第81話:魔王とお騒がせメイド
受験で更新が遅れてしまいました!申し訳ありません!
「お坊ちゃん、もう少し腰を引くんですそう
そうです」
「スティール・・・そこまでくっつかれると料理しにくいんだけど・・・」
「好きでくっついている訳ではありません
勘違いしないでください」
右手に包丁を持ちながら密着するスティールに文句を言う鋳鶴、
相変わらずの感情の無い彼女の瞳は人形の様に冷え切っていた
それにも関わらず彼女の体は温かく人としての体温はあるようだ
「もしかして意識していらっしゃるのですか?」
「はい!?」
「くっついているととても焦られてるのを感じます
お坊ちゃまは女性経験が薄いのですか?」
スティールの言葉に気を留めず調理を続ける鋳鶴、スティールが独り言を話しているようにも見えるが完全に聞いていないふりをしていた
その様子を見かねてスティールは鋳鶴の腰回りに手を回す
「す!スティール!?」
「やっぱり坊ちゃんはかわいらしいですね
調理の手際もいいですし、女の子でいた方がよろしいのではないのでしょうか?」
「いや・・・あのね・・・」
「魔王という事もあるのかはわかりませんが肌もおきれいですね
お坊ちゃまの参考資料というか戦闘映像を見せていただいたところ、かなりの手傷の負われていました
しかし、今のお坊ちゃまの肌を見るに私や世の淑女方を嫉妬させるレベルに美しいですね
透き通っていると言えばいいすぎですが・・・美しいです」
服の下から上半身を弄るスティール、鋳鶴の白い肌が露わになりスティールの頬が赤く染まっている
どちらもイケるスティールにとっては男性も女性も関係はないのだがどちらかと言えばスティールも女性の為、男性を好んでいる
鋳鶴が魔王という事にも興味津々な理由なのだが面食いな事も重なりスティールにとっては格好の獲物になっている
「それに魔王状態と言えばよろしいのでしょうか・・・
あの時も胸の中にキュンとくるようなものがあると思うんですがね
ですが通常時の方が可愛いですね」
「はぁ・・・ほら出来ましたよ
簡単な卵スープですけど・・・」
「ほう・・・」
何の変哲もない白色陶器の皿に引かれた卵スープ、食感がを少しでも味わえるようにと溶き卵そして小麦粉を少量加えて若干とろみをつけた物
スティールも料理は得意というよりもメイド協会で訓練を受けて自称三ツ星シェフを名乗っているレベルにはある
勿論、家事のレベル、戦闘能力もメイド協会トップレベルの実力者で五本の指には入るとのこと
銀食器の手入れも人一倍気を使っていて扱いだけはメイド協会でナンバー1である
そのスティールが料理の腕だけでもなく食器の扱い方も鋳鶴には関心を置くレベルまでなっている
ただの男子中学生と見てかかっていたがここでスティールの目の色が変わった
「食器も・・・大切にされているんですね」
「そりゃそうですよ!
うちの家族は横暴な人が多いから食器が汚かったり割れたりしてしまうとさらに粗雑に扱ってしまうと思って
姉たちや妹たちを本当にそうだと思っているわけじゃないんですよ!?
