番外編:四皇と異常気象
これはウェザーさんが三十郎さんと出会い鋳鶴君と出会う前までお話し
「なぁ~んじゃこの天気は」
ぶつぶつと一人の白髪に黒髪混じりの老人が荒れる海の中船上でブツブツとつぶやいている
この日はあいにく悪天候、これには老人も驚かされる
なぜなら自宅を出てくる時に天気予報を見てきたが今いる場所辺りは晴れのマーク
「あのクソッタレ天気予報士め
いい加減な予報出しやがってド阿呆が」
海の状態と同じで老人の口調も荒くなる
機嫌が悪くなった途端、急に船が船着き場にも着いていないのにも関わらず止まった
岸までは大分遠く、老人が向かうには泳いでいかねばならない
「三十郎さん、すいやせんここまでしか無理みたいでさぁ・・・」
三十郎と呼ばれる老人はあからさまに機嫌をを悪くしたままサングラスをかけて自分の髪を掻き揚げて髪形を直した
そして船長にサインを送ると三十郎は荒れる海に飛び込んだと思われたが船長が驚愕の光景を目にする
まず海の上に仁王立ちし、岸に向かって歩き始めたのだ
走るのならまだわかるしかし、三十郎はゆっくりと悠然と歩く
自然と海の荒れていた波も三十郎の足元辺りは穏やかになっているようにも見える
「すまんな!帰りの船はいらんから先に帰っておいてくれんか?
前神の阿呆にも報告をよろしく頼む」
「わっかりました!くれぐれもお気をつけて!」
三十郎に手を振ると船長は船を岸から遠ざけて島から迅速に脱出した
雨が降りしきる中、三十郎は島を海の上から眺める
砂浜はこの天候では見当たらず辺り一面は切り立った崖ばかりだった
前神大臣の通達でここに向かうように指示されている三十郎は少しだけ苛立っていた
まずは自分よりも年下に命令口調で頼まれたこと
そしてもう一つは自分にこの様な辺境の地へ、1人の青年を探索させること
日本政府と大臣にイラつきを覚えながら三十郎はただただ崖に向かって歩いていた
「ったく仁の阿呆めがわしをこんなところに送りおってからに」
ブツブツと愚痴を呟いていると三十郎は崖の前で立ち止まった
すると崖の前で自分の右手を翳しその右手で軽く目の前の切り立った崖をノックするかの様に小突いた
音を立てて崩れる崖、崖の上に生えていた木が土砂とともに滑落する
何か見つけたのか三十郎は滑落していく木を土砂を足場にして近づき
筋肉身溢れる右手でその木を鷲掴みにした
三十郎の抱えた木の枝の中には鳥の巣があったのだ
雛たちの無事を確認すると先ほどのイラつきに満ちた顔からは想像もできない優しい笑顔を三十郎は雛たちに向けた
「大事な巣を壊しかけてしまったすまんかったの」
そう言って三十郎は土砂が積もった海中を確認してそこに木を棒を差し込むかのようにそこに刺した
それはまるで月面着陸の時に掲げるた旗の様に目立つようにそこに突き刺した
荒波に巻き込まれていけないと三十郎は思ったのか今度は自分の魔法を使い崖の土砂を防波堤に作り替えた
雛たちも嬉しそうに鳴いているのを見て三十郎は再びほほ笑んだ
「さてとしまっていくべきか・・・普通にいってみるか・・・どうしようかのぅ・・・」
考える三十郎、イラついたり喜んだり考えたりある意味大変である
「何用か?」
三十郎は自分の目の前あった茂みに向かって声をかけた
そこには見た目からは何も見えないが三十郎は何かの気配を察していたのかそこに向かって自分の武器である大剣を即座に召喚し
その茂みに向かって投擲した
凄まじい轟音とともに茂みの後ろの崖も崩す三十郎の大剣、シンプルなデザインをしていて魔法装飾や付呪を全くしていない
ただ対象を断裂するだけの為の大剣、老体にしてその大剣を振り回すのは通常の老人には難しいというよりも不可能に近い
それを老体に似合わぬ隆々とした筋肉を躍動させながら三十郎は大剣を投擲した
「ほう・・・人間ではないようじゃな」
ホッとした三十郎が見たものは氷でできた人の形をした人形だった
三十郎が投擲した大剣は見事にその人形を真っ二つに断裂していた
「ふむふむ
今回の探索目標が作った物と考えてもいいということか」
三十郎はここであることに気付く
すでに氷の人形に包囲されていた
だが三十郎は平静さを失ってはいない
「そういうことか・・・警備員がいっぱいじゃなぁ」
三十郎はそうボソッと呟くと背負い直した大剣を引き抜いてさらにそのまま周囲の氷の人形を一斉に片づけた
しかし一振りですべての人形が片づけられるほど敵も甘くは無い
「面白い魔法じゃのう
あのバカを思い出してしまう程の膨大な魔力
