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優しい魔王の疲れる日々  作者: n
優しい魔王の疲れる日々6
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第58話:魔王と来栖明乃

「流石望月君ね

ここまで来ることも分かっていたし

本当に来れないんじゃないかって私は思っていたの

でもその考えは間違いだった

私の前に望月君が立っている以上私は戦わなくてはいけない

貴方と戦えることを誇りに思うだから手は抜かないわ

覚悟して」


「僕だってそれぐらいは覚悟しています

だって明乃さんの強さは本物ですから

結姉の前に立つためには貴方を倒すしかないし

それに明乃さん相手に僕は体力温存で手加減なども

僕の頭では計算してみましたがそんなの無理です

だから僕はほぼ全力で貴方を相手にするしか無いらしい」


鋳鶴君はそう言うと右手を振りかざし

明乃さんを見つめながら開いた右手を握り拳にした

ギュッと強く握られた右手から右手首にかけて

鋳鶴君の腕には蒼い炎が纏わされていた


「それが本当の望月君なのね?

安心したわあんな純粋な少年が結の弟君の筈ないもの

女の子慣れしていないチェリーボーイだと思っていたのに

残念だわ。

でも攻略するのが本当に楽しみなのよ」


明乃さんは杖を振り回しながら

その杖を鋳鶴君に突き付けた


「だって本当の望月君が

女の子をたぶらかす男の子と分かった途端

色々吹っ切れたわだったら私でもたぶらかせるかしら

私はどうたぶらかして口説くのかしら

その魅力的な唇とどんな女の子でも落とす貴方の力

私にも是非発揮してもらいたいわ♪」


「これが本当の僕ではありません

いつもの僕が本当の僕なんですよ

女性に弱くて親父以外の家族に頭が上がらず

頭が悪くて友達も多いと言えないただの女好きだよ

ただ二次元も三次元も愛すタイプの人間だけどね

隠してるだけさだってみんなには見られたくない僕もいるから

でもこの僕は偽物でも偽りでも演技でもない

これも僕だ

ただ恐ろしく冷静に今の出来事を見ているだけ

だから本心はドッキリしていますよ

だって明乃さんと結姉が残って居るんですから

最後まで気を抜けないし正直言って怖いさ

だけどこの胸の高鳴りは今までに2回とない高鳴りです

楽しみは最後にとっておきたいものですからね

と、僕は強がりを言ってみます」


「本当に望月君はおもしろい子ね

これから貴方と戦わなくてはいけないのに

戦意を喪失させるようなもの言いね

でもそこがまた望月君の言い所よ」


明乃さんは大きく深呼吸をし杖を振る

鋳鶴君は天高くから降り注ぐ落雷を全て法衣で防ぐ

いくつかの落雷が法衣に直撃するものの鋳鶴君には傷一つ付いていない

次に氷柱が地面から現れる今度は鋳鶴君はそれをまるでそこから

氷柱が出てくるのが分かるかのように鋳鶴君は氷柱を回避しながら

縦横無尽にスタジアムを駆け回る

魔王の力で何倍にも跳ね上がった筋力と魔力を駆使して

地ではなく壁に足を当て強く蹴り氷柱を回避する

明乃さんの氷柱と落雷は鋳鶴君に一度も当たる事は無かった

鋳鶴君は全て目で見て自分に直撃する寸前でそれをサイドステップで避けている

落雷を法衣で受け止めその衝撃に耐えながら氷柱を避ける

15歳の身体能力を魔王の力で上昇させ

壁を蹴り飛んで氷柱を避け落雷を法衣で防ぎながら避ける

その一連の動きの繰り返し

二人とも先ほどから一歩も譲らず

魔法が飛び魔王が跳ぶ


「明乃さんは本当に凄い・・・

油断したらやられそうだ・・・」


「そんな事ないわ

望月君も上手に私の攻撃を避けてくれているもの

それに私に魔法も遠距離攻撃もしようとしないし

