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戦場の歌姫、風を纏う――「行きましょう。歌うべき場所へ。」

1.衣装合わせ

 ミツキが差し出したのは、

 光沢のある滑らかな布地だった。


 要塞都市では到底手に入らない、

 どこか異国の風の匂いをまとった布。


 それは、この大陸の粗い麻布でも、

 厚手の羊毛でもない。


 手の甲でそっと撫でると、

 まるで水面が指を逃げるように流れ落ちる

 ―― 東方の絹。


 ミツキは少し頬を赤らめながら、

 しかし誇らしげにアリアへと語った。

「この生地……東方の絹でできているんです。

 いつか衣装に使いたくて、

 きれいだったから取っておきました。

 でも……風に乗って歌う陛下には、

 今日が一番似合うと思って。」


 アリアはそっと布を手に取り、

 指先に感じるその軽さに息を呑む。


 絹の上には、ミツキが得意とする渦巻き模様――

 風の流れを可視化した風の文様 が描かれていた。


 かつてハルトと二人で、

 風車の尾翼や凧のバランスを計算したときを思い出し、

 宴の場で見た文様をさらに洗練させた、

 目に見えない風の形そのもの。


「……きれいです。まるで、私も風になれるみたい。」


 アリアの言葉を聞いて、

 ミツキはうれしそうに微笑み、

 その後ろにそびえる構造物へ視線を移す。


 要塞都市の城壁横に組まれた、

 三層構造の巨大な舞台――

『歌のステージ』。

 第一ステージは城壁内側の安全地帯。

 第二ステージは攻撃を受ける可能性のある境界。

 そして――

 最も目立つ第三ステージ。

 城壁の外部に突き出した空中のやぐら


 兵士ですら足がすくむ高さにあり、

 ハルトの風読みが正確でなければ、

 敵の矢の餌食になる場所。


 その最前線。

 歌姫をそこへ立たせるなど、本来あり得ない。

 だが、アリアはその場所を迷いなく見つめていた。



2.戦闘開始


 ダリウスが檄を飛ばした

「投石器隊。バリスタ隊。てつはう準備!」


 アヤは注意を飛ばす

「みんな、ミツキの図の最終確認。

 後ろの弾薬庫からは一個しか持ってこない。

 載せてから火をつける

 火をつけたら絶対撃って。

 下にはまだ誰もいない。」


 ハルトが号令を出す。

「いい感じだ。これなら風はやまない!

 お願いします!」


 ダリウス

「放てーーーーー」


 ひゅーパフーひゅーーーーーーーーーボテっ


 大きさも重さもバラバラなてつはうがいろいろな軌道で敵に向かう。

 もちろん、敵陣にすべてが落ちるわけではない。

 ただ、それで十分だった。


 バーン。プスプス。ドーーン。パッ。バーーーッフ。


「くそ、集中できない。」

「これ、触っていいのか?

 ダメなのか?どっちだよ!!」

「神の声が聞こえない!」

「精霊、沈まれ、静まってくれ」


 後方の魔術師に命中するものは一つもなく、

 けが人すらいなかった。

 ただ、敵の支援魔法は完全に沈黙した。



3.アリア、ステージへ


 ダリウスからの伝令が届いた

 「敵陣乱れ、魔法なし。準備整う」


 ハルトが緊張した声で言う。

「……陛下。

 第三ステージは……その……

 弓の射程外になるはずなんですけど……

 絶対とは……言い切れません。」


 アリアは一瞬だけ目を閉じ、風の音に耳を澄ませた。

「ハルトさんの計算だと、届かない……のですよね?」


「は、はい……。その、はず……です……。」


 ふっと微笑む。

 戦場だというのに、彼女だけが春の風のような笑顔だった。

「では――知恵の声に従いましょう。」


 アリアは絹の衣装を抱きしめるように胸に当て、

 ゆっくりと言った。

「民を守るために生まれた知恵が、この道を示すのなら……

 私は、その道を選ぶだけです。

 行きましょう。歌うべき場所へ。」


 その一歩は、王としての覚悟の一歩であり、

 その背中からは王国の皆を背負う覚悟が透けて見えた。


 ミツキが震える声で応える。

「アリアさん……必ず、守りますから……!」


 アヤは唇を噛む。

 ハルトは拳を握る。

 コージは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら叫んだ。


「陛下ーーーー!!

