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優しい魔王の疲れる日々  作者: n
優しい魔王の疲れる日々8
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第84話:魔王とメイドの来客

お久しぶりすぎます!お待たせしましたそれとリメイクをまだまだ行っております!



鋳鶴の部屋で大きな目覚ましの音が鳴り響く、スティールは鋳鶴のベットで寝ていたのに気付き自分で起きようとするが何かに阻まれて腰から先が抜け出せなくなっている

腰回りは自分でも細い方だと自覚しているが自分の腰を疑い目を布団の中にやってみると何かが自分の腰が抱かれている事に気付く、それと同時に自分がこの極小水着を気付かぬうちに着用していたことに驚きを隠せない


「まさか」


もう酔いは回っていないが回っていた方がある意味よかったかもしれないと思うスティール、もちろん自分の腰を抱いているのは鋳鶴だった

今の自分の表情を確認したいスティールであったがそんな暇は無い上に今は一刻も早く鋳鶴から離れなければという思考が彼女の頭を過った

依頼主または任務遂行のターゲットと恋仲になるのはもちろん、体を重ねる事自体メイドとしては原則禁止とされている

それに今日はまだメイド長から渡された小箱の光は見られないし、そもそも昨晩はメイド長と連絡を取っていないことからスティールはメイド長にこの現状を見られたのではと思っていた

自分の右手に何かが握られているのにスティールは気付く、手を開くとそこにはいつも鋳鶴が大事に首から下げているペンダントがあった

なぜいつもつけているのか不思議でたまらないスティールだったがいつも話さないものを自分が手にしていることもあり、メイドとしてはどうかと思うが自分の好奇心が抑えられずそのペンダントをゆっくりと開いてみる

そこにはまだ体格が幼いように見える鋳鶴と見たこともない綺麗という言葉では足りないほどの美少女が鋳鶴の手を握って満面の笑みを浮かべている二人の写真であった

少し嫉妬を覚えるスティールだったが、疑問に思ったのは彼女であろう人物を一度も見かけていないことであった

昨日の時点で見かけた人物の中には写真の女性の様な人物は全く見かけていない

別の学科の人間なのかそれかどこか別の場所に移り住んでしまったのかとスティールは考えた


「むにゃむにゃ・・・スティール・・・」


がっちりと掴まれた腰がなかなか抜けないスティール

鋳鶴が半袖の為、当然肌と肌が触れ合っている

正直、満更でもないのだがやはりそうとはいわかない為、スティールはわざわざ転移魔法を使用してあっという間の速度でメイド服に着替えた

寝息をたてながら寝ている鋳鶴に一礼をしてスティールは部屋のドアノブに手をかけドアを開けた

眩しい光を感じスティールはとっさに手で顔を覆う、扉を開けたその正面には朝日を降り注がせる小窓があった

きちんと窓だけ開いていて、虫などが入ってこないようにとスライド式の網戸がつけられている

小窓の前には棚が置かれていてそこの上には望月家の家族の写真が、だがその写真には男は鋳鶴しか写っていない

望月家は11人家族、その中でも父と真宵、そして母の雅がいない

笑っている様には見えるが、それでもスティールには全員の笑顔が本物でないという事が分かった

基本的に無表情な自分でも人の顔から本来の感情をくみ取るのは得意でメイド長をよくからかっては弄っている

自分たちメイドの様に多忙な人間でも、全員そろって写真を撮ることは一年に一度は必ずする行事の様なものだ

しかし、そんな多忙なメイドたちよりも多忙の望月家の家系、スティールは自分の家族ともいえるメイドたちが全員そろわなかったらと考えた

今もこの家には父親の霧谷、母の雅、四女の真宵、五女の結が帰って来てはいない

五女の梓も今は大学に休みをもらって帰ってきているのだが正直、いつまで休みかは鋳鶴も聞いていない


「どうしたメイドさん」


階段の下から声が聞こえた

少しハスキーで通る声の正体は望月家の次女、杏奈の声だった


「あぁ・・・すみません、写真を見せていただいていました」


「それより鋳鶴は大丈夫か?まだ寝ているのか・・・困った奴だ」


「坊ちゃんは昨日、鍛錬をされていたもので・・・申し訳ございません」


「べっ別に君を責めてる訳じゃないぞ!?

