第54話:魔王と普通科の思い
ついに歩さんが剣を取った
そして第2ラウンドの幕が切って落とされる
はたして鋳鶴君は・・・
「もうあなた達本当に無理するわね
保健室病院でももしかしたら一週間で治せないかもしれないかもよ?」
陽明学園が誇る最年少の医者、
高橋凜さんが城屋さんの体に包帯を巻いていました
城屋さんの隣のベットにはミンさんが包帯グルグル巻きままスクリーンを見ています
荒神さんは城屋さんの向かい側のベットで胡座をかきながら月刊番長とかいう雑誌を読んでいます
正直何処に売っているのか聞きたいぐらいです
「それでも勝ちたかったんだよ・・・
でも俺なんて歯がたたなかったぜ・・・
あんな大口叩いておいて俺は負けた
完璧にしてやられたよ」
城屋さんのいつもの活発な表情はそこには無かった
「そんな事ないよ
城屋はライアと良い勝負してたよ
ライアが拳銃使うのは卑怯だと思ってた
丸腰相手に武器使うの私も嫌だから」
ミンさんが城屋さんのカバーに入るが全くもって城屋さんは安堵の表情を浮かべない
荒神さんはその間も城屋さんの向かい側のベットで月刊番長に読み耽っていた
ミンさんがすかさず月刊番長に夢中の荒神さんに
城屋さんを励ました方がいいと声をかけますが荒神さんは首を横に振りました
「城屋さんは他人に励まされてニパァってなる男じゃないしな~
それにまぁ仕方ないんじゃねぇか?男には色々あるし仕方が無い
私たちはみんな望月を救いたいと思ってる
その気持ちがあるから城屋さんはあんなに落ち込んでるし
俺だってミンと互角に渡り合えたんだぜ?」
そう言って荒神さんはニコッと微笑んでミンさんに言います
ミンさんは少々納得した模様で再びスクリーンに視線を向けました
「でもよミン・・・
俺達は本気で
望月を返してもらいたくて戦ってる
お前の所の馬鹿会長さんから鋳鶴を返して貰うために
だから・・・城屋さんも俺もこんな傷だらけになって戦った
望月の為にな、そして第2に普通科の為に俺たちは戦ってる
科の事よりも友達優先なんて馬鹿だよなぁ」
「そんな事ないよ!
麗花はちゃんとやってるよ!
私を倒したし望月もきっと感謝してくれると思うよ!
でも会長を倒さない限り望月君は返ってこないよ
私をたとえ100人1000人倒してもあの人を倒さない限りね
あの人は本当に強いよ
私なんてあの人に触れる事すら許されなかったから
多分もう居ないよ・・・この学園の生徒には・・・
あの人は将軍は誰よりも強いよ・・・」
ミンさんは知っていた
一度だけ会長、結さんと彼女は模擬戦をした事がある
そして完膚無きまでに叩きのめされたのである
あれほどの格闘術を持つ人間から格闘術で
剣を、刀を使わずその己の腕と足だけで
それだけでミンさんを封じ込めた彼女は強い事を
誰よりも知っている魔王科の生徒だからこそ言える事
荒神さんはそんな結さんに恐れを持ちながら考えていた
今の結さんは正直の所、ご立腹&狂乱状態
そんな結さんを見て荒神さんは思った
それにミンさんの話を聞いて決定的な何かが生まれた
「駄目だ・・・
今の結さんに勝てる奴が普通科にも9人の中にもいないぞ・・・」
「諦めないんじゃあかったの?
私と互角戦った麗花らしくない」
「本当にいないんだよ!
城屋さんも会長もやられちまった・・・
もうこっちには望月が来てくれるのを待つしかないんだ・・・
だから今、スタジアムにいる連中に出来る事は・・・
時間を稼ぐ事だけなんだ・・・
勝てる訳ねぇ・・・絶望的だ・・・」
落ち込む荒神さんを見てミンさんの表情が険しくなる
「麗花そんなの僅かな希望にすぎないよ
祈っていても希望は叶わないし願いは叶わない
麗花は私と戦って時一度も諦めなかった
私が魔王科の代表として出ていてもまったく物怖じせず
私の前に立ち塞がってくれた!違うか!?」
ミンさんの激励で荒神さんの表情に少なからず笑顔が戻る
そんな二人の前に我等が駄眼鏡、
傷だらけになり松葉杖をついた風間会長が現れた
右腕と左足には包帯が巻き付けられていてとても元気には見えないが
彼の表情だけはいつも通り何を考えているか分からない
不思議な笑みをしていた
「それはそうだね?
だから僕は計略を用意したんだよね?
僕がやられてしまうことも想定内だし?
今日、唯一想定外の事態が起きたでもその事態は僕等にとっては
とってもとっても良い事態なんだよね?
それは荒神君がミン君と引き分けになったことだね?
さすがに疲労している城やんには正直期待はなかったんだよね?
でも城やんはライア君の左目の眼帯を取って僕等に能力をみせてくれたよね?
それだけで充分だったんだよね?寧ろ充分すぎるくらいね?
