第83話:魔王とJOKER
二か月以上ぶりの更新です!遅くなってしまって申し訳ありません
「ふぅ・・・やっと書類を片づけましたね・・・」
「お疲れ様ですジャンヌ様」
ジャンヌが突っ伏した机には彼女を囲む様に大量の書類が置かれていた
その紙には生徒の写真と経歴が書かれたものだった
「この学園は生徒数が多いことで・・・」
「ですが学園長にもこの学園にも信頼と信用があるのは間違いないですよ
それにこれはちゃんとほかの参加学園にも明確な選手の一人として送付しなければいけませんし」
沢山の書類の山の中から一つの山を選んでふと手に取るとそれらを眺めた
「どうしてこうも不思議な子たちが集まるのでしょうか」
「どうしてと言われましても・・・」
「聖職者の学園長がいる学園に魔王がいたり、と・・・本当にわけがわかりませんよ」
「冷静に仰らないでください・・・」
ジャンヌは手のひらサイズの拷問器具を召喚しそれを窓からの月の光に照らして眺める
怪しく黒光りするそれはジャンヌの性格そのものを表現しているようであった
「魔法が魔法ですからそれはそれで・・・」
「もう少し、可愛げのある魔法を使った方がいいのかしら」
ため息とともに出たジャンヌの言葉と同時にアンリエッタの服装が即座にバニーガールの衣装に変わっていた
急いでしゃがんで自分を隠そうと必死になる彼女を見てジャンヌは妖しくほほ笑んでいる
「なっなんですかこれは!!!!!」
「五校戦の余興にぴったりかと思って・・・」
「お戯れはやめてくださいっ!」
急いでピンク色のバスタオルを召喚し自分の身姿を隠すアンリエッタ、ジャンヌは笑いを堪えるために自分の口を両手で覆っている
そんな男装執事と学園長の他愛無い現場をいつ現れたのか、棒立ちで見る青いバンダナを目元が隠れるまで顔を覆い髪は腰まで伸びる長髪の男
彼の服の左胸には菱明と書かれた校章が付けられていた
バンダナで目元は窺えないが口元はにやにや笑っているので嬉々としているのだろう
「ジャンヌ学園長、なかなかいい趣味してるなぁ」
「貴方は確か・・・どなたでしたっけ・・・?」
ジャンヌの発言に頭からこけるバンダナ男とアンリエッタ
車椅子にゆっくりと腰かけるとバンダナ男が手にしていた書類をジャンヌは手に取った
「ジョーカーでしたかね
はっきりなのか、うろ覚えなのかわかりませんが耳にしたことはたぶん、あるでしょう」
「うちの学園長と一緒やなぁ・・・
本当に自分がめんどう見たり、一目置いてる様な人間じゃないと見向きもしんし、覚えもせぇへん
でも陽明の学園長は可愛いから本当に生徒たちが裏山しいわ」
「お褒めの言葉ありがとうジョーカー君、でもこの書類の量、少ないと思うのは私だけかしら?」
ほんの数枚の書類を持ってジャンヌは煽るようにそれをひらひらさせた
彼女の行動を見てジョーカーは高笑いをすると彼女に向かって身を乗り出した
「それだけで十分とわいは踏んでいるんや
菱明は強いで?陽明なんて半日あれば落とせるぐらいに強いとわいは思ってるんや
最初は四人だったんやけどな」
ジョーカーの言葉を聞いてジャンヌは目の色を変えた
一瞬、物怖じするジョーカーだったが彼女の威圧に負けず、ずっと目を合わせていた
「その目に偽りはなさそうですが・・・
血気盛んな方々は納得いきませんと私は思いますし、何より陽明学園は半日で落とせるような学園ではありません
普通科でさえと言ってしまっては失礼ですが、十分に戦える能力を持つ生徒はいます」
「荒れそうと聞いたもんでなぁ・・・
ホンマ、普通科の魔王とかやめてほしいわ
でもまだ魔王じゃないんでしょ?」
「えぇ・・・確かに彼はまだ魔王ではありませんが・・・悪魔で現時点です
この五校戦で魔王になるかもしれませんし、でももしも・・・そうなった場合
五校の学園長が揃っていれば抑えられるくらいなら間に合いそうですが
生徒たちを危険に晒してしまうかもしれません」
「学園長、気長にやりぃや
今回、わいが此処に来た目的はその魔王にも会いたくて遠路はるばるここまで来たんや
ちょいと腕試しって理由もあるねんけど・・・わいでも及びそうにないんかな?」
アンリエッタに手を振って指示し、ジョーカーの体を観察させ彼の力量と魔力を測った
