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美月・絶望の着鉱――「愛人でいいから……助けてください」

さー、満を持しての登場です。

女の子にこんなところはきついでしょうね。

というか普通なら死ねといっているに等しいですが、さてどうなることやら。

1.美月登場

 ハルトが規格化と溝掘りで坑夫に囲まれ、

「お前、説明が下手すぎる!」と笑い声を浴びている、その同じ夕暮れ。

 鉱山入口へ向かう崖道には、まるで別世界の空気があった。


 冷え切った風。

 砂埃。


 そして、古い荷馬車が一台だけ、淀んだ影を落として停まっていた。

 ギィ……と扉が開く。


「降りろ」

 兵士に押され、黒髪の少女が地面へ崩れ落ちた。


 早川美月。

 色は失われ、唇は乾き、涙の跡が頬に残っている。


 両手で布袋を抱え込み、震える体をなんとか支えていた。


(……ここ……?

 ここが……鉱山……?)


 目の前に広がるのは、硫黄と煤の匂い、倒れたトロッコ、崩れた岩壁。


 人が働く場所というより、ただの地獄だった。


 兵士は書類だけ管理者に投げ渡し、そのまま馬車を走らせ去っていく。


 美月は、その場に取り残された。


 

2. 無慈悲な現実を抑揚なく告げる管理者


「……新入りか」

 管理者が現れた。


 普段から人間を作業単位としか見ていない男。


 声色も目も冷たく、俯きがちな美月を一瞥する。


「女か……珍しいな。

 王都も人手が足りなかったのか?

 ここ数日、鉱山送りが減ってたからな」


「……わたし……なにも、して……」


「聞いてねぇ。

 ここへ来た時点で、理由なんてどうでもいい。

 どうせ働きゃ死ぬ世界だ。」


 美月の肩がびくりと震える。


「仕事は二つだ。

 ツルハシ振るうか、トロッコ押すか。」


「っ……!」


「女だから特別扱いもない。

 ここはそういう場所じゃないからな。」


 淡々とした声。

 情け容赦は一切ない。


「それから――」

 管理者は鼻で笑う。


「女専用の宿なんてものはない。

 雑魚寝の隅でも空けてもらえ。

 嫌なら外で寝ろ。」


 美月はぐらりと身体が揺れた。

(……そんな……

 寝る場所も……?

 男の人と同じところで……?

 そんなの……無理……無理……!)

 呼吸が荒くなる。

 視界が滲む。


「泣いても無駄だぞ。

 ここでは、誰も助けちゃくれねぇ。」



3.ディラン再び


 管理者が踵を返した、その瞬間――。

 低く、鋭い声が響いた。


「――邪魔だ」

 管理者の横を、煤にまみれた大柄な男が通り抜ける。

 ディランだ。


 奴隷でありながら、人望と統率で鉱山を支えている男。


 ディランは美月の前に立ち、無表情で管理者を睨んだ。

「その子を怯えさせて何になる」


「はあ? 仕事の説明してただけだろが。

 ……にしても、お前が間に入るなんざ珍しいな」


 管理者はニヤニヤしながら美月を見回す。

「邪魔するなよ。

 で、お前――この女をどうする気だ?」


 ディランの眉がぴくりと動く。

「どう……とは?」


「そりゃあお前、

 愛人として囲うのか?

 それとも、仲のいい部下へのおもちゃとしてやるのか?」


「っ……!」

 美月の顔が蒼白から真っ赤へ変わり、

 次に青紫へ変わった。


「わ、わ、わたし……そんなの……!」


 管理者は下品に笑う。

「どっちにしろ、女なんざそうやって使うもんだ。

 違うか? ディラン。」


 だが。

 ディランは深い溜息をひとつ落としたあと――

「……まあ、そんなところだ」

 平然と言った。


「え……?」

 美月の思考が止まる。


 管理者も目を丸くした。

「お、お前……本気で……?」


「さあな。

 ――だが、お前がこの子に何かを言う必要はない。」


 ディランは当たり前のように美月の肩へ手を置いた。

「後は俺が預かる。

 それだけだ。」


「……ちっ、勝手にしろよ」

 管理者は舌打ちして去っていった。


 

4. 二人きりになった影の中で


 遠ざかる足音。


 美月の心臓の音だけが耳に響く。

(……囲う……?

 部下のおもちゃ……?

 そんな……そんなこと……

 わたしは……わたしは……!)


 堰を切ったように涙が溢れた。

「……いや……いやです……!

 そんなの……嫌……!」


 ディランはその横で静かに立っていた。


「……ディラン、さん……っ」


「落ち着け。

 あんな下品な言葉、本気にするな」


 美月はしゃくり上げながら、

 必死に絞り出した。

「で、でも……!

 わたし……ここで何もできないし……

 働けないし……

 死ぬの……わかってて……

 連れてこられて……っ」


 涙で顔を覆う。

「……だから……

 せめて……愛人でもいいから……

 助けてください……!

 お願いします……!

 じゃないと……わたし……ここで……!」

 その言葉は震えながらも、死に物狂いの叫びだった。


 ディランは黙って聞いていた。


 長く、沈黙が落ちる。

 やがて彼は、短く言った。

「……そんなつもりはない。」


 美月の身体がびくりと跳ねた。

「え……?」


「そしてそんな余裕もない。

 ここでは働かない者は食えない。

 囲われる暮らしなんて幻想は存在しない。」


「……っ……!」

 美月は肩を震わせ、地面に視線を落とす。

(……じゃあ……どうすれば……

 わたしはどうすればいいの……?)


 その時、ディランが続けた。

「だが――」


 少しだけ柔らかい声が落ちる。

「お前の名前には違和感がある。」


「……なまえ……?」


「“早川美月”――

 この国では生まれない名だ。」


 美月は息を呑む。


「そして、同じ違和感を持つ者が、もう一人いる。」

 ディランは言った。


「――ハルト、加賀見陽斗だ。」


 美月の瞳が揺れた。

「あの男も、突然理由も分からずここへ落とされた。

 しかし今は、この鉱山で最も役に立つ知恵者になっている。」


「……っ……私の同郷……?」


「おそらくな。

 お前を救うのは……俺ではなく、同郷の者だ。」

 ディランは右手を差し出した。


「行こう。

 まずは会わせる。

 ――ハルトに。」


 美月は涙に濡れた手で、その手を握りしめた。


「……はい……お願いします……」

 

このあとハルトと、美月は出会う。

ハルト苦笑している酒場の入口で、

泣きはらした目の美月が立ち尽くしていた。

ハルトは美月を優しく迎えた。


この出会いが、

鉱山の改革をさらに進める第二の革命の始まりとなる。

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