やっぱり女の子や女性に暴力はふるいたくないのね

でもそんなんじゃ私には勝てない」


明乃さんは先ほどの杖を振る一連の動きにもう一つ動きを追加する

上から下にふり下げた後さらにその杖を右方向に降る

杖を上に振り上げると落雷、下に下げると氷柱が地から現れ

右に降れば火球が現れ火球が鋳鶴君目がけて飛んでいく

鋳鶴君は法衣を使って落雷を受け

氷柱を跳んで避ける

しかし火球は止められず鋳鶴君の体に直撃し

鋳鶴君は衝撃で吹き飛ばされ壁に激突した

壁は砕け鋳鶴君は痛みの起こる体の部位を二、三度さする

さすっている間に明乃さんは鋳鶴君に魔法の一撃を加える

落雷、氷柱、火球

落雷、氷柱、火球の繰り返し

鋳鶴君は最初の一撃をもろに受け立ち上がる事さえままならない

砂煙が舞い明乃さんは杖を振るのを止めた

さすがに魔王とはいえあの魔術の多撃を受けて立っていられる訳がない

もう座るのも寝るのも辛いほどしかしそれはもしも全てを受けきっていたらの話

明乃さんが杖を降ろし腰を下ろした


「やっぱりこの程度だったということね・・・

正直、望月君には期待していたの

貴方なら結を止めてくれる

今の結の暴走を貴方だけなら止められると

心からそう思っていた・・・

でもそれは本当に風前の灯火の様な希望だったようね

私は結を貴方から離そうと試行錯誤した

人間とは不思議なもの

自分の欲しいものには意欲的になり

自分の必要としないものには全くもって興味を示さない

でも私は彼女を何かに夢中にさせたかった

だって彼女に新たな目標が出来れば彼女はそちらに進む

望月君の事は忘れ正気に戻ってくれると思ったの

でも変わらなかった

結は何にも変わってないわ・・・

今も昔もずっと髪型も話し方も戦い方も

だからもう決めたわ

結は私が命を賭けて止める

私は死んでしまうのかもしれない

でも望月君、貴方には才能がある

魔力も戦闘能力も頭脳も

だから結の物になっちゃ駄目なのよ・・・


望月君、ありがとう


そして・・・さようなら」


そう言って明乃さんはその場から去ろうとした

鋳鶴君が倒れているであろう砂煙を背にして

砂煙から鋳鶴君は現れないそれどころか足音も息の音もしない

祈る保健室病院にいるみなさん

そして観覧席とテレビの前の拝見している人たち

スタンドにいる望月家の面々

何の音もしないまま静まりかえったスタジアムを

明乃さんが階段に近付く足音しか響いていない

しかし急に明乃さんの足音が聞こえなくなる

先ほどまで嫌というほど大きな音でなっていた

明乃さんの靴の音が響かなくなる


「勝手に僕は死にませんよ

やっぱり僕が止めるしかないようです

僕は死にませんそれに結姉のものにもなりません

絶対に勝ちますだから明乃さんはギブアップしてください

僕は・・・俺は勝たなくちゃいけないから」


そこには魔王の法衣を脱ぎ捨て明乃さんを抱き抱えながら

鋳鶴君が立っていた黒いタンクトップに逆立った銀髪の髪

そして細身の体に無駄なく付けられた筋肉

眼の色は赤に目は鋭くしかし優しさが篭もっている

見た目以外はいつもの鋳鶴君が明乃さんを抱き抱えていた


「抱き抱える無礼をお許し下さい

こんな公衆の面前で本当に恥ずべき事だと思ってる

でも結姉を止められるのは俺しかいない

それは変えようのない事実だからギブアップしてくれ

貴方には死んでほしくないし怪我さえしてほしくない

だからもう闘うな泣きたかったら泣いてくれ

俺の為に闘うぐらいならもっと大事な人間の為に闘ってくれ

大事な人の為に涙を流してくれ

来栖明乃は偉大な魔法使いだ・・・

虹野瀬や神宮寺と3人俺の使い魔にでもなってもらおうか

毎日炊事洗濯家事全般を3人にしてもらうそして俺の配下になってもらおう

だって俺は魔王だから」


鋳鶴君はニコッと微笑んで明乃さんに問いかけた

