第66話:魔王と第2の能力
霧谷さんと前神大臣と神室さんの三人が国会議事堂で会議している途中
鋳鶴君は学園長の待つ部屋を目指し廊下を邁進していた
「まだ先があるのか、気が重くなりそうだ・・・・・・
矢は飛んでくるし床から槍は飛び出すし変なのには追い回されるし・・・・・・
そして執事か・・・・・・学園長の考えが僕にはよく分からないです」
鋳鶴君が見据える先には執事、アンリエッタ・デュバル
執事はナイフを両手に持ち鋳鶴君を観察している
鋳鶴君はこのアンリエッタさんが待ちかまえている踊り場までに来るまで
約1kmいやそれ以上様々なトラップや誘惑をかわしながらこの踊り場に着いたのです
床が落ちて落とし穴になっているトラップ、いきなり正面から矢が飛んでくるトラップ
足元からいきなり槍が飛び出すトラップ、火炎放射だらけの道、などなど
様々なトラップを回避しながらこの踊り場にまでついたのです
「ジャンヌ様に貴殿の手合わせを頼まれているのだが
さて、五分、八分、全力どれがいい?」
アンリエッタさんはナイフを回しながら鋳鶴君に問いかけた
鋳鶴君は少しだけ考え込んだ
考えがまとまると躊躇いもなく口を開いた
そして法衣と手甲を召喚して装着するとアンリエッタさんを見た
「全力でいいです
僕も全力でいきます
その代わり男性には手加減しませんよっ!」
鋳鶴君がアンリエッタさんに向かって走り出すと
アンリエッタさんは華奢な足で思いっきり廊下を蹴って大きく飛び跳ねた
その跳躍は道幅より縦に広いこの廊下では天井に足はつかない
そしてその跳躍は鋳鶴君の頭の上を悠々と越えた
足を掴もうと試みる鋳鶴君だったが虚しくも指先に触れた態度だった
そして軽くジャンプした鋳鶴君が床に着地する前にアンリエッタさんが着地する
まだ宙に浮いたままの鋳鶴君を目掛けアンリエッタさんがナイフの切っ先を鋳鶴君に向け
その切っ先を突き刺そうと再び床を足で蹴る
「早いっ・・・!」
「これで終わりですかジャンヌ様もガッカリされるでしょう」
鋳鶴君はすかさず身体をひねり手甲で防御出来るように胸の前をガードで固める
その時アンリエッタさんのナイフが発光する
光は少しだけ薄暗い廊下を照らして暖かい光を放っているが鋳鶴君は胸騒ぎが収まらない
「このナイフはジャンヌ様のお力によって光や聖の強化魔法
そして聖や光で出来た鉱石や素材によって出来ております
つまりこのナイフは対魔のナイフ貴方の弱点でもある聖なるナイフです
よって貴方を有効的に致命傷をつけられる訳です
それではさようなら望月さん」
アンリエッタさんが聖なるナイフの切っ先を鋳鶴君に向けて走り寄る
しかし鋳鶴君は聖なるナイフを目にして笑みを浮かべた
「僕は魔王なのかもしれないでも僕には色々事情があってさ
負ける訳にはいかないんだ身も蓋もない事を言うけれど
僕は学園長には会わなきゃいけないと思ってる
学園長はどうやら聖職者か何かだ魔の血が疼いているのかもしれない
けれど神に近い相手をしてみたいただそう思った
ただそれだけさ」
鋳鶴君はアンリエッタさんの目の前から忽然と姿を消した
アンリエッタさんが周囲を詮索するけれど鋳鶴君は見あたらない
辺りが静まるアンリエッタさんは常に身体を動かし前後左右を見渡すように努めている
そして一分がたったその時だった
廊下に強風が吹き荒れ塵がアンリエッタさんの目を塞がせる
アンリエッタさんが目を擦っているその間に鋳鶴君はアンリエッタさんの背後を取っていた
彼女の聖なるナイフを首筋に突き付けて
「どうやら僕の勝ちみたいですね」
「そうですね私の負けみたいです」
「二人とも良い勝負でしたよ」
後ろから不意に声が鋳鶴君の耳に入る
鋳鶴君は後ろを振り返らずともそれが誰か理解できた
アンリエッタさんに突き付けたナイフはそのままで
「学園長、執事さんとてもいい試練でした」
「そう、それは良かった
でも貴方が闘ってたのはれっきとした女の子なのよ?」
「えっ!?いやっ!そんなつもりはっ!」
先ほどの態度とは一変し鋳鶴君の態度が180度回転した
冷静な目付きは動揺と驚きの眼差しに代わり
それは自然にアンリエッタさんの胸元に向けられた
アンリエッタさんは視線を感じてか胸元を両手でしっかりと隠す
「やけにくびれとかお尻とか女の子っぽいなと思ったら・・・・・・」
「女の子に弱いとは本当でしたのね
でもアンリエッタは一流の執事のまだ卵、これからも鍛錬が必要ですね」
「申し訳ございませんジャンヌ様」
アンリエッタさんが振り返ってジャンヌ様と言われる人に深々とお辞儀をする
そこでやっと鋳鶴君は後ろに振り返った
そこにはまだ10代程にしか見えない少女が銀色のドレスの様な服装を纏い
銀色を靡かせ車椅子に座っていた
車椅子のレバーが下げられており車輪が動かないように固定されている
少女では無く幼女にも近いだろう
しかしそう言われる年齢には全く等しくない眼差し、雰囲気
その赤い目の中には鋳鶴君が映っている
アンリエッタさんに手を添えるとやっとアンリエッタさんはお辞儀をやめた
「本当に貴方が魔王なのですか?