しかし、困ったな・・・朝食も私には作れないし、みんなを起こさないといけない」


杏奈は髪を束ねながらスティールを見つめた


「かしこまりました」


スティールが自分の視線の意味を理解してくれたかはわからなかったが杏奈は鋳鶴以外を起こしにいこうとほかの部屋に向かった

階段を降り、その階段を降りる途中でも家族の思い出の様な写真や成績優秀者に送られる楯や賞状が飾られていた

その中で最も楯や賞状が少ない者が一人だけいるのがスティールには分かった

この家の長男、鋳鶴であった

他の姉妹たちは賞状や楯が多いのにも関わらず、彼にはほんの少ししかなかった

なぜ?とスティールは思った

しかし、彼の賞状やそれはうなづけることだった

元より、鋳鶴自身余り前に出るようなタイプでは無い

目立ちたがりな訳でもなければあまり喧嘩や競争事も嫌う彼、スティールはそれを考慮しながらもやるせなさが襲っていた

たった数日だが彼の事を少しは知ったつもりのスティールはこの目の前に広がる望月家の栄光の中で彼が最も少ないことに不満を抱いていた


「なぜ・・・」


「鶴君があまり褒められてないとお思いですか?」


廊下の途中で止まっているスティールに声をかけたのは五女の梓だった

胸が強調されるスーツの様な服装、それでいてふくらはぎまでのぴっちりとしたズボン

スティールや杏奈より早く起床して身支度を整えていたのだろう

彼女とは違い梓の方がショートカットな為に髪を整える時間も少ないのだろう、だが少し気丈なイメージしかない望月家の女性には無い女性らしさが彼女にはある


「鶴君は正直に言って優秀とは言えません」


「そうなのですか」


「勉強はですけど

私が教えてもろくに覚えてくれませんし、でも鶴君にはこの家にいる姉や妹には負けない優しさがあります

力では恐子姉さん、度胸では杏奈姉さん、武術では穂詰姉さん、剣術では真宵姉さん、勉強は私、家族愛の結、運動能力のゆり、一番可愛い神奈

こんなに多種多様な才能があるそれぞれの姉妹よりも鶴君は優しさがあります

私たちが無理難題な食事の内容を押し付けても必ずそれを出そうと尽くしてくれますし、私たちが壊してしまうものを直してしてくれたりします

利便性と言ってしまえばそうなのですがでもそれが評価の対象ではなく、優しさが一番先に出てくるんです」


「だから・・・」


「そう、それは家の中だけでなく外でも働いているんです


私たちの見えないところで懸命に人の為になろうと努力しているんです


空き時間があれば老人ホームや幼稚園を回って手伝いをしたり、学校では進んでゴミを拾ったり、確かにそれは賞状や楯のもらえる表に現れてくる評価ではありません

故に気付きにくいこともあります

これを見てしまえば鶴君の名前があまり無いことに違和感を持つのもおかしくないことです・・・

でも私は思うんですきっと鶴君はこれらの物をもらうことさえ拒むことがあるんじゃないかって」


「坊ちゃん・・・」


スティールはエプロンをギュッと握って鋳鶴の優しさを思い出した

知り合って日はあまりにも浅いが、それでも彼のやさしさは頭に残っているほどに焼き付いていた


「悪いこともあるんですけどね

何よりも女の子が寄って来てしまう性格とあのやさしさゆえにすぐに女の子もその気になっちゃうこともおおいんです

いつも気を付けろとは言っているんですが」


スティールの綺麗な思い出が一瞬にして崩れ去った一瞬だった


「失礼ですが・・・坊ちゃんは女性と共に就寝する事も多いのでしょうか・・・?」


「う~ん・・・あぁお隣の三河さんの家の歩さんとはよくあるんと思うんですが、実際はわかりませんね

鶴君の事ですから他の女の子もいるかもしれませんね・・・」


スティールの無表情が少しだけ歪んだ

先ほどのペンダントの女性と梓の言う三河という人物を思い出していた

ポニーテールの日本人気質をそのまま体現したような女性だった

自分ではなく、彼女と体を重ねているであろうならとスティールは考えた

少しばかり妬ける気持ちはあったがあえて気にしなかった

