第62話:魔王と糞爺
魔王は倒れた心身共に満身創痍
祈る仲間達の前に救世主?は現れた
下駄に番傘、軍服を羽織り白髪の髪を靡かせ
伝説の男が魔王の前に現れた
「本当に久し振りじゃのう鋳鶴
何年ぶりかのうじいちゃん寂しかったぞ!
それにしてもおもしろい体育祭じゃのう!
本当によう頑張ったもうええぞ
大丈夫じゃ結はじいちゃんが何とかしてやるから
お前は降参でもなんでもするそれがいい!」
白髪の爺が倒れている鋳鶴君に話しかける
鋳鶴君は倒れたまま頷きもしない
そんな鋳鶴君を見て白髪の爺は真剣な眼差しに変わった
「そこまでして勝ちたいか?
実姉に勝ったところでどうする?
鋳鶴に自由はうまれるがそれからどうする?
じいちゃんは分からんしそれは鋳鶴が決める事だしな
わしは分からんしお前以外は誰もわからんぞ?
ただお前の姉ちゃんの言うとおりにする事は無い
無理に全員救うこともない約束も聞くも無し
鋳鶴の人生は鋳鶴の人生じゃ
わしら年寄りや鋳鶴のお友達が決める事もない
お前はお前の人生を生きればいいんじゃ
それでもお前は人と干渉したりする事を求めるのか?
そこまで背負っていつか身が持たなくなるぞい?」
白髪の爺は鋳鶴君に問いかける
それに反応してか鋳鶴君の右手がゆっくりと動く
そして白髪の老人に自分の血が付着した手でVサインを送る
老人はその血みどろのVサインを見て微笑みを浮かべる
「なぁ鋳鶴、お前は何の為に闘っている?
自分の為か?それとも友の為か?それともわしや家族の為?
それともお前の好きだった者の為か?
それともそれとも?その全員の為か?
Vサインをする体力と精神力がまだ残っているのなら
立ち上がってみせい!お前は結に勝る事が出来る!
だから勝って家に来い!じいちゃんはいつまでもまっているぞ!
これも約束じゃ!先のVサインを見てお前は全ての約束を守ると
何一つ守れない約束は無い!と言ったのかとわしは思わされたからな!
そしてお前の手料理を久方ぶりにじいちゃんに食わせてくれんか?
その為に梓も連れてきた!じいちゃんは
この望月三十朗<もちづきさんじゅうろう>は望月鋳鶴との最大の約束を!
果たせずじまいだった約束がある
これでそのお前との約束をちゃらに出来るとかはわしは思っていない!
わしを恨んでくれても構わない!わしを殺したい!?
全く持って構わん!その感情こそ!
わしを殺してしまいたいそう思う心がお前を強くするのなら・・・・・・!」
ーーーー将軍官邸ーーーー
「これが終わりの始まりなのかな?」
軍帽を被った女性がワインの入ったグラスを片手に持ちながらそう呟いた
「将軍?どうかされました?」
近くにいた兵士の様な風貌をした女性が将軍と呼ばれる
女性に声をかける
「いや・・・・・・たったいま魔王が覚醒でもしたのかと・・・・・・
ふと思ってな私の可愛い弟がもっとたくましくなったのかと思うと嬉しくてな
だから呟きたいのだが私はどうもツイッターというのがそもそも苦手でな
携帯を弄る事すらためらうからな」
女性は恥ずかしそうに帽子で顔を隠した
兵士の女性は顔を赤らめながらも女性に携帯を出すように言うと
女性は胸ポケットに入っていた携帯を兵士に渡した
ーーーードイツーーーー
「パパ・・・
今何かが・・・世界のどこかで何かが強くなった・・・」
「なにがだい?アリア」
銀髪の少女アリアさんは自分のパパでありドイツの最高位将軍である
ハンニバルさんは甘えてくる娘の頭の撫でながらアリアさんに質問を促した
「分からない・・・
けど嫌な力じゃない・・・
でもこれは脅威になる力・・・
魔の力・・・私と似たような・・・
お姉ちゃんと同じ様な力・・・
またはそれ以上の力が花開いてしまった・・・
これは由々しき事態なのかもしれない・・・」
「大丈夫さアリア
パパの国は強いんだよ?それにアリアもいるんだ
そんな遅咲きの力になんか負けるはずはないよ
ーーーースタジアム跡ーーーー
三十朗さんが全てを言い終わる前に鋳鶴君は三十朗さんに触れた
三十朗さんは触れられたことに気づかなかった
鋳鶴君が立ち上がると思っていたがこんなに早く立ち上がるとは思わなかった
鋳鶴君の体は発光し光輝いている
そして何かを決意しその先を見据えたような目付きをしている
何もかも全てを見透かすかの様に鋳鶴君の視線は前を向いていた
「なぁじいちゃん
俺はじいちゃんを恨んでなんかない
寧ろ感謝してるよあの頃はじいちゃんへの憎しみがあったから
そういう意識、感情があったから強くなれたと思ってる
沙綾が死んだ事実は変えようがないし変わらない
それをじいちゃんのせいにする俺も俺だった
じいちゃんは約束なんか破ってないよ
忙しかったじいちゃんに頼んだ弱い俺が悪かったんだ
けれど・・・・・・」
「今は違う・・・じゃろ?」
「そう
今は違うんだ
自分が立っている理由が不自然なんだけれど自然な自分がいる
本当に人生何が起きるか分からない
まだ15年しか生きていないけれど本当にその意味が分かる
家族はおかしい人ばっか
友達や通ってる学校はおかしい
そこの先輩達もおかしければ先生達もちゃんちゃらおかしい
でもみんな大好きだ
こんな事言うのは恥ずかしいでも言いたい」
「ほほうなんじゃ?言ってみい」
三十朗さんは頭を掻きながら鋳鶴君に問いかけた
「みんな僕がいなきゃ駄目でしょ?」
「わっはっはっはっ!