そしてもうすぐ僕の企画した計略が発動される筈だよ?
勿論、手はず通りいっていればね?」
椅子に腰掛けゆっくりと計略の事と荒神さんと城屋さんがしてくれた事を
褒める風間さん、正直城屋さんは顔を隠していますが救われている筈です
「計略?
そんなのあれしかないんじゃないのか?
歩の会長の証だけどあれじゃないのか?」
「それは第一計略だよ?
僕の本命は第二計略なんだよね?
本命はそっちなんだよね?
ただ・・・その計略が実行されるそしてその計略の終了まで
残りのみんなにはスタジアムで誰か1人でも残さないと駄目なんだ?
だから・・・今、一番頑張らなきゃいけないのはスタジアムのみんななんだよね?
正直ここからじゃ僕の能力は届かないし?
体力が無いからこちら側は何の手助けも出来ないんだよね?
本当に今は・・・祈るしかないんだよね・・・?
彼らが計略が成るまで・・・あそこに1人でもいてくれる事を」
風間さんは自分がそこに居ない事を悔やむかの様に
細い腕で拳を握りしめた
「鋳鶴は絶対に来てくれる
だってあいつは女の子の為のピンチをかには絶対かけつけるからね
それよりもあんた達!怪我人だから寝ててってさっきから言ってるでしょ!?
さっさと寝てさっさと治す!
それも鋳鶴の為になるんだからね!」
その風間さんの言葉に割って入るように凜さんが喝を入れた
ーーーースタジアム2階ーーーー
「君が土村影太君ね
望月君の親友の1人そして結が嫌いな子の1人」
「女に嫌われる事は良くある・・・
俺は影だからな・・・仕方の無い事だ・・・
正直もうダメージが尋常じゃない・・・
だが今日ぐらいは鼻血や吐血程度なら余裕で我慢出来る・・・
親友の為だから・・・」
エロフェッショナルはそう言うと小刀を持った
その動きを見て明乃さんも武器を構える
「どうしてあなた達はこんなにも無謀な事をするのかしら
望月君がそんなに好き?」
「愚問だ・・・
あいつの代わりはいないし・・・
あいつ以上にお人好しで異性に頭の上がらない奴はいない・・・
鋳鶴がいないと・・・普通科の中身が冷たくなる・・・
鋳鶴がいてこその普通科になっている様だがそれも違う・・・
異質な人間を入れると周りの人間はそれを不思議がる・・・
鋳鶴は不思議だ・・・あんな人間見たことがない・・・
今までの人生で一度も・・・あんなに良い奴は・・・
この世にはいないっ・・・・・・!」
エロフェッショナルが宙に浮いている明乃さんを一閃する
壁を思い切り蹴り速度を増し明乃さんの体では無く服のみを切り刻んでいく
いつもなら明乃さんの様なプロポーションな女性を見ただけで鼻血が出てしまう
しかしエロフェッショナルが今日は違った
集中力が途切れず手元が狂う事も無い
その為今、エロフェッショナルの手元には
小刀と一眼レフカメラが持たされていた
シャッターをきりながら小刀で明乃さんの服を際どく丁寧に切り刻んでいく
「あらいつの間にでも仕方ないわね
望月君のいないあなた達なんて民間人と同じくらいの強さだものね
そんなあなた達に負けたくないもの
それに私も望月君が欲しいし
彼は魔王科に来るべきよ
寧ろ来てと言いたいぐらいに彼は才能を持っている
あなた達と違って普通で何も無いあなた達とは違って彼は素晴らしい
素材も男としての素材も彼はまさに原石
磨けば磨くほど綺麗になっていくわ
だから望月君は諦めてほしいの彼の為に彼のこれからの為に
あなた達にはここで死んでもらうか望月君に会えないようにしてあげたいのよ
だから倒れて頂戴そしてもう望月君に会わないで頂戴」
エロフェッショナルは力強く小刀を握った
そして壁を蹴って明乃さんに次の一撃を繰り出そうと明乃さんに近付いた
まさにその時、エロフェッショナルが明乃さんを小刀で切り裂こうとしたその時
3階から銃撃そしてその銃撃で放たれた銃弾がエロフェッショナルの左太腿に直撃し悲鳴を上げる
空中で太腿を抑え地面に落下するエロフェッショナル、額には脂汗がにじみ出ていた
3階にふと目をやる明乃さん、そこには銃口にフッと息を吹きかけるライアさんがいた
ライアさんは右肩にはボロボロになった赤神君と鈴村さんが抱えられていた
二人とも手足を力なく下げていて起きている様子は伺えなかった
「何するのよ
駄目でしょライア」
「そのままでは確実にその男は死んでいた
お前の魔法を受けて立った一般人などいない
確実に殺せるお前の魔法だからな正直の所
私はこいつらを殺してそして望月鋳鶴お殺してやりたい
だが将軍の命令だ望月鋳鶴を捕縛そしてこいつ等を完膚無きまでに叩きのめさねばならない
どんなに非道で卑怯と言われようと戦争に卑怯も非道も無いからな
シャルアももうすぐ終わった筈だろう
3階で三河歩にトドメを刺す所を見て欲しいと
自分の目的の物が手に入るのを私たちに見せたいそうだ
壊れた望月鋳鶴だ」
ライアさんは満足げに不満げにテンションを盛り上げたり
盛り下げたりしてそう言った
明乃さんは空中に浮いたまま地面で悶え苦しんでいるエロフェッショナルを見つめた
その眼差しはまるで哀れ見るような眼差しだった
冷たくも暖かくもなく哀れ見る人間を見る眼差しで
「なんであなた達はそんなに望月君に執着するのかしらね・・・
一緒に居て今、結の眼中に入ってこんなにボロボロになって
血を流して傷を作って、どうしてそこまで彼にしてあげる事が出来るの?
