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レイドの父親

上手く続きが書けず、遅くなりました。短くなってしまいすみません。

城内は薄暗くシンと静まりかえっていた。その静寂が益々オリビアとレイドの心を暗く沈ませていた。町同様にやはり幾つもの騎士の遺体が冷たい床に倒れている。町の中と違うのは、魔物の遺体の数が多いという事だけだ。それだけ、城内には腕の立つものが多い証拠。

レイドは、一体一体遺体に近づき確認していく。そして、時折、知り合いなのか、その名を悔しげに呟く。オリビアに取ってここに倒れている人は、皆知らない人ばかりだが、レイドは違うのだ。

見知らぬ者でもこんなに辛いのに、それが知り合いともなると――レイドの心情を計り知れない。

言葉を掛ける事も出来ず、オリビアは黙って唇を噛み締めついて行く事しか出来なかった。


徐々に城の奥へと近づいて行く。


――禁止区域――


そうオリビアの生活圏内へと。結局、ここまで誰一人として生き残っている人に会う事が出来なかった。


(あらっ、この辺り?!)


異変に気付き、キョロキョロと辺りを見回す。明らかに多いのだ、魔物の遺体が。

前を歩くレイドが何かに気が付き歩を速める。

魔物の遺体を器用にヒョイヒョイと避けながら、スタスタと風を切るように歩く。そのスピードがいかなるものか、金色の長い髪が風に流れる。まるで、オリビアの存在を忘れしまったかのような勢いだ。

慣れぬ足取りで、右に左に必死に遺体を避けながら、小走りで何とかついて行く。こんな所に置き去りにされるのはまっぴらごめんだ。

角を曲がり細い通路へと入る、その先が禁止区域――


「……さん……」


レイドが何かを呟いたと思ったら、突然足を止めた。オリビアは、その動きに対応できず、その背中にしたたかおでこをぶつける。


(どうしたのかしら?)


ぶつけたおでこを痛そうに撫でながら前方を確認しようと試みる。

広い背中に覆われて、その先は見えない。何か呟いたのだが、それも聞こえなかった。身体を右に左にと傾け、必死で様子を伺う。


(……ッ?!)


レイドと壁の僅かな隙間から、何とかその様子をかいま見る。

グッタリと壁に寄りかかるように座り込む一人の騎士。ターナー家の紋章が付いた革鎧を身につけている。

そして、その髪の色は金色――

確か以前、ファズから聞いた事がある。この国の民の髪は殆どが茶色で金色の髪は稀であるという事を、そして、この城に仕える者で金色の髪を持つのは騎士長とその息子レイドだけ……となると、あの人は……

オリビアにでさえ、簡単にその答えを導き出せる。


(騎士長だ……!!レイドはずっとあの人を探していたんだわ)


先程、レイドが確認していた騎士達の遺体は、皆頭に兜を着けていた。一人一人顔を確認をしていたのだろう。


「と……うさん……」


絞りだすように声をだす。その声は擦れていた。

騎士長の投げ出された右指がほんの僅かだが、ピクリと反応した。革鎧はボロボロで、あちこち傷だらけだが、此処からは大きな外傷は見受けられない。


「父さんっ」


弾かれるように、レイドが騎士長の元へと走り寄り、オリビアもそれに習う。


(良かった。レイドのお父様生きていらっしゃった)

人の気配を察したのか、ゆっくりと重い瞼を開き、ほんの一瞬大きく見開く。


「……レイド……生きて…いたのか……」


何とか声で絞りだす、その声は擦れていたが、嬉しそうだ。


「はい、ファズ様もいらっしゃいます」


父親が生きていた事に安堵したのか、力強く答えた。虚ろな瞳で、その姿を探すようにゆっくりと視線を動かし、そしてオリビアに止まる。

レイドを少し逞しく精悍にした感じの大人の男性。落ち着いた雰囲気を醸し出している。親子というだけあって、よく似ていた。まるで、二十年後のレイドの姿を見ているようにすら思える。


「ファズ様……良かった……」


少しだけ安堵の表情を浮かべて騎士長が息も絶え絶えに言った。


わたくしをお兄様だと思っている……)


それを望んでいたのだが、やはり男と間違われるのは余り気持ちの良いものではない。

それでも、オリビアは兄の真似をする。少しでも騎士長を安心させてあげたかったのだ。


「騎士長殿が此処で時間を稼いでくれたおかげで、無事逃げる事が出来たんだ。有難う」


出来るだけ、ファズの口調の真似をし、低い声で話すよう試みる。普段、城の者にどのような態度を取っていたかは分からない。禁止区域から出た事のないオリビアは空想の域で話すしかなかったが、騎士長も特に疑いの眼差しを向ける事が無かったので特に大差はないのだろう。