でもやっぱり食事時ぐらいは楽しみたいですし、最低限のマナーもあってこそだと僕は思います!」
鋳鶴の言葉を聞いてゆっくりと頷いて手を合わせスティールは紙ナプキンの上に添えられたスプーンをゆっくりと手に取った
自分の顔の前にスプーンを掲げ電球の光に照らし合わせてみる
するとそのスプーンにスティールの顔が映り込んでいるのが分かる
とても鮮明にはっきりと自分の顔が映り込んだスプーンをしばらく眺めてスティールはようやく、そのスプーンを使い卵スープを掬った
綺麗なきつね色をしたとろみを帯びたスープ、今までにここまで精巧に作られた卵スープは見たことないほど
それはメイド協会で散々食べた食べ物など忘れてしまう程のかぐわしい香り、そして見た目の美しさを見てようやく口に含んだ
飲み込むのがもったいなく感じるほど卵スープとは思えない味の重さと透き通って行くスープ、スティールはゆっくりと堪能すると鋳鶴を見つめた
「ふぅ・・・」
そして一息、鋳鶴が脱力させていた肩に力が入る
スティールの反応を彼女の後ろから見ていた鋳鶴はスプーンを気にしている事しか気づいていなかった
だがしかし、彼女のあまりにも長い一匙の一口は鋳鶴の中に緊張を生んでいるのは確かだった
「初めてです」
「へ?」
「ある意味、悔しいです」
「どういう・・・?」
「こんなに美味しい卵スープ、初めて食べました・・・
だから悔しいです
メイドとして・・・仕えるべき人にその家事で・・・負けるのは屈辱というかなんというか
もはや、凌辱に匹敵しますね
顔も整っていて高身長、家事もできて優しい
こんな完璧な主人は初めて見ました
貴方になら・・・」
そう言ってスティールはメイド服の背に結ばれた大きなリボンを右手で強く引っ張った
大きなフリルのスカートが金属音を立ててその場に落ちる
露わになったのはスティールの体であった
綺麗に束ねられた髪のヘアゴムを解いて鋳鶴にそっと押し倒すように流し台まで追い込む
裸のスティールを抱きかかえる事もできず鋳鶴は両手で触れないようにスティールを受け止めている
だがそれに遠慮せずどんどん彼女は鋳鶴に押し倒していき、もう彼の体は反り返りそうになって水を貯めているタライ擦れ擦れのところでキープしている
「不服ですか?私では」
彼の首元まで伸びたその手は確実に彼を虜にしようとしているようにしか見えなかった
「聞こえませんか・・・?
ならもっと近くに」
スティールが鋳鶴の顔にグッと口を近づけたときだった
彼の頭髪が銀髪になっている事に気付く、目は真紅の輝きを放っていて直視できるものではなかった
引き込まれるような両目、顔を近づけていたスティールがいつの間にか近寄られていた
恐怖は無いが自然とスティールは銀食器を空中固定魔法で鋳鶴を包囲していた
「怖かった?」
「ずるい人です
こういう断り方は女性を不幸にしますよ?」
「ごめんね・・・」
「謝ればいいというわけではありません
しかし、私を抱きしめれば許してあげましょう
イケメンや美女の身体的接触は私に癒しをもたらしますし
それにお礼みたいなものですし」
「お礼!?」
「殿方はそういう事をすると喜ばれます
でもあなたは違う、珍しいですね」
「それはメイド協会の教えか理念なんですか・・・?」
「そうだと言われたらどうします?」
「失礼ですが・・・」
「潰す・・・とか思ってたりしなきゃいいですがね」
自分の思った事が図星だったのか鋳鶴は真紅の瞳を丸くしてスティールを見つめている
「あなたならやりかねませんし、私はそれを抑制するために貴方に仕える事になったんです
それにメイドとの性交は基本的に禁止とされています
少し本気にさせてしまったのなら申し訳ありませんでした
でもマントには・・・感謝しています」
いつのまにか裸のスティールは鋳鶴の法衣に包まれていた
優しく鋳鶴は彼女の目を見てほほ笑むとそっと彼女のメイド服や下着類を畳んで彼女に手渡した
「に・・・ににに・・・にいちゃ・・・ん・・・?」
そこをリビングの扉をそっと開けて入ってきたゆり
「あ、え!?」
仰天してひっくり返りそうになったゆりは寸でところで踏みとどまった
「梓姉ちゃん!兄ちゃんが!」
