知恵のその先へ ――「これからは共に進めるはずだ」
1. 三者同盟の成立へ向けて
戦いが終わってまだひと月も経たぬうちに、
王国・山岳民族・帝国の三者は、同じ円卓についた。
場所は敵魔術師によって壊滅的ダメージを受けたあの砦。
王国交渉団の中心に立つのは、アリア。その横には、王国の二人の将──ダリウスとルークス、
そして4人の英雄たち。
円卓には帝国の皇帝と山岳民族の長も座っていた。
アリアが交渉の条件をまとめる
「捕虜はお互い無事に本国にたどりつたみたいですね。よかったです。
捕虜を犠牲にしたことについてはお互い文章で謝罪する。
これまでのこちらの英雄たちが明らかにした知恵を帝国に開示することで、
以前の国境でもう一度線を引き直す。
これからの交流を約束するために、留学生の受け入れを行う。
山岳民族には新たな交易ルートの開拓を担っていただく、
大まかにはこれでよいですかね。」
帝国皇帝カール・アルブレイヒト四世は答える
「本当はこの砦を永遠にこちらのものにしたかったのだがな。
だが、まだこちらの手の内にある砦に6人で
押しかけれては誠意を認めざるを得ない。
私もそろそろ疲れたのでな。この程度で手打ちといたそう。
これからは共に進めるはずだ。」
山岳民族の長老もうなずく。
「王国との交わりは争奪に明け暮れた我々に
新たな道を見出してくれた。
戦いよりも歌と知恵が勝った。
ならば、我らもその風に従おう。」
3人の代表たちが握手をし、各々の言語で調印文章を作成した。
その言語はなぜか別の世界での英語とドイツ語とフランス語であった。
2. 王国──魔法と科学が融合する世界へ
2.1 ハルト・ミツキと精霊魔法使いと山岳民族
蒸気機関の工房では、4人が悪戦苦闘していた。
ハルトがうなる。
「この蒸気圧が一定なら、車輪が円滑に回るはずなんだ!
そうしたら、おれ本当にやりたい王都と帝都間の測量に出かけるんだ!
なんで機械工学科の真似を俺がしているんだ!!」
「私が図面書いてあげたんだから、もう少し頑張って作ってよね。
しかし、どの精霊もきれいで幻想的よね。
あとで絵にしてあげるから、しっかり観察させてもらうね」
「ミツキはなかなか筋が良いですね。
セリーヌは、風の精霊以外もきちんと心を通わせよう。
土も火も水も学ぶことはいっぱいあるんだから。」
「クラウスの意地悪!もう少し優しくしてくれてもいいじゃない。」
「風の部族だからって風に頼りすぎなんですよ。
ハルトさん、火の精霊をもう少し強めますかね、
でもそうすると風の精霊と水の精霊が怒り出す可能性が。
なかなか繊細ですね。」
「ふぅだいぶ疲れてきた。
ちょっとここらで一回休憩しない?
そういえば、貴重な紅茶でも飲んでみますか?
山岳民族がルートを開発してくれたので、
エリアスが高く売りつけに来たんですよ。」
「紅茶!この世界で初めてだよね!飲みたい!」
「ほう、紅茶という飲み物ですか。
それはどのような精霊の働きがあるのか興味深い」
「へー、うちらこんなものも取り扱い始めたのね。
今後のために他に何かないが調べておくね。」
「そういえば、元の世界の地質とか気候とこっちの関係って似ているな。
もっと将来、いろいろな場所を調べてみないな。」
「私もこっちの世界で色々綺麗なものを探して絵にしたい!」
「お二人は仲がいいですな。精霊でも相性の良しあしがありますが、
精霊占いして差し上げましょうか?」
「えー、クラウス、私にもしてよー」
「い、いいです、ええと、
こちらの精霊とこちらの精霊君、
君たちの相性はどうかな?」
かつて敵だった者同士が、
今は世界初の魔導蒸気機関を前に肩を並べていた。
環境汚染のない蒸気機関の開発のために。
2.2 アヤ × 古代語魔法使い
図書館では、アヤと帝国の古代語魔法使いのエルナが、
山ほどの歴史書と魔導記録を比較していた。
「帝国の古代語魔法、体系が抜けてるかもね。
技術面に偏りすぎなのかも。
社会科学・人文科学、それらの素養をもたないと。
まずは昔の技術書で強調されていた、
この言葉をどこに織り込めばいいか一緒に考えよ。」
知恵とは未知なることを恐れぬこと
「……これは思いつかなかったね。
魔法理論と古代哲学を繋げる発想って、どうやればそんな発想が!