そうきたか!流石鋳鶴じゃ!
ギャップが半端ないのぅ!いつもの鋳鶴はそんな事言わんぞ
だが確かにそうかもしれん
わしもお前がいなきゃ生きる理由がもうないしの!
お前がいるからお前の学科のみんなは決勝戦?にまでこれた
お前がいるから望月家の家事は安泰
お前がいるから霧谷やわしはきちんと仕事が出来る!
お前は恵まれているのかもしれん
だがお前がいないとパズルは崩れる
完成しないパズルピースの合わないパズルなど完成しない
だからお前は欠けてはならぬ
お前が欠けたらパズルは総崩れじゃ
そうお前の元カノさんが言っとったぞ」
そう言って三十朗さんは番傘の下から鋳鶴君を出す
そして鋳鶴君の肩を一度ポンと叩いた
「待っとるぞい
負けるなよ鋳鶴約束は守るもの!」
「ルールは破るもの・・・・・・だよなじいちゃん」
「よぅ分かっとるそれではの!」
三十朗さんは番傘をさしたまま意気揚々とその場を後にした
スタジアムの跡地にはもう結さんと鋳鶴君しか残っていない
まっさらな平地と若干の砂利が転がっているだけ
生き物一匹、植物すら生えていない
「それが本当のお前か・・・・・・
まったくもって醜く!汚れ没落している!
私の前から消えろ魔王!」
鋳鶴君に罵声を浴びせる結さん
先ほどまでの態度とは一片まるで違う人間とでも接するような態度で
「これが本当の僕だ
魔王だよ?汚れてるよ?醜くて没落もしている
女の子が大好きで可愛いと想った子にはすべてに手を出す
最も結姉の理想にはほど遠いよ
だからこんな僕はいらないだろう?
これが本当の僕さ初期化したくても初期化仕切れないほど
膨大にデータが詰まっている
だから初期化なんてさせないよ何一つ
僕のこの性格も感情も行動も思考も初期化なんてさせるかよ
空っぽな人間になんてなりたくないだから闘う
剣を取って闘う、もう本当は戦いたくないとか言わない
誰とだって闘う自信はあるでも闘うだけ
闘うと言っても女性に手は上げないし暴力なんてもっての他だよ
だから・・・・・・」
鋳鶴君がその場から即座に消える
結さんは眉一つ動かない
しかし次の瞬間、鋳鶴君が結さんの背後に現れた
そして結さんの着ていた制服をビリビリに裂き
霰もない下着姿にした
「正直こんな事はしたくない
けれど仕方ないんだ恥じらいのある女の子なら
これで戦意を喪失してしまう」
鋳鶴君の発言に結さんがプルプルと動く
下着姿にもかかわらず観客席の視線などをも知らないかのように
激しい剣幕で鋳鶴君を睨んだ
その目は明らかに獲物を狩りに来た目付き
もう彼女にはなんの言葉をかけても届かないのかもしらない
「魔王!鋳鶴から離れろっ!
私の!私の鋳鶴を返せッ!私の鋳鶴から離れろ!
触れるな!動かすな!魔王!鋳鶴から離れろ!
お前を殺して本当の鋳鶴を!私の鋳鶴を取り返すんだ!
私の私の大好きな鋳鶴っ!!!!!」
叫びながら結さんは鋳鶴君に斬りかかった
雄叫びを上げながら剣幕をいつも以上に酷くしながら
鋳鶴君に斬撃を浴びせる鋳鶴君は受け流す要領でそれを受け流す
「凄い豹変様だね
での仕方がない僕は魔王なのだから
今は最低限の望月鋳鶴を殺して戦いに専念している
だから魔王と呼ばれてもしょうがないんだ
君の弟じゃない魔王なんだ
本気で僕<魔王>を追い出したいのなら僕を殺さなきゃ」
結さんの剣撃を受け流しながら鋳鶴君はそう言った
結さんは剣撃の手を休めることはない
手甲と刀が擦れあい火花が散る
汗が滴り二人から吐息が漏れ始める
「結姉は本当に強いよ
本当に尊敬もしているだから負けたくない
僕も勝ちたい魔王の力を使ってでも」
「黙れ魔王!
私の鋳鶴から離れろと言っているのがわからんのか!
魔王!私がお前を殺して鋳鶴を取り戻してやる!」
結さんが刀を構え突撃を試みる
鋳鶴君もそれに合わせて構えをとる
そして結さんが一気に刀を振りぬく
その一連の動きに合わせ鋳鶴君は刀を身体をそらしてかわす
結さんは鋳鶴君の回避に合わせ剣方を発動させ鋳鶴君の退路を断とうと刀で切りつける
逆に鋳鶴君は退路を断たれまいと手甲で刀の斬りつけと斬撃を受けている
手甲は傷つく事無く清潔さと新品の光沢が現れている
「その手甲だけは素晴らしいな
魔王の手甲か実に素晴らしい絶対に破壊してやろう
芸術とははかないものなのだよ
だから砕かせろその手甲!」
結さんが叫びながら鋳鶴君の手甲目掛け刀を振りかぶる
鋳鶴君は刀での一撃を回避したかったがその回避方法がない
手甲の耐久力を信じ鋳鶴君は顔の前で手甲をクロスさせ
防御態勢をとる
「望月壱拾弐ノ剣方第伍式 五月!!!!!」
振り下ろされる刀、激しい一撃が生む斬撃
パキィン!!!!!
会場に鉄が割れた音が響く
それは無惨に空中を舞っている
真っ二つになった手甲が割れた時に起こす
大きくも美しい音だった