メイドの仕事には関係のないことであるしこれ以上彼のことを知ってしまうとスティールはどうにかなってしまいそうだからだ


「そういう意味での魔王でもあるのでしょうか」


スティールは梓に問いかけた

梓は笑いながら、賞状を見渡した


「そういう意味かもしれませんね

でもそういう意味の魔王ならあの子も認めると思いますよ」


スティールは再び、不貞腐れた

梓は彼女の反応を見て口を覆いながら笑ってしまいそうになるのを寸でのところで堪えている


「とりあえず、鶴君のために朝食を作りましょう」


「坊ちゃんが言っていたのですがこの家では坊ちゃんとゆり様と神奈様しかできないと坊ちゃんから・・・」


「大丈夫です

私もやるときはやりますからね」


そう言った梓の顔は自信満々だったが、スティールは鋳鶴から一つ、聞いていたことがあった

梓の料理の腕は壊滅的だということを




ーーーー陽明学園ーーーー




陽明学園の会議室、そこでは朝早くから生徒会長が集まり会議をしていた

勿論、今日は休日でそんな中呼び出された会長たちは気分が悪いどころの騒ぎではなかった

前回の案でまとまったはずの会議はあのあと一平によって否決され、再び集まり会議をすることになったのだ

一人の男を除いては


「それでね?やっぱり対策本部の司令官的な役付けな位置は僕でいいのかな?」


他の会長たちは誰一人として顔を上げなかった

体育大会で優勝した一平が指揮をとるのはもっともだったが他の面々が納得するわけはなかった

魔法科と魔王科に至っては鋳鶴そのものに負けたということ、機械科は少しだけ不満を抑えてはいるが一平の満面の笑みを気に入ってはいない


「ごっごめんね!?優勝しちゃったからね?」


自慢気に話を進める一平、おもむろに膝元にあった紙を机の上にだすとそれを叩き付けて机の中心のカメラがそれを捉えた

西 普通科半数(普通科代表 望月鋳鶴)、機械科、科学科、

東 普通科半数(普通科代表 風間一平)、魔法科、魔王科、銃器科

とだけ、その紙には記されていた


「前回は確かにあぁ考えたが・・・なぜだ!?なぜ私は鋳鶴と同じじゃないんだ!?」


結が刀を振り上げ発狂しながら一平に問いかける

一平は笑みを浮かべながら彼女をなだめる

さらに縒佳を除く他の会長たちが彼女をなだめて再び席に座らせた


「これにはわけがあるんだけどもね?」


一平が指を指す先には東京と北海道の二つ、闡明と有明の二つだった


「闡明には瀬尾立波という人物がいてね

彼自身、格闘技が得意でうちの城やんに似ているんだよね?

拳の弱点は純粋に遠距離攻撃と近距離でも武器があると有利だと思ったんだよね?

魔法科はどこでもあるから魔法科の皆には頑張ってもらわないといけないけど、やっぱりね?有明のツインエンジェルス?だったかな?彼女たちの箒乗りと魔術おコンビネーションは脅威だと思うんだよね?それに海原潮人君がいるからこの布陣にしたんだよ?結君と潮人君の戦いだって見てみたいしね?」


海原潮人という名前を聞いて結の顔が意気揚々とし始めたのが一平には分かった

性別は違えど互いに日本一の剣士であろうこの二人、一平はバラエティー感や夢の対決ということも考えてこの布陣を決めているのである


「西に望月君をやったのは正直ね?彼には荷が重かったかなと、僕も反省しているんだよ?でも金城君と朝倉さんがいれば彼の力になってあげれると思ったし、これでも僕なりに考えてるんだよね?」


「それはわかったでありますが・・・勝機はあるのでありますか?」


「あると思う?僕らは確かに日本有数の学園に在籍しているよね?

これは誇れることでとても嬉しいことだよね?

僕も君たちもあまり学園長とは話したことはないだろうし?興味もないと思うよ?でもさ?たまにはみんなで協力して何かを成し遂げてみたくない?

体育大会では脅威だった連中が今や味方なんだよ?こんなに心強いことは無いと思わない?」


全員が真剣に一平の言うことに耳を澄ましていた

先ほどまで一平のことを疎いと思っていた各会長の面々をこれほどまで早く丸め込む

これが普通科会長、風間一平


「前回の会議では出来なかったことが今回出来たよね?