 あんた、ほんと最高だよ……!!」

 アリアは第三ステージへ向け、ゆっくり階段を上り始めた。



 4.歌姫砲発射シークエンス


 コージはステージ中央に立ち、

 バックコーラスを務める軍楽隊一二〇名を前にして、

 腹の底から声を張り上げた。

「――行くぞ!

 軍楽隊、目標・敵全軍!

 てつはうの衝撃、信号弾の閃光……

 全部、リズムに変えろ!!

 明日のことなんて考えるな!

 リミッター、外せえええええ!!!

 声を合わせろ! 音を乗せろ!

 歌を、音を、波にして――

 敵の鼓膜に、心臓に、魂にまで、叩き込めええええ!!」


 軍楽隊が深く息を吸う。

「――カウント開始!

 5……4……3……2……1……0!!」


 アリアの歌声が炸裂する。


 (偽旗)国歌 四番:風と共に

 知恵を武器とし 王歩まん

 苦難乗り越え 風共に

 進む道には 敵はなし

 未来を築かん 永遠に


 その瞬間――

 ステージの上で振動が走る。

 歌声が空気を震わせ、音の奔流が戦場へと押し寄せていく。


 突然始まったステージに敵兵も敵司令部も度肝を抜かれた。

「あれは?」


「ご存じないのですか?

 彼女こそ

 鉱山からチャンスをつかみ、

 王座へと駆け上がった、

 歌姫女王アリアです!」


「あ、あの衣装は、なんなんだ!

 あの風に揺れる、あの軽やかできらびやかな衣装は!

 あんな衣装、見たことない!!!」


「か、風と共にって、まさか山岳民族と組んだ?」


「そ、そういえば、最近、山岳民族が後方を荒らしているって、

 あれはまさか???」



5. 凧――上げろ!


 歌が始まる直前、ハルトが分厚い風向図を片手に、叫んだ。

「今だ!! 風向き、最高潮!!

 文様凧、上げ!!」


 兵士たちが縄を一斉に引き、

 巨大な凧が朝の空へ舞い上がる。


 それは山岳民族の風の文様を描いた巨大な影。


 敵兵の視界に突如として映りこむ謎の黒い翼。

「な、何だ……? 上から……何か来るぞ!!」

「魔法…………奴らも空飛ぶ魔法を生み出したのか!????」

「山岳民族……まさか本当に王国と同盟!?

 いや、空から……? 魔法、魔法の援護は!!!!」

「そ、空から何を降らすつもりだ???」


 敵の思考が、崩れ始める。



6. 騎兵突撃――音と凧を見て、タイミングを合わせる


「――今だッ!!王女の前の石ころ掃除、

 始めるぞ!!!!!!!!!!」


 凧の影が敵陣に落ちた瞬間、

 城塞都市の視覚となる場所に待機していた

 ルークス率いる騎兵隊が飛び出す。

 

 蹄が大地を割り、音の波に乗って敵陣に向かい突撃する。


 風と歌声と凧によって敵の視界と判断は完全に乱れ、

 その一瞬――王国に勝機が生まれた。



7. 正面突撃――二つの軍装が戦場を揺らす


「城壁、開門――ッ!!」

 前線の敵の意識が空と騎兵とに向き、完全に浮足立ったのを確認して、

 ダリウスが号令をかける


 山岳民族の服を着た部隊がまず飛び出し、

 続いて王国軍の軍曹をした部隊が扇状に広がって突撃する。


 敵兵はもう何が起きているのか理解できない。

「山岳民族……前からも!?

 いや、どこから……どこまで……!?」



8. 後方――安全管理という名の真の支配者


 ミツキはてつはう投射器のそばで必死にメモを取り、

 アヤは顔をしかめながら周囲の動きを監視している。


 ミツキは叫ぶ

「……安全距離、維持できてる。

 信号弾、あと二発……!」


 アヤも大声で命令する

「てつはうの角度! 次はここ!

 誤爆したら、全部水の泡よ!!

 気を抜くんじゃないわ!!」


 その目は誰よりも鋭く、誰よりも冷静だった。


 王国にいるすべての人が共に歩むために、

 知恵を覚悟を集結させている姿がそこにはあった。

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