嘘をついているせいか、真っ直ぐに騎士長の顔を見る事が出来なかった。


「今はレイドのお祖父様の所で世話になっている。君達親子には世話になってばかりだ。そこに、治癒魔法が使えるナターシャもいるんだ。レイド、一度戻って騎士長殿の手当てをしよう」

「はい」


レイドが、素直に頷き騎士長を起こそうと腕の下に手を掛け壁と背中の間に腕を回す。


「うっ……」


レイドの腕が触れた途端、騎士長は痛そうに顔を歪め、低い呻き声を漏らした。レイドが驚いたように、その動きを止め、僅かに離した。


「……無理だ……」


息も絶え絶えに騎士長が呟き、首を横に降る。その瞳に力がない。


「な、何を言ってるっ!!その程度の傷ならナターシャが治せる。なぁ、レイド?」


同意を求めるようにレイドに視線を送るが、黙ったまま壁と背中の間から自分の腕をそっと引き抜いた。

その腕は衣服を真っ赤に染め上げている。レイドは茫然と自分の腕を不思議な物をみるかのように暫く眺めていたが、何かに気付いて、下を見る。

オリビアもそれに誘われるように、視線を移す。よく見ると、騎士長が座るお尻の下辺りに、おびただしい量のどす黒い染み。既に渇いて固まっている。


(血?!)


驚きの声を上げそうになり、口元を両手で覆う。ファズでは無く、オリビアに戻ってしまいそうだ。


「……私は……助からない……」

「な、何を言っている。大丈夫だ。これ位の傷……」

尋常ではない血の量にレイドが悲痛な面持ちで、オリビアに視線を送り、ゆっくりと静かにかぶりをふる。


オリビアは諦められず、騎士長の肩に手を掛け、優しく壁から引き離す。


(こ、これはっ……!!)


オリビアは思わず目を逸らした。

切れているなんて、甘い物ではない。背中の肉が削げ落ち、白い背骨が露になっている。それは誰の目にも答えは明らかだ。この状態で今まで生きていた事の方が奇跡だ。

寄り掛かっていた壁にも赤黒い染みが床まで垂れたような跡が着いている。

オリビアは優しく再び壁に寄りかからせ、そっと手を離した。

騎士長の瞳には、もはや光がない。残りの命は後わずか。最期の力を振り絞るように言葉を紡ぐ。その声はか細く、擦れていたが何とか聞き取る事が出来た。


「……レイド……ファズ様を……頼む…………」


(こんな時まで……)


オリビアは驚愕した。最期を迎えたこの時に彼はレイドの前で父親では無く、騎士長である事を選んだのだ。多分、それはオリビアが横にいたから。

チラリと横に立つレイドの顔を盗み見る。その表情からは、何も読み取れない。レイドは静かに騎士長の元へと歩み寄り、腰を落とした。


「約束します。この命に代えてファズ様を御守りします」


レイドの言葉に安心したように、大きく一つ頷いた。そして、力尽きるように瞳を閉じ、騎士長の身体は冷たい床へと崩れ落ちる。

レイドは、ぼんやりともう動く事のない父親の姿を見続けていた。


「ごめんなさい」


流れ落ちそうになる涙を必死で堪え、代わりに言葉を漏らす。多分、騎士長はもうその目を開く事はない。オリビアの所からは、ハッキリ確認する事は出来ないが、レイドの背中がそれを語っていた。


「何故、謝るのです?」


オリビアに背を向けたまま、静かな口調でその真意を問う。


「だって……」


言葉に詰まる、その声は涙声に近かった。それに気付いたレイドが止める。


「いえ、いいです」


大きくかぶりを振り、ゆっくりとした動作で立ち上がる。


「……これで……ました」


ボソリと何かを呟くが、此方に背を向けていたせいかよく聞き取れない。


「えっ?」


オリビアが、その淋しそうな背中に聞き返した。レイドは、ゆっくりと此方に振り返り、先程よりハッキリした声で言った。


「父と最期の約束をしました。これで、オリビア様から離れる訳には行かなくなりました」


真っ直ぐな眼差しをオリビアに向ける。もしかしてレイドはオリビアの心に気付いていたのかもしれない。昨晩の事を思い出に、ナターシャと伴にレイドともライラットで別れようと決心していた事に――


「オリビア様、私を親不孝者にさせないで下さい」


オリビアは、閉口した。レイドにはオリビアの考えなど、はなからお見通しなのだ。

返す言葉が見付からず、黙り込む。それは負けを認めた合図だ。

レイドは父親の姿を見つめた。最期の姿を目に焼き付けるかのように――

でも、それも束の間。


「行きましょう、ファズ様」


その奥へと視線を移し、先へと促す。此処で余計な時間を費やしている場合ではない。

オリビアは、亡くなった騎士長に深く一礼し、静かに頷いた。


なかなか話が進まなくて、すみません。次回は少し遅くなりそうです。

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