明乃さんは急いで鋳鶴君の腕の中から抜け出し地に足を着ける


「口癖や一人称も変わるのね

でもそれくらい変わってくれないと困るわ

だって結を倒したいのならそれぐらいの根気と強気が無ければ

到底無理だった・・・

けれど今の望月君になら結の事は任せられそう

私は貴方の為に最後にここでしなくてはならない事がある」


そう言うと明乃さんは詠唱を始めた

明乃さんの足元、そして周囲に膨大な魔法陣が生成される

鋳鶴君は明乃さんの詠唱が終わるのを悠々と待っている


「望月君

人の為に泣け、人の為に闘え

貴方のお説教には飽き飽きしてきたところ

でも私も魔王科、普通科の人間に馬鹿にされている訳にはいかないのよねぇ

だから今此処で貴方に今の私が使える最大級の魔法陣の魔法でとどめを刺す

表面上ではが誰かの為に闘っている

それでいいのよ!私は魔法科高等部3年来栖明乃

結の事を最も心配してもっとも大事に思っている一番の人間」


明乃さんは魔法陣を書き終えると鋳鶴君に杖の先端を突き付けた

銀髪の魔王、最愛の人間の弟、普通科中等部3年、望月鋳鶴

そんな魔王は真剣な眼差しで明乃さんを見ている


「それをモロにいただいたら流石に痛そうだ

だから僕はそれを全力で受けないように努めよう

本当に明乃は我が侭だ体だけじゃなく性格も表情も

でもそういう筋の通った人間や強気な女性は

俺は大好きだよ」


「そうそれは良かった

だったら私はこの魔法を全力で全開で貴方を倒す事が出来る

確実にここで貴方を倒すわ結の所へ行けぬまま

ここで氷り漬けになって永遠に結の為の望月鋳鶴として生きるの

そのまま冷凍保存をしたお人形になればいいの

今、ここにある魔法陣は全て氷魔法の魔法陣

氷柱の小さな魔法陣を時間をかけて大きく造った魔法陣

望月君を冷凍保存する為の最高の氷魔法」


「そうですか

それは本当に恐ろしい魔法陣だ

本当に怖くて恐ろし・・・・・・・・・・・・・」


鋳鶴君が話し終えようとする前に

明乃さんが魔法陣を発動し鋳鶴君を氷り漬けにした

明乃さんは怪しい笑みを浮かべた


「この魔法は「絶対零度」と言ってね

初めて使う魔法陣の形態なのよ

氷魔法で囲んでそこを一斉冷凍して氷り漬けにする

二度と動かないそのままの体を保存する事が出来るのよ

だからそうしてずっと氷の中で何もかも忘れて一生を過ごしなさい

それが望月君の人生なのだから

私に負けてずっと結の近くで居続けるそれがこれからの人生」


明乃さんがそう言って魔法陣を解除すると氷り漬けにされた鋳鶴

ゆりさんは目に涙を浮かべ斬彦さんにしがみ付いている

それを見て斬彦さんは唇を噛みグッと我慢している


「兄ちゃん・・・・!」


「ゆり嬢!氷にひびが!」


斬彦さんが指を指した先

そこにはひしひしと音をたてて氷にヒビが入っていた

そして氷の塔は即座に崩れ落ちた

大きな音をたててオブジェは崩れ落ちる

大観衆の前で

気がつけば天気は良好、日が燦々と照っていた

氷の粒が日光に反射されてキラキラと地に輝きを振りまく

そしてそのオブジェの下には魔王が再び明乃さんを抱っこしていました

それも明乃さんの服はビリビリになって動いてしまったら見えてはいけない

ものまで見えてしまいそうなぐらい服がビリビリに破けています


「どうやら・・・私の負け・・・なのかしら?」


「そうみたいですね

それともまだ僕と戦いますか?」


明乃さんは優しい鋳鶴君の眼差しに肩を落とした


「私の負け・・・

そうね・・・止める事は出来なかったのね・・・」


「違います

明乃さんは僕を成長させてくれました

明乃さんのおかげで結姉と闘う決心がついたし

魔法の避け方も教えて貰いました

おかげで法衣は若干ボロボロですけど

明日になればどのみち直ります