じゃあこれで今日は解散だね?みんなの力を一つにしないと僕は勝てないと思ってるよ?前回よりも会議は短いわけだしね?これで少しは戦術とかが向上するといいね?」


一平が合図をすると各会長は転移魔法を使って各科に移動した







ーーーー望月家ーーーー








望月家では長女の恐子以外は倒れていた


「おかしいですね


ちゃんと配合などを考えたはずなのだけれど」


スティールはその景色を見て絶句していた


まずは料理の味見をして絶句したのだが、それを食べれる恐子にも絶句していた


「食べれなくはないな」


「恐子姉さんはちゃんと食べているのに他の姉さんたちとゆりちゃんも神奈ちゃんも情けないですよ?」


少しだけ洗濯をしていたことを後悔するほど、梓が作りあげたこの風景は異様であった


鋳鶴もまだ風呂から出てくる気配は感じられず、スティールがこの場をどうにかするしかなかった


とりあえず、梓に隠れて彼女が作ったであろう謎のスープが入った鍋の中身を全てシンクに流した


その時だった


突然、風呂場の方向から爆音が響いた


梓と恐子は急いでキッチン近くの裏口から出て行った


スティールも鍋をそのまま投げ捨てる様にシンクに放り、鋳鶴の居る風呂場に向かった




ーーーー望月家風呂場ーーーー



「あの・・・いきなりなんですか!?」


風呂場の天井を引き裂いた様な形で鋳鶴の目の前に突然、メイド服の女性が現れた


「望月、望月鋳鶴さんですか?」


「そっ!そうですけど!?」


メイドの視線が自分に向けられると急いで近くにあったタオルで自分の下半身を覆った

そんな鋳鶴の行動を見てもメイドは表情を一切崩さない

その彼女の様子を見て鋳鶴は目つきを変えた


「お命、いただいてもよろしいでしょうか?」


彼女の胸元にふと目をやるとスティールとは明らかに違う胸囲の差に驚かされる

スティールが小さいのかそれとも彼女が大きいのか、そんな邪な考えが浮かんでいる鋳鶴の脳裏にはもう一つ、彼女の胸の下の名札と校章に目が言った

景明学園、錐咲花と書かれている鋳鶴には聞き覚えのない名前だ

だが、景明学園には聞き覚えがある

一平の言っていた九州の高校の名前だ

スティールから聞いたメイドの名前には無かった

新米なのだろうか、そこまで考えると鋳鶴の下半身を覆っていたタオルにナイフが刺さっていた

メイド専用に作られた一流の銀食器、その鋭さは鋳鶴も知っている

あわや自分のものと体が離れてしまうかもしれない距離にそのナイフは刺さっていた


「駄目ですよ!?」


「無理強いはしません

ですがその場合は本気で殺します」


「なんで!?」


「事情は殺してから話します、では」


メイドが鋳鶴に向かってナイフを振りかざす、いざとなればナイフだけを吹っ飛ばすように動くつもりだったが、そう考えているうちに彼女は鋳鶴の前から吹っ飛んでいた

彼女を吹っ飛ばした正体は恐子だった

裏口から出てきて風呂場までのダッシュで勢いをつけて飛び蹴りをしたというところだろう、メイドは風呂場のさらに奥に突っ込んでいった

仕事で着ているタイトスカートにかかった埃を払い

鋳鶴とようやく目を合わせる


「よう

生きてるか?鋳鶴」


「恐子姉!」


これほど長女が自分の元に来て嬉しいことは今までなかったと言わんばかりに鋳鶴は喜びの声を上げた

恐子についていくように梓が現れ鋳鶴に早く家に入れと手で指示を出す

その一連の行動を三人から離れてみていたスティールは望月家の団結力に感心していた


「坊っちゃん、お着替えならリビングに用意してあります


この場は私たちにお任せを」


「ありがとう」


と言い残し、鋳鶴はリビングにまっすぐ向かった

恐子と梓の力量を見るため、スティールはあえて後ろに下がった

鋳鶴を襲った者の正体は分からないが、誰であろうと今の自分の任務を全うすることをスティールは優先するのみである


「梓、計算頼む

どうやら本体を蹴られなかったらしい」


「了解しました

恐子姉のあの飛び蹴りから身を守るのは難しいとは思いますが・・・」


確かに飛び蹴りは凄まじい威力だった

先ほどの爆発音よりも大きな音を出していたが、その大きな音は金属音に近い何かだった


「皿か」


土煙がようやく収まるとそこには大きくへこんだ銀の大皿が現れた

スティールはその大皿を見て目を丸くする


「スティール、これは私たちの問題です

貴方は手を出さないでください」


「だが、鋳鶴のところには行かせない様にしてくれ」


2人の視線でスティールは何も言い返せなくなってしまった

土煙を上げても出てこないのを気にして恐子は顎で梓に指示をした

その一連の動きの間 に恐子の周 囲を銀製のナイフが包囲していた

スティールが鋳鶴に見せたものと同じ技である


「梓っ!」


「背後のナイフが一番、魔力供給が大きいです他は大丈夫でしょう」


「了解」


