番外編:四皇と異常気象 2
更新が長くなってしまいました申し訳ないです・・・
三十郎が歩みを止めたのを不思議そうに見つめる青年
青年の目に曇りは無くはっきりとした目で三十郎を見つめているのが分かる
切り立った崖を崩して作った防波堤、雛たちは嬉しそうに鳴いていた
それを見て三十郎は満面の笑みを浮かべると青年の肩を持った
「命を奪うのはとても簡単で容易いことだ
お前もそう思うじゃろう?」
哀愁混じりにそう言う三十郎を見て青年は目を曇らせた
青年にも三十郎が言った事自体、理解はできている
しかし、青年には記憶と家族と呼べるものがいない
守るものも無ければ守られるような生半可な自分ではない
三十郎の大剣を見て青年は思った
その大剣で何人の人間の命を奪ったりしてきたのだろうと
そう言っている様に見える青年の視線を感じながら三十郎は思い口を開いた
「わしはこの剣で人を殺した事は一度も無い
この大剣は神聖な物でのあまり汚したくないんじゃ
魔法や自然はこの大剣を汚さない
汚すのは人やその人の血じゃよ」
確かによく見ると大剣には傷があるが血痕がどこにも見当たらない
青年はじっと大剣だけを見つめると三十郎は背中から大剣をゆっくりと降ろして青年の足もとに置いた
何度見ても無駄な装飾やカラーリングが施されていない大剣
ただ斬ることを薙ぎ払う事のみだけに特化し、それを物語る重量感
青年は圧倒されつつも自分と戦ったとき三十郎が回していた大剣のダイアルに触れた
そこには炎、水、氷、雷、風、光と書かれていて六つに分かれていた
「そのダイアルを回すと剣に属性が付加されるのじゃよ」
「これは装飾では・・・」
「お前は電話にボタンがついていたらおかしいと思うか?
これは後からつけられたものでは無く、最初からこの剣に付属されていたのじゃよ」
大剣を持ってダイヤルを回す三十郎、氷と表示された場所にダイアルの矢印を当てると大剣が真っ青に発光する
真っ青に発光した大剣から冷気が伝わる
大剣の近くにいるだけで寒く感じるほど大剣は冷気を発していた
「こんな感じで周りに影響を及ぼすのじゃよ
それにこれは魔王や魔族を斬るぐらいしか使わんしなぁ
無駄な機能といったらそうなんじゃが夏場はクーラー、冬場はヒーターになるから重宝しているんじゃよ」
「魔族や魔王とはやっぱり悪しき者なんですか?」
青年が質問をすると三十郎はふと寂しいそうな顔をして大剣のダイアルを戻した
そして一度戻したダイアルを今度は光と書かれたところに合わせた
すると剣は真っ白に発光して周囲を温かい光で包む
木の上の雛たちも先ほどの冷気よりもやはりこの温かい光の方が心地いいのだろう
「元はあいつらも人間なんじゃよ・・・
魔王もその下っ端たちも
魔物なんてものはもともと存在すらしないのじゃよ
魔力の悪い影響を受けて生物としての機能を変換されて羽が生えたり尻尾が生えたりするんじゃよ
心の痛みもある
わしのご先祖様が魔王だとやりにくさもあるからな・・・」
青年は唾を飲んで三十郎を見つめた
魔王と呼ばれるほどの者の子孫なら自分に対抗できてもおかしくはないと心の中で思ったからだ
自分の魔法や魔力を過信するわけではない
今までの青年の経験上で自分を圧倒した人間は三十郎ただ一人だからである
魔王とは書物やニュースなどでは一般的に人あるまじき者と表記されていたりするのだ
それを人間と聞いて驚かない人間はいないだろう
ましてや三十郎は四皇の一人、自分を圧倒した者である
四皇という言葉も知らない上、孫がいるという立場しか知らないが彼にとって三十郎の底の知れなさは恐怖すら感じるほどであった
「ということは・・・先祖と殺し合いをせねばいけないということですか」
「そういうことかの
皮肉なものじゃわい
自分を生んでくれた人の親を殺さねばならんという運命
そしてこれからの自分の子孫にそういった者を増やさない為にも
わしはその為に今まで生きてきた
そしてこれからもその為に死ぬまで生き続ける」
三十郎さんの話が終わったところでちょうど船も近くまで到着した
ダイアルを戻し、島に上陸した時同様に海面に足を乗せて仁王立ちをした
青年は三十郎の後姿を見て驚愕した
人間は水の上に立つ、水の上に足は乗っても沈んでしまうのが水というもの
アメンボの様に表面張力を持ち合わせてない人間が水面の上で立つことは不可能なのだが
青年の前でも三十郎はそれをやって見せた
足が沈む前に足を踏み出すというとこが出来れば水の上にいつづけることも可能だ
しかし、三十郎は足を高速で動かすわけでもなく足に何か特殊な道具をつけているわけでもない
ただ青年の目には三十郎の足には何か青白く発光する光が見えた
「その光は?」
あまりの光景を見てしまった青年は三十郎の足元の光を問う
三十郎が振り返るとパシャパシャと音を立てながら海面が波紋を作り出した
「魔法の一種じゃよ
常に自分の足元に魔力を集中させ海面と足の裏の境界に独自の足場を作るのじゃよ
本来なら浮遊した方が楽なのじゃがいかんせんわしにとってはこっちの方が楽だからのう
だがしかしお前は真似をする必要はない