まじまじと自分の体を凝視するアンリエッタを見てジョーカーもおとなしく、動くことはなかった
「なかなかですね
もう少しあなた自身が強くなる事を望めば望月君と同等に戦えるでしょう」
彼女の言葉を聞いてジョーカーの眉毛がピクッと動いた
「なんやて・・・?」
「悪魔で予想の話ですけどね
でも彼は一番この学園の生徒の中では最強と謳われてもおかしくはないでしょう」
「なんでや?この学園の実力者がそろうのは魔王科や魔法科のはずや
せやのになんでその最強の魔王が普通科にいるんや?」
「いろいろ事情があるんですよ
各科にも問題児はいます
しかし、ジャンヌ様もそれを理解し、とても楽しまれています
ただ彼は目に見える程では全くの問題児ではありません
寧ろ彼は陽明学園の生徒の模範になれるほどの生徒だと私は勝手ながら思っています
ですが彼は魔王です
いつ危険生物に分類されてもおかしくはありません」
「でもまだ魔王じゃないんやったら話は通じてくれそうやな」
「彼は誰とでも仲良くできますから」
「あら?アンリエッタ、望月君に詳しいのね」
嫉妬と軽蔑のまなざしを込めながらジャンヌが不機嫌そうにアンリエッタを睨む、それはまるで子供がおもちゃを横取りされたであろう時にするようなふてくされ顔だった
だが、そういった表情をするのはジャンヌが鋳鶴を気に入ってる証である
「私よりも会話をしていますものね・・・
私のお気に入りの一人を奪う事は私が許しませんよ」
「ものごっつ笑顔やけどものごっつ怖いわ・・・」
笑顔でアンリエッタに語りかけるジャンヌは背後には右手に茨があしらわれた鞭を隠し持っていた
ジョーカーはその鞭を見かけたがアンリエッタの事とジャンヌの鞭をアンリエッタに教えた場合、自分に危害が加わると思い喉から出る前にそれを飲み込んだ
「それじゃ~・・・失礼しますわ~・・・」
返事もないままジョーカーは学園長室の扉を閉じた
閉じた途端、扉越しに大きな衝撃音とアンリエッタの叫び声が廊下に響いた
ジョーカーは少し立ち止まって扉の方向に振り返り合掌をするとその場を後にした
ーーーー望月家ーーーー
「やっぱり難しいなぁ・・・」
大量にちりばめられた傷ついた皿、粉々になってしまった皿を悠然と眺めながら鋳鶴はその場に座りつくしていた
Tシャツは大量の汗でべったりと体に付着し、彼の筋肉を浮きだたせていた
まだ皿は彼の隣りに山の様に詰まれているが彼自身、自分がここまで短時間で粉々になる皿が小一時間で少なくなるとは思っていなかった
もう日も落ち始め青紫色の空の元、橙色に輝く太陽がまだ顔を少しだけ見せているぐらいだった
「もうすこし丁寧に・・・丁寧に・・・」
もう一度、試してみるおのの今度は弾く魔力の力が強く、皿にヒビが入ってしまった
しかし、ヒビの入った皿は五枚中三枚で粉々になるよりははるかにましな状態なため、鋳鶴は少し自分を心の中で褒めていた
「ホンマにホンマにようできとるできとる」
声の向く方向に鋳鶴は構えて振り返った声のしたその方向に人はいなかった
ふと見上げると金髪の長髪を靡かせ顔を覆う程太い赤いバンダナを巻いた男が槍の柄に乗っていた
浮遊魔法を槍自体にかけているのかそれとも槍ごと自分を浮かせているのかどちらにしろ今の鋳鶴には彼の様な器用な魔力操作はできないと感じていた
「あなたは誰ですか?」
「お前!相手の名前も知らんの!?ホンマ勘弁してほしいでぇ!わいのこと知らへんの!?」
大声を張り上げるバンダナ男に若干の嫌悪感を抱きながら男を見た
鋳鶴の前で槍から降りるとその場に胡坐をかき、自分の顔に手を当てて太ももに肘を立てた
「本当に有名な方でしたら本当にごめんなさい!」
急いで鋳鶴は立ち上がってバンダナ男に向かって頭を下げた
彼の態度を見て戸惑うバンダナ男、別に本心では自分の事を知っていようと知っていまいとバンダナ男には関係ないのだが彼自身、冗談が通じないのだろうとバンダナ男は心の中でそう思った
「大阪では有名かもしれへんけど、こっちではわいもまだまだ有名じゃないんちゃうかなぁ・・・」
「そうなんですか・・・それなら仕方ないです
でも僕自身、無学ですからね」
頭を掻きながら控えめに言う鋳鶴を見てバンダナ男は両手で口を覆った
(なんやねん!この男が魔王かもしれない生徒言うんか!?