ゆりに連れられて梓が現場を目にする持っていた買い物袋を落とし、鋳鶴に早足に近づく
「鶴君はそういうプレイがお好みだったのね・・・姉さん悲しい・・・」
その場で顔を覆い膝から崩れ落ちる梓、梓に続いて上がっていたのは杏奈
「鋳鶴・・・昔、穂詰が帰ってきたとき全裸にネクタイの男性を家に連れてきたことがあった
勿論、穂詰は酔いが回っていたが・・・それから我が家で家族以外の裸を目にすることはなかったのにな」
おもむろに六法全書を取り出そうとする杏奈の手の動きを見逃さなかった鋳鶴はなんとか突然飛んできた六法全書に対処して回避する事ができた
「中々の投擲能力ですねお嬢様」
鋳鶴の法衣を解き、いつの間にかメイド服に着替えていたスティールは杏奈の前で深々と礼をしていた
「それにあなたは?」
「私は本日付で鋳鶴お坊ちゃまの監視と教育を雅様から頼まれました
スティール・D・ノーレッジと言います
今日からお世話になります」
「母さんの考えなら仕方ないな・・・
しかし、鋳鶴?さっきみたいなことをリビングでしてみろ
今度は命はないぞ・・・!」
杏奈の本気の目を見て鋳鶴は萎縮してしまい銀髪は元の黒髪になり、瞳は元の普通の人間と何変わらぬ瞳に戻っていった
「え!?本物のメイドさんなの!?」
メイドという言葉にゆりが驚くべき速さで食いつく、フリルのスカートをたくし上げ丁寧に一礼するとスティールは首を傾げて会釈をした
「かっ!可愛い!私もメイドさんって目指せばなれるかな!?」
「どうでしょうね
お兄様レベルの家事ができればメイドに確実になれますよ」
「んげぇ・・・それは無理だよ~・・・」
「ゆりお嬢様はおやりにならないのですか?」
「うん」
「お兄様がやってくださるのですか」
「うん、でも私はお姉ちゃんたちと違って働けるほど頭が良くないから家事ぐらいはって思うんだけどね」
「今度でよろしければ、お教えしましょうか?」
スティールの一言に目を輝かせるゆり、彼女の子どもの様な綺麗な瞳を見て思わずスティールもほほ笑んだ
「ありがとう!
すっスティール・・・?」
「スティール・D・ノーレッジですゆりお嬢様」
「お部屋はあるの?」
「鋳鶴お兄様のお部屋で同じく過ごさせていただきます」
「なんだって~!?」
「何かおかしな事でも?」
「だってスティールみたいな青眼の外国人さんにはわかんないかもしれないけど
年頃の男の子の世話をするんだよ!?
それも々部屋で!
それも私のお兄ちゃんと一緒!?」
「えぇ・・・仕方ありません
私はお兄様のお手伝いをさせていただきます」
「私や恐子姉ちゃんがご飯いっぱい食べるから・・・?」
スティールは会話をしながらゆりの性格を話し方と容姿だけで読んでみることにした
身長は女性にしては高く、髪も染髪している様子はこれといってない
自分よりも背は低いものの正直に生きている人間なのかまっすぐな背筋と曇りのない瞳をしているのがスティールもわかっていた
「それもあるやもしれませんが
それ以外にもいろいろあるのです
メイドとはお嬢様、お坊ちゃまに仕えるだけではないのです
ただ、ゆりさんやこの家の方々のように美男美女ばかりな家計の方は私はウェルカムです」
「スティールってお肌綺麗だよね!
私は日本人だからまぁ肌色だし、白い肌には憧れがある~」
スティールは一度、ゆりから顔を背け、舌なめずりをすると無表情ながらも顔を赤らめながらゆりに再び顔を見せた
首を傾げるゆり、スティールはゆりに近寄った
「どうしたのスティール?」
「いえ・・・少し、なんでもございません
そういえばもう一人、双子の妹さんがいらっしゃいましたね」
「神奈?神奈がどうしたの?」
「よろしければ三人でお風呂でもと思いまして・・・」
「私はいいけど、神奈はいいっていうかなぁって」
「私では駄目でしょうか・・・」
無表情のまま目を潤ませるとゆりも悲しい気持ちになってきたのか徐々に口がへの字に曲がっていった
ゆりは大きく首を縦に振るとニッコリ笑った
「うん!私から頼んでみるよ!スティールならいいと思うし!」
スティールはゆりに見えないように振り返り舌なめずりをするとそれを見ていた鋳鶴を見つめた
鋳鶴は顔が青ざめていて引いているようにも見えた
「そういえば坊ちゃま」
