過去:美月召喚 ――「デザインと創作に夢中だっただけなのに」
1.早川美月
早川美月は――
恋愛経験ゼロ、交友関係も最小限、
とにかく絵とデザインが好きで、
大学生活のほぼすべてをそこに注いでいた。
美大では、課題に追われる毎日。
ロゴデザイン、図案構成、三面図、配色理論、キャラデザ、背景画。
頭の中はいつも“描くこと”でいっぱいで、
気がつけば周りは恋愛話、彼氏だの彼女だのと賑やかだったが――
(……関係ないな……)
美月の興味はただひとつ、
「良い線を引く」
「見やすくて合理的な形にする」
――その快感だけだった。
休日もオタクイベントでスケッチを描き、
好きな絵師の画集を食い入るように眺める。
(恋愛とか、どうでもいい。
いい線が引ければそれで……)
そんな平凡でオタクな日常だった。
――昨日までは。
2. 王宮地下で、意味不明の召喚
「――ッぁ!?」
視界が白く跳び、
次の瞬間には巨大な魔法陣の中央に立っていた。
石造りの広間、ぐるりと取り囲むローブの老人たち。
その中心で、美月はただ呆然と目を見開いた。
「い、生きている……!」
「魔法陣は維持できたな」
「今回も罪人の対価で……なんとか成功したか……」
(対価って……何……?
罪人って……?)
美月の震える視界に、古式ゆかしい服を着た人影が歩み寄った。
「鑑定を行え」
「はっ。《鑑定》――!」
魔術師が手をかざし、光が美月を照らす。
そして、現れた文字列を見た瞬間――
その場全員が固まった。
「……絵師……?」
「なんだそれは?」
「技能か? 戦場に必要なのか?」
美月はただ震える。
「え、えと……わたし……デザイン専攻で……
美大の学生で……」
「びだい……?」
「学生……?」
「意味がわからん!」
王は不機嫌そうに聞いた。
「戦争中だと言うのに、なぜ絵を描く者が出てくる?
余裕があると思っているのか?」
「い、いや、そんな……!」
魔術師が慌てて説明する。
「陛下……そもそも、召喚は完全に制御できぬ術でして……」
美月は震えた。
(召喚?異世界?!?)
王は吐き捨てるように言った。
「前回は重罪人を対価にしたと言ったな」
「はっ……もう少し価値ある存在として軽罪人を使いましたが……」
「それでもこれか
罪人のような対価では……呼べる者も弱いということだ」
(…………っ)
美月は全身が冷たくなる。
(わたし……ただの大学生なのに……
罪人の代わりに……?
そんなの……そんなの……)
3. 「絵師」扱いで、即・不要認定
王は鑑定結果を見て、深く眉をひそめた。
「“絵師”。
戦争中に絵など描く余裕はない」
「で、ですが、説明書を描いたり、――」
「説明書?なんだそれは」
「道具の使い方を絵で説明するんです」
「道具の使い方なんて、見てれば誰でもわかる……」
「その通り、絵のようなもの戦時中に無意味」
王は静かに言い放った。
「前の者は生きているのだったな?
あれがおるのなら、少しくらいはプラスになるかもしれん。
絵師とやらも、使えぬ者同士なかよくやればよい」
(プラス……?
私……使えない者同士……?)
美月の顔から血の気が引いていく。
「連れて行け。鉱山送りだ」
「りょ、了解……!」
「ま、待ってください! わたし、まだ――」
抗議の声は遮られ、
兵士たちに腕を掴まれた。
何が起きているのか理解できないまま、
美月は馬車に押し込まれ、
王宮は遠ざかっていった。
4. そして――鉱山へ
ガタガタという車輪の振動だけが、
美月の頭を容赦なく揺さぶった。
(絵師……
戦争中にそんな役立たずはいらない……
鉱山に送ればいい……)
(わたし……
そんな……存在……?)
外の景色は崖ばかりで、
どこにも逃げ場はない。
そして馬車が止まり、
扉が開く。
荒れ果てた鉱山の入口。
硫黄と土の臭い。
そして、絶望的な岩山。
「降りろ」
押し出され、美月は崖道に膝をついた。
その瞬間――
涙が溢れた。
「……やだ……
帰りたい……
こんなの……無理……」
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その泣き声も今は昔、
「ミツキ、ハルトの説明何とかしてくれ---------」
「ミツキ、こっちでみんな困ってる。
新型ステアリング付きトロッコ、一緒に考えて!」
「こっちの道具の説明書書き終えたらね!」
ハルトの技術が使える形になり、鉱山が変わり始める。