この法衣は明乃さんが持っていてください」


そう言って鋳鶴君は明乃さんに法衣を着せた

「魔」と刺繍された銀色の法衣を

明乃さんは一瞬、鋳鶴君に見とれると

法衣を握りしめた


「本当に・・・その歳で罪な男ね・・・」


「よく言われます」


「そうなのかしらね

さっきまでチェリーボーイみたいな面持ちだったのに

いきなりこんなイケメンになっちゃうなんて・・・

でも私・・・普通の望月君にもちゃんと一目置いているから

それにこんな事されるのも今だけ

結を治してくれなきゃまたしちゃうわよ?」


「結姉は絶対に治してきますよ

その為にわざわざ闘っている様なものですからね

僕は負けません

たくさん約束してますから

では行ってきます」


鋳鶴君がそう言うと

綺麗な光が明乃さんを包む

明乃さんは鋳鶴君の背中に何かを見据えながら手を振った

そしてそこから杖も跡形もなく消え去り保健室病院に転送された





ーーーースタジアム玄関ーーーー





「明乃も負けてしまったようだな・・・

しかしまだ私がいるぞ鋳鶴よ・・・

わかっているさ・・・お前は強くなった

しかし私はもっと強くなった

より強靱に膨大に私は強くなった

お前を守る為にお前を良き道へ導く為に

その為には鋳鶴・・・お前には私に敗北して貰わねばならない」


結さんが左手を挙げると結さんの頭上あたりから魔法陣が現れた

魔法陣から青装束の袴と銀色の光沢を放つ刀が現れた

結さんはそれらを纏うと銀色の光沢と放つ刀を手に取った

刃こぼれ一つ無い濡れているのかと思うほどの光沢を放つ刀

鞘は結さんの腰に携えられ鞘でさえも光沢を放っている

結さんは両手で刀を持ちその刀を頭上にまで振り上げた

そして・・・・・・


「望月壱拾弐ノ剣方 第玖式 長月」


刀を一気に振り下ろす

刀からまるで衝撃はでも起こったかのようにスタジアムに亀裂を入れる

みりみるうちに亀裂は広がり膨大なスタジアムを倒壊させる

刀の一閃はスタジアムの壁を切り裂き大地に切れ溝を造った

結さんはにやっと笑いながら刀で手応えを感じたのか刀の先の方向を見つめた

そこには刀をぎりぎりで受け止めた鋳鶴君が結さんをまっすぐ見つめて立っていた

揺るぎない視線、滾る蒼い炎、


「鋳鶴、久し振りだな」


「昨日か一昨日に会ったじゃないか

最悪の面会だったけど」


「なんのなんのあれは鋳鶴が悪い

私は何も悪くない」


「そういえば僕と結姉以外はもう誰もここら周辺にはいないんだよね」


「そうだが?」


結さんが鋳鶴君が何が言いたかったか

まるで分かったかの様に鋳鶴君に応答する


「そっか

だったら全力を出して僕は結姉を倒せるって訳だ」


「そうだな

だったら私も全力を尽くして鋳鶴を私のものにしよう

それでいい」


鋳鶴君は拳を握って結さんに突き付けた


「僕は結姉の思い通りになんかならないし

人形になるつもりもない

僕は普通科でこれからも普通の生活をするんだ

ただ家族や友達がおかしな楽しい学園生活をね」


鋳鶴君のセリフで結さんはホッと息をつく


「そうか

それは良かった

残念だがその生活は遅れそうにない」


結さんは眼にも止まらぬ速さで鋳鶴君に接近した

鋳鶴君もやっと結さんが懐に入って着たのに気づく

しかし遅かった

結さんの刀は鋳鶴君の腹部を捕らえ切り裂いていた

鋳鶴君の腹部から地が吹き出てあたりに散らばる


「望月壱拾弐ノ剣方 第壱拾弐式 師走 第壱式 睦月」


結さんの剣撃が炸裂した時にはもう遅かった

観客が眼を閉じ耳を塞いだ

結さんは自分のほおに付着した鋳鶴君の血を舌で舐め取ると

これまで以上に無い恍惚の笑みを浮かべた




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