望月鋳鶴君?」
「まだ魔王ではありませんが・・・・・・
たぶん魔王だと思われます・・・・・・」
「ふふっ雅の息子と聞いてもっとがたいが良かったり話し方に難がありそう
と私は思ったのだけれど魔王とも雅の子供とも思わせないような
物腰、謙虚さ、礼儀正しさ、優しい眼差し、正反対の性格、
本当にあり得るとは思いたくありませんね
アンリエッタが女性と知った瞬間貴方の緊張の糸が切れた
とっても優しいお方なのねでも苦労もしているし女癖が悪いときもある
女運もあまり無いみたい可哀想ね」
ジャンヌさんの視線が鋳鶴君に刺さる
鋳鶴君は否定も出来ずしょんぼりと肩を落とした
「それは恥ずかしながら否定できません・・・・・・
女運だけは本当にありませんよ僕・・・・・・
哀しくなるし泣きたいですよ・・・・・・」
鋳鶴君が若干瞳に涙を浮かべ俯きます
そんな鋳鶴君にジャンヌさんは手を差し伸べた
その小さな手には確かな暖かさがあった暖房や湯たんぽで出来る暖かさではなく
人としての優しさと暖かさその手に触れずとも鋳鶴君はジャンヌさんの優しさを理解できるほどに
そして鋳鶴君は彼女の手を取った
すると手を握り替えし小さな両手で鋳鶴君の右手を包む
「そういう運命もあります
望月君は優しいんですねだから女性には手が出せない
でもその反面、女性に騙されやすいんですね
悪いとはいいませんが仮にも今、私がこの場で望月君の事を
好意的に思っていて此処に連れてきたでも貴方は怒らないでしょうね
とりあえず本題に入ります」
「はい」
泣き顔から鋳鶴君の顔が真剣な表情になる
「貴方は普通科でしたね
この前の体育体会と今回のアンリエッタとの対決で
望月君は普通科には相応しくないと私は思いました
ですので他の科に体験入学をしてもらいます」
「はい?」
「他の科への体験入学です
この前の望月君のあの炎を見て判断しさせてもらいました
といっても一日ぐらいだから大丈夫
何処の科も楽しいしおもしろい望月君にはピッタリだと思います
それに良い時期、高校からの科目移動も出来るから
決めてきて下さい
今日呼び出したのはそれだけの事」
「本当にそれだけなんですかっ!?」
鋳鶴君は飛び上がるかの勢いでジャンヌさんに詰め寄った
すかさずアンリエッタさんがその間に踏み込み鋳鶴君の首筋にナイフを突き付ける
「こらこら駄目ですよ?アンリエッタ
私もいきなり手を取られてビックリしましたが望月君は大人ではありませんし
仕方のないことですですからナイフをしまいなさいアンリエッタ」
アンリエッタさんはジャンヌさんにそう言われると無言のままゆっくりとナイフを降ろした
鋳鶴君は冷や汗と脂汗を額に浮かばせながら唾を飲んでナイフが降ろされるのを凝視した
アンリエッタさんがきちんとナイフを降ろした事を確認すると鋳鶴君は大きく息を吐いた
「望月君は安全ですよ比較的に雅の息子だから意識しているんですか?アンリエッタ」
「自分の仕事に私情が入ってしまいました申し訳ございません」
深々とアンリエッタさんが頭を下げるジャンヌさんはアンリエッタさんの頭を優しくなでた
頬を赤く染めながら鋳鶴君に見られているのに気づき鋭い剣幕で鋳鶴君を見る
鋳鶴君は顔を真っ青に染めて冷や汗でシャツがビショビショになっている
「さて望月君?どこから体験入学をしますか?