不思議を通り越して奇妙の勢いよ・・・
あなた達はもうこの戦いで負ける事は分かっているのに・・・」
明乃さんはそう言うと杖を振り上げた
「負ける事は・・・充分分かっている・・・
俺は・・・ただ友達を・・・救いたいだけだ・・・
普通科の優勝とか・・・勝利とか・・・
俺には・・・関係無いっ・・・!
此処にいた8人は・・・全員同じ目標をたてた・・・
勝利じゃなくて・・・
望月鋳鶴を救う事・・・!
それだけが・・・俺たちの目的・・・!
普通科の・・・本当の勝利・・・!」
普段は口数の少ないエロフェッショナルが叫び声を上げます
それは大切な友人の為に上げた心からの叫び
明乃さんは振り上げた杖を降ろそうと力を振り絞り力強く杖を振る
雷撃が雲の中から現れるその音と共に・・・
ドゴォォォォォン!
爆発音が鳴り響く
明乃さんは杖を降るのを途中で止め
爆発音の方角を見た
魔王科の校舎から火の手が上がっている
誰がやったのかは分からない
しかし魔王科に裏切り者は現れる筈がない
それに鋳鶴君は動けない様に縛りつけた筈
明乃さんは考えさせられたそして教員も観客席の人間も
誰がじゃなくてなぜ魔王科の校舎から火の手が上がっている事に
「これが・・・計略・・・」
エロフェッショナルはそう呟いて倒れた
するとエロフェッショナルを魔法陣が包む
ライアさんに担がれていた赤神君も鈴村さんも
そしてその場から消え保健室病院に転送された
明乃さんとライアさんは武器をしまうと3階の結さんの元へ行くため
階段を上り始めた
ーーーースタジアム2階南方向ーーーー
「やっと始まりましたか・・・」
雛罌粟さんが大きく息を吐く
「どう言うこと・・・?
魔王科の校舎が燃えてる!」
「じきに消火されます
それよりも目先の相手に攻撃を加えなくていいんですか?
私はあなた方の敵ですそれに私たちにはあと二人しかいません
私と三河さんを倒せばあなた方の勝利ですよ?
それに私は異能というものも無ければ戦闘技術もありません
そうあなた達はもう勝利できるんです」
シャル君に勝利出来ると言うことを教える雛罌粟さん
しかしシャル君は手に持っている銃を雛罌粟さんに向けようとしません
「将軍のしている事は正しいんですか・・・?」
シャル君は小声でそう雛罌粟さんに呟いた
極度に聴き取りにくい声量でしかし雛罌粟さんの地獄耳はその小さな声を捉えます
「それは人それぞれでしょう
人にはそれぞれ色んな正義があります
歪んでいる正義があればくだらない正義もあります
でもこれだけは言えます
貴方が好きな異性はそれを否定すると思いますよ?
否定・・・というよりも中立ですね
彼はそれだけ優柔不断で情けない男という事です
彼なら正しいけど間違っているとか
正解だけれど不正解とか言いそうです
だってあなた達の将軍が欲しがっている人物はそういう男ですから
そして私たちがあなた方から返して欲しい男もそういう男です」
ずれた眼鏡の位置を戻しながら
雛罌粟さんは堂々と無い胸を張ってそう言った
誰にでも聞こえる声で観客席に届く声量で
「だから私はギブアップします」
「えぇっ!?」
シャル君が驚きの声をあげる
三河さんが危ないのなら尚更もう1人居ないときついこの状況
観客席にいる普通科の生徒さん達もざわめきを隠しきれません
「なっ!なんで!?
鋳鶴は来ないのかもしれないんだよ!?
それに三河さんはあの状態勝てる筈も引き分けにも持ち込めない!」
「いいえ
彼は来ますよ
だって彼は魔王ですから
そんな彼の前に遮る者も物もありません
ここに私がいたら彼の邪魔になってしまいますからね
それに私も地味に怪我を負ってますし走るのも辛いぐらいです
だから辞退しますそれでは」
そう言うと雛罌粟さんを魔法陣が包んだ
シャル君は驚きを隠せない様子で結さんの居る3階に向かった
普通科
雛罌粟涼子 辞退
普通科残り 1人
普通科枠空き 1人