あの理事長嘘ついとるやろ!わいは信じへんぞ!こーんな優しくて礼儀正しい男はうちにはおれへんぞ!
もうちょい探り入れてみるか・・・魔王じゃないかもしれへんしな)
心の声で鋳鶴に対して驚くバンダナ男、彼の行動を疑問視しながら鋳鶴は再びその場に座り込んで再び皿を体の各所に乗せた
「何してるんや?」
「魔力のコントロールの修行というか練習ですよ
この僕の頭、両肩、両膝に乗せた全ての皿を魔力で固定させて手を触れずにそして皿を傷つけずに魔力ではじく練習ですよ
僕も五校戦にでるんでそこに出るまでにこれぐらいは何とかしておかないといけないと思いまして」
鋳鶴の修行内容を聞いてバンダナ男は自分が座っていた場所の周囲の皿の破片を何かの魔法でゆっくりとどけた
その様子をまじかに見て鋳鶴は少しだけバンダナ男に嫉妬を覚えた
ムスッとした顔で自分を見る鋳鶴を見てバンダナ男はニカッとほほ笑んだ
その表情はお前はできないのか?と言われているような感じで、さらに鋳鶴の競争心を煽った
鋳鶴も同じように自分の周囲に散らばっていた皿の破片を自身の魔力でゆっくりと風の様な現象を起こし、皿の破片をどかした
「無駄な魔力使ってんやなぁ
大事なのは腹に力を入れて徐々に力を使っていく感じや
初めのころはそうやれば魔力の消費を抑えられるはずやで」
「そうなんですか・・・」
額に脂汗を浮かべた鋳鶴は少し後悔していた
まだ修行で使わなければいけない貴重な魔力を自分のくだらない競争心でかなりの魔力を消費してしまったからだ
バンダナ男はまだ余裕を持った表情をしているが一方の鋳鶴は額に脂汗を浮かべている
「そういえば・・・まだわいの自己紹介がまだやったな
わいの名前は・・・ジョーカーや、それ以上でもそれ以下でもない
ただのジョーカーや
好きなものはハンバーガー、嫌いなものは笑わない奴やよろしゅうな」
「僕は・・・望月鋳鶴です
ジョーカーさん、確か菱明学園のフォーカード方でしたよね
他にもジャックさん、クイーンさん、キングさんと手ごわそうな人ばかりです」
望月、その名前を聞いた瞬間、ジョーカーは少しだけ微笑んだ
それは彼を魔王と知ってのせせら笑いでは無く、彼が魔王であると聞いて喜んでいる様だった
「お前が・・・魔王かぁ・・・
ホンマに?ホンマに魔王なん?」
鋳鶴は自分の着ていた服を脱いで左胸を見せて魔王の紋章をジョーカーにこれでもかと見せた
まじまじと近くで見つめるジョーカー、触れようとしたジョーカーだったが自分の中の何かがその紋章に触れることを躊躇った
「なんか・・・残念な様な、嬉しいような
わい自身、まったくわからへんわ
でも望月、フォーカードはお前には負けへんで?
