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浩二、鉱山に落ちる ――「推しのいない世界で、俺は……どうすれば?」

1.二度あることは


 鉄鉱山の朝は灰色だった。


 粉塵の匂いと金属音が響くなか、ハルトは今日の作業準備を終え、

 ミツキと簡単な打ち合わせをしていた。


 新型のステアリング付きトロッコの導入から、

 この鉱山には少しだけ“明るい息吹”が宿り始めていた。


 そんなときだった。


「――罪人馬車が来たぞー!」


 入口の見張り台から声が響く。

(またか……)


 ハルトとミツキは顔を見合わせ、

 ディランも表情をわずかにしかめた。


 ガラガラと、罪人運搬専用の粗末な馬車が近づいてくる。


 荷台の扉は歪んでおり、

 中で揺れに翻弄されていた者が今にも倒れそうだった。


 馬車が止まり、兵が扉を開ける。


「ほら、降りろ」


「……っ……ここは……どこだ……?」


 ゆっくり降りてきたのは、

 細身で寝不足そうな青年――橘浩二。


 ボロ布のような服、

 足取りはふらふら、

 ただ――

「ここに……推しはいるのか……?

 いない……よな……?」


 目の前に広がる荒涼とした光景を見て、

 完全に絶望していた。



2.管理者ルークス登場


 そこへ、肩に鎧を引っかけ、

 疲れきった中年軍人が歩いてくる。


 この鉱山護衛隊長兼管理者のルークス・ハーヴェイである

「……また妙な奴が来たな」


 ルークスは浩二を上から下まで見た。

「おい、お前。

 何をやらかした?」


「えっ……? い、いや……何も……

 気づいたら変な儀式場にいて……

 気づいたらこの馬車で……

 ここに……」


「意味がわからん」

 ルークスはため息をついた。


「最近こういうのが多いな……

 鉄鉱山にだけ妙な奴が送られてくる。

ウチは便利屋じゃないんだぞ……!

 誰でも押し込めばなんとかなると思いやがって……!」


 そしてルークスは決め台詞のように言った。

「――ディランを呼べ」

 

 ディランが歩いてくると、

 ルークスはやや申し訳なさそうな顔になった。

「ディラン……悪いが、こいつも頼む」


「……またか」


「お前たちのおかげで鉱山が回ってるのは事実だ。

 だからこそ、この変なのも……うまく扱ってくれ」


 完全に“丸投げ”である。

 ハルトとミツキも駆けつけた。

「ディランさん、新しい人……ですか?」

「いや、新しい“問題”だ」


 コージは慌てて二人に寄ってくる。

「に、日本人!?

 あ、あなたたち日本人ですよね!?

 もしかしてここに推しは……!?」


「いるわけないだろ!」


 ハルトの鋭いツッコミが炸裂した。

 


3. 三人の微妙すぎる初対面

「えっと……浩二さんでいいんですか?」

 ミツキが恐る恐る聞く。


「は、はい……橘浩二……です……

 呼ぶなら……コージで……」


「わたしとハルトさんは……まあ、いろいろあってここに……」


「俺も……気づいたらここだった……

 えっと……この世界、アイドル文化ないですよね……?」


「あるわけないだろ!!」


 ハルトがもう一度叫んだ。


 しかしディランがまとめる。

「ハルト、ミツキ。

 こいつは……何かできそうか?」


 二人は沈黙した。


 コージが胸を張って言う。

「ぼ、僕ができること……えっと……

 推しを応援する……

 リズムに合わせて声を出す……

 盛り上げる……

 ライブの空気を整える……

 あ、あとペンライト振る……」


「全部この世界では無意味だよ!!」


「うわぁぁぁぁぁ!!」

 泣き崩れるコージ。


 ルークスは呆れ顔で言う。

「……ディラン。お前、本当に大変だな」


「言うな」

 


4. コージ、一日目は地獄

 その日の午後、

 コージは簡単な作業から試された。


・石の仕分け → 色の違いが分からない

・道具運び → 道具名を覚えられない

・トロッコ押し → 声だけ出てるのに体がついてこない

・ロープ結び → “推しのライブの手首の動き”で意味不明な結び方になる

・時間管理 → 歌のリズムで数えようとして失敗


 夕方には――

「ぎゃああああ!!?」

「ひっ……! ちょ、ちょっと待ってぇ!!?」

「な、なんで石の山って動くんですかぁ!?」


(動かないよ!!!)

 ハルトとミツキの心の中の総ツッコミが響き渡る。


 ディランは静かに言った。

「……さすがに、今日は無理だ。

 こいつは……明日もう一度、何か適性を探すしかない」


 ルークスは深いため息をつきながら言った。

「ここまで使えない奴は久しぶりだ……

 だがまぁ、お前らのおかげで少しばかり余裕もある。

 なんとか……頼む」


 こうして、コージの鉱山一日目は

心も体もボロボロで終わる地獄となった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

だだ――

この男が後に“革命の士気の心臓”となることを、

この時、誰ひとり想像していなかった。


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