「なっ・・・何?」
「戦いの訓練でもしましょうか」
「はい!?」
鋳鶴の返答覗き見る様に見つめながら振り返り望月家の庭に向かおうとするスティール、その後ろ姿と華麗な足さばきと回転を見た鋳鶴はしばらくスティールに釘づけになっていた
靴を履いて二、三回床にトントンと足になじませると鋳鶴はゆっくりと庭に向かった
ーーーー謎の聖域ーーーー
森の中での激戦を終え、1人の英雄が割れた眼鏡をはずして仰向けになって寝転がっていた
その近くに彼の顔を覗く様に三十郎が立っていた
「よく死ななかったのう」
「殺す気でやっぱりきてたんですか・・・ww
お義父さんは抜け目ないですねww」
まだ笑える元気のある霧谷を見てニコッとほほ笑む三十郎
霧谷の眼鏡を取り上げて親指でそのフレームをなぞるとみるみるうちに眼鏡が直っていった
「生きてるうちにまた見ることができるとは・・・ww」
霧谷はまだ見たいと言わんばかりに三十郎に話しかけた
すると自分の右手を額の前に翳して何かを呟いた
みるみるうちに三十郎を黒い影のような霧が包んでいく、頭までその霧がすっぽり包み込むとその霧を裂いて黒い鎧を纏った三十郎らしき人物が現れた
甲冑の隙間から覗く視線は霧谷をするどく見つめていた
「前の戦争でも・・・活躍されてましたもんねぇ・・・ww」
「君ほどではないがね」
「本当に黒い剣士というか・・・ww黒いなんですかね・・・ww
黒い皇帝というかww」
「まぁ・・・この姿は滅多にというよりも人の前では見せんよ
人間相手に使うような代物でなければ獰猛な生物を鎮めるために使うものでもない」
意気揚々と話す三十郎だがわずかに鎧同士が擦れるのか妙な金属音が周囲に響く、あまりにも重くそして鈍い音に思わず霧谷の笑顔も引きつる
そして何よりも普段から背負っている三十郎の大剣もありありと存在感を示し、いつもよりも異様に巨大に見え、鈍く輝いていた
「その鎧の耐久性、そして放つ気ww?ですかねww
あまりにも異質でこの世には無い代物で作られてますね・・・ww」
「そうじゃなぁ~
まぁそんなものがあっても現代社会というものは何が起こるかわからん
その何が起こるかわからんことがわしにあるだけじゃよ」
「だとしてもww魔法を通さない鎧なんて反則ですよww
きっと異能による攻撃も受けつけないんでしょうねww
今すぐ、調べたい鎧なんですが・・・wwきっと調べる事すらかなわないですねww
異能や魔法で異質の素材を調べる現代においてそれ通さないものがあると調べることも困難ですしねww
でもお義父さん・・・これを使うということは・・・ww?」
重苦しくも空気を明るくしようとする霧谷の気遣いを見て、三十郎はゆっくりと口を開いた
「もうすぐ、家族と別れなければいかんかもしれんのぅ」
霧谷と同じように笑って返す三十郎、霧谷はその気遣いを感じてニッコリとほほ笑むのをやめた
三十郎の覚悟を自分の笑顔が消してしまってはいけない
そう、霧谷は直感で感じていた
四皇の最後の一人にして世界最強の男の義父であり、世界最強で最恐の娘を持つ男
数多の敵と戦い
様々な人間と出会った人間だからこそ
世界に何かが起これば一番先にそこに駆けつけねばならない
そんな毎日を送ってきた男の最後の覚悟、霧谷は自分の笑顔で消させてはいけないと思っていた
「そう気に重んじる事でもないと思うぞ?
わしは充分に生きた
戦いしかできないわしにはあんな出来のいい娘や孫が出来ると思っていなかった
奪うことや殺す事しかできないわしに君たちや翔鶴はすべてを与えてくれた
血塗られた運命、そういった人生の中で見つけた拠り所
わしは守って死にたいんじゃ
それなら本望
ただやっぱり最後にはいろんな人間たちに会いたいものじゃの
まぁ・・・まだ準備が必要じゃから行かんがの」
三十郎の瞳には優しさがあふれていた
孫と娘、息子、自分が世話を焼いた人間たちの事を思い出していたのだろう
本人も気付かぬ間に、自然と口角は上がり三十郎は笑っていた
笑顔を取り戻した三十郎の表情を見て、霧谷の表情にも笑みがこぼれていた
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