最初は四人でなんとかなるやろと思ってたけどな・・・
本当に魔王がいるとなっちゃわいらも全力で相手しな勝てへんと思うしな」
「初対面の人にはよく、魔王らしくないとか実際言われることが多いかな
あんまり表情を窺えないのが気になるんだけど・・・」
「んなっ! ?あんまり気にせんでええ!こっから下は不細工やし!何よりわいのプライベート的なあれもあるしな!」
慌てて鋳鶴から離れるジョーカー、髪が長い為、激しく動くたびにジョーカーの髪の毛が生き物の様に跳ねている様に見える
「坊ちゃん、何をなさっているんですか?」
スティールが光の速さで現れて鋳鶴の目の前にいたジョーカーの首根っこを掴んで持ち上げていた
突然の事に鋳鶴は戸惑いを隠せない上にジョーカーが若干、白目をむいている
「なんや姉ちゃん、手荒な真似はやめてほしいねんけどなぁ」
首根っこを掴んでいたはずスティールの手がジョーカーの首から離れている
何が起こったのか分からなかったが鋳鶴の目にはスティールが掴んでいた右手がジョーカーを嫌がっているかのように離れていくのが見えた
しかし、スティールの腕はずっと首を掴んだときのままになっている
「ほう・・・私の坊ちゃんを誑かす殿方がいるとはなかなかマニアックな方もいると言いたいところですが
坊ちゃんは可愛いですから仕方有りませんね申し訳ありません坊ちゃん
ですが私の坊ちゃんの修行を邪魔させた罪は重いですよ?
それとなかなか面白い魔法を使われるんですね
正直驚きました」
「とりあえずスティール、ジョーカーに謝ってね・・・」
「はい!?
ですから坊ちゃん!私は坊ちゃんの事を思ってですね・・・」
「あ・や・ま・っ・て・く・れ!」
鋳鶴の声を聞いて頬を膨らませるスティール、明らかに不機嫌になってジョーカーを睨みつけているがジョーカーは口笛を吹きながら見られている事を誤魔化していた
しかし、次の瞬間ジョーカーはある意味恐ろしい光景を目にする
スティールがどこから召喚したのか大量に茨のついた鞭を召喚してそれを両手に携えていたのだ
極めつけは着衣面積がほぼ無いと言える黒い水着に何やら変な香りがするお香も焚いている
「スティール!?!?」
「粗相をしてしまい申し訳ありません・・・どうぞ今夜はスティールめをご自由にしてください・・・」
あまりの光景に驚愕し、言葉もでないジョーカー、そして高揚するスティール、顔が真っ青になる鋳鶴
「とっ!とりあえず!人様の前でそういう格好するのやめよう!?」
「人様の前の方が坊ちゃんもやりやすいと思いまして・・・」
高揚するスティールを見てマズいと思った鋳鶴はジョーカーに頭を下げてスティールを連れてその場を去った
一人取り残されたジョーカーは考えていた
「望月とクイーンが一緒におったら面白そうやなぁ・・・」
そう言ってジョーカーは槍を召喚し柄に飛び乗って菱明学園へ向かった
「なにしてるんだよスティール!ほんとに君は・・・」
「私じゃ・・・私では駄目ですか・・・?」
「スっ!スティール!?うわっ!酒くさっ!」
倒れこむスティールを急いで抱きかかえる鋳鶴、それを見てにやにやする酔いどれが一人、嫌な予感がしていた鋳鶴だがその酔いどれは望月穂詰だった
片手にはワンカップ酒を持ち、服を着崩している
「やっぱりか・・・もう何してるのさ~!」
「え~?だってぇ~!スティールちゃんがわぁたしのお酒飲んじゃんったんだもぉ~ん!デヘヘへへへ」
酒の臭いが鋳鶴のいる場所まで届いてくる
若干嫌気がさしながらも鋳鶴は口に出さないままヤケ酒をして穂詰を気遣って彼女に望月家の靴棚の近くにある倉庫に入っていた一本の天然水を差し出した
「坊っちゃぁ~ん・・・だいしゅきですよ~・・・」
背負ったスティールを玄関にそっと座らせて、スティールの前に座る鋳鶴、彼女の酔っている表情を見て少し疲れていたのかと思い心配になる
