決戦直後――「……みんな、本当にありがとう。」
1.戦場の夕暮れ
オルド河原の喧噪がようやく静まりはじめたころ、
最初に前線から戻ってきたのはルークスだった。
泥と汗で汚れた鎧のまま歩み寄り、
いつもの皮肉な笑みも浮かべずに、ただ短く報告する。
「……後方の煙幕、うまくいきました。
信号弾も想定よりずっと効果がありました。
火薬、もっと研究しないといけませんね。」
それだけ言って深く息をつく。
戦いは勝った。だが、まだ終わらない。
そんな顔だった。
2.炊き出しの列
その頃、アヤは炊き出し場で指揮を執っていた。
普段は食べ歩いてばかりの彼女が、
珍しく真面目に動いている。
「そっち、投降兵のフォンデュは分けて!
はい、次! チーズはまだある? ベーコンは? 塩は節約!」
投降兵の前に木皿が差し出される。
「……こ、こんな美味いもの……軍で食ったことない……」
「俺たち、殺されないのか……?」
「飯まで食わせてもらえるなんて……」
どの顔も半信半疑で、そしてどこか怯えていた。
アヤは胸を張る。
「当たり前でしょ。
あなたたちはもう、同じアリア様の親衛軍なんだから。
それにこれからはこれが当たり前になるの」
投降兵の目に、静かに涙がにじんだ。
3.アリア
アリアは、護衛を連れずに投降兵の輪の中へ歩いていった。
髪も乱れ、埃のつき、汚れたままのケープ姿で。
しかしその眼差しは澄んでいた。
「私はアリア。あなたたちを責めに来たのではありません。」
ざわめきが広がる。
「あなたたちも……この国の民です。
どうか、これから共に歩んでください。」
投降兵たちは誰からともなくひざまずき、
その手を取り、涙を落とした。
「殿下……殿下自ら、俺たちに……」
「こんな軍が……本当にこの国に……」
ダリウスはアリアのその姿を見て
王としての片鱗を感じていた。
4. コージ
その横で、コージは火の管理をしながら鼻歌を歌っていた。
「♪勝っても負けてもメシは食う〜♪
♪投降兵もぜんぶ仲間〜♪」
投降兵たちが自然と笑う。
つられて歌う者まで出てくる。
ルークスは遠巻きにそれを見て、
ため息とも苦笑ともつかぬ声を漏らした。
(……こいつはどんな状況でも空気を明るくする。
こいつがいなければ、もっと殺し合いになっていたかもしれん。
あの鉱山での役立たずたちがこんなに活躍をするとは・・・・)
5.ダリウス
戦場を見渡しながら、
ダリウスは誰に聞かせるでもなく呟いた。
「……家族よ。
俺はもう復讐のためには戦わん。
お前たちが生きたかった未来のために、剣を振るった。」
投降兵の中に怯えた若者を見て、
その姿がかつての自分や、息子と重なり、
ほんの一瞬だけ、目を閉じた。
涙は落とさない。
だが風の中で、その瞼はわずかに震えていた。
6.農民が戦場に駆けつける
「殿下ー! 殿下ー!!」
畑仕事のままの姿で、村人たちが駆けてきた。
息を切らしながら叫ぶ。
「畑は無事だ!
四日でも五日でも大丈夫だったぞ!」
「勝ってくれてありがとうなあ!」
アリアはその場で深く頭を下げた。
「協力してくださって……本当にありがとうございます。」
農民は照れたように笑う。
「いや、殿下が頼んでくれたから、やってみようと思えたんだ。」
7.ハルト・ミツキ
夕日が赤く染まるころ、
上流へ向かっていたハルトとミツキが戻ってきた。
「堰はほとんど壊れてなかった!」
「水路にもちゃんと水が残ってるよ!」
ミツキが胸に手を当てて呟く。
「よかった……。
あの風景、また描けるね……。」
ハルトはほっと息をついてアリアに報告した。
「これなら農民たちも安心です。
……本当に、全部壊さずに済んでよかったです。」
それから工兵隊に向かってこうお願いした。
「工兵隊の皆さん、一息ついたら上流で
堰や水門を直しに行ってください。
もうひと頑張りお願いします」
「壊すより、直すほうがいいに決まっている!