浮遊魔法ぐらいなら使えるじゃろう?それともわしがおんぶでもしてやろうか?」
三十郎が青年にそう言うと青年は自ら海に飛び込んだ
まだ気象を操る事はできても自身の体に魔力を纏わせたり
気象自体で自分の身を守ることはままならない
たとえば蜃気楼を纏わせると言った行動、彼の魔力やその力なら可能なのだがそれをまだコントロールして発揮する力が無い
雷を一点に落とすことはできてもその一点が限りなく大きくなってしまう
雷を落とすという行動も力のコントロールが出来ていれば通常の雷の範囲を狭めたうえでその威力のままピンポイントで狙う事ができる
今の彼の力ではそれを10m範囲にポイントを定める事はできてもcmやmm単位で操る事は難しい
よって蜃気楼も10m範囲では扱う事ができるのだろうが最低限纏う程度の蜃気楼はコントロールできないのだ
彼も彼なりに努力して現在は腰までが海水に浸かっている状態で泳ぐ方が楽なようにも見れる
浮き沈みはしているがしっかりと腰回りに魔力が集まって青白く発光している
「もうそこまでできたら上出来じゃよ
日本に戻ったらそれの稽古でもするかのう」
「あ、えっと・・・どうすればいいですかね」
気付けば船の近くについていた三十郎と青年
青年は胸から下が浸かったまま三十郎に問いかけた
三十郎は青年に手を差し出すと青年も快くその手を取った
「さて船長、日本まで戻ってほしいのじゃが大丈夫かのう?」
「彼を連れて帰るから自分を呼んだのですか
しかし、天候も晴れててよかったですよ」
船長の台詞を聞いて三十郎と青年は顔を見合わせて笑った
「なぜここの天気は晴れなんじゃ?」
「それは・・・」
島を見つめて青年は思い返した
自分が暮らしてきた場所の事を今までの自分の事をそして今日までの事を黙々と思い出していた
もう二度と此処に帰ってくる事はないだろう
そう思って青年は前を向いた
青年は自分の今までの思い出すのをやめて再び口を開いた
彼の目はとても自身に満ち溢れて希望にも満ち溢れている
「俺の気分が晴れな気分だからですよ」
三十郎はその台詞を聞くと船長に合図を出して船を進めさせた
まるで二人を見送るように島は穏やかな波につつまれながらそこにポツンとそびえていた
ーーーー数年後ーーーー
「ねぇねぇお兄ちゃん!今日の天気は晴れ?」
幼稚園児ぐらいであろう幼い男の子が公園の一角にポツンと備え付けられているジャングルジムの上で寝転がっている青年に声をかけた
欠伸をしながら青年はゆっくりと起き上がり、その青い瞳で男の子を見つめた
ジャングルジムの下から見つめてくる男の子の目には曇りがなく
年相応の目つき、目の輝きをしている
ふと青年はこのころの自分はどこで何をしていたんだろうと思っていた
「お兄ちゃん!今日、遠足が中止にならないように晴れにしておいてください!」
男の子の声で正気に戻った青年はその場から動かず手だけを天に翳して右に左に指揮者の様に手を振った
少しだけ窺えた雲が青年のそのサインで一瞬にして過ぎ去り、雲一つない晴天と優しい風が吹き付けた
「お兄ちゃんありがとね!」
「いつものことだ
遠慮せずに俺に言ってくれれば天気なんてちょちょいのちょいだぜ」
青年の言葉に男の子は目を輝かせる
その目を見て青年は再び、自分の昔のことを思い出そうと目をつむった
「・・・ザー・・・ウェザー・・・」
陽明学園の屋上、梯子の先にある風が気持ちよく吹き付ける場所で昼寝をしていたのだが声をかけられて体を揺すられたウェザーは嫌々起き上がる
だが無理やり起こされても彼の機嫌が悪くなる事はない
なぜなら自分を起こした相手は今でいう自分の三十郎だからである
ゆっくりと起き上がるとウェザーは欠伸をしながら頭を二、三度掻いてからようやく目を開いた
目の前には鋳鶴という自分の今とこれからを共にする仲間
「今日さ!洗濯物干してて雨が怖いからさ!
ウェザー!お願い!」
頭を下げられるほど難解な願いでもないし苦労をすることもないが鋳鶴の精一杯の誠意が伝わるお辞儀ではあった
ウェザーは微笑みながら空に向かって手を振った
「ありがとうウェザー」
そう言って鋳鶴は笑顔をウェザーに向けた
ある意味、純粋さしかないと言える笑顔だった
周囲には複雑だが人にやさしくできる人間が多いという事をウェザーは実感した
「あっ!今日は夕飯の買い出しも一緒にしてほしいんだけどいい!?」
「あぁ・・・構わんぞ」
「そういうことなら・・・早く急がないとな!」
ウェザーは自分の背中を押すように風を操り、突風で自分の体を吹き飛ばしていち早く商店街に向かった
「え!ちょっと!」
表情ではめんどくさそうにするウェザーだったが内心嬉しくてたまらなかった
もうすぐこういったことも当たり前のことになるのだろうかと自分で理解しながらもウェザーは笑っていた
今の自分が昔の自分よりも幸せならばウェザーにとってそれが幸せなのだから
ウェザーを追って走り始める鋳鶴はとても幸せそうな顔をしていた
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