ある意味尊敬するというか呆れるというか」
再び大剣を振り人形を蹴散らす三十郎
何度振り払っても何度振り払っても立ち上がる氷の人形を見て表情を変える
「遠隔操作型の魔法かのう
それとももうわしの位置に感づいているのか・・・それとも」
自分の大剣の柄の部分をダイアルの様に回す
すると大剣が赤く発光し、その大剣に雨粒が落ちるたびに音をたてて蒸発する
それと同時に三十郎を包囲し続けた氷の人形は形を崩しその原型を保てず元の成分である水に戻った
「まだまだいるのう
しっかし無数に湧いてくるものだから仕方ないというか・・・
もう検討はついておるというか」
三十郎は小声でそう言うと今度は島の頂上であろう場所に生えている一本だけの松を見た
そこにはここからでは何があるか分からない
しかし三十郎はその一点を見つめていた
「あそこか」
三十郎は大きく構えて木に向かい一直線に大剣を投擲した
音を立てて松は大剣により切り裂かれ二つに分かれる
じっと三十郎はそこを見つめると松の上から一人の青年が顔を出した
目の色は黒く生気に満ち溢れていない目をしていた
ただただ何も言わずずっと三十郎を冷ややかな目で見つめている
「こんなところで何をしている」
青年は何も答えない
ただただ三十郎を見つめるだけ
三十郎は青年の場所までかけよろうと崖に手を掛けるが
青年は自分の手を天に向けて振り上げ何かのサインを送ると三十郎に向かって落雷が落ちた
おおよそ青年がコントロールしたのだろうか三十郎はそう思いながら雷を受けたままで頂上に向かう
「いい電気マッサージじゃな」
三十郎の体に傷は一つも入ってはいない
青年はそんな三十郎を見ても物怖じせず間髪入れずに三十郎に向かって落雷を落とす
だがそれはただの愚策にすぎない
三十郎はどんどん崖を登っていき、徐々に青年に近づく
頂上付近にたどり着くと青年がおおよそコントロールしていたと思われる雷は止んだ
「さてと・・・わしに連れていかれてくれんかの?」
「嫌だね・・・俺はここにいなければならない」
三十郎が崖を登り切ったところでようやく青年は口を開いた
三十郎は肩を落としながら青年の前に座った
「なんでこんなところにおる?」
「貴方に答える義務はあるか?ないだろう?」
生気を感じられない目で三十郎を見つめながら青年はそう言った
「じゃああの雷を放ったのはお前か?」
「とても面白い事を言いますね
俺程度の人間に天気を操れるとでも?
でしたら世紀の大発見だ
貴方は一気に有名人になれる」
三十郎は青年の台詞を聞いて声をあげて笑う
「じゃあなんでここの天気は雨なんじゃ?」
「それは俺の気分が雨だからさ
ここの島は俺の気分によって天気が変わる
夏なのに雪が降ったり
冬なのに夏ぐらい酷暑になる事もある
すべては俺の気分しだい
世の中の人間なんて知ったこっちゃあない」
「ほうほう
予想以上に我儘で自分勝手なんじゃの
わしも人の事は言えないが」
「貴方は確かに訳の分からない人だ
今までこの島に沢山の人間が来た
その度に追い払ったんだが貴方は違った
あそこまで俺の兵隊をなぎ倒すとは手練れの戦士の様だな」
「ほう
饒舌になると天気もおのずと晴れるんじゃな
本当にわかりやすい人間というか・・・わしにそっくりというか」
三十郎さんの前に青年も座る
先ほどまでの生気などない目には生気が満ち溢れていた
三十郎は思わず青年の態度の変貌に微笑む
「お前の気分で天気が変わるのならそれはお前の魔法じゃよ
ただそれしか使えないようじゃし
意識して使えているわけでもない・・・か」
「俺は魔法を習ったことがない
あの人形たちも俺の気分が悪いと出てくる
雷もあいつに落ちろと思えばそこに落ちる
この島がおかしいんだ俺は魔法なんて使えない」
「外に出る気はないか?」
「激しく・・・0に等しい」
青年の台詞を聞いて三十郎は立ち上がった
とても嬉しそうに青年を見ながら
青年は三十郎の嬉しそうな顔を見て若干引いている
「じゃあお前を余計に外の世界につれていきたくなった
なぜかって?お前の魔法を見てとても便利な魔法だと思ったからじゃ
毎日天気にしてくれれば洗濯物も乾きやすくなって孫も楽じゃろうし」
「どうしてもここから俺を連れ出したのか?」
「うむ」
「俺は外の世界を知らない
記憶が無いんだ
自分の事とこの世の物事の記憶が
俺がなぜこの島にいるのかもなぜこの魔法?異能?を身に着けたのかも分からない
こんな人間を外の世界に連れ出したら笑いものも間違いは無い」
「そうじゃろうか?お前の努力次第だとわしは思うぞ?