ナイフが一斉に襲い掛かる前に恐子は何をしたのか彼女の周囲を囲んでいたナイフが音もなく崩れていく、大皿を出していても歪まなかったメイドの表情が歪む


「姉さん、彼女の胸に向かって回し蹴りをと思いましたけどやっぱり顔に向かって右アッパーで」


「了解」


梓の話し声で回し蹴りを受けてやりすごそうとした彼女だったが、すでに恐子は彼女を殴る準備は完了していた

完全に受けるつもりで身構えていた彼女は顔の防御ががら空きになっていた


「メイドなのに遅いっていうのはどういうことだ?避けないと顔が割れるぜ?」


恐子の顔が自分の顔に触れそうになるぐらいまで近づいてからメイドは大きく上半身を仰け反らせる


「そうだ

それでいいが、今のは私がハンデを与えてやっただけだ

次は本気でお前の顔面を割るからな?」


と言って恐子は大きく右腕を振りかぶった


「銀の大皿・・・!5枚っ!」


メイドが両手で恐子との間に5枚の大皿を設置する


「5枚でいいのか?私の一撃は重く、沈むぞ?」


大皿をさらに出現させ総数8枚、恐子の前に展開した

しかし、それは彼女の前では無意味だった

たった一度、彼女のそれは本気だったのか定かではない、目の前に展開された大皿はすべて綺麗に打ち抜かれていた

その拳が生み出す衝撃がそのまま大皿を破ったのだ

メイドはしりもちをつき、そのままそこに倒れる


「場所を選んでください恐子姉さん、いくら家が広いとはいえ住宅地の近くなのですから」


「お前が指示した方向に追い込んだんだ

私は悪くない」


スティールは二人の一連の行動を見ていたがどうやって計算して彼女をあそこまで追い込んで理想的 な攻撃を 繰り出したか分からなかった

しかし、何らかの所作はあったはずだ

恐子は周囲に気を使って戦うタイプではないはずだということがスティールの頭の中で回っていた

それを梓の計算力でカバーして周囲に配慮した攻撃を行ったのだろう

本当に良かったことはメイドの卵である彼女が手傷を負わなかったことだ


「錐咲花、何をしているのです」


「はっ・・・!」


スティールが錐咲という人物を立たせようと手を差し伸べるとそれを拒絶する様に立ち上がり、服の埃を落とした


「花、早く帰ってきなさい」


「私は・・・貴女の様に自分の名を失いたくない」


スティールの中で何かが切れた

花の発言のせいなのだろうか、瞬時に彼女の周囲をスティールのナイフが包囲していた


「あそこで帝さんと居てはいけません、貴女を傷だらけにしてでも連れて帰ります」


ナイフを構えるスティール、彼女の眼に迷いは無かった

もう彼女を殺す気でいる

そんな目だった

恐子と梓は何かを察知したので急いでスティールの傍を離れた


「スティール、それは命令してないよ?」


「!?」


思わず、その場にいた全員が動けなくなった

百戦錬磨の恐子も戦闘ではないがあらゆる紙面の難題を説いてきた梓も人生経験の薄いメイドの花もそして彼のメイドとして雇われているスティールもそれに恐怖した


「錐咲さん、君も悪いかもしれないけど・・・一番悪いのは帝ってやつだよね」


花は震えが止まらなかった

風呂場で見た気弱そうな青年から一変、彼の何かに触れただけでここまで恐怖する とは思わなかった

そして今になって気づく、自分を包囲したナイフがすべて地に落ちている


「大事な家だから・・・そこで戦ってほしくはないかな


恐子姉も梓姉も短い時間だけどありがとう」


二人も鋳鶴が怒っているときだけは極力何もしないようにしている

話すことは勿論、勝手に動くことも


「あと梓姉はあとでちょっとお話があるからいい?」


少しだけ笑顔を見せた鋳鶴に二人は落ち着いた

その表情を見ただけで今の鋳鶴の気持ちを二人は理解できていた


「あとスティール、今更だけど高圧的すぎたね

ごめん」


「申し訳ありませんでした・・・坊ちゃん・・・」


鋳鶴はスティールの頭をやさしく撫でると少しだけ気 持ち強めに花を睨み付けた

生きているかのように逆立つ銀髪、目を合わせることすら躊躇いたくなる紅色の目、自分の主人である帝が激昂した時以上の恐怖感


「大丈夫だから、君には何もしない」


「帝様に何かなさるつもりなら!今ここで貴方と刺し違える覚悟はある!」


覚悟のある目つき、彼女は本当に鋳鶴と刺し違えても自分の主人に尽くそうとナイフを構えている

勿論、今手にしているのは対聖のナイフ、腕は震えているが目だけは、目だけでも鋳鶴に対して反抗の色を浮かべていた

彼女に向かって歩き始める鋳鶴、誰も止める者はいなかった


「来るな・・・!」


着々と一歩一歩、歩みを止めない

黙々と彼女に向かって歩み続ける

そして倒れこむ花に向かって鋳鶴は手を差し伸べた

右手で彼女の左手を掴み、左手で首の後ろに手を回して立たせようとしたその時だった

花のナイフが鋳鶴の右胸を貫いていた

次もまたいつ投稿するかわかりません・・・申し訳ありません

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