メイドとして完璧な彼女しか見ていなかったため、女の子としての彼女を見ることはなかった
「鋳鶴ってちぉょっと鈍感なところがあるものね~
スティールちゃんもストレスが溜まってたりしたんじゃないのぉ~?」
そんなはずはと一瞬思った鋳鶴だったが自分に尽くしてくれている彼女の 行動を思い返してみて一度、考え込んだ
そして自分と仲良くしてくれている仲間たちや女の子たちを思い出していた
凛に言われた言葉も思い返して、自分の事を思い返してみる
「スティール・・・」
「鋳づるぅ~・・・お姉ちゃんを介抱してぇ~・・・もう無理ぃ~・・・」
「杏奈姉に言っとくから!そっちに頼んで!」
「えっ!?嘘!それは駄目!」
飛び起きる穂詰を見て呆れながら鋳鶴はスティールを自分の部屋に運んだ
ゆっくりスティールをベットに降ろすと部屋から覗く月の光を見た
五校戦がいつ始まるか分からない鋳鶴にとって修行は急がねばいけない課題の一つ、まだそれの初級の魔力コントロールでさえできていない
ジョーカーに見せつけられた魔力コントロール、ただただ完璧だったそうとしか言えない
悔しさの中にも彼のアドバイスを自分で考えてみる
腹に浸からを入れて徐々にその力を使っていく、一気にではなく徐々に徐々に抜いていく感じ
鋳鶴は想像した
自分を風船に例えるとパンパンに膨らんだ風船から徐々に空気を抜いていくイメージが浮かんだ
そのイメージを元に明日にはこの修行を完成させようと鋳鶴は心の中で思った
大きな寝息をたてて寝ているスティール、そういえば鋳鶴は彼女の寝顔を見た事は今まで一度もなかった
いつもの無表情とは違い彼女も一人の女の子ということを鋳鶴は実感した
母が自分自身の事を心配したのかそれとも自分の魔王の力を心配したのかは分からないが鋳鶴の心の中では圧倒的に前者の考えだった
だがここまで自分の事を心配している雅の事を思うと鋳鶴は心が痛くなった
自分以外の家族は男は父親だけ兄も弟いない鋳鶴、現時点で自宅にいるのは姉妹のみ鋳鶴は親に心配をかける事は家族の中では少ないと自負していた
そこそこの頑張りでそこそこの学校生活を送り、他の姉妹たちの影に隠れながら必死に善を尽くそうとここ最近は生きてきた
だがすべてが善行になったかと言えば定かではない
「坊ちゃん・・・!」
寝息をたてていたスティールが突然隣に座り彼女の様子を見ていた鋳鶴をベットの中に引き込んだ
鋳鶴の上に馬乗りになるようになったスティールを鋳鶴は見上げた
目はトロンとしていて目尻が下がり、頬が火照っているのがよく見える
表情だけでなく彼女の着衣面積が限りなく少ない黒の水着も上下揃って見えている
腕を押さえつけられた鋳鶴は無理やり彼女を引きはがそうとするがその行動をさせまいと彼女が先に鋳鶴の足を自分の足で抑え込んだ
「坊ちゃんはよくできていらっしゃいますよ・・・
私がゆり様と神奈様とお風呂に入って穂詰様に晩酌に付き合わせていただいていたため・・・全然坊ちゃんのお力になれなくて・・・」
「そんなことないさスティール、君は本当に優秀なメイドだと僕は思っているし、家族も皆そう思っているよ
本来の任務は僕の護衛と監視だけど、家族の面倒も見てほしいんだ・・・いいかな?」
スティールは鋳鶴のシャツをグッと握り、彼に表情を見せずに一度だけうなずいた
そしてまた寝息をたてて鋳鶴の胸の中で眠ってしまった
「スティール?スティール?」
スティールが眠りについた途端、何かが音をたててスティールが脱いだメイド服のエプロンのポケットから光があふれ出る
鋳鶴は魔力操作の練習もかねてその光の方向に向かって手を翳した
ポケットからずるずると光の正体の黒い小箱が現れた
自分の成長を実感した矢先、突然黒い小箱の光がさらに強くなり立体映像が映し出された