貴方に選んでもらいましょうどの科がいいですか?」
ジャンヌさんが手を振りかざすと光が生まれそこから光の板が生まれた
その板には細かく文字と画像のようなものが記されている
鋳鶴君がのぞき込むとそこには各科のオススメスポット、生徒会長の性格など
様々な事が一気に閲覧できるようになっていた
機械科 生徒会長 金城沙耶 眼鏡少女
魔法科 生徒会長 虹野瀬縒佳 黒色魔女
科学科 生徒会長 朝倉藍子 ほんわか博士
銃器科 生徒会長 月野蛍 射撃少女
魔王科 生徒会長 望月結 THE・肉食
ツッコミを入れたくなってしまう鋳鶴君
しかし相手は学園長ツッコミなんていれたら何をされるか分かりません
そっと鋳鶴君は光の板から離れて腕を組んで考え事を始めました
「そうですねやっぱり僕は・・・・・・」
鋳鶴君はそういって光る板に指を近づけた
ーーーー国会議事堂ーーーー
「教えてあげるよww
僕の第2の能力ww
もう発動してるけどねww」
神室さんが徐に周囲を見渡す
しかし霧谷さんは何処にも見えない
自分のまわりには埃や塵が散りばめられている
幾度となく周囲を見回しても見えるのは国会議事堂内装と前神大臣だけ
薙刀を構え緊張の糸を最大限にまで広げる
物音一つでも気配を感じればそこに薙刀を突き立てられるよう殺す気で
「神室もまだまだ甘いなぁ~ww
その程度じゃあ普通状態の僕には触ることも出来ないよww
僕は誰にも触れられないww」
すると神室さんの目の前に光が現れ徐々に光が集合し形になる
光が集結し光の正体が顕わになるそこには霧谷さんが
ニコニコ笑顔を浮かべながら立っていた
そしてその笑顔目掛け薙刀を垂直に振り下ろす
霧谷さんの周囲には受け流しの効力の波がない
神室さんは霧谷さんは殺せまいが傷をつける事は出来ると確信したその時
虚しく薙刀は霧谷さんをすり抜け再び床に刺さり込んだ
「光・・・・・・だろう?霧谷君?
これが君の第2の能力にして最大の君の武器
魔王討伐でも君の力が無ければ日本も世界も救われなかった
現存する人間達の中で唯一霧谷君だけが使える技というか術式だな
神室の薙刀がすり抜けたのは霧谷君が光りそのものになっていたからだ
そうではないか?霧谷君」
大臣は腕を組みながら霧谷さんに話しかけた
霧谷さんはニヤニヤしながら前神大臣に近付いた
「半分正解で半分間違っているかなぁ~ww
確かに今の僕は光そのものだよww
だけど実体もあるこれが僕の光の能力ww
正直にいうと僕のこの力は永続出来る能力じゃないww
ずぅ~っと出来たらそれは本当に化け物だよww
だからずっとやらない一時的だけ使いたいときに使って
使いたくないときは使わないww
第3もあるけれど普段ならここまでで充分すぎるんだww
だけど雅にだけは最後の能力を使っちゃうんだよねぇ~ww
それか欲しい技がある時、興味のある魔法、どうしても必要になろう時に使いたくなる魔法を
盗む、だから雅の時だけは絶対に使っちゃうんだww寧ろww
使わなければならないww使わなきゃ雅に破壊されちゃうからねww
だから第3能力を使えばこんな事も出来る」
そういうと無表情のままから薙刀と取り上げると
薙刀を振るい神室さんに向けて薙刀での刺突を実行した
霧谷さんの刺突はどこかで見たことのあるような刺突だった
神室さんは無表情から口を大きく開け霧谷さんを指さしたまま動かなくなっている
霧谷さんの刺突は見事に神室さんの着物だけに命中させていたのか
着物だけが切り裂かれ音を立てずに床の上に落ちた
恥ずかしがるどころか硬直してしまっている
大臣は今の刺突を見て何かに気づいたかのように椅子から立ち上がった
「それは・・・・・・!神室の薙刀術!」
「そうこれが原型模倣、雅と闘う時、技が欲しいときに使う能力
ただ一番これが僕の体力と精神力を使うww
それほどにまでの切り札なんだよww
だから普段じゃこの僕の原型を模倣する紅朱色の眼
この世に三つとない眼だよww
あの日にもらった僕の・・・・・・ww眼なんだww」
霧谷さんは少しだけ寂しそうにそういって笑った
「だから・・・・・・眼鏡をかけている」
大臣も重苦しい空気の中、そう呟いた
「あぁ・・・・・・wwそうだよww
この眼鏡が無かったら常に発動してしまうんだww
だから眼鏡をかけなきゃいけないww
眼は悪いんだけどねww伊達眼鏡かけるファッションセンスも無いしww」
霧谷さんは先ほどの笑顔とは一変しニッコリと笑顔を浮かべた
「それに僕は皆の正義の味方になりたかったww
けれどそれは過ぎた願いだった・・・・・・
結局、僕は誰の正義の味方にもなりきれていない
だから今、日本の為に闘っている
闘う事こそが僕の使命かもしれないしww
だから今、昔みたいに聞く必要があるのかもしれない
息子に正義の味方がなんなのか正義の味方になりたいか
こんな時代だからねww息子には僕みたいには正直なってほしくない
鋳鶴を・・・・・・本当の魔王にしちゃいけないその為にめんどくさいけどww
久し振りに家にでも帰りますかww娘達の顔も見たいしww」
霧谷さんは発言発言に表情を変え自分を抑えている
前神大臣は霧谷さんがそう見えてしまった
それを霧谷さんはひた隠すいつもの変わらぬ笑顔で
神室さんは何も気づいていないのか大臣は神室さんを見つめる
神室さんは霧谷さんに目頭を立てて怒っている
なぜ気づかないのかその気持ちで前神大臣の頭の中はいっぱいになっていた
霧谷さんの笑っている顔を見れば見るほど昔の霧谷さんが浮かんでくる
魔王討伐戦の時の霧谷さんが頭の中に昔のまま鮮明に映し出される
「大臣・・・・・・僕は・・・・・・これからどうすればいいんですか・・・・・・?