任せとけ!」
「堰や水門の図面、まとめておきました。
これで分かってもらえるといいんですが」
「おお!さすが、ミツキ。これがあればハルト要らない!」
「本当、ミツキの説明は女神さま!」
「ハルト、説明はミツキに任せてこっちのフォンデュ手伝って、
口下手でも手は動くでしょ」
「ちょっと、アヤちゃん、口下手は確かだけど、
私はハルト君の考えを図にしているだけだからね。
あ、でも、こっちは任せて。アヤちゃん手伝ってあげてね」
「そうだ、そうだ、こっちはミツキがいれば十分だww」
「けなされたのか褒められたのか、、、」
「♪ミツキの図には癒される♪
♪アヤの指示は無茶ぶりだ-♪」
「ちょっと、コージ、変な歌にしないで。
私も戦場の女神様とかそんな歌でー」
アリアはその光景を見てほほ笑んだ
「いつもの皆さんに戻りましたね。
皆さんも、兵士の皆さんもよろしくお願いします」
「「「「おーーーーーーーーーーーーーー」」」
8. タイミングよく(いや、抜け目なく)登場
そのとき――
戦場の外れから、馬車が何台かやってきた。
革袋を背負い、満面の笑み。
見覚えのある顔。
「皆さん、勝利おめでとうございます!!
ロッシュ様の命により
リバトーン商業ギルドより、追加の物資をお届けに参りましたッ!」
エリアスだった。
ハルトが目を瞬かせる。
「もう動いてたのか……早いな……」
エリアスは胸を張る。
「薬草に、硬焼きパン、チーズにワイン!
たくさん持ってきましたよ!」
アヤが歓声を上げる。
「わあ! ワイン!!グランフィール産!!!
薬草も山岳地帯の貴重なのをこんなに!!」
アリアが丁寧に礼を述べる。
「ありがとうございます。皆が助かります。」
エリアスは笑みを深める。
「ところで、殿下。
こちら全部……高めに買ってくれますよね?」
周囲が「おい……」と一斉に突っ込む。
「お前、それ言いに来ただけじゃん!!」
「抜け目なさすぎだよ……次は何を売りつけられるの??」
「こういうとこが商人の恐ろしいとこなのよね……」
エリアスは肩をすくめる。
「商機は逃さないのがギルドの誇りですから!」
ハルトは苦笑しつつ、
(でも、こういう人がいるから補給が回るんだよな……)
と心の中で呟いた。
9.ライブ依頼、飛び出す
農民の一人が照れくさそうにアリアへ言う。
「あの……殿下。
うちの村でもでも歌ってくださらんか。」
コージが横から爆発する。
「来たぁぁぁぁぁ!!
殿下ァァァァ!!
ライブ巡業、追加です!!!」
ダリウスが、額を押さえる。
「……もう止められん流れだな……」
アリアは頬を赤らめ、
「え、えっと……考えておきます……」
周囲は一気に笑いに包まれた。
エリアスは相も変わらず抜け目なく、
「ライブなら、商業ギルド主催の――」
「お前は帰れ!!」
と全員から総ツッコミが飛ぶ。
10. 戦場に、短い平和が訪れた
焚き火の煙がゆっくり空へ上り、
歌声と笑い声が広がっていく。
誰も、この勝利が“終わり”ではないことを理解していた。
だが――
この瞬間だけは、戦争の影を忘れられた。
アリアはそっと空を見上げる。
王都へ向かわねばならない。
王に会い、正統な王女として認められねばならない。
だが、その前に。
「……みんな、本当にありがとう。」
その静かな言葉は、
夕暮れのオルド河原にやさしく溶けていった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
「アリアの新政」がどのように立ち上がるか。
このあともう少しだけ(5話)だけ一部が続きます。
そのあと少し間をおいて二部(13話)で完結です。
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たとえしていただけなくても、今後もお楽しみいただければ幸いです。




