ミツキ・鉱山に受け入れられるまで ――「図で命を救う娘。信頼は積み重ねの先に」
1.不安の夜
鉱山に来て数日、ミツキは毎晩同じ夢を見た。
召喚の光、王宮の地下、意味不明な鑑定、
そして――いきなり押し込まれた荷馬車。
その恐怖の記憶は、寝所の雑魚寝の空気をさらに重くした。
じめじめした空気、汗と土の匂い、粗末な布団。
まわりに転がるのは大柄な男たちだけで、
当然、女性用の区画など存在しない。
ミツキは眠れず、布団を握りしめて丸くなっていた。
(……ここで……本当に……生きていけるの……?)
そんな彼女に優しいのは、ディランとハルトだけだった。
初日は、二人が露骨に“盾”のようにミツキを囲って寝所へ連れていった。
あれを見て、周囲の荒くれ男たちは露骨に嫌そうな顔をしていた。
「女なんざ連れてきてどうすんだよ」
「邪魔だろ。どうせ泣く」
「守られてるだけのヤツなんか働けねぇぞ」
ミツキは恥ずかしさと恐怖で胸が詰まった。
それでも、逃げ道はない。
翌日からの生活が、ミツキの真価を少しずつ明らかにしていった。
2. 二日目:とにかく何もできない日
力仕事は無理として、
まずは道具の片付けや飲み水の汲み上げなどの軽作業を任された。
だが――。
「そっちじゃねぇ。置き方逆だ」
「紐の巻き方はこうだ、違う!」
「危ねぇ、そこ通るな! 落石あるぞ!」
どれもこれも初めてのことで、
怒鳴られ、怯え、必死に謝りながら作業した。
(……わたし、やっぱり……何もできない……)
その日の夜も、ミツキは雑魚寝の端に丸くなり、
泣くまいと布団をかぶった。
3. 三日目:図の第一歩
道具置き場の整理の最中、ひとりの坑夫がぼそりと言った。
「……お嬢ちゃん、ちょっとこれ描いてみてくれよ」
差し出されたのはツルハシだった。
「刃を入れちゃいけねぇ岩の色とか、角度ってあるんだがよ……
言葉で言われても覚えられなくてな」
ミツキは少し戸惑いながら木板を取り出し、
ツルハシの断面と岩の層を図で描いた。
矢印、角度、×印。
言葉はいらない。ただ見れば分かる。
男たちは固まった。
「……おい……」
「これ……わかりやすいぞ……!」
「角度も力の向きも一発でわかるじゃねぇか!」
ミツキは思わず身を縮めて言った。
「えっと……読めます……か……?」
「読める読めねぇじゃねぇ!
見て分かるんだよこれ!!」
その一言は、ミツキの胸を貫いた。
(……わたし……できた……?)
その夜、泣いたのは恐怖ではなく、
ほんの少しの安堵だった。
4. 四日目:図が仕事を変え始める
翌日、別の古参坑夫が声をかけてきた。
「お嬢ちゃん、これも描いてくれ。滑車だ。
知らん奴に説明するの面倒くせぇんだよ」
ミツキは滑車とロープを慎重に観察し、描き始めた。
まずは紐を通す順番、次に滑車の動く方向、さらに危険な角度
すると――
「これ……すげぇぞ……!」
「新人でもこれ見たらわかるじゃねぇか!」
「今までの事故、かなり減るぞこれ!」
その目にはもう、軽蔑も猜疑もなかった。
ミツキは、胸がじんわり熱くなるのを感じた。
(……わたし、少しは役に立ててる……?)
5. 五日目:命を救った図
この日が、ミツキの転機だった。
中堅の坑夫が青ざめた顔で酒場に飛び込んできた。
「ミツキ!!
昨日描いてくれた危険地層の図……あれ、見て助かった!」
「え……?」
「崩落前の岩の色、そのまんまだった……!
図を思い出して足止めしてな……そしたら“ドンッ”と崩れたんだ……!」
まわりの男たちも一斉に集まる。
「お嬢ちゃん、あの図……命の恩人だ」
「お前の描いた絵がなかったら、あいつ潰されてたぞ」
「ありがとな……」
ミツキは言葉が出なかった。
震える声で、ようやく言った。
「わ、わたし……
誰かの……命を……救えたんですか……?」
「ああ。間違いなくな。」
その瞬間、荒くれ者たちの態度は決定的に変わった。
6. 「仮囲いを作ってやろうぜ」
その日の夜。
寝所で数人の坑夫がぼそぼそと話していた。
「なぁ……あの子、もう雑魚寝させるの可哀想だろ」
「命救われたんだしよ……」
「誰か覗くバカがいたら許さねぇしな」
「仮囲い作ってやろうぜ」
その流れは自然で、誰も異を唱えなかった。
ディランが静かに言う。
「……ああ。作れ。
あの子はもう鉱山の仲間だ」
数人が走り出し、廃材の板と縄を引っ張りだす。
手際よく組み上げられ、
寝所の奥に小さな囲いが出来上がった。
「お嬢ちゃん、ここ使えよ」
「誰も入れねぇようにするからよ」
「安心して寝てくれ」
ミツキは目を潤ませながら、何度も頭を下げた。
「……ありがとうございます……!」
(……もう、怖くない……
ここには、わたしを守ってくれる人たちがいる……)
7. 六日目:視線が変わる
次の日から、
荒くれ者たちの視線は完全に変わった。
ただの荷物を見る目ではない。
・守るべき娘
・仲間
・救われた命への感謝
そんな柔らかな光が宿っていた。
「ミツキ、こっち通ると危ねぇぞ」
「荷物重かったら言えよ。代わりに運んでやる」
「おい、お嬢ちゃん寝てるぞ。静かにしろ」
最初に彼女を罵った男でさえ、
ぎこちなく頭を掻きながら言った。
「……すまんかったな。
最初、怖がらせてよ」
ミツキは微笑んだ。
「いえ……もう、大丈夫です。
みなさん、優しいから……」
男たちは途端に照れたようにそっぽを向いた。
8. 芽生えた居場所
その夜、ミツキは仮囲いの中で布団にくるまりながら、
ここ数日のことを思い出していた。
(もっと描ける。もっと分かりやすくできる。
みんなが安全に働けるように……)
その手は、
もう震えてはいなかった。
彼女の中に芽生えたのは、
恐怖ではなく――責任と誇り。
(……ここで、生きていける)
その日からあの夢を見ることはなくなった。
ミツキちゃん、ちゃんと救われました。
よかったよかった。
12/9 追記
タイトルを 美月→ミツキ に変更しています。
鉱山一日目はまだ日本人。それ以降は現地人としてのイメージです。
誤字でない限り、ほかの召喚された人たちも
ディランにあった直後くらいからこれで統一しているはずです。