……さすが図書館賢者ともいわれるアヤ。
これからも対話することで、
この体系を深めていきましょうね。」
「私なんかが賢者なんてとんでもない。
みんなが字を読んで、絵を描いて、
自由に歌える、そんな時代を一緒に作ろうね。」
アヤは照れくさく笑いながらも、
ページをめくる手は止まらない。
エルナも同じ本の虫の仲間ができて、
幸せな時間を送れていた。
2.3 コージ × 神聖魔法使い
ホールでは、王国軍楽隊と帝国聖歌隊が向かい合い、
中央でコージが指揮棒を構えていた。
帝国の神聖魔法使いのヨアヒムは眉をひそめる。
「神聖歌に民謡を混ぜれば、祈りの純度が落ちます。
やめてください。」
コージは笑って譜面を示した。
「譜面を作ってはじめてわかったんです。
あなたたちの神聖魔法は、
間と呼吸で集団を同調させる仕組みでしょう?」
「……! その理屈、なぜ分かる……?」
「譜面で可視化すると、その辺が見えてくるんです。
って、ミツキとアヤがやってくれたんですが。」
指揮棒が振られると、
帝国の厳粛な聖歌と、
王国の温かな民謡が滑らかにつながった。
織り重なる旋律に、ヨアヒムは震える。
「魔力の揺らぎが……安定している……
民の声が神域に届いていく……?」
「これからは指導者の祈りだけじゃない。」
コージは静かに言う。
「民の祈りそのものが力になる時代ですよ。」
「か、歌詞も節も、みんなの心を一体にして、、、
荘厳さも温かさも含んで神域に到達していく。
これが王国の伝説の作詞作曲家コージの力!」
「伝説なんてとんでもない、
アリア陛下とアストリア王国あっての我々ですからね。」
新しい歌による神聖魔法が、その瞬間に誕生した
3. 新時代──蒸気船の出港
港には大勢の民が集まり、
世界初の魔導蒸気船を見上げていた。
白い蒸気が上がり、船はゆっくり動き出す。
その船には、王国の学者、商人、帝国の魔法使い、
そして山岳民族の若者たちまでもが乗っていた。
ロッシュとエリアスが、その光景を見送る。
「……無事に帰ってきますかね。」
ロッシュは海を見つめながらにやり笑った。
「これは投資だよ。
成功すれば莫大な富を生むだろう。
新しい作物。新しい鉱物。
——そして、人もな。」
出航を祝う国歌が流れる中、
水平線の向こうへ向かう船を見ながら、
二人の商人は未来を感じていた。
長いようで短い歌姫革命譚、終わりました。
ここまでお付き合いいただいた皆様、ありがとうございました。
この話はここで打ち切りますが、サイドストーリーを別建てで投稿します。
『鉱山でくすぶっていた中年、王女の歌で覚醒し、今や最高の騎士ですが何か?』
ダイジェストで出てきたあれをまじめにやります。
まずは「真面目」な英雄記を投稿します。
それとは別に、もう一つのサイドストーリーとして「帝国革命記」を執筆しました。
その中で王国と関係する部分だけ、番外編で掲載します。
帝国側から見た前日談と後日談が中心です。
ベルトランもダリウスもルークスもグスタフも、
上記の4人の留学生もちゃんと登場します。
ただし、特に帝国側は王国側とトーンが全く異なる予定です。
もしよろしければ、ぜひそちらにもお越しください。