人は変われる
そうやってどっかの誰かが言っておったわい
お前次第じゃよ
友達や仲間だってここじゃなければできると思うし
お前の居場所はわしが確保しておいてやる
社会的地位ももちろんじゃ」
三十郎さんの言葉に青年の気持ちが揺れる
ずっとひとりで過ごしてきた
この島でずっと一人
いつから一人かもわからず
自分が何者かもわからず
ただただ日々を過ごして生きてきた
誰かに言われたことじゃなく
誰かに命令されたわけでもなく
今自分の目の前には道が二つ
この胡散臭い筋肉隆々の老人に着いていくかはたまたこのままこの誰もいない島で過ごすのか
どちらを選ぶのは自分の自由そして二者択一
「外の世界には興味があるが貴方が胡散臭くて仕方ない
とても失礼なことだがいきなりついてこいと言われてはい。そうですかとは着いていけない
俺のこの力を悪用する人間かもしれないからな」
三十郎さんは青年の言葉を聞いて再び大笑いをして今度は腹を抱えてひっくり返った
「それもそうじゃな
じゃあ一度、お前と組み手でも組んで見ようか
もちろん!殺す気できてもらっても構わんぞい!」
三十郎は立ち上がると青年に向かって背中から大剣引き抜き胸の前で青年に切っ先を向けて構えた
「俺は魔法の使い方は分からないが・・・
貴方のおかげでどんな事が出来るかは大方分かった
それではいくぞ!」
そう青年が言い放った後だった
言葉にできぬ恐怖が青年を襲い青年は動けなくなり言葉を発する事も出来なくなった
ただただ三十郎を前にした事に恐怖と絶望を感じていた
三十郎はなにもしていない
唯一しているというのなら三十郎はじっと青年に殺意の眼差しを向けていた
今にも殺しかからんばかりの目つきから青年は自分の未来が容易に予測できたのだ
確実に浮かぶ死のビジョン
どう殺さるかもそれを回避する方法が無い事もまるでこちらを睨みつけるだけで感じるほどに
青年の足は震えていた
「どうした?動かんのか?わしから行くぞう?」
三十郎は青年がもうすでに動けない事に気づいていた
気付いていた上で三十郎さんは青年に向かって斬りかかった
殺意という殺意を押し殺して青年の魔力で自分の血が疼くのを感じながら首から数mm離れたところで大剣を止めた
このまま押し切ってしまえば青年の首が飛ぶのは明確だった
青年の未来を奪いたくはない三十郎だが血の疼きがその手を震わせる
倒されたままで動けない青年、あと一歩のところで殺される青年はすでに生存本能で体が動いていた
三十郎に向かって至近距離で放たれる氷塊、自分の腹にその氷塊が直撃しても三十郎は全くの無傷
氷塊を受けて気を取り戻した三十郎は青年から距離をとった
「少しやりすぎてしまったかの
申し訳ない君には悪いことをした」
「本当に死ぬかと思いましたよ・・・
自分の事を救い出そうとしてくれた貴方に疑いをかけてしまった
それに関しても謝りたい」
そう言って青年は三十郎に向かって頭を下げた
深々と頭を下げた青年を見て三十郎は青年の頭を荒々しく撫でた
「さてと天気も晴れたことだしこの島から出ていくかの
といってもお前の気分が晴れただけじゃがな」
三十郎は携帯で先ほどの船長と連絡をとった
そして天候男を島から連れて行こうとすると先ほど鳥の巣を救った木の前で三十郎は歩みを止めた
感想などお待ちしております!