘えたら、ずっと甘え続けてしまう事が分かっているのだ。

レイドは諦めたように息を吐いた。


「分かりました。では、先に王と王妃の部屋へ行きましょう。旅支度を整えませんと」

「旅支度?」

「えぇ、旅の資金を調達します」

「資金か……それなら宝物庫の方が良いのでは?」


禁止区域から出た事がないので場所は知らないが、確かあったはずだ。オリビアに言われずともレイドの方が良く知っている。


「そうですね――でも、魔女に襲われた城の宝物庫は全て空となっているそうです。大方魔女が持ち去るのでしょう。ここも多分同じ。無駄な時間を費やさず、王様達のお部屋へ。王妃様のアクセサリー類なら持ち運びに便利だし、換金しやすい」


(確かに、そうですわね。国に寄って通貨は違う。アクセサリーなら、その国事にこまめに売れば対応しやすい。それに大金を持ち歩くよりは安全かもしれませんわ)


レイドの言葉に納得する。


「では、行きましょうか」



静寂に包まれた通路。静かすぎて逆に耳が痛い。

一歩、また一歩と王の部屋へと近づいて行く。その度に足が鉛のように重くなる。

前を行くレイドが扉の前で足を止める。

王の部屋だ。

そこに渦巻いていた瘴気が外同様跡形もなく消えている。

オリビアは伏し目がちにその扉をじっと見据えた。


「よろしいですか?」


レイドが扉に手を掛け、オリビアを振り返る。


今更、後には退けない。

覚悟を決めたように、ゴクリと生唾を飲み込みながら頷いた。

それを合図にレイドは手に力を込める。

ギィー

重みのある音を立て、ゆっくりと扉が開かれていく。

レイドの背中越しに、最初に目に飛び込んできたのは、床に敷かれた絨毯だった。毛並みの良い絨毯が沢山の陽射しを受け真っ赤に染め上がっている。

それは正に血の色を思い出させる。今まで一度だって、そんな事を感じた事がなかったのに――

オリビアは、咄嗟に目を逸らした。




「……な……いっ!!」


先に部屋に入ったレイドの驚きの声が聞こえてきた。オリビアは、反射的にそちらへ顔を向ける。その顔には相当の焦りの色が見て取れた。

常に冷静なレイドにしては、珍しい反応だ。


(一体、何がないと言うのかしら?)


オリビアは怪訝顔で一歩室内に足を踏み入れ、直ぐにその異変に気付く。


(無いっ…………!!)


一瞬にして、血の気が引いていくのを感じる。


「どうゆう事ですのっ?」

余りの驚きように、ついオリビアに戻り叫び声を上げた。その声が城内に反響するが、直ぐに静寂を取り戻す。今は、オリビアとかファズだとか構っている余裕が無い。


レイドの元へと走り寄り、掴み掛かる。


「どうゆう事ですの?」


両手でシャツを掴み、力任せに揺さ振る。かくかくとレイドの首が揺れ、髪が乱れる。


有るべき者が無いのだ。そう王と王妃の遺体が……

あれは、夢だったのいうのだろうか?


「……分かりません」


揺さ振り続けるオリビアの手を止めるように優しく掴み、かぶりを振る。


「夢だったの……?」


そうだったらどんなに良いか、何度も頭の中で繰り返していた言葉を呟いた。

だが、レイドは頷く事はせず、青ざめた顔で一点を見つめていた。遺体の合った場所だ。

夢でない事は、現状が物語っている。

生々しい血の跡が今も床に残っているのだ。無くなったのは遺体だけである。

オリビアも、レイドの視線を追い、床の痕跡に目を移す。

そして、夢でない事を理解し、力なく両手を下ろした。ブラリと揺れる腕がまるで自分の物ではない感覚に襲われる。


「あっ……!!」


ある事を思い付き、オリビアは突如部屋を飛び出し、走りだした。レイドも直ぐにその後を追う。

向かう先は――――広間だ。


(お兄様は?)


全力疾走で一気に通路を走り抜け、オリビアの目が立派な大きな扉を捉える。

勢いそのままで、荒々しくそれをこじ開けた。


―バタンッ―


凄まじい音ともに、その入口は開かれ、その余韻で小刻みに揺れる。


オリビアは目を大きく見開いたまま固まった。


「オリビア様っ……」


後から駆け付けたレイドも言葉を失い、その場に立ち尽くす。

思った通り……ファズの遺体も消えている。

それ以外は、王の部屋同様、部屋の様子は何も変わってはいない。

変わったのは床に広がる大量の血痕が時間の経過と伴に乾きどす黒く固まったくらいだ。


「どうして? まさか、生きていたとか?」


期待に満ちた嬉しそうな表情で問うが、レイドが完全に否定した。


「それは、ありません。あの大量の血痕で生きている事はあり得ません。王様は確認しましたし、王妃様に至っては問題外です」

「では、どうして?」

「分かりません。魔物の仕業か、それとも魔女の仕業のどちらかだとは思いますが」

「魔女……? 何のために?」

「申し訳ございません、分かりません」


オリビアは黙って唇を噛んだ。分からない事ばかりだ。


「とにかく、探してみませんか?どこかに移動されているのかもしれません」

「はい」


あれから、色々と探したが結局見付けだす事は出来なかった。そのヒントすら見付けられない。

悔しいが、今のオリビア達には何も出来ないのだ。

仕方なく旅支度を整え、城を後にする。


オリビアの胸はザワザワと不吉な予感に騒めいていた。


いつも読んでいただき有難うございます。一人でもお気に入り登録をして頂ける方がいらっしゃる間は、きちんと続きを書き続けようと思っています。少々時間がかかるとは思いますが、ぜひ、読み続けて頂けると嬉しいです。

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