そこにはヒノキでできているだろう材質の机で肘をついて手の甲の顎を乗せているメイドがいた
「おぉ・・・これはスティールの報告と写真通りの美男子だな
すまない自己紹介が遅れた
私の名前はスティール・P・キャメロン、見ての通りかはわからないが私は彼女の上司だ
すまないがスティールに代わっていただけないだろうか」
「スティールが僕の姉のせいでつぶれてしまって・・・申し訳ないです」
「む・・・スティールの奴・・・羨ましい・・・
まぁともあれメイドとしてのわきまえがまだ足りない様なメイドを送ってしまってすまないな
いつもならちゃんと仕事もする上、何よりも冷静なのだが・・・君には迷惑をかけているようだね」
「大丈夫ですよ
人の面倒を見るのは慣れていますし、何よりもメイドさんを介抱するなんて滅多になさそうですしね」
「だがしかし・・・私もスティールが君よりも先に寝てしまうとは・・・メイドを変えた方がよろしいのかな?」
「スティールのままで大丈夫ですよ
彼女は気を使ってくれていますし、何よりも気が合います
それに僕より先に寝てくれるのは信頼というか・・・望月家が心地いいんだと思いますよ?本当はわかりませんけど
他のメイドさんにもお会いしてみたいのはありますけど、スティールを雇ってくれたのは母ですから」
その言葉で望月雅の事を思い出したメイド長は顔を青くした
「そういえば君の母親だ・・・どうにかならないか?」
「どうとは?」
メイド長が頭を抱えながらゆっくりとため息をついた
「料金を払ってくれているのは非常にうれしい限りなんだが・・・その分雅望月は大量に食事をする
儲からせてはいただいているがメイドが困っていてね
このままでは世界中の高級食材を食いつくしてしまうかもしれないからね」
鋳鶴は深く考えた
自分の母と長女は二人以上に大量に食事をする人間を見たことがないと思っている
2人とも暇さえあれば大食いなどで賞金が出る店や無料になる店に赴き、全国のそういった店を荒らしまわっていた時期がある
それを考えて無理に付き合わされ鋳鶴に助けを求めている店員、店長を何人見てきたか彼は思い出した
「僕の親父の偽の手紙とか親父をそこに呼びつけるかでも嘘はどうなるかわかりませんから親父を呼びつけるのが一番いいと思います
あの人はメイドさんとかに呼ばれたら世界の裏側からでも飛んできますし、日本政府に電話をかけて親父を呼び出してもらえばすぐにつながると思いますし、それとも僕が呼んでもいいですかね?」
「そうしてもらえると助かる・・・後日お礼の為にそちらへ向かわせてもらうとするよ
スティールの様子も見に行きたいのも兼ねてほかのメイドも連れて」
キャメロンは喜ぶとうきうきしながら鋳鶴が見ているのも忘れて荷造りを始めた
他のメイドたちに連絡するために自分の机の上に黒電話を置いてダイヤルを回し、メイド界各所に連絡をした
「それじゃあ切りますね!遅くまでご苦労様です!」
「あっ!すまないありがとう助かったよ」
キャメロンはこれまた机の中からリモコンの様なものを取り出して鋳鶴に手を振った、画面に向けて彼女がリモコンのボタンを押すとブツッと音をたてて通信が切れた
鋳鶴は眠りについてスティールを自分の体から離したその時、ブツッと音がした
彼女の右手には自分の首にいつもかけておいてあるペンダントが握られていた
起きていればスティール自身もにやにやしながら中身を確認するだろうが鋳鶴は寝ている彼女に布団をかぶせ
箪笥を引いて自分の着替えを取り出し、カーテンを閉めた
「スティールおやすみ
さて、お風呂お風呂~」
鋳鶴は着替えを持って風呂場に向かった
スティールの右手の中のペンダントを取り出そうと思ったが彼女は自分のペンダントを強く握り離すことはなかった
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