雅と・・・・・・龍司以外・・・・・・無くなってしまった・・・・・・
僕は・・・・・・どうすればいいんですか・・・・・・?
これから・・・・・・何の為に生きていけば・・・・・・いいんですか・・・・・・?
大臣・・・・・・大臣・・・・・・
正義って・・・・・・守るって・・・・・・なんですか・・・・・・?」
全身を血みどろにし日本政府が用意した服も真っ赤に染めて
眼を虚ろにしてまるで何も見えていないのかと思えるほど眼は死んでいた
普段は紅朱色に染まっている眼は赤黒く絶望に満ちて今にも何か起こしそうな雰囲気を放っている
「大臣ww?ちょっとww大臣ww?聞いてるww?」
色々思いだしているなか前神大臣の背後から笑い声の混じった声で霧谷さんが声をかけた
昔の霧谷さんの姿を今の霧谷さんに前神大臣は重ね合わせてみる
そこには昔の霧谷さんの面影は紅朱色の眼以外まったくといってもいいほど面影の無い霧谷さんがいた
「疲れてるんじゃないのww?僕の方が疲れてるけどww
休みが欲しいなww久し振りにww」
前神大臣は大きく息を吐くと霧谷さんをもう一度見直した
いつも見ている笑顔、紅朱色の瞳を隠し通す為の眼鏡、だるだるの制服
「大臣である私が疲れると思っているのかね?
寧ろ霧谷君に挑発されてさらに俄然やる気が出てきたぞ!」
「さっすが大臣ww!分かってるーww!
とりあえず今度からお呼ばれ無しでww!
んじゃww!有給休暇いってきまーすww!」
霧谷さんはとんでもなく早口でそして有休をもらうと光の力を使って大臣と神室さんの前から忽然と消えた
大臣と神室さんは顔を見合わせると互いに頷き神室さんは自分の職場へ大臣は仕事に戻った
ーーーー学園長室前踊り場ーーーー
「じゃあ僕はここにします」
鋳鶴君はジャンヌさんが出した光の板に触れた
それを認識すると光の板は徐々に光を失い消えた
「そうですかでは望月君にはまずここに行ってもらいましょう
アンリエッタ手配をお願いしますね
それと望月君?私やっぱり貴方と手合わせしたいのです
魔王の望月鋳鶴ではなく普通科を優勝に導いた望月鋳鶴君と
私は戦いたいいいえ、是非闘わせてください」
ジャンヌさんはそう言って車椅子から立ち上がった
鋳鶴君はジャンヌさんの足は不自由と思っていたため若干驚きを隠せずにいる
「えっ!?車椅子!?えっ!?あれ!?」
車椅子はアンリエッタさんが畳んで腕に抱えていた
ジャンヌさんは平然と足元の見えない白いドレスを着たまま
立っているように見える特殊な魔力や能力の発動は感じられない
足は元から不自由では無かったと思えばよいのか
「私は足が不自由などではありません
ただ地面は汚れていますアンリエッタが掃除していてくれても汚れている
だから靴を汚したくないのです私は魔を討たねばなりません
邪を討たねばなりません、悪を討たねばなりません
だから私は戦うのですいずれ私が望月君の前に立つこともあるかもしれません
魔か邪か悪かそれとも聖か正か善かそれとも普か私と戦って試してみてください
本当の自分をそして自分がなんたるかを教えてあげましょう
来なさい魔王」
ジャンヌさんはドレスのまま何も型や動きを見せずただそのまま
汚れた地面に足を着けて鋳鶴君を赤色の眼が見つめている
勿論鋳鶴君に戦う意志は無い学園長とは戦えない
なぜならいくら学園長でも女の子
望月鋳鶴の最大